2022年下半期のアジア発米国向け海上コンテナ、西海岸回避の傾向加速

2023年1月17日

2022年7月1日に、米国西海岸の港湾で労働協約が失効した。使用者側の太平洋海事協会(PMA)と労働者側の国際港湾倉庫労働者協会(ILWU)の交渉は、2023年1月時点で、依然として合意に達していない。労使交渉による機能不全リスクなどを考慮し、アジア発の海上コンテナが西海岸以外の港湾に輸送される事例が一般化している。

本稿では、米国調査会社デカルト・データマインの海運統計を参考にしながら、2022年下半期のアジア発米国向けの海上コンテナについて考察する。2022年上半期の動向は、2022年8月4日付地域・分析レポートを参照願いたい。

アジア主要国からの海上コンテナ輸送が減少、大部分は中国

2022年7~12月の米国向け海上コンテナの輸送量は、前年同期比10.1%減の1,326万9,481TEU(20フィートコンテナ換算)。アジア上位10カ国・地域のいずれかを出港地(注1)とする海上コンテナに限ると、12.5%減の918万954TEUだった(表1参照、注2)。米国における高インフレや小売業者の過剰在庫が、荷動きを鈍化させたとみられる。

アジア上位10カ国・地域別にみると、中国、韓国、ベトナム、台湾、シンガポールの順に、米国向けの輸送量が多かった。前年同期から順位に変動はない。他方、米国向け輸送量最大の中国は、前年同期比17.0%減の535万8,987TEU。寄与度(マイナス10.5ポイント)に示される通り、中国発の海上コンテナの減少が、米国向け全体の減少に大きな影響を及ぼした。続く韓国(1.8%増、99万4,181TEU)とベトナム(13.9%増、85万5,673TEU)発の海上コンテナは前年同期から増加する一方、上位10カ国に含まれるほかの国・地域発の海上コンテナは減少した。

表1:米国向け海上輸送の国・地域別比較(2022年7~12月TEU順)(単位:TEU、母船積み地ベース、%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 出港地 TEU 米国向け全体に占める割合
2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期比 寄与度 2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期差
1 中国 6,455,377 5,358,987 △ 17.0 △ 10.5 43.7 40.4 △ 3.4
2 韓国 976,221 994,181 1.8 0.2 6.6 7.5 0.9
3 ベトナム 751,486 855,673 13.9 1.0 5.1 6.4 1.4
4 台湾 538,518 476,950 △ 11.4 △ 0.6 3.6 3.6 △ 0.1
5 シンガポール 409,459 388,674 △ 5.1 △ 0.2 2.8 2.9 0.2
6 インド 401,757 376,403 △ 6.3 △ 0.2 2.7 2.8 0.1
7 タイ 280,223 238,323 △ 15.0 △ 0.4 1.9 1.8 △ 0.1
8 日本 187,761 182,699 △ 2.7 △ 0.0 1.3 1.4 0.1
9 香港 311,056 157,658 △ 49.3 △ 1.5 2.1 1.2 △ 0.9
10 マレーシア 175,074 151,405 △ 13.5 △ 0.2 1.2 1.1 0.0
米国向け全体 14,758,670 13,269,481 △ 10.1 △ 14.2
米国向けアジア上位10カ国・地域全体 10,486,931 9,180,954 △ 12.5 △ 12.5 71.1 69.2 △ 1.9

出所:デカルト・データマイン

荷受け地ベースでは、日本発の海上コンテナ輸送が増加

荷受け地ベースで、中国発の海上コンテナをみると(表2参照)、輸送量は前年同期比18.5%減の523万6,266TEU。減少幅は、母船積み地ベースの場合より大きかった。米国向け上位10品目(HS2桁)はいずれも、前年同期から10%以上減少した。上位2品目の家具、寝具(HS94類、26.8%減)および玩具、遊戯用具(HS95類、25.4%減)の減少が、輸送量全体を押し下げた。

対照的に、日本発の海上コンテナは、前年同期比9.6%増の31万4,294TEUとなった。母船積み地ベースでは2.7%減だったが、荷受け地ベースでは輸送量が増加したことになる。輸送量上位3品目の一般機械(HS84類、16.6%増)、自動車・同部品(HS87類、11.7%増)、ゴム(HS40類、16.7%増)はいずれも、前年同期から10%以上の増加となった。9位の光学機器(HS90類)は、31.8%増加した(5,015TEU)。

表2:中国と日本の米国向け海上輸送主要品目(2022年7~12月TEU順)

