脱炭素成長型経済実現で国内政治の安定化
アルジェリア外交の復帰(2)

2024年4月5日

アルジェリアは経済基盤の強化を目指し、経済外交を積極的に推進している(「アルジェリア外交の復帰(1)治安維持と経済強化を目指す新外交」参照)。経済外交はアルジェリアの国内経済、ビジネス環境にどのような影響を与えるのか。外国企業には商機があるのか、第2部で検証する。

質問:
2023年11月に出版された「アルジェリア外交の復帰」(l’Algerie, un rebond diplomatique)の第3章のタイトルは「アルジェリア経済の矛盾」となっているが、その矛盾とは。
答え:
アルジェリア経済は「ポテンシャルが高い」とよく言われる。人口は4,500万人だが、30歳以下の若年層が6割強を占める。大学などの高等教育を受けている若者が多いことは長期的にはポジティブなポイントだ。また、地理的には、欧州、アラブ諸国、アフリカの入り口に位置する。アルジェリアの面積は広く、日本の約6倍に達する。地中海に面している諸国の中で最大だ。資源も豊富で、天然ガス、石油といった炭化水素の生産量はともに世界トップ20に入っており、特に欧州に対する主要な輸出国だ。炭化水素はアルジェリアの輸出額の約9割、国の収入の約6割を占めている。また、鉱山資源、レアアースも豊富だ。しかも、独立戦争以降、教育制度、高等教育制度、社会福祉制度の整備が進んでおり、国連人間開発による「人間開発指数(HDI)」は2022年に0.745で、この国は人間開発が高いカテゴリーに分類されており、モロッコやチュニジア、エジプトより上のランキングとなっている。しかし、このように恵まれた環境にあるものの、国民はその利益を実感できていない。その要因の1つに、アルジェリア経済はいまだ炭化水素に強く依存していることが挙げられる。経済の多様化が進展しておらず、雇用の機会が乏しい。失業率は約12%、若年層では約30%に達している。そのため、雇用機会を求めて今でもフランスなどへ移住しようとする若者が多い。
また、穀物、牛乳、肉類など、食料品の多くを輸入に依存しており、パン、小麦粉などの主要食糧品は全て国の補助の対象となっている。そのため、世界的に食糧価格が高騰した時は、国の財政への負担が大きく、資金を経済政策に回す余力がなくなる。
質問:
脱ロシア依存を狙う欧州諸国のエネルギー需要に対応するため、テブン大統領は輸出用天然ガス生産量を2023年中に倍増させる目標を設定した。このため、一見すると、経済の多様化による脱炭化水素依存の具体化は進展していないように見える。一方、実際には、近年は非炭化水素輸出額の増加傾向が続いており、アルジェリア国内の製造業は発展している。今後も製造業の発展傾向は続き加速するのか。発展するとしたら有望分野は何か。
答え:
エネルギー価格の変動はアルジェリア経済を大きく左右しており、炭化水素依存がアルジェリア経済の構造的な弱点となっている。アルジェリアの歴史を振り返ると、1980年代後半、2010年代後半など、エネルギー価格が下落した時、国内経済は低迷し、社会的な混乱が発生した。2014年以降、エネルギー価格は低水準だったため、国民の不満が高まり、大規模な反体制デモ「ヒラック」が発生した。それがブーテフリカ政権の崩壊につながった(2019年4月4日付ビジネス短信参照)。
現政権は脱炭素型経済の実現により、国内経済・政治情勢の安定を目指している。近年は新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた世界的な食糧価格の高騰、エネルギー価格の激しい変動が発生した。アルジェリアの外貨準備高はしばらく1,000億ドルの水準を超えていたが、近年は下落し、2021年の時点では450億ドルまで落ち込んだ。アルジェリア経済は深刻な危機に入るところだった。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格が高騰したため、外貨収入が再び増加した。表面的には経済の多様化をアピールしていたにもかかわらず、改革を実施しなくても済んだ前政権と違い、現政権は国内経済の多様化の必要性を確実に認識している。
一方、天然ガスの脱ロシア依存に向け、イタリアなど欧州諸国がアルジェリアと関係強化を図っている。ロシアによるウクライナ侵攻の前に既にそのような状態だったが、侵攻発生後はさらに加速した。この機に天然ガスの輸出能力をどこまで伸ばせるかが課題だが、欧州のエネルギー需要への対応から得た外貨収入を農業部門などの促進に回し、経済の多様化に活用することを狙っている。エネルギー価格の高騰は、経済の多様化に向けてのプラス要因と理解している。
また、アルジェリアは、OPECのパートナーである湾岸諸国に比べ、再生可能エネルギーへの移行が遅れている。天然ガス輸出先である欧州諸国もグリーンエネルギーの展開を加速している。
質問:
