2020年は販売・国内生産ともに大幅減、新自動車産業政策が施行(南アフリカ共和国)

2021年9月1日

南アフリカ共和国(以下、南ア)の自動車製造者協会(NAAMSA)の発表によると、2020年の新車販売台数は、前年比29.1%減の38万206台と大きく落ち込んだ(表1参照)。新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気低迷や販売活動の制限の影響などを受けた結果だ。販売台数の減少は3年連続となった。

新型コロナ禍の影響で販売台数3割減

NAAMSAは、景気回復が見込まれる2021年の販売台数を15.2%増の43万8,000台と予測している。それでも、新型コロナ禍以前の50万~60万台の水準には届かない見込みだ。2021年に入って新車販売台数は回復を見せ、1月から7月までの累計国内販売台数が26万466台、輸出台数が19万4,748台で、前年比でそれぞれ33.7%増、47.3%増となった。しかし、ウイルス変異株を中心とする感染拡大第3波への対応として、6月下旬から約1カ月間にわたり政府はロックダウンの強化を余儀なくされた(2021年6月29日付ビジネス短信参照)。このことに加え、7月にジェイコブ・ズマ前大統領の逮捕・収監に反発する支持者らによる大規模な暴動・略奪が発生した(2021年7月14日付ビジネス短信参照)。これらの影響により、NAAMSAの発表によると、2021年7月単月の新車販売台数(商用車を含む)は3万2,949台と、前年同月比でわずか1.7%増にとどまった。こうしたことが、2021年通年の販売台数の見通しに影響するものとみられる。NAAMSAのノーマン・ランプレシュト理事は「南アの新車販売・生産台数が新型コロナ禍以前の50万~60万台の水準に回復するには、数年を要する」との見解を示した。

表1:国内新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 365,247 △ 0.8 355,379 △ 2.7 246,541 △ 30.6 285,000 15.6
階層レベル2の項目輸入台数 266,545 △ 0.7 267,557 0.4 187,113 △ 30.1 210,000 12.2
小型商用車 159,525 △ 2.3 153,221 △ 4.0 110,912 △ 27.6 129,000 16.3
階層レベル2の項目輸入台数 26,761 △ 1.5 24,226 △ 9.5 17,163 △ 29.2 20,000 16.5
中・大型商用車
(輸入台数含む)
27,455 4.5 28,012 2.0 22,753 △ 18.8 24,000 5.5
合計販売台数 552,227 △ 1.0 536,612 △ 2.8 380,206 △ 29.1 438,000 15.2

注:輸入はNAAMSA非加盟製造者については報告値。
出所:NAAMSA

メーカー別には、フォルクスワーゲン(VW)グループが前年に続いて首位を維持した。もっとも、前年比28.4%減の5万9,626台にとどまった。これに、トヨタの4万970台(35.7%減)、現代2万4,915台(17.7%減)、ルノー1万6,668台(38.6%減)が続く。上位4社の順位は、前年と同じだった。他方で、前年8位のスズキは7.3%増の1万5,946台。順位も5位に上昇し、躍進が続いたかたちだ。小型車「スウィフト」の販売好調がその要因だ。なお、前年比で売り上げを伸ばした上位メーカーは、スズキ以外にない。

生産台数も3割減

2020年の生産台数も、世界的な消費の低迷や新型コロナ感染拡大対策として実施した経済活動の制限の影響を受け、前年比29.2%減の44万7,218台となった。過去最多を記録した前年(63万1,921台)から大幅な減少だ(表2参照)。NAAMSAは2021年の生産台数を17.1%増の52万3,700台と予測。販売台数と同様に新型コロナ禍以前の水準を下回るものとみられる。また、前述の7月に発生した暴動により、従業員の安全を確保するために日系の自動車メーカーやサプライヤーが生産活動を一時期停止したことも、年間の生産台数やスケジュールに影響を及ぼすとみられる。国軍の派遣で、8月には治安がおおむね回復してきた。とは言え、今後の警備体制などコスト増も含めた南アでの生産活動について、日本の製造業企業から不安の声が上がっている。

