4月の洪水で物流は混乱、日系企業への影響大(南アフリカ共和国)

2022年6月1日

南アフリカ共和国(以下、南ア)のクワズール・ナタール州では、2022年4月中旬の記録的な大雨により、大規模な洪水や土砂流れが発生した(2022年4月15日付ビジネス短信参照)。5月3日の政府発表では、犠牲者は435人、行方不明者は60人以上に上る。

シリル・ラマポーザ大統領は、5月15日にダーバン商工会議所で開かれた会合において、ダーバンの港、周辺の道路、電力の送配電、上下水道などのインフラに大きな被害があり、現在も影響を及ぼしている、と述べた。政府は、地域経済への大きさに鑑み、ダーバン港の再稼働を優先し、同港は4月中には再稼働した。ただし、そのほかのインフラは1カ月たった今も復旧作業が続いている。フィキル・ムバルラ運輸相によれば、鉄道網の修復作業に33億ランド(約264億円、1ランド=約8.0円)の費用がかかると報告しており、ダーバン周辺を走る主要高速道路のN2およびN3は、総額5億4,250万ランドをかけて修復作業中だ。

ジェトロは、阪急阪神エクスプレスが出資した現地物流企業イントラスピードのセールスマネージャーを務める森河淳氏に、今回の洪水による物流への影響についてヒアリングした(2022年4月26日)。


森河氏(本人提供)
質問:
洪水による南アフリカの物流への影響は。
答え:
今回の洪水では、港の内部自体というよりむしろ、港にアクセスする道路が冠水・陥没したことが問題だった。港の周辺地域は小川が張り巡らされた構造になっているため、今回の豪雨でいたるところで河川が氾濫した。道路の被害により、トラックが港にアクセスできなくなったため、コンテナを引き取れない事態や、港のスタッフが通勤できないことによる荷下ろし作業の遅延が発生した。その結果、船が港に滞留し、接岸してから5、6日待たなければならない状況になった。日本であれば、すぐに復旧工事に入るが、南アでは、洪水発生して1週間以上経過した4月25日に、ようやく陥没した工事が始まった。こうしたスピード感の違いも物流が滞った原因の1つだろう。
周辺道路以外の影響としては、港付近に山積みされていた海運大手マースクなどのリーファーコンテナや空コンテナが流された。ちょうど4月以降の南アでは、リーファーコンテナを使った柑橘 (かんきつ、シトラス) 類の輸出が盛んになる時期だっただけに、今回の事態は影響が大きい。複数の海運会社は今回の洪水で一時、予約受付を停止しており、現場は混乱している。輸出が活発なタイミングで貨物のスペースが不足していたこともあり、もともと厳しかった物流事情にさらなる追い打ちとなった。
質問:
進出日系企業の今後の対応は。
答え:
当社の倉庫も浸水で一部被害を受けており、港周辺の日系企業の操業(輸送や生産活動)にも影響があるのではないかと推察される。ただし、今回の洪水はあくまで一時的なものとみられ、各日系企業はダーバン港の利用を続けるだろう。日系企業は、南ア各港の地理的条件を生かしてビジネスを展開している。ダーバン港は対アジアにとって核となる優位性を持ち、ケープタウン港は南アから西アフリカ諸国、欧州へ輸出する際の要所となる。南アのハブ機能を維持するためには、ダーバン港の役割は今後も重要だ。
一方で、 ダーバン港で2021年から相次ぐ被害が発生していることから、各企業が敏感になっていることも事実だ。7月の暴動(2021年7月14日付ビジネス短信参照)や、その後のサイバー攻撃が起きた際にも同港の機能が停止している。今回の洪水による影響を踏まえて、倉庫のニーズがさらに高まっている印象がある。これまでは、在庫をできるだけ持たない日本企業が多かったが、不確実な変化に備えるため、在庫の保管を検討する企業が増えているようだ。また、他の港でリスクヘッジできないかと思索する企業も一定数いるとみられる。港の停止が今後も長期化する場合には、ダーバンの需要が低下し、前述したケープタウンやポートエリザベス、隣国モザンビークのマプトなどの活用が検討される可能性もある。
質問:
航空輸送への切り替えは。
答え:
今回の件でも航空輸送の問い合わせは増えているが、新型コロナ拡大以降のスペース難で、航空貨物も輸送コストが高騰している。新型コロナ禍で旅行客が少なく、航空便の本数が減少していたことに加え、ウクライナ侵攻によりロシア上空を通過できなくなったことも影響している。北回廊やインド側へ迂回する分、燃料がかさみ、貨物スペースが縮小される。そのほか、燃料価格の高騰や、戦争リスクによるサーチャージ類の高まりも影響しており、コロナ前と比べて2~3倍(サーチャージ込み)程度の価格になっている。
質問:
今後の物流におけるリスクや見通しは。
答え:
今後については、米国西海岸のストライキが懸念点だ。同地域の港湾では数年に1度、労使交渉が実施されている。交渉のもつれにより、米国の港で貨物が滞留すると、世界でのコンテナ回転率が低下し、海上運賃の上昇にもつながる。航空産業が活発な時期であれば、航空輸送を利用することで問題ないが、航空業界もコロナ以降は厳しくなっている。
南アでの新型コロナの影響は、2022年4月下旬ではかなり落ち着いており、平時に戻ったくらいの感覚がある。コロナによる物流への影響はかなり小さい印象だ。しかし、もしまた今後コロナが流行することがあれば、ドライバーや港のスタッフなど労働者不足により、ロジが機能しなくなる可能性もある。

日系企業の生産活動にも大きな影響

クワズール・ナタール州には、国内最大規模のトヨタ南アフリカが生産拠点を置く。人気車種であるフォーチュナー、カローラクロスなどを生産し、南アの新車市場の約3割を占め、南アのみならずアフリカ諸国に輸出している。しかし、今回の洪水で4月11日より生産を停止しており、再開まで3カ月程度要すると想定されている。現在、日本から60人を超えるトヨタの技術者が入国し、復旧作業にあたっている。

5月15日の商工会議所での会合で、ラマポーザ大統領は、トヨタの生産遅延が南ア経済に与える影響を懸念しており、「トヨタの工場をフル稼働させるためにどのような措置が必要であるか、トヨタおよび自治体と協議が進行中である」と報告している。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
小林 淳平(こばやし じゅんぺい)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。