2022年の自動車販売・生産は低調もEVは堅調(英国)
EVへの移行に向け課題も

2023年10月13日

英国自動車製造者販売者協会(SMMT)によれば、2022年の英国の新車登録台数と生産台数は、前年に引き続き伸び悩んだ。一方で、電気自動車(EV)は登録、生産の双方で引き続き堅調だった。

新車登録は新型コロナ禍の水準を下回る

英国の2022年の新車登録台数は前年比2.0%減の161万4,063台だった。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と比べて約70万台減少し、1992年以来で最低となった2020年を下回った。2022年8月から12月にかけて5カ月連続して前年同月比で増加したが、上半期の減少分を補うまでには至らなかった。SMMTは減少の要因について、世界的な部品の供給不足の影響を受けたとしている。用途別には、自家用が2.0%増の81万8,509台、商用は37.0%増の4万4,715台だった。自家用が新車登録の半分以上を占める一方、商用とフリート(社用車など)はバッテリーEV(BEV)の新車登録の66.7%を占め、台数増加の74.7%を占めた。また、個人消費者のEV購入の促進が大きな課題になっているともした。

表1:燃料種別の新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
燃料種別 2020年 2021年 2022年
台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 前年比
(台数)
ガソリン車 903,961 55.4 762,103 46.3 682,473 42.3 △10.4
バッテリー電気自動車(BEV) 108,205 6.6 190,727 11.6 267,203 16.6 40.1
マイルドハイブリッド車(MHEV、注1) ガソリン 119,179 7.3 198,025 12.0 219,701 13.6 10.9
ハイブリッド車(HEV、注2) 109,860 6.7 147,246 8.9 187,948 11.6 27.6
プラグインハイブリッド車(PHEV) 67,134 4.1 114,554 7.0 101,414 6.3 △11.5
ディーゼル車 261,772 16.0 135,773 8.2 82,981 5.1 △38.9
マイルドハイブリッド車(MHEV、注1) ディーゼル 60,953 3.7 98,753 6.0 72,343 4.5 △26.7
合計  1,631,064 100.0 1,647,181 100.0 1,614,063 100.0 △2.0

注1:電力によるアシストで燃費や二酸化炭素(CO2)排出量を効率化した自動車。電力単体での駆動はできない。
注2:PHEVよりも電力で駆動する距離が短く、回生ブレーキにより発生する電気を使用する自動車。
出所:英国自動車製造者販売者協会(SMMT)

燃料種別にみると、ディーゼル車は前年比38.9%減の8万2,981台で、ガソリン車も10.4%減の68万2,473台だったほか、プラグインハイブリッド車(PHEV)も11.5%減少して10万1,414台だった(表1参照)。一方で、ハイブリッド車(HEV)は27.6%増の18万7,948台、バッテリー電気自動車(BEV)は40.1%増の26万7,203台となった。BEVは新車登録の16.6%を占め、構成比で初めてディーゼル車〔ディーゼル車およびマイルドハイブリッド車(MHEV)〕を上回り、ガソリン車に次ぐ燃料種となった。SMMTは製造業者が、部品供給の制約に対してゼロエミッション車販売を優先したことによるものとしている。その結果、新車の平均CO2排出量は史上最低となった。

登録上位車種をみると、日産「キャシュカイ」が4万2,704台で1位となり、前年1位だった英国ボクソール「コルサ」が3万5,910台で2位に下がった(表2参照)。BEV部門では、米国テスラ「モデルY」と「モデル3」がそれぞれ3万5,551台、1万9,071台で、1位と2位にランクイン。日産「リーフ」は9,178台で5位となった(表3参照)。

表2:新車登録の上位10車種
(2022年)(単位:台)
順位 車種名 台数
1 日産「キャシュカイ」 42,704
2 ボクソール「コルサ」 35,910
3 テスラ「モデル Y」 35,551
4 フォード「プーマ」 35,088
5 ミニ 32,387
6 起亜「スポテージ」 29,655
7 現代「ツーソン」 27,839
8 VW「ゴルフ」 26,558
9 フォード「クガ」 26,549
10 フォード「フィエスタ」 25,070

