ロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート 調査結果(2022年4月)

2022年04月25日

ジェトロは2022年4月15日~19日、ロシアに所在する日系企業211社に対し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻後のロシア事業の現状、駐在員のロシアへの帰還および今後の見通しに関するアンケート調査を実施しました。これは、3月24日~28日に実施した調査(3月31日発表)に続くものです。ポイントと調査結果の詳細は以下のとおりです。

調査結果のポイント

1.現時点の事業ステータス
  • 回答企業のうち55%が「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」と回答。「通常どおり、または検討中」している企業は44%だった。「撤退済み、もしくは撤退を決定」は1%だった。前回アンケート(3月24日~28日実施)と比べ、「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」の回答率が12ポイント上昇した。
2.駐在員のロシア国外への退避状況とロシアへの帰還
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の86%となった。
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち、駐在員が任地ロシアへ帰還するタイミングについて「わからない/検討中」と回答した企業が全体の74%と最多。「退避によるロシア出国から半年」は12%、「このまま帰任扱いになる」は4%だった。
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち、駐在員が任地ロシアに戻るきっかけとなり得る要因として6割以上の企業が、「外務省による危険度レベルの引き下げ」(68%)、「停戦合意」(61%)を選んだ。また企業の約4割が「ロシアによる規制の緩和・撤廃(非友好国指定、輸出入制限の解除等)」(40%)、「西側諸国による対ロ制裁の緩和・撤廃」(36%)と回答するなど、情勢の根本的な好転が帰還の決め手になることが浮かび上がった。
3.今後のビジネス展開の見通し
  • 今後半年から1年後の事業見通しでは、撤退(5%)、縮小(35%)、現状維持(30%)、拡大(1%)、わからない(28%)だった。前回アンケート(3月24日~28日実施)では、撤退=6%、縮小=38%、現状維持=25%、拡大=2%、わからない=29%だった。前回調査から撤退・縮小含め傾向は変わらなかった。

本調査について

  • ジェトロは2022年4月15日~19日、モスクワ・ジャパンクラブ加盟企業およびサンクトペテルブルク日本商工会加盟企業の211社(注)を対象にアンケート調査を実施111社より有効回答を得た(有効回答率52.6%)。
    (注)両組織に加盟する企業がいるため、重複を除いた企業数
  • 設問項目:
    1.現時点の事業ステータス 2.駐在員のロシア国外への退避状況とロシアへの帰還 3. 今後のビジネス展開の見通し

調査の結果概要

1.現時点の事業ステータス

  • 回答企業のうち55%が「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」と回答。「通常どおり、または検討中」している企業は44%だった。「撤退済み、もしくは撤退を決定」は1%だった(図1)。前回アンケート(3月24日~28日実施)では、「一部もしくは全面的に事業(操業)を停止」している企業=43%、「通常どおり、または検討中」=56%、「撤退済みもしくは撤退を決定」=0%だった。

図1:現時点の事業ステータス

現在の運営ステータスについて。有効回答数は合計111社、製造業16社、非製造業95社。 合計111社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は0.9%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は9.9%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は45.0%。「通常どおり(検討中含む)」は44.1%。 製造業16社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は6.3%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は6.3%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は50.0%。「通常どおり(検討中含む)」は37.5%。 非製造業95社のうち「撤退済み/撤退を決定」と回答した企業の割合は0.0%。「全面的な事業(操業)停止(一時的な停止を含む)」は10.5%。「一部事業(操業)の停止(一時的な停止を含む)」は44.2%。「通常どおり(検討中含む)」は45.3%。

