製造開始は2027年前半と発表
インド初の半導体製造の現在(2)

2023年5月24日

直近の現地メディア報道の内容にはプロジェクトへの懐疑的な見方も見られる中、ベダンタ側は「事業を推進するための提携先企業との技術的な条件はクリアした」として、具体的な生産開始時期や生産量につき言及し、「我々の事業は、モディ首相が掲げている“自立したインド”を正に実現するものだ」と強調している。

半導体製造事業の進捗は順調:ベダンタ発表

これらメディア報道を受けるような形で、VFSL側も反応を示している。VFSLのデイビッド・リードCEO(最高経営責任者)およびベダンタ・セミコンダクター&ディスプレイのアカルシュ・ヘバー・グローバル・マネージング・ディレクターは、メディア取材に答え、「ベダンタ・グループはすべての技術提携案を政府に提出し、銀行側も補助金調整後の資本調達割合に関して納得している」とし、「ベダンタ・グループは1兆5,000億ルピー(約2兆4,000億円、1ルピー=約1.6円)を投じ、2023年10月から12月までの間に半導体工場の建設を開始する。2027年前半までに半導体の製造を開始する予定で、まずは5,000枚のウエハー生産からスタートし、その後、徐々に月産4万枚まで増やしていく予定だ」と述べている(4月18日付「エコノミック・タイムス」)。

また、同取材でヘバー氏は、「28ナノメートル(nm、注1)や40nmの分野で試行錯誤を重ねた技術を導入し、ICT(情報通信技術)機器や自動車、スマートフォンなどに最適で手頃な価格の半導体を生産する予定だ」と述べた。さらに、「川上の半導体製造がOSAT(注2)やモジュール工場のような川下分野に波及していく」ことを指摘し、「上流の半導体製造エコシステムやサプライチェーンの広い分野には米国、日本、韓国、台湾から約150社の参入が見込まれ、直接、間接に約10万人の雇用創出につながるだろう」とも述べている。

韓国の液晶ディスプレイ製造関連企業20社と覚書

一方、液晶ディスプレイ製造分野に関して韓国企業との提携が進んでいることも、へバー氏は示唆し、「50社以上の韓国企業が当社との提携に関心を示している。今回、エレクトロニクス製造バリューチェーンに携わる韓国の液晶ディスプレイ関連企業20社と新たに覚書を締結した」と発表している。これらの覚書は、先ごろ韓国・ソウルのCOEXで開催された「Korea Biz-Trade Show 2023」で締結された、と報じられている(4月18日付「フィナンシャル・エクスプレス」)。

現地メディア報道に対するグジャラート州政府の見方

これらの報道内容を踏まえて、ジェトロがグジャラート(GJ)州政府・科学技術省の半導体政策の担当部局である「GJ州エレクトロニクス・ミッション(GSEM)」を取材した(3月21日、4月17日)。

GSEM側は、「(中央政府内での、詳細な動きまではわからないが)、中央政府からのVFSLへの事業認可は、5月半ば頃を目途に承認されるのではないか」との見通しを述べた。VFSL、GJ州政府、ドレラSIRの関係者間では、会議が頻繁に行われており、「並行してドレラSIRの進出予定地では、VFSLの半導体製造工場建設に必要な土壌改良の関連調査などが徐々に進められている」とのこと。憶測が飛び交うメディア報道に対しては、「VFSLと欧州の技術提携先とは、原則は合意していると思われ、現在はテクニカルな契約内容を詰めている段階だろう」としている。

GJ州政府の半導体製造ハブ構想

そもそもインド政府やGJ州政府は、半導体・エレクトロニクス分野において「ハブ構想」という大きな絵を描いており、「半導体を輸入して最終製品を組み立てるのみではなく、インドが自国の半導体需要に対して自給自足できること」が目的である。また、グリーンフィールドからの大規模スマートシティ計画である「ドレラSIR」に、半導体製造工場や幅広い関連産業を誘致し、世界レベルの「半導体製造ハブ」を構築することが構想のコアだ。VFSL事業は、この目的のための最初の呼び水なのだという。

またGSEMによると、「例えば当初は、特殊化学品や製造装置メーカー、半導体部品メーカー数社が、自社製品を海外から輸入し、保管・供給するためドレラSIRや周辺の倉庫から供給を始める。その後、国内外の需要の高まりに対応し、川上から川下までの多様な企業がドレラSIRでの現地生産を選択し、“半導体エコシステム”が形成されることを期待している。この過程には10年ほどはかかるかもしれないが、半導体エコシステムの成長に必要不可欠な、水や電力などのインフラ供給に関して、州政府は責任を持って整備していく準備がある。また、人材供給の面では、GJ州の大学や官民教育機関が連携し、約2万人の半導体関連技術者を育成することにコミットしており、インド、GJ州で半導体を製造するための様々な条件がそろってきた」としている。


ドレラSIR都市開発の将来イメージモデル(ジェトロ撮影)

注1:
ナノメートルは、10億分の1メートル。
注2:
Outsourced Semiconductor Assembly & Testの略称。前工程専門受託製造の「ファンドリー」に対して、後工程である組み立てや検査などの分野で大量生産型のラインを構築し、生産効率を高め、複数社の顧客から仕事を請け負う企業。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。