アルジェリア政府は再エネの展開により、近年、増加傾向にある炭化水素の国内消費を減らし、輸出に振り向けようとしている。政府が2021年4月に発表した「再エネ国家計画」に基づき、2035年をめどに太陽光発電容量の目標を16ギガワット(GW)に設定した。この計画の実施を管理するために、アルジェリア再生可能エネルギー公社「シャエムス」を設立したが、国家計画はしばらく進まなかった。2023年以降は国営電力公社ソネルガスが同計画を実際に管理しており、太陽光発電所に関する入札が着実に実施されているようだ。水素部門も同様に、欧州諸国とのパートナーシップに基づき、軌道に乗っている(2023年10月31日付ビジネス短信参照)。このような新エネ計画は今後、実際に続くのか、それとも一時的な動きなのか。
答え:
2009年にはドイツ企業のイニシアチブにより、サハラ砂漠など地中海沿岸地帯に太陽熱発電施設を建設し、発電した電力を欧州に供給するプロジェクト「デザーテック(Desertec)」があった。タイミングの問題があったと思うが、その後進展がなく、残念な結果となった。こういった歴史的な実例が外国企業にとって、アルジェリアのイメージダウンにつながったことは否めない。
2019年にはブーテフリカ政権が崩壊し、その後汚職問題で多くの政治家と経済関係者が逮捕された。その影響で政治と経済はまひし、大規模な投資計画が見えなかった。
しかし、今、繰り返しになるが、新エネを促進する追い風がある。資金は豊富で、イタリアやドイツなどは積極的にアルジェリアの新エネ部門の促進を支援しようとしている。アルジェリアはそれを無視することはできない。一方、アルジェリアは他国と違い、メガソーラーのような大規模な発電所ではなく、小型発電所を複数設置する方針を選択した。
そうした中、2023年にはアルジェリア中部での複数の太陽光発電所建設計画「Solar 1000 MW」、そして、合計2,000メガワット(MW) の15の太陽光発電所建設計画に関する新規入札に進展があった(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。また、同年にはアルジェリア第2の都市オランの空港施設内の消費電力の大部分を太陽光発電で賄うソーラー化を図った。現段階では、これらの計画には主に中国とトルコ企業が参入している。
その意味では、新エネは今、軌道に乗ったように見えるが、2024年12月の大統領選挙が終わるまでは、大規模な計画は進まない可能性がある。
質問:
脱ロシア依存に向け、アルジェリアから天然ガス、または水素供給を確保したいと考えているイタリア、フランス、ドイツなどの欧州諸国は、例えば最近、フィアットなどイタリア企業のアルジェリア進出がタイミングよく発表されている(2023年12月21日付ビジネス短信参照)。同様に、トルコや中国、ロシアの企業の市場参入の動きも目立つ。他方、スペインは2022年に西サハラに関する従来の方針を転換し、対アルジェリア輸出はしばらく落ち込んだ。投資元国のアルジェリアへの外交姿勢によって、つまり企業の国籍によって、アルジェリアでのビジネスの成り行きは大きく違うような印象を受けるが、実際はどうなのか。
答え:
イタリア企業はイタリアとアルジェリア政府の良好な関係で利益を得ている。そもそもだが、イタリアのエネルギー大手ENIの創立に貢献したエンリコ・マッテイ氏はアルジェリアの独立に取り組んだ民族解放戦線(FLN)の有名な支持者だった。一方、旧スペイン領でその大部分をモロッコが実効支配する西サハラを巡り、アルジェリア政府は2022年、スペインと2002年に結んだ友好善隣協力条約の停止を決定したため、スペイン企業は悪影響を受けた。また、フランスとアルジェリアの間に植民地時代の問題が残っている中、フランス企業も影響を受ける時もある。
質問:
日本企業はアルジェリア市場をどのように見ればよいのか。
答え:
アルジェリアはパートナーと経済の多様化を図ろうとしている。日本にとってはチャンスだ。両国の歴史的な関係は良好で、現在も友好的な関係にある。一方、アルジェリアでは、日本企業のイメージは良い。信頼して大丈夫なパートナーとしての位置づけがある。2023年に両国間の租税条約(2023年2月14日付ビジネス短信参照)と日・アルジェリア合同経済委員会設立協定(2023年7月31日付ビジネス短信参照)が署名されたことは意味があり、日本企業のアルジェリア展開を後押しするかもしれない。こうした中で、日本企業はアルジェリアのビジネス環境を理解した上で、商機をつかむことが重要だ。深刻な水不足のアルジェリアだから、水、農業部門でのパートナーシップへの期待が大きい。その他、鉱山資源、レアアース、食料品加工業、新エネ、水素関連での商機もあると思う。

アルジェリア外交の復帰

  1. 治安維持と経済強化を目指す新外交
  2. 脱炭素成長型経済実現で国内政治の安定化
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。