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連邦憲法裁判決をきっかけに並行輸入問題が再燃(ロシア)

2018年11月16日

ロシアにおける並行輸入をめぐる議論が再び活発化している。きっかけは2018年2月に出された連邦憲法裁判所の判決で、これにより、並行輸入に対する損害賠償や製品廃棄を求める民事救済請求に一定の制限がかけられ、裁判を通じて頻繁に権利行使する場合、権利乱用と見なされかねない恐れが生じている。政府は製品流通価格の引き下げによって消費者が得る恩恵に注視しており、今後、権利者は第三国での販売価格と比べ、ロシアを含むユーラシア経済連合域内での価格が高い場合、政府や消費者に説明していくことが求められる可能性がある。

並行輸入品に対する民事救済措置に一定の制限

並行輸入とは商標権など保護すべき知的財産権が存在している商品を、その権利者の許諾を受けずに輸入することで、例えば、有名な商標(ブランド)の商品を、その商標権を有する海外の製造者・輸出者と輸入販売に関する正式契約を結んでいない第三者や個人業者が輸入販売するような行為のことを指す。

ロシアは2002年以降、並行輸入を認めない立場を取ってきたが、ここにきて、一部条件付きで緩和する動きが見られる。きっかけは、2018年2月13日付の連邦憲法裁判所判決だ。

争われたのは、ロシアの並行輸入業者が、日系企業の商標が付されている超音波診断装置専用の紙製品を医療機関に供給する政府調達契約を結び、ポーランドの企業から購入した同紙製品を輸入しようとした際に、カリーニングラード税関で差し止められた案件だ。権利者である日系企業が民事訴訟を提起し、連邦憲法裁判所は以下の見解を示し、権利侵害者に対する商標権者の権利行使に関して一定の制限をかけ得る判決を出した。

  1. 商標の国内消尽原則(注1)はロシア連邦憲法と矛盾しない。
  2. 商標権者の排他的権利は、商標権者と他の市場参加者との間の憲法上の利益バランスを壊すことには用いられない。
  3. 裁判所は権利者による「権利の乱用」がみられる場合、権利者の主張を棄却し得る(「権利の乱用」とは、特定製品の輸入制限、第三国と比較してロシアで高い価格設定をしていること、権利者の経済的利益を満たすための必要額よりも高い価格設定であること)。
  4. 模倣品と並行輸入品の輸入では責任追及レベルが異なる(損害賠償額は同等でない、並行輸入品の廃棄は生命、健康、環境、文化的価値に対し危険がある場合に限る)。

これにより、並行輸入に対する国内消尽原則については確認された一方、並行輸入品が生命や健康に悪影響を与えない場合、廃棄を要求することは認められない、損害賠償は模倣品の場合よりも少額であるべきという見解が示され、並行輸入品に対する民事救済措置に一定の制限がかけられた。また、権利者が並行輸入品の排除に向け裁判を通じて権利行使を行う際、ロシアで不当に高い値段で製品を輸入・販売していると見なされれば、主張が不誠実なものと判断されかねない恐れが生じている。

在ロシア日系企業の多くは本判決に懸念を示している。ジェトロとモスクワ・ジャパンクラブ通関委員会が2018年7月に行った「2018年度通関問題アンケート」で本連邦憲法裁判所判決の影響について聞いたところ、約3割の企業が「マイナスの影響」と回答した(図参照)。また、「並行輸入品(の輸入者)は関税や付加価値税(VAT)をきちんと支払っていないケースが多く、なぜ裁判所が正しく納税を行っている企業への悪影響を除外しないのか理解に苦しむ」「模倣品が違法であり、並行輸入が合法だとすると、税関の商標登録の意味があまりなくなってしまう」「権利者側が、並行輸入品が違法であるとする根拠と、権利乱用でないことを証明する必要が生じることになろう」といったコメントがあった(表参照)。

図:連邦憲法裁判所の判決に対する評価
プラスの影響5%。マイナスの影響29%。どちらでもない37%。不明・該当せず29%。
出所:
2018年度通関問題アンケート結果
表:連邦憲法裁判所判決に対する主なコメント
コメント1 税関への知財登録を考えていたが、当該裁判所の判決を見て登録手続きを止めている。並行輸入商品は、関税やVATなどがまともに払われていないケースが多いと思うが、なぜ裁判所が、正しく納税を行っている企業への悪影響を排除しないのか理解に苦しむ。
コメント2 品質確認がどのくらいの期間、どのような判断で行われるのかが不明。
コメント3 緩和の方向に向かってしまった感がある。
コメント4 肯定的側面:
連邦憲法裁判所判決は権利の国内消尽原則を確認したものであり、認定輸入者、権利者の許可なしの輸入の禁止が合法であることを意味する。
否定的側面:
(1)裁判所は「権利乱用の可能性」に注視しており、権利乱用と判断される場合には、民事訴訟を通じて乱用を止めるための措置が講じられる。裁判所は権利者による申し立てが「憲法上の重大な価値」の脅威となる場合、当該申し立て内容を満たすことを棄却する権利を有する。
(2)決定には幅広い意味の共通語彙(ごい)(「権利乱用」、「 憲法上の重大な価値への脅威」)が含まれている。
(3)本裁判所判決は日常のプラクティスにどの程度用いられるかどうかは現時点では不明確だが、本裁判所判決がいくばくか商標権者の権利を制限するものと思われる。いずれの場合も、権利者は並行輸入を禁止する根拠を持ち、権利乱用ではないことを証明する必要がある。
コメント5 模倣品はそもそも違法であり、並行輸入が合法だとすると税関の商標登録にはあまり意味が無い様に思われる。独占禁止法に抵触するという考えも変だと感じる。
コメント6 製品品質に関する保証がない。(並行輸入)製品流入に対する管理の低下。
出所:
2018年度通関問題アンケート結果

