物流停滞の影響8割超、アフターサービス提供に壁(ロシア)
2022年度在ロシア日系企業通関アンケート結果

2022年9月2日

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(2022年2月)を契機に、日本からロシアへの物流が著しく減少している。その背景には、西側諸国の制裁やロシアによる対抗措置などあるとみられる。

ジェトロは2022年7月18~29日、在ロシア日系企業を対象に「通関アンケート」を実施した(注1)。その結果をみると、日系企業が直面したトラブル発生件数は過去5年で最も低い水準だ。その一方で、物流の停滞がビジネスに影響を与えていると答えた企業が、全体の86%に上った。

物流の混乱は、ロシア国内でアフターサービスを提供する日系企業の活動にも影響を与える。実際、そのために必要な部品・サービスの不足・枯渇に危機感を募らせる企業が一定数あることも分かった。

対ロ輸出低迷を反映し、トラブル発生数も大幅減少

アンケートによると、過去1年間で(2021年下半期~2022年上半期)の通関関連のトラブルに直面したと答えた企業の割合は29%(前回調査比16ポイント減)。これは、過去5年で最も低い水準に当たる。

この背景には、対ロ輸出の減少により、日系企業が手掛ける通関件数自体が減ったことがある。また、西側諸国の対ロ制裁やそれに対するロシアの対抗措置の影響で、輸出入品目が制限されている。ロシアと西側諸国間で利用可能な航空・海上輸送ルートも限られている。事業(操業)を一部または全部停止している日系企業が約半数に上るという事情もあるだろう(2022年4月25日付記者発表参照)。それらの結果として、3~6月、日本のロシア向け輸出額は前年同期比で半分以下に減少した。

主な問題・トラブル事項としては、「追加文書の提出要求」「課税標準価格の修正要求」「抜き打ち検査・事後検査の件数・頻度の増加」「税関からの照会件数・頻度の増加」が上位を占めた。この点は、前回調査と同様だ。他方で、「その他」(33%)と答えた割合も多かった。その内容を具体的に確認してみると、対ロ制裁に起因するものも散見された。例えば、「輸出禁止品目に指定された」「制裁によって、日本で修理した製品をロシアに返送できない」「制裁の影響で、税関で貨物が止められ出荷できない」などだ(図1参照)。

図1:具体的な通関問題・トラブル発生事項(複数回答可)
回答した企業数は18社。トラブルの内容として回答が多かった順に「税関による追加文書の提出要求」が44%、「課税標準価格(通関申告価格)の修正要求」が39%、「抜き打ち検査・事後検査の件数・頻度の増加」と「税関からの照会件数・頻度の増加」と「その他」が各33%、「HSコードの修正要求」と「税関当局への照会・回答にかかる時間の長期化」が各22%、「英語作成文書の受領不許可」と「制度・システム・体制移行による通関現場の混乱」と「税関・通関法制度・ルールの突然変更による滞貨・検査厳格化」と「税関ポスト毎に異なる判断・要求」と「動植物検疫」が各6%だった。

出所:2022年度通関アンケート結果

トラブルの発生場所としては、(1)シェレメチェボ税関(モスクワ・シェレメチェボ空港を管轄、注2)、(2)バルト税関(サンクトペテルブルク港を管轄)、(3)モスクワ州税関、(4)ウラジオストク税関(ウラジオストク港を管轄)が上位に挙がった(図2参照)。欧米諸国とロシアの関係悪化に伴い、「バルト海域の一部の港と極東の港がゲートポートとなった」(日系物流企業)という。このことで、ウラジオストク税関の利用が増え、相対的にウラジオストクの割合が上昇した。全体のトラブル件数が減少したのとは対照的な図式だ。

図2:通関問題・トラブル発生場所(複数回答可)
回答した企業数は18社。トラブル発生場所として回答が多かった順に、シェレメチェヴォ税関が50%、バルト税関が33%、モスクワ州税関とウラジオストク税関が各17%、プルコボ税関、中央物品税関が各11%、ノボロシースク税関とドモジェドボ税関が各6%、その他が17%だった。

出所:2022年度通関アンケート結果

アフターサービス提供の継続に苦慮

物流の停滞、西側諸国による対ロ制裁、企業による事業停止は、ロシア国内でアフターサービスを提供する日系企業にも影響を及ぼしている。アンケートからも、そうした企業の多くが、必要な部品・サービスの不足・枯渇に直面している(あるいはその可能性があると考えている)ことが分かった。回答企業のうち、ロシア国内でアフターサービスを提供する企業の構成比は、44%。そのうちで、アフターサービスの提供に「困難が生じている/生じる可能性が高い」と回答した割合が、89%に上った。

直面している(または予想される)困難として最も多かった回答(複数回答)は、「必要となる部品・サービスの不足・枯渇」(92%)。次いで、「アフターサービスの提供がかなわないことによるユーザー・顧客への補償」(48%)、「消費者団体からの批判・裁判」(28%)が続いた。 

アンケートでは、必要となる製品・サービスの供給状況についても聞いた。「大部分または全く供給されていない」「一部供給されていない」を合わせた割合は、部品で約8割、消耗品で約7割、サービスは約6割を占めた(図3参照)。