表2:国内新車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 320,383 △ 3.1 348,665 8.8 238,216 △ 31.7 285,000 19.6
階層レベル2の項目輸出台数 220,889 △ 4.0 260,057 17.7 178,299 △ 31.4 210,000 17.8
小型商用車 261,086 7.8 254,417 △ 2.6 185,691 △ 27.0 214,000 15.2
階層レベル2の項目輸出台数 128,005 20.9 125,079 △ 2.3 91,725 △ 26.7 105,000 14.5
国内生産合計 610,060 1.7 631,921 3.6 447,218 △ 29.2 523,700 17.1

注:中・大型車の生産台数は発表なし。
出所:表1に同じ

新自動車産業政策が施行

新型コロナ禍を受け、販売・生産ともに厳しい状況にある。そのような中、南アでは新しい自動車産業政策となる「ポスト自動車生産開発プログラム」(ポストAPDPまたはAPDP2、南ア国際貿易管理委員会(ITAC)ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に基づく取り組みが2021年7月1日に開始された。政府は同プログラムのガイドラインのドラフトを2018年に公表(2018年12月3日付ビジネス短信参照)。NAAMSAなど産業界との対話・調整を続け、同政策の内容を確定した。

ポストAPDPでは、従来のAPDP(2013年~2021年)より優遇措置や助成が拡充される。「量産組み立て現地化割引(VALA、注1)」や、国内で投資した自動車メーカー・サプライヤーに対する助成金「自動車投資スキーム(AIS)」がその一例だ(表3参照)。他方で、2021年以降も優遇措置の継続を希望する既存の自動車メーカーは、2022年までに「黒人経済力強化政策(BEE)」レベル4以上の取得が義務付けられた(新規参入の自動車メーカー、部品サプライヤーは2023年まで)。全体的には、現地調達率の向上や経営の現地化を進め、国内の生産活動のために投資する企業に対して、優遇措置をより手厚くする内容となった。

長らく産業界と政府との対話が続けられてきたことを反映し、内容的にはおおむね両者間であらかじめ合意された通りだ。その結果、ポストAPDPへの移行による大きな混乱は見られない。

表3:APDPの主な政策内容・優遇措置の改正前後対照表(小型乗用車向け)