きっかけはメドベージェフ首相による合法化発言

そもそも今回の判決が出される前から、並行輸入を容認・合法化するような動きは見られていた。メドベージェフ首相は2015年4月、経済危機による国民所得の低下を背景に、第三国で購入した製品を権利者の承諾なしにロシアに輸入することを容認する発言を行い、その後、自動車部品、医薬品、医療機器を対象とした並行輸入の合法化に向け、ユーラシア経済委員会を巻き込んだ論争に発展したが、特定品目のために法令を変えることは難しく、議論は平行線をたどっていた。

こういった状況に対して、口火を切ったのが並行輸入品合法化を推し進める連邦反独占局(FAS)である。2017年7月、FASは並行輸入品の輸入差し止めに積極的な自動車・同部品メーカー、医療機器メーカーに、「公式ディーラーではない企業による輸入に対して不公正な制限をかけるべきでない」という警告状を発出した。当該警告状について日系部品メーカーが異議を唱えた裁判(2017年12月)では、モスクワ市商事裁判所は「並行輸入品と真正品は混同することはなく、公共の利益を害しない」との声明を出し、並行輸入を容認するような判決を出した。今回の憲法裁判所の判決もこういった流れを踏まえたものとみられている。

審理は複雑化の一方、税関のスタンスは変わらず

今回の連邦裁判所判決を受け、並行輸入をめぐる裁判は複雑化している。米国オフロード車両メーカーのポラリス・インダストリーズ(原告)が、並行輸入業者ラベノル・ルスランド(被告)と争った案件では、原告は第1審(2017年9月)で並行輸入品の廃棄を勝ち取ったが、第2審(2018年2月)で敗訴、第3審の知財裁判所での審理(2018年5月)では、被告が第三国で合法的に購入したものであることを理由に原告の要求は満たせないとして、第1審への差し戻しとなった。他の案件でも、差し戻しや再審理が相次いでいる。

現代自動車・起亜自動車(原告)と並行輸入業者アヤクス(被告)が争った案件(2018年7月)では、並行輸入品に製品の原産国や品質・安全性に関する情報が欠如しており、消費の生命・健康に悪影響を与えるリスクのある製品のため、原告の要求を満たし、製品を廃棄する判決が出された。

他方、権利侵害対策を行っている連邦税関局は運用を変えていない。ジェトロが連邦税関局にヒアリングしたところ(2018年9月25日)、「現行の法律では国内・地域消尽原則であり連邦税関局は本原則に基づいて行動している。法律が改正されない限り連邦税関局は引き続き水際で並行輸入品を差し止める」との回答があった。前述した現代自動車の案件にも見られるように、一律で商標権者側に不利な判断がなされる状況には至っておらず、並行輸入をめぐる問題はまだら模様となっている。

政府や消費者に対して丁寧な説明が肝要

並行輸入品に関しては、2009年のポルシェ・カイエン事件(注2)以降も、権利者に有利な判決が続いていた(2015年2月25日ビジネス短信記事参照)。しかし今回の憲法裁判所判決によって、特に損害賠償の請求や権利侵害品の廃棄に一定の制限がかかり得る状況を生じさせている。また、権利者による自社の権利保護のための行動が「権利の乱用」と解釈され得る余地ができてしまったことで、大きな転換点を迎えたと言えよう。

加えてロシア政府は、並行輸入を容認することによる製品流通価格の低下で消費者が受ける恩恵を注視している。権利者としては、ロシア・ユーラシア経済連合域内での販売価格が、第三国と比べなぜ高いのかといったことについて、製品の品質保証体制や広告宣伝費などを含めて理解が得られるよう、政府や消費者に対して丁寧に説明していくことが求められてくるとも思われる。


注1:
知的財産権の消尽とは、ある物について権利者が知的財産権を一度行使することによって、その知的財産権がその物については目的を達成して尽き、権利者がもう一度知的財産権を行使することができない状態になることをいう。商標権にも、権利者がいかなる国においてでも、一度流通にかければ商標権は消尽するという「国際消尽原則」と、商標は各国・地域ごとに登録されるため、各国・地域で流通にかける際に消尽する、つまり、各国・地域ごとに権利者は商標権を行使できるという、「国内消尽原則」「地域消尽原則」という考え方がある。
注2:
ロシアにおいて水際で税関が並行輸入品を差し止めた際、行政訴訟で取り締まることができるのは事実上、模倣品のみ認められるとされた判決。これ以降、並行輸入業者に対する商標権者による権利行使は民事訴訟のみとなった。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。

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