新車販売・生産とも、回復基調(南アフリカ共和国)

2022年11月18日

南アフリカ共和国(南ア)の実質GDP成長率は、2021年に4.9%。前年のマイナス6.4%から、プラス成長に転じた。こうした背景もあり、自動車販売も持ち直した。自動車製造協会(NAAMSA)の発表によると、2021年の新車販売台数は46万4,493台。前年比22%増だった。実質GDP成長率の見通しは2022年もプラス成長(2.1%増)が続くと見込まれている。そのことを踏まえ、NAAMSAは2022年の販売台数を8.7%増の50万5,000台と予測している(表1参照)。

表1:国内新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 365,247 △ 0.8 355,379 △ 2.7 246,541 △ 30.6 304,340 23.4 333,000 9.4
階層レベル2の項目輸入台数 266,545 △ 0.7 267,557 0.4 187,115 △ 30.1 238,847 27.6 260,000 8.9
小型商用車 159,525 △ 2.3 153,221 △ 4.0 110,912 △ 27.6 133,078 20.0 144,000 8.2
階層レベル2の項目輸入台数 26,761 △ 1.5 24,226 △ 9.5 17,163 △ 29.2 24,579 43.2 24,000 △ 2.4
中・大型商用車
(輸入台数含む)
27,455 4.5 28,012 2.0 22,754 △ 18.8 27,075 19.0 28,000 3.4
合計販売台数 552,227 △ 1.0 536,612 △ 2.8 380,206 △ 29.1 464,493 22.2 505,000 8.7

注:輸入のNAAMSA非加盟製造者については報告値。
出所:NAAMSA

乗用車販売は、新型コロナ禍前の実績に及ばず

乗用車についてメーカー別に見ると、フォルクスワーゲン(VW)グループが首位を維持。2021年は6万7,774台で、前年比13.7%増だった。2位のトヨタは5万8,521台と、前年の落ち込みから42.8%増と大幅に回復した。もっとも、両社ともに新型コロナウイルス感染拡大前の水準には及んでいない(2019年の販売台数は、VWが8万3,262台、トヨタ6万 3,700台)。そのほか、現代が前年比19.7%増の2万9,816台。4年連続で3位を維持した。

また、この数年間、右肩上がりで成長してきたスズキが引き続き好調で、上位メーカーの中で唯一新型コロナ禍にあっても販売を伸ばした。同社の販売実績は、2021年は67.7%増の2万6,744台と大幅に躍進し、順位も4位に浮上した。同社が好調な理由としては、(1)カー・オブ・ザ・イヤーを獲得したことのほか、(2)コロナ禍以降、世帯収入の低下によって低価格の乗用車への関心が高まったことや、(3)家族同士の感染防止のために2台目の購入が進み、その用途に同社車種が好まれたこと、などが挙げられる。5位にルノー(2万996台、前年比26%増)、6位に起亜(1万8,439台、前年比65.1%増)と続いた。

その他日系自動車メーカーで存在感があったのは、8位に日産、11位にマツダ、ホンダは13位だった。販売台数はそれぞれ、1万1,739台(前年比34.7%増)、7,843台(前年比3.4%減)、3,525台(前年比9.8%増)だった。

NAMMSAによると、乗用車でここ数年最も人気のあるモデルはVWの「ポロ・ビボ」と「ポロ」た。このうち前者は唯一、2万台を超える売り上げだった。ブランドとして、VWに堅調な支持があることを示したかたちだ。トヨタの「スターレット」は2020年からの販売ながら、1万2,103台を売り上げて3位だった。4位、5位には、大型車のトヨタ「フォーチュナー」が9,236台(前年比4.1%減)、「アーバンクルーザー」が8,887台(2021年から販売)が続いた。スズキの「スイフト」は6位で、前年比51.3%増の8,332台を記録した。

スポーツ用多目的車(SUV)に限った販売数では、首位がトヨタ「フォーチュナー」だった(前述)。前年から減少こそしたものの、2位のVW「ティグアン」(3,182台、同25.7%減)の約3倍に当たる実績だ。依然として高い人気を維持していることがわかる。このほか好調だったのが、長城汽車の「ハヴァルH6」だ。2019年に販売をスタートしたばかりのモデルで、2021年の実績は1,693台。伸び率が429.1%増と、非常に高いところが注目される。中国メーカーが一般消費者に認知され始めたと言えそうだ。実際、ヨハネスブルク市内の路上でも、見かけることが増えた印象がある。