輸入関税
改正前(2013年~2021年6月) 改正後(2021年7月~)
完成車(CBU):25%。 変更なし。
ノックダウン車(CKD):20%。 変更なし。
EUからの完成車(CBU)輸入は特恵関税により18%。1000cc以下の小型乗用車は無税。 変更なし(ドラフト発表時には1000cc以下の小型乗用車の関税を18%に引き上げるべく、南ア政府はEUと交渉予定だった。結果的に変更なし)。
量産組み立て優遇措置
改正前(2013年~2021年6月) 改正後(2021年7月~)
名称:「量産組み立て割引(VAA:Volume Assembly Allowance)」 名称:「量産組み立て現地化割引(VALA:Volume Assembly Localization Allowance)」に変更
国内で年間1万台以上生産する自動車メーカーを対象に、「工場出荷額」×「VAA率」で算出された輸入関税相殺クレジットを供与。 国内で生産する自動車メーカーを対象に、輸入関税相殺クレジットを供与。算出式は、〔付加価値額(卸売価格-企業固有のパーセンテージ(CSP)-輸入部品・原材料)〕×VALA率。
VAA率:
  • 年間5万台以上生産するメーカー:18%。
  • 年間1万~5万台のメーカー:10%。
VALA率:
年間1万台以上生産するメーカーが対象。2021年は40%、以降2026年まで毎年1%ずつ減少、2026年以降は35%。
クレジットは部品、CBU、CKDの輸入に使用可。 クレジットは主に部品、CKDの輸入に使用可。余剰分はCBUの輸入にも使用可。
生産インセンティブ(PI: Production Incentive)
改正前(2013年~2021年6月) 改正後(2021年7月~)
国内で生産する自動車・部品メーカーを対象に、「生産リベート証明書」(PRC)を供与。これを輸入関税相殺用のクレジットとして使用できる。算出式は、生産に伴う付加価値額(販売価格-輸入部品・原材料)×PI評価率。 変更なし。
PI評価率:2018年以降は50% 乗用車に対しては50%で変更なし。自動車部品は62.5%。
さらに南部アフリカ関税同盟(SACU)域内で生産された指定原材料分をサプライヤー付加価値(SVA)として25%算入可。 変更なし。
PRCは他社にキャッシュで転売可能。 変更なし
自動車投資スキーム (AIS:Automotive Investment Scheme)
改正前(2013年~2021年6月) 改正後(2021年7月~)
一定の条件を満たした国内で生産を行う自動車・部品メーカーを対象に、国内投資額の20%に相当する助成金(課税対象)を支給。 国内で年間5万台以上生産する自動車メーカーを対象に、国内投資額の20%に相当する助成金(課税対象外)を支給。一定の条件を満たした自動車部品・工具サプライヤーは25%、電気自動車などの自動車メーカー・部品サプライヤーは30%の助成金を支給。
黒人経済力強化政策(BEE)達成要件
改正前(2013年~2021年6月) 改正後(2021年7月~)
APDPに参加する場合は、自動車メーカー・部品サプライヤーともに2023年までにBEE認識水準レベル4以上の達成が必要。

出所:各種資料を基にジェトロ作成(2021年8月13日現在)

EV国内生産に向けた動きも

南アの貿易産業競争省(DTIC)は5月、「オート・グリーン・ペーパー」を官報PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(649.17KB)で発表した。電気自動車(EV)など(注2)に関するロードマップ案だ。

これまで南アでは、ガソリン・ディーゼル燃料車以外のEVなどの導入や国内生産に関する政策方針は公表されてこなかった。しかし、クリーンエネルギーを利用した自動車導入の動きが活発な欧州は、南アにとって乗用車の主要輸出市場だ。そうした動きをにらみ、国内で本格的な議論が始まったわけだ。ドラフトの段階では、EVなどの国内生産にかかる輸入部品については減税もしくは無税とする(現政策では、ノックダウン生産車向けの自動車部品輸入の関税は20%)ことや、EVの国内生産にかかる輸入部品については現地調達品と見なすなど、従来のガソリン・ディーゼル燃料車の生産よりも手厚い優遇措置が提示された。もっとも後、EV生産にかかるロードマップが今前述のポストAPDPとどのように整合が図られていくか、まだ判然とはしない。

このように、新型コロナ禍がもたらす世界的な自動車重要の変化や、南ア国内での治安悪化による操業の課題、ポストAPDPの施行、EV生産に向けた動きなど、見どころは多面にわたる。今後も、南アの自動車産業全体の変化は絶えず続いていくとみられる。


注1:
「量産組み立て現地化割引(VALA:Volume Assembly Localization Allowance)」は、国内で1万台以上生産する自動車メーカーを対象に、部品や完成車などの輸入関税を相殺できるクレジットを政府が発給する優遇措置。これまでのAPDP時の「量産組み立て割引(VAA:Volume Assembly Allowance)」を改正。国内で生産された自動車の国内での販売促進と現地調達率向上を促すことを目的とし、国内で販売された自動車の売り上げ(輸出自動車分を計算から除外)を基に算出されることになった。
注2:
南ア政府が使用する呼称は「New Energy Vehicle(NEV)」。現時点ではEVのほか、ハイブリッド車、水素燃料電池電気自動車なども含まれる。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2021年9月24日)
表3 輸入関税
(誤)完成車(CBU):225%。
(正)完成車(CBU):25%。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。