中国(単位:TEU、荷受け地ベース、%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 品目 TEU
2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期比 寄与度
1 HS 94:家具、寝具 1,111,064 813,573 △ 26.8 △ 4.6
2 HS 95:玩具、遊戯用具 732,467 546,638 △ 25.4 △ 2.9
3 HS 84:一般機械 575,895 504,402 △ 12.4 △ 1.1
4 HS 39:プラスチック 544,349 481,490 △ 11.5 △ 1.0
5 HS 85:電気機器 561,033 446,197 △ 20.5 △ 1.8
6 HS 87:自動車・同部品 291,141 252,042 △ 13.4 △ 0.6
7 HS 73:鉄鋼製品 289,106 222,598 △ 23.0 △ 1.0
8 HS 63:紡織用繊維 240,382 177,559 △ 26.1 △ 1.0
9 HS 61:衣類および衣類附属品 221,739 174,570 △ 21.3 △ 0.7
10 HS 64:履物 184,741 153,196 △ 17.1 △ 0.5
中国発の輸送量合計 6,428,581 5,236,266 △ 18.5 △ 18.5
日本(単位:TEU、荷受け地ベース、%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 品目 TEU
2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期比 寄与度
1 HS 84:一般機械 66,880 77,964 16.6 3.9
2 HS 87:自動車・同部品 58,683 65,524 11.7 2.4
3 HS 40:ゴム 33,572 39,167 16.7 2.0
4 HS 39:プラスチック 27,534 28,502 3.5 0.3
5 HS 85:電気機器 18,975 18,075 △ 4.7 △ 0.3
6 HS 73:鉄鋼製品 7,658 8,367 9.3 0.2
7 HS 28:無機化学品 5,221 5,833 11.7 0.2
8 HS 29:有機化学品 5,676 5,410 △ 4.7 △ 0.1
9 HS 90:光学機器 3,805 5,015 31.8 0.4
10 HS 98:少額の無条件免税貨物 4,158 4,553 9.5 0.1
日本発の輸送量合計 286,883 314,294 9.6 9.6

出所:デカルト・データマイン

アジア発のコンテナが、西海岸以外に振り替えられる傾向加速

2022年上半期の動向をまとめた前回レポートの中で、アジア発の海上コンテナが西海岸を回避し、ほかの港湾に向かっている状況に言及したが、この傾向は下半期に加速した。米国の港湾別に2022年下半期の取扱量を比較すると(表3参照)、西海岸に位置するロサンゼルス港とロングビーチ港は、引き続き主要な到着港だが、当該港湾が全体に占める割合は、前年同期からそれぞれ2.9ポイント、1.7ポイント減少した。それに対し、ニューヨーク・ニュージャージ港(1.2ポイント増)、サバンナ港(1.5ポイント増)、ヒューストン港(1.1ポイント増)の割合は増加した。米国向け海上コンテナの総量は減少したが、西海岸から東海岸またはメキシコ湾に振り替えられる事例が相対的に増加したと見て取れる。

表3:アジア上位10カ国・地域発の海上コンテナに関する米国の港湾別取扱量の比較
(2022年7~12月TEU順)(単位:TEU、母船積み地ベース、%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 到着港 地域 TEU アジア上位10カ国・地域発
米国向け全体に占める割合
2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期比 寄与度 2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期差
1 ロサンゼルス港 西海岸 2,749,640 2,140,951 △ 22.1 △ 5.8 26.2 23.3 △ 2.9
2 ロングビーチ港 西海岸 2,205,764 1,772,503 △ 19.6 △ 4.1 21.0 19.3 △ 1.7
3 ニューヨーク・ニュージャージ―港 東海岸 1,373,160 1,312,539 △ 4.4 △ 0.6 13.1 14.3 1.2
4 サバンナ港 東海岸 1,110,140 1,105,984 △ 0.4 △ 0.0 10.6 12.0 1.5
5 ヒューストン港 メキシコ湾 506,562 544,081 7.4 0.4 4.8 5.9 1.1
6 ノーフォーク港 東海岸 479,679 433,196 △ 9.7 △ 0.4 4.6 4.7 0.1
7 チャールストン港 西海岸 386,238 358,653 △ 7.1 △ 0.3 3.7 3.9 0.2
8 オークランド港 東海岸 403,488 337,143 △ 16.4 △ 0.6 3.8 3.7 △ 0.2
9 タコマ湾 西海岸 432,284 308,239 △ 28.7 △ 1.2 4.1 3.4 △ 0.8
10 シアトル港 西海岸 302,850 265,963 △ 12.2 △ 0.4 2.9 2.9 0.0
米国向けアジア上位10カ国・地域全体 10,486,931 9,180,954 △ 12.5 △ 12.5