出所:SMMT

表3:BEV新車登録の上位10車種(2022年)(単位:台)
順位 車種名 台数
1 テスラ「モデル Y」 35,551
2 テスラ「モデル3」 19,071
3 起亜「eニロ」 11,197
4 VW 「ID.3」 9,832
5 日産「リーフ」 9,178
6 ミニ 7,425
7 ボルボ「ポールスター2」 7,345
8 MG「5」 7,030
9 BMW「i4」 6,699
10 アウディ「Q4 e-トロン」 6,594

出所:SMMT

生産でもEV台頭、総生産台数の3割を超える

SMMTによれば、英国の自動車生産台数は前年比9.8%減の77万5,014台で、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年比で40.5%減となった(表4参照)。SMMTはこの原因を、世界的な半導体不足や、大きな構造変化、中国の長期ロックダウンが及ぼしたサプライチェーンの問題によるものとみている。

表4:自動車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
対象市場 2020年 2021年 2022年
台数 台数 台数 前年比
国内向け 171,890 153,749 168,176 9.4
輸出向け 749,038 705,826 606,838 △14.0
合計 920,928 859,575 775,014 △9.8

出所:SMMT

国内市場向けの生産台数は前年比9.4%増の16万8,176台だったが、輸出向けは14.0%減の60万6,838台となった。全体の57.6%を占めたEU向けは10.0%減の34万9,424台だった。そのほか、米国への輸出は31.6%減、中国は8.3%減となった。一方、日本は5.7%増、韓国は32.8%増、オーストラリアは4.7%増、スイスは2.7%増、南アフリカ共和国は23.0%増だった。2021年には上位市場であったロシア向けは、前年比78.3%減となった。

燃料種別でみると、BEV、PHEV、HEVの生産台数は23万4,066台で過去最高になり、総生産台数の30.2%を占めた。また、BEV、PHEV、HEVの総輸出額は2017年の約13億ポンド(約2,392億円、1ポンド=約184円)から100億ポンド超へと約7倍に増えている。2022年の英国の自動車輸出額全体に占める電気自動車の割合は44.7%だった。

メーカー別の生産台数では、前年2位だった日産が23万8,329台で1位になり、トヨタが前年と同じく4位だった(表5参照)。ホンダは、2021年にスウィンドン工場での生産を終了したため、2022年の生産台数は0台となった。

表5:各メーカーの生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2021年
台数
2022年
台数
前年比
日産 204,522 238,329 16.5
ジャガー・ランドローバー 220,554 202,788 △8.1
ミニ(BMW) 186,762 186,222 △0.3
トヨタ 130,739 105,590 △19.2
ベントレー 14,401 15,639 8.6
ボクソール 31,984 9,510 △70.3
ホンダ 54,465 0 △100
その他 16,148 16,936 4.9
合計 859,575 775,014 △9.8

出所:SMMT

内燃車販売禁止延期、ZEVマンデートは2024年より導入

一方、政策面では大きな変化が見られた。リシ・スナク首相は9月20日、同国のネットゼロ政策に関し、見直しを発表。そのうちの一つとして、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止の導入時期を2030年から2035年へと延期(2023年9月22日付ビジネス短信参照)。スナク首相は、今回の見直しについて、インフレにより家計が圧迫される状況下で現状の目標が現実的でないと判断したとしている。

一方で、政府が2024年以降に導入する方針を示していた、自動車メーカー各社への国内新車販売に占めるゼロエミッション車(ZEV)の販売割合義務付け(ZEVマンデート)については、9月28日に詳細を発表(2023年9月29日付ビジネス短信参照)。予定通り2024年より導入し、2035年を100%として段階的にZEVの販売割合を高めていく。乗用車については22%、バンについては10%が当初の割合目標となっている。

