電気自動車(EV)関連企業の誘致や提携が加速(サウジアラビア)

2024年5月27日

2023年のサウジアラビアは、原油価格の下落と原油自主減産などが大きく影響し、実質GDP成長率がマイナス0.9%となったが、自動車市場は活況だった。2023年の自動車販売台数は、乗用車が前年比24.3%増、商用車が16.6%増であった。国内の市場シェアは、トヨタ自動車、韓国の現代自動車の順で上位に変動はなく、長安汽車、上海汽車(MG)などの中国企業がシェアを伸ばしつつある。また、サウジアラビア政府はクリーンモビリティを推進し、EV(電気自動車)の生産・販売・輸出に向けて、積極的に企業誘致・投資を展開している。

経済はマイナス成長も、自動車市場は活況

2023年のサウジアラビア経済は、原油価格の下落と原油自主減産などが大きく影響し、実質GDPは0.9%のマイナス成長(2024年2月5日付ビジネス短信参照)となった。国際自動車工業連合会(OICA)によると、2023年のサウジアラビアの自動車販売台数は、乗用車が前年比24.3%増の64万5,723台、商用車が16.6%増の11万3,068台と、乗用車・商用車市場はともに活況で、販売台数は増加している。「ビジョン2030」のもと、二酸化炭素(CO2)の排出量削減と非石油経済への多角化を目指し、持続可能な低炭素経済を実現する「クリーンモビリティ」を推進し、EVの取り組みを強化している。

国家産業開発センター(NIDC)によると、サウジアラビアの自動車産業クラスターの使命は、政府機関やOEM(完成車メーカー)、国内外の自動車産業の主要企業と緊密に提携し、国家産業戦略を通じて自動車産業の発展を支援することである。2030年までに40万台以上の乗用車を生産し、3~4社のOEMを擁して粗付加価値(GVA)40%達成を目標としている。さらに、同国から高付加価値製品を提供し、湾岸協力会議(GCC)諸国および世界における自動車部門の輸出ハブとなる目標も掲げている。NIDCの2023年の統計によれば、自動車販売における市場シェアは、トヨタ自動車が30%を占め、続いて現代自動車14%、起亜自動車6%、長安汽車、上海汽車(MG)、日産自動車、いすゞ自動車、マツダがそれぞれ5%となっており、吉利汽車、シボレーなどの自動車メーカーが残りのシェアを占めている。また、同年の車種別ではセダン車が44%、SUV(スポーツ用多目的車)39%、ピックアップトラック12%、バン4%、MPV(多目的車)1%であった。同年の全セグメントの販売台数の上位2車種は、Cセグメントは現代自動車が占め、エラントラ(ELANTRA)とアクセント(ACCENT)がそれぞれ2万5,913台、1万9,139台であった。Dセグメントはトヨタ自動車のカムリ(CAMRY)4万4,827台、マツダのマツダシックス(MAZDA6)が1万910台。SUV-Cセグメントでは、現代自動車のツーソン(TUCSON)が1万1,530台、トヨタ自動車のRAV4が1万485台。SUV-Dセグメントではトヨタ自動車が上位2車種を占め、フォーチュナー(FORTUNER)とランドクルーザー(RAND CRUSER)がそれぞれ1万2,851台、7,123台であった(表参照)。

表:サウジアラビアでの自動車のセグメント別販売台数(2023年)

Cセグメント
車種 メーカー名 台数
ELANTRA 現代自動車 25,913
ACCENT 現代自動車 19,139
SUNNY 日産自動車 13,055
COROLLA トヨタ自動車 13,045
MG5 MG(上海汽車) 12,668
Dセグメント
車種 メーカー名 台数
CAMRY トヨタ自動車 44,827
MAZDA6 マツダ 10,910
SONATA 現代自動車 8,842
ACCORD ホンダ 7,110
ALTIMA 日産自動車 7,069
SUV-Cセグメント
車種 メーカー名 台数
TUCSON 現代自動車 11,530
RAV4 トヨタ自動車 10,485
RUSH トヨタ自動車 7,553
CAPTIVA GM 5,870
COOLR(注) 不明 5,437
SUV-Dセグメント
車種 メーカー名 台数
FORTUNER トヨタ自動車 12,851
LAND CRUSER70 トヨタ自動車 7,123
CX-90 マツダ 6,389
TUGELLA 吉利汽車 5,243
CX-9 マツダ 5,091