図3:アフターサービスに要する製品・サービスの調達元企業からの供給状況
回答した企業数は28社。アフターサービスに要する製品・サービスの調達元企業からの供給状況は、部品において「大部分または全く供給されていない」が68%、「一部供給されていない」が11%、「一時停止したが再開したまたは近く再開する」が11%、「以前と変わらず正常」が11%だった。消耗品においては「大部分または全く供給されていない」が54%、「一部供給されていない」が14%、「一時停止したが再開したまたは近く再開する」が14%、「以前と変わらず正常」が18%だった。サービスでは「大部分または全く供給されていない」が39%、「一部供給されていない」が18%、「一時停止したが再開したまたは近く再開する」が11%、「以前と変わらず正常」が32%だった。

出所:2022年度通関アンケート結果

並行輸入・不正輸入による将来的な影響を警戒

軍事侵攻後、既存ルートで製品入荷ができなくなったことによるロシア国内の状況変化に対応するため、ロシア政府は様々な措置をとっている。その1つが、特定品目の並行輸入を認める措置だ(2018年11月16日付地域・分析レポート2022年5月16日付ビジネス短信参照)。この措置は、ウクライナへの軍事侵攻を機に、多くの外国企業がロシアビジネスから撤退・事業停止を発表したことを受けたもの。ロシア国内で必要品が不足することを避けるため、2022年5月に導入された。アンケートでは、一部の企業が並行輸入や不正輸入の影響を受けている一方、多くの企業は状況を注視する姿勢であることがわかった。

並行輸入の容認による影響について尋ねた設問で「影響がある」と答えた割合は30%(うち25%がマイナスの影響、5%がプラスの影響と回答)。前回調査(29%)とほぼ同じ割合になった。一方、「影響がない」(19%)が、前回調査比で26ポイント減少。代えて、「どちらともいえない」(32%)が同26ポイント増えた。「製品のロシアへの輸出が長期間停止する中、並行輸入品がマーケットニーズを埋めることに、短期的なリスク回避になる可能性がある」といった前向きな声が一部で聞かれた。しかし、多くは直接的・間接的な影響を警戒する声だった。例えば、「並行輸入品の修理責任がメーカー販社に負わされることを懸念」「自社の予測を超えて修理や保守の依頼が増える」「正規に輸入する自社製品と価格競合し、売り上げに影響が出る可能性がある」「将来的な日本発貨物の減少」などがあった。

一方、不正輸入(注3)による自社ビジネスへの影響について尋ねた設問では、「どちらとも言えない」(35%、20ポイント増)と「不明・該当せず」(27%、4ポイント増)が過半を占めた。前回調査で回答数の上位2つだった「影響はない」(21%)と「影響がある」は(17%)はそれぞれ14ポイント、10ポイント減少した。従前は不正輸入による自社ビジネスへの影響を判断できていたのに対し、現在はそれが叶わない状況とみられる。「影響あり」と回答した企業からは、「並行輸入の自由化とともに、紛れて不正輸入が増加することを懸念」「現在のルーブル高により、正規品と第三国から流入した不正取引品の価格差が極めて大きく、正規品の販売が鈍化している」といった声があった。 

物流停滞の影響が顕在化、回答企業の6割が何らかの対応を検討

では、ロシア向け物流が著しく減少している現状で、日系企業はどのような対応を迫られているのだろうか。

「物流の混乱・停滞がビジネスに影響しているか」という設問では、全体の86%の企業が「影響がある」と答えた。そのうち、物流ルートの切り替え(再構築)の可能性については、「検討中」とした割合が31%と最も多かった。「行った」とする26%と合わせると、6割近くが再構築に対して何らかの対応をとっていることになる。一方で、「予定はない」は26%にとどまった(図4参照)。また、ロシア向け製品を調達する国を中国やトルコに変更する動きも、一部企業に見られた。

図4:物流ルートの切り替え・再構築の可能性
回答した企業数は54社。物流ルートの切り替え・再構築の可能性について、「検討中」は31%、「切り替え・再構築を行った」は26%、「切り替え・再構築の予定はない」は26%、「不明・該当しない」は11%、「その他」は6%だった。

出所:2022年度通関アンケート結果

西側諸国による対ロ制裁、ロシアによる対抗措置、企業の事業停止などによって、日本からロシアへの物流が減少。それが多くの在ロシア日系企業に影響を及ぼしている。そうしたことが、今回のアンケートで浮き彫りになった。

アフターサービスに必要な部品や消耗品のロシア国内向け供給は、著しく滞っている。その中で、対ロ制裁などを順守しつつも、ロシア向けに最低限必要な製品を供給するため、サプライチェーンの根本的な変更を模索・検討せざるを得ない状況だ。一方、並行輸入によって第三国から自社製品が供給される可能性が出てきた。その結果として、今後のビジネスへの影響を注視する層が増えた。

ウクライナ情勢の混乱が長期化する中、日系企業は物流の再構築なども検討せざる得ない状況だ。手探りの対応がなおも続く。


注1:
この通関アンケートは、モスクワ・ジャパンクラブ商工部会通関委員会(事務局:ジェトロ)がサンクトペテルブルク日本商工会の協力を得て、毎年実施している。対象は、在ロシア日系企業。今回は63社(製造業7社、非製造業56社)から回答を得た。
前回の調査結果については、「2021年10月29日付ビジネス短信」を参照。
注2:
モスクワ・シェレメチェボ空港は、日本からの航空貨物が取り扱われる主力施設として知られる。
注3:
密輸や通関への不正申告など、正規の通関を経ずにロシア市場へ流入されている真正品の取引を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所