毎年、各メーカーの販売台数および当該年の目標割合に応じて、アロウアンス(Allowance)を付与。メーカーは、当該年に販売したゼロエミッションではない乗用車またはバン(非ZEV)1台当たりに対して1つのアロウアンスを使用する。アロウアンスが非ZEVの台数を上回った場合、企業はこの余剰分を他社に販売、または貯蓄(bank)することができる。貯蓄した場合、アロウアンスは3年間使用できる。反対に不足する場合は他社から購入、または貯蓄分の利用、または将来分から前借り(borrow)することで補填(ほてん)する。前借りについては2024年から2026年までの期間のみ認められており、目標割合に対する利用上限も設定されている。なお、前借り分については3.5%の「複利」で返済する必要がある。他社からの購入、貯蓄分の利用、将来分からの前借りを行っても不足する場合についてはアロウアンス1つにつき、乗用車は1万5,000ポンド、バンは1万8,000ポンド(2024年のみ9,000ポンド)を支払わなければならない。

この発表に対して、これまで同制度の明確化を求めてきたSMMTは、導入まで100日を切ったタイミングでメーカーは2024年から2030年までに目標とすべき販売割合が明らかになったとコメント。既にメーカーは様々なZEVを販売しているが、需要がその供給に合わなければならないとして、政府に対して資金面を含めた支援やインフラ整備目標の設定、ドライバーへのEVへの買い替え勧奨などを求めた。

これらの政策に伴う将来の二酸化炭素(CO2)排出の影響について、政府の諮問機関である気候変動委員会(CCC)によれば、ZEVマンデートの実施によりガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止の延期が与える直接的な影響は軽微であると分析。一方で、EV移行への政府のコミットメント低下とみなされることで、消費者の信頼感が損なわれるリスクや、EV製造に関連する対内投資を阻害するリスクがあるとし、間接的に影響する可能性を指摘している。

EV関連では、EUとの通商・協力協定(TCA)で導入されているEVおよび関連部品に対する品目別原産地規則についても、変更が生じる予定。TCAではこれら製品に関し、2段階で緩和措置が導入されており、2023年末をもって第1段階が終了することから、2024年以降厳格化されることになっている(詳細は、ジェトロ調査レポート参照)。

これについても、産業界から延期を求める声が出ている。欧州自動車工業会(ACEA)は、現在欧州で生産されるEVに使用されるバッテリーセルや原材料はアジアからの輸入に依存しており、欧州域内で安定したサプライチェーンを構築するのに必要な生産能力が構築されていないとして、緩和措置の3年間の延長を求めている。こうした状況を受け、英国政府、欧州委員会が延長に向けた議論を行っている、と報じられている(「ポリティコ」2023年5月2日)。

政府の支援は充電インフラへ

英国政府によるEV普及に関する支援に目を移すと、インフラの支援に重点が置かれている。2022年3月に発表されたEVインフラ戦略では、2030年までにEVの公共充電設備設置台数を最低限30万台に増やすとしており、英国全土に公共充電設備を整備するために5億ポンドを投資するとしている。

2023年2月には、インフラ戦略で発表された4億5,000万ポンド規模の地域EVインフラ基金(LEVI)につき、追加で5,600万ポンドの公的および民間資金を投じることを発表している。同基金を通じて自治体に対する補助金を提供し、EVの充電ハブや路上充電設備の導入加速を支援する。

2023年1月には、EVスマート充電行動計画を発表し、以下の3つの分野で取り組むとした。

  • 消費者のスマート充電への信頼感を向上し、適切な保護を提供
  • 消費者の選択肢の増加や充電市場およびエネルギーの柔軟性拡大に資する、規制や基準、イノベーションの提供
  • スマート充電に対応したエネルギーシステムの整備

タタグループがギガファクトリー工場建設を発表

インド大手財閥のタタグループは2023年7月19日、EV向け超大型バッテリー工場「ギガファクトリー」を英国に設立することを発表した(2023年7月27日付ビジネス短信参照)。投資規模は約40億ポンド超。生産能力は40ギガワット時(GWh)とされている。生産開始は2026年を予定しており、グループ企業であるジャガー・ランドローバー(JLR)および英国・欧州内の他のメーカーにも供給される予定。