注:メーカー、車種の特定は不明。
出所:国家産業開発センター(NIDC) からジェトロ作成

サウジアラビア向け小型車・中型車の輸出が好調

2023年の主要国におけるサウジアラビア向けの乗用車輸出を見ると、日本からの輸出は、排気量1,000cc以上1,500cc未満の小型車は前年比3.9倍の2,402台、排気量1,500cc以上3,000cc未満の中型車が前年比4.8%増の8万3,581台、3,000cc以上の大型車は22.4%増の3万5,078台と好調であった。中国は、小型車が13.9%減の12万376台、中型車が2.9%減の6万1,549台と、小型車、中型車ともに減少した。インドとタイは小型車の輸出が急増しており、インドは2倍の10万5,171台、タイは2.1倍の4万1,657台であった(図1参照)。

図1:主要国の対サウジアラビア乗用車輸出(台数)
2023年の主要国からのサウジアラビア向け商用車の輸出は、20トン以上の大型トラックは中国からは3,168台、インドからは499台となっている。5トン以上20トン未満の中型トラックは、日本からの輸出が最も多く、1万6,383台であった。小型トラックはインド、タイからの輸出が多く、インドからは1万9,927台、タイからは1万8,835台であった。

注1:便宜的名称として排気量1,000cc以上1,500cc未満を小型車、同1,500cc以上3,000cc未満を中型車、同3,000cc以上を大型車とした。
注2:小型車・中型車・大型車の2023年輸出台数が多い国順に列挙。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

小型商用車は中国、インドからの輸出が増加

商用車の車種別の販売統計は発表されていないため、2023年の主要国からのサウジアラビア向け商用車の輸出をみると、20トン以上の大型トラックは中国やインド、日本などからの輸出が増加した。特に中国は前年比4.9倍の3,168台、インドは前年比2.3倍の499台となっている。これはメガ、ギガプロジェクトの着工開始により、大型トラックの需要が高まってきたことが要因とみられる。5トン以上20トン未満の中型トラックは、日本からの輸出が最も多く、前年比77.3%増の1万6,383台であった。中型トラックは多岐にわたる産業で運搬用目的に活用されており、国内でも人気が高い。小型トラックはインド、タイからの輸出が多く、インドは16.5%増の1万9,927台。タイは22.3%増の1万8,835台であった(図2参照)。

図2:主要国の対サウジアラビア商用車輸出推移(台数)
2023年の主要国からのサウジアラビア向け商用車の輸出は、20トン以上の大型トラックは中国からは3,168台、インドからは499台となっている。5トン以上20トン未満の中型トラックは、日本からの輸出が最も多く、1万6,383台であった。小型トラックはインド、タイからの輸出が多く、インドからは1万9,927台、タイからは1万8,835台であった。

注1:便宜的名称として、5トン未満を小型トラック、5トン以上20トン未満を中型トラック、20トン以上を大型トラックとする。
注2:小型トラック・中型トラック・大型トラックの2023年輸出台数が多い国順に列挙。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

サウジアラビアのEV生産

サウジアラビア政府は「ビジョン2030」で、ローカルコンテンツの育成と関連し、中核産業の1つとして自動車産業の育成を指針としている。2021年に発足したサウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)(2022年11月9日付ビジネス短信参照)では、2060年までのカーボンニュートラル達成を目標として掲げており、その取り組みとして、2030年までに首都リヤドの全車両の30%をEVに切り替え、排出量を50%削減するとしている。

米国の新興EVメーカー、ルシード・モータース(Lucid Motors)は、2022年5月にサウジアラビアに工場建設を開始した(2022年5月27日付ビジネス短信参照)。同年9月に同国初となる乗用車製造施設を正式にオープン。同工場は、同社にとって米国アリゾナ州内の工場に続く2番目の先進製造工場(AMP-2)となった(2023年10月2日付ビジネス短信参照)。