出所:デカルト・データマイン

米国南東部に拠点を置く日系自動車部品メーカーに話を聞いたところ(注3)、「当社はこれまで西海岸経由で部品を調達してきた。しかし、港湾の混雑や労使交渉に伴うリスクを回避するため、今は大部分をサバンナ港経由で調達している。西海岸には若干余裕が出てきているようだが、リスク回避を優先し、東海岸経由の輸送を継続している」と説明した。また、電子部品を販売する日系企業は「海上輸送費の高騰に頭を悩まされている。ただし、輸送費は2022年夏以降、ピーク時から2~3割安くなった。今は西海岸を回避し、貨物の8割はサバンナ港を利用している」と述べた。さらに、「今は西海岸経由と東海岸経由の両方を利用しながら、コストを試算している。輸送費は落ち着いてきているが、それでも新型コロナウイルス禍前の約3倍。リードタイムが読みづらく、一度に複数のコンテナが届くこともある」と語る日系の販売会社もあった。企業により対応はさまざまだが、2022年上半期以上に、西海岸を回避する傾向が強まっているのが実情だ。今後の景気動向や労使交渉の行方が、各港の混雑と輸送ルートに影響を及ぼすだろう。

香港の存在感が低下、国際ハブとしてベトナムの役割強化

アジア上位10カ国・地域発米国向け海上コンテナの直航率(注4)について(表4参照)、香港は473.2%で前年同期比92.7ポイント増と最も大きい伸びを記録した。しかし、香港発の海上コンテナは、母船積み地ベース、荷受け地ベースいずれでも大きく減少しており、存在感の低下が著しい。ベトナムは荷受け地ベースで減少したが、母船積み地ベースでは増加している。直航率は74.2%と前年同期から15.1ポイント増加し、海運能力増強の動きがみられる。他方、インドおよび日本は、母船積み地ベースで減少がみられたが、荷受け地ベースでは増加。少なくとも海上輸送において、対米輸出が活発化したと言える。

表4:アジア上位10カ国・地域発米国向け海上コンテナの直航率などの比較(2022年7~12月出港地TEU順)(単位:TEU、%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 国・地域名 項目 TEU
2021年7~12月 2022年7~12月 前年同期比・差
1 中国 荷受け地 5,906,621 5,236,266 △ 11.3
出港地 6,455,377 5,358,987 △ 17.0
直航率 109.3 102.3 △ 6.9
2 韓国 荷受け地 537,844 547,837 1.9
出港地 976,221 994,181 1.8
直航率 181.5 181.5 0.0
3 ベトナム 荷受け地 1,270,640 1,152,692 △ 9.3
出港地 751,486 855,673 13.9
直航率 59.1 74.2 15.1
4 台湾 荷受け地 408,483 347,656 △ 14.9
出港地 538,518 476,950 △ 11.4
直航率 131.8 137.2 5.4
5 シンガポール 荷受け地 70,893 66,486 △ 6.2
出港地 409,459 388,674 △ 5.1
直航率 577.6 584.6 7.0
6 インド 荷受け地 525,994 537,409 2.2
出港地 401,757 376,403 △ 6.3
直航率 76.4 70.0 △ 6.3
7 タイ 荷受け地 432,544 427,617 △ 1.1
出港地 280,223 238,323 △ 15.0
直航率 64.8 55.7 △ 9.1
8 日本 荷受け地 296,860 314,294 5.9
出港地 187,761 182,699 △ 2.7
直航率 63.2 58.1 △ 5.1
9 香港 荷受け地 81,747 33,316 △ 59.2
出港地 311,056 157,658 △ 49.3
直航率 380.5 473.2 92.7
10 マレーシア 荷受け地 241,213 199,281 △ 17.4
出港地 175,074 151,405 △ 13.5
直航率 72.6 76.0 3.4
米国向けアジア上位10カ国・地域全体 荷受け地 9,772,839 8,862,854 △ 9.3
出港地 10,486,931 9,180,954 △ 12.5
直航率 107.3 103.6 △ 3.7

出所:デカルト・データマイン

米国向けの海運動向は、引き続き西海岸次第

米国東海岸およびメキシコ湾の全体に占める割合が増加した背景には、西海岸における港湾労使交渉の継続とともに、鉄道労使交渉の長期化があった。ジョー・バイデン大統領が2022年12月に、鉄道ストライキを阻止する法案に署名したことで、鉄道労働者と運行会社は暫定合意に拘束されることになった(2022年12月5日付ビジネス短信参照)。陸送も含め、西海岸経由の物流が安定すれば、従来の輸送ルートに戻す企業も増えてくるだろう。労使交渉の行方は、その大きな鍵を握っている[2022年10月25日付地域・分析レポート(前編後編)参照]。


注1:
母船積み地ベースであることを意味する。
注2:
データは随時更新される。本記事は、2023年1月4日にダウンロードしたデータに基づく。
注3:
日系企業のコメントは、筆者が2022年11月に米国南東部へ出張した際に聴取したもの。
注4:
荷受け分に対する直航便利用の輸送比率。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 リサーチ・マネージャー
片岡 一生(かたおか かずいき)
経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館などでの勤務を経て、2022年1月から現職。