商用車はトヨタが首位、いすゞは過去最高

2021年の商用車販売(中型車、大型車を含む)では、トヨタが5万9,138台を記録。42年連続で首位を維持した。全体に占めるシェアは約37%だった。フォードは1万9,861台。日産の1万7,776台を上回り、2位に浮上した。日系企業としては、これら2社のほか、いすゞが1万9,589台。過去最高の販売台数を記録した。

アフリカ大陸では圧倒的な生産台数

NAMMSAによると、2021年の国内生産台数(乗用車と商用車の総計)は前年比11.8%増の49万9,087台になった(表2参照)。このうち、29万6,296台が輸出向けだ。全体の半分以上が輸出に回されていることになる。

生産台数が増加した背景には、新車ニーズの回復だけでなく、前年の2020年に施行されたインセンティブの後押しもあったと考えられる。なお、このインセンティブは、自動車産業政策「ポスト自動車生産開発プログラム」(2021年9月1日付地域・分析レポート参照)で規定された優遇措置に基づいている。

表2:国内生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 320,383 △ 3.1 348,665 8.8 237,214 △ 32.0 239,267 0.9 268,000 12.0
階層レベル2の項目輸出台数 220,889 △ 4.0 260,057 17.7 178,299 △ 31.4 173,086 △ 2.9 195,000 12.7
小型商用車 261,086 7.8 254,417 △ 2.6 185,691 △ 27.0 232,166 25.0 270,000 16.3
階層レベル2の項目輸出台数 128,005 20.9 125,079 △ 2.3 91,725 △ 26.7 123,210 34.3 150,000 21.7
国内生産合計 610,060 1.7 631,921 3.6 446,216 △ 29.4 499,087 11.8 566,700 13.5

注:中・大型車の生産台数については発表なし。
出所:NAAMSA

世界自動車生産ランキングで南アは、2021年に前年の22位から21位に上昇した。とは言え、世界生産シェアは0.62%とまだ低い。ただし、アフリカ地域での生産規模としては圧倒的で、大陸で生産された自動車生産台数全体のうち、53.6%を占める。

南ア政府は2018年、「南ア自動車基本計画2035(SAAM)」を策定した。この計画では、2021年から2035年までに年間140万台の生産を目指し、世界生産台数の1%にまで引き上げる目標が示された(2018年12月3日付ビジネス短信参照)。しかしこれまでのところ、進捗は順調ではない。コロナ禍拡大のほか、長引くサプライチェーンの混乱や半導体不足、さらには、国内では暴動(2021年7月14日付ビジネス短信参照)が発生し、一部地域では大洪水(2022年6月1日付地域・分析レポート参照)に見舞われた。事実、こうした事情からトヨタの工場は約4カ月にわたり生産停止に陥った。

そうした中、各メーカーは新モデルの生産を開始するなど、増産のための設備投資を続けている。2021年の自動車メーカーの総投資額は88億ランド(約712億8,000万円、1ランド=約8.1円)で、2021年6月にメルセデス・ベンツが新型Cクラス「W206」、同年8月にはトヨタが「カローラクロス」の新ラインでの生産を開始した。2022年に入ってからは、4月にVWの輸出用「ポロ」の総生産台数が100万台に到達した。

まだ市場シェアの低い新エネ車、関心は高まる

新エネルギー車(NEV、注)の新車販売台数は2021年時点で、896台だった。前年比で約2.8倍に増加している。ただし、新車販売台数全体の中で約0.2%にすぎないのも、実情だ。その内訳をみると、ハイブリッド車が627台で、約7割を占める。一方、電気自動車(EV)の販売台数は218台にとどまる。不安定な電気供給や充電インフラの未整備からくる安定走行・安全確保の難しさや車体価格の高さなど、さまざまな理由で普及が遅れている。完成品輸入時の関税も、25%と高い。

しかし、国内では少しずつではあるが関心が高まっているようだ。雑誌「Engineering News」によると、自動車販売プラットフォーム「AutoTrader」でEVについて検索された件数は54万件以上に上った。2020年の2倍に当たる実績だ。昨今、ガソリン価格が高止まりするのも追い風になる可能性がある。今後、政府が何らかのインセンティブを用意して国内生産が増えるようになると、価格も下がってくることも予想できる。そうなると、一部の高所得層を中心に関心が広がり、NEVを購入する可能性も出てくるとみられる。

なお、南ア貿易産業競争省(DTIC)は2021年5月、EVなどの国内生産や導入に関して、ロードマップ案「オート・グリーン・ペーパー」を公開した(2021年9月1日付地域・分析レポート参照)。ただし現時点で、正式なロードマップとしての発表はない。


注:
南ア政府が使用する呼称「New Energy Vehicle(NEV)」にはEVのほか、ハイブリッド車、水素燃料電池車なども含まれる。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。