また、サウジアラビア公的投資機関(PIF)と台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループの鴻海精密工業との合弁企業で、サウジアラビア初のEVブランド「Ceer」が設立された(2022年11月7日付ビジネス短信参照)。Ceerは、2023年7月に現代自動車系列会社である現代ケフィコ(KEFICO)と、充電を制御する最上位コントローラーの車両制御ユニット(VCU)と、高圧バッテリー電力を低電圧に変換し、電子部品に電力供給をするDC-DCコンバーターを、2026年から2,500億ウォン(約275億円、1ウォン=約0.11円)で供給する契約を締結した。また、2023年8月には、シーメンス・デジタル・インダストリーズ・ソフトウエアとの業務提携を発表した。シーメンスがCeerに専用のSiemens Xcelerator(注1)ソフトウエアを提供し、EV設計に関わるエンジニアリング業務のサポートなどを行うとし、同年11月にシーメンス・デジタル・インダストリーズ社がCeerのエンジニア100人を対象に、広範囲なトレーニングプログラムを提供した。シーメンスの先進技術についての専門知識を養い、自動車部門のイノベーションを先導する人材を育成することに合意している。さらに、同年10月には、アブドゥッラー国王科学技術大学(KAUST)とスマートモビリティの画期的な研究・開発・革新のために業務提携をすることを発表した。Ceerの技術専門家とKAUSTの研究者が協力し、技術進歩やEVに応用できる画期的な解決策を見つけることなどを目的としている。

その他、2023年のEV関連の動きとして、複数のプロジェクトが発表されている。同年6月にサウジアラビア投資省(MISA)と中国のEVメーカー、ヒューマン・ホライゾンズ(Human Horizons)が、自動車研究の製造・販売のための合弁会社を設立し、56億ドル規模の投資計画に合意したと発表された。

2023年10月には、PIFがサウジアラビアの自動車およびモビリティ産業の現地サプライチェーンの開発に注力するため、国家自動車・モビリティ投資会社(Tasaru Mobility Investments)を設立。製造の専門知識と最新の最先端技術のローカリゼーションを通じて、セクターの成長を支援し、同国の電気自動車と自律型モビリティ(注2)エコシステムの発展を加速させ、長期的な利益をもたらすと期待されている。

また同月、PIFとサウジ電力会社(SEC)が、EVインフラ会社の設立について発表(2023年10月11日付ビジネス短信参照)。同社はPIFとSECの合弁会社で、PIFが同社の75%の株式を保有し、同国で高レベルのEV急速充電インフラを提供する。自動車エコシステムを活性化させ、EVの普及を加速させることを目的に、2030年までに同国全土の都市と幹線道路に1,000カ所以上、5,000基以上の急速充電スタンドの設置する予定だ。

さらに同月には、PIFと現代自動車は、高度自動化された自動車生産工場を設立するための合弁契約を締結した。PIFが70%、現代自動車30%の株式を保有し、現代自動車は戦略的技術パートナーとして、技術的・商業的支援を提供、新製造工場の開発支援を行うとした。プロジェクトの総投資額は5億ドル超で、合弁事業は内燃機関(ICE)とEVの両方を含む。生産台数は年間5万台とし、2024年に工場建設を開始し、2026年に生産開始としている。

NIDCは、「ビジョン2030」と、クリーンモビリティの達成と野心的な目標に後押しされ、自動車産業は2030年までに12%の市場成長が見込まれ、同国の戦略的立地と先端技術への投資にも利益をもたらすと期待している。一方で、成熟したサプライチェーンと熟練労働者が不足しているという課題にも直面している。このような課題に対処し、サウジアラビア人の雇用創出と、GDP成長に貢献するための自動車部門の発展を目的とした国家産業戦略や複数の部門イニシアチブが最重要課題であると指摘している。


注1:
Siemens Xcelerator:客がより簡単に、より速く、より大規模にデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速するためのオープンデジタルビジネスプラットフォーム。
注2:
自律型モビリティ:様々なセンサー情報などを活用し、ICT(情報通信技術)基盤技術と連携して、自動走行技術、自動制御技術などを活用した高信頼・高精度な移動を実現する車両、電動車いす、ロボット、無人建機、小型無人機など。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。