JLRは2021年2月に、「ジャガー」の世界向け全車種を2025年からEVモデルとし、2030年までに「ランドローバー」の全ての車種でEVモデルを提供する計画を発表している。これに向けて、2023年4月には、EV生産能力強化に向けて今後5年間で150億ポンドを投じることを発表している。2023年3月には、タタ・テクノロジーズと提携し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することを発表したほか、6月には、サプライチェーンマッピングおよびリスク分析企業エバーストリーム・アナリティクスとの連携を発表。AIなどを活用し、リアルタイムでサプライチェーンをモニタリングし、供給不足を防ぐとしている。そのほか、自動運転車の開発にも注力する。同社は2023年2月、ドイツ、イタリア、スペインに次世代自動運転車技術を開発するハブの設立を発表。既存の米国、ハンガリー、アイルランド、英国、中国、インドの6つのハブとともに、デジタル補助システムやAIの開発を進める。

米国フォードは2022年12月、英国輸出信用保証局(UKEF)からEVの製造ライン拡大に向けた支援を獲得した。全体の融資額は7億5,000万ポンドで、UKEFが6億ポンドの政府保証を提供する。そのほか、2023年4月には、英国の一部の高速道路でのハンズフリー運転技術の使用に関し、当局から承認を得たことを発表している。

ステランティス傘下のボクソールは2023年6月、同社のクロスランドのEVモデルを2024年に導入することを発表した。これにより、同社の全ての車種につき、EVモデルが提供されるとしている。なお、同社は、2028年までにすべての販売車種をEVとすることを目標としている。これに先立つ2022年10月には、英国再エネ事業者オクトパスエナジーと連携し、家庭・公共充電に関するパッケージを提供することを発表。これにより、ボクソールのEV購入者に対し、自宅へのスマート充電設備の設置や、大手の充電事業者が提供する公共充電設備で利用可能な支払いカードとアプリを提供するとしている。

ドイツのBMWの子会社であるBMW UKは2022年10月、英国の15の国立公園の充電インフラ改善に向け、充電設備の設置などを含めたパートナーシップをナショナル・パークスUKと締結することを発表。また、2023年1月には傘下のミニが、EVへの移行を支援すべく、2023年1月から3月に同社のEVミニ・エレクトリックを購入した場合に、家庭用の充電設備を無料で提供することを発表している。

日系企業では、トヨタ自動車が2022年12月に、同社の水素燃料電池ピックアップトラックの開発支援に向けて、政府から1,130万ポンドの支援を獲得した(2022年12月6日付ビジネス短信参照)。また、2023年5月には、同社のダービー工場でのエアレス塗装機の導入に対し、約28万ポンドの政府補助金が割り当てられることが発表されている(2023年5月16日付ビジネス短信参照)。

日産自動車は2022年9月、サンダーランド工場で生産されているキャシュカイとジュークの、ハイブリッドモデルの生産を開始することを発表。最新のバッテリーアセンブリ設備を含む新設備でバッテリーパックの生産を行う。

自動車メーカーが様々な視点でEVなどへの移行を模索する中で、課題も残る。英国発のスタートアップ企業で北東部にギガファクトリーを建設する予定であったブリティッシュボルトが2023年1月に破綻した。同年2月に、オーストラリアのバッテリー関連企業リチャージ・インダストリーズが事業・資産の過半数を取得することを発表している。一方で、ブリティッシュボルトの共同管財人を務めるEYパルテノンが8月に発表した進捗報告書では、支払い期限を過ぎているにもかかわらず、完了していないと指摘されており、状況は不透明だ。

SMMTのホーズCEOは7月21日の声明で、30以上のギガファクトリー建設プロジェクトが計画・建設・運用されている大陸欧州や、インフレ削減法を通じたクリーン投資の誘致を行う米国と比較し、英国が遅れを取っていることを指摘した。8月4日の声明では、EVの生産が伸長していることを歓迎しつつ、依然、エネルギーコストが課題であるとして、EVのサプライチェーン全体を通じて協調した取り組みを行う必要性を指摘している。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
チャウジュリー・クリシュナ
2023年6月、ジェトロ・ロンドン事務所入所。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課を経て2021年9月から現職。