2.駐在員のロシア国外への退避状況とロシアへの帰還

  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の86%となった(全員退避は75%)(図2)。前回アンケート(3月24日~28日実施)では、駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業は全体の81%で、全員退避は67%だった。
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち、駐在員が任地ロシアへ帰還するタイミングについて「わからない/検討中」と回答した企業が全体の74%と最多。「退避によるロシア出国から半年」は12%、「このまま帰任扱いになる」は4%、「退避によるロシア出国から3カ月」は2%だった。
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち、駐在員が任地ロシアに戻るきっかけとなり得る要因として6割以上の企業が、「外務省による危険度レベルの引き下げ」(68%)、「停戦合意」(61%)を選んだ。また企業の約4割が「ロシアによる規制の緩和・撤廃(非友好国指定、輸出入制限の解除等)」(40%)、「西側諸国による対ロ制裁の緩和・撤廃」(36%)と回答するなど、情勢の根本的な好転が帰還の決め手になることが浮かび上がった。物流の再開、資金引き出し制限の緩和などビジネス上での支障に関する回答は比較的少なかった。このほか「航空便の再開」といったコメントがみられた(図3)。なお、回答企業には最もあてはまる要因の上位3つを選択してもらった。
  • 駐在員の一部もしくは全員を退避させた企業のうち、退避が長引き駐在員不在の状態が常態化した場合に取り得る対応策(複数回答)について、「ロシア人従業員への権限移譲」が61%で最多。「撤退手続き」は19%、「駐在員に代わる人材の現地採用」は12%、「提携先ロシア企業への権限移譲」は6%だった(図4)。

図2:駐在員のロシア国外への退避状況

駐在員の退避割合について。有効回答数は合計111社、製造業16社、非製造業95社。 合計111社のうち「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は14.4%。「50%未満」は3.6%。「50%以上」は7.2%。「100%(駐在員全員が退避)」は74.8%。 製造業16社のうち、「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は18.8%。「50%未満」は6.3%。「50%以上」は18.8%。「100%(駐在員全員が退避)」は56.3%。 非製造業95社のうち、「0%(駐在員全員がロシアに残留)」と回答した企業の割合は13.7%。「50%未満」は3.2%。「50%以上」は5.3%。「100%(駐在員全員が退避)」は77.9%。

図3:駐在員が任地ロシアに戻るきっかけとなり得る要件

駐在員が任地ロシアに戻るきっかけとなり得る要件について。有効回答数は合計95社、製造業13社、非製造業82社。 合計95社のうち「外務省による危険度レベルの引き下げ」と回答した企業は68.4%。「停戦合意」は61.1%。「ロシアによる規制の緩和・撤廃(非友好国指定、輸出入制限の解除等)」は40.0%。「西側諸国による対ロ制裁緩和・撤廃」は35.8%。「物流の再開・停滞の解消」は26.3%、「送金、資金の引き出し制限緩和・撤廃」は13.7%、「競合他社のロシア事業再開」は11.6%、「利用制限されたサービスの再開(クレジットカード、SNS等)」は10.5%、「原料・資材供給元などパートナー企業のロシア事業再開」は6.3%、「ルーブル為替レートの安定・回復」は2.1%、「退避先国の滞在期限満了」は0%、「その他」は24.2%。 製造業13社のうち「外務省による危険度レベルの引き下げ」と回答した企業は69.2%。「停戦合意」は46.2%。「ロシアによる規制の緩和・撤廃(非友好国指定、輸出入制限の解除等)」は46.2%。「西側諸国による対ロ制裁緩和・撤廃」は30.8%。「物流の再開・停滞の解消」は23.1%、「送金、資金の引き出し制限緩和・撤廃」は15.4%、「競合他社のロシア事業再開」は15.4%「利用制限されたサービスの再開(クレジットカード、SNS等)」は7.7%、「原料・資材供給元などパートナー企業のロシア事業再開」は7.7%、「ルーブル為替レートの安定・回復」は7.7%、「退避先国の滞在期限満了」は0%、「その他」は30.8%。 非製造業82社のうち「外務省による危険度レベルの引き下げ」と回答した企業は68.3%。「停戦合意」63.4%。「ロシアによる規制の緩和・撤廃(非友好国指定、輸出入制限の解除等)」は39.0%。「西側諸国による対ロ制裁緩和・撤廃」は36.6%。「物流の再開・停滞の解消」は26.8%、「送金、資金の引き出し制限緩和・撤廃」は13.4%、「競合他社のロシア事業再開」は11.0%、「利用制限されたサービスの再開(クレジットカード、SNS等)」は11.0%、「原料・資材供給元などパートナー企業のロシア事業再開」は6.1%、「ルーブル為替レートの安定・回復」は1.2%、「退避先国の滞在期限満了」は0%、「その他」は23.2%。

※回答者は最も当てはまる要因上位3つを選択。

図4:駐在員の退避が長期化した場合の対応(複数回答)

駐在員の退避が長期化した場合の対応について。有効回答数は合計95社、製造業13社、非製造業82社。 合計95社のうち「ロシア人従業員への権限移譲」と回答した企業の割合は61.1%。「撤退手続」は18.9%。「駐在員に代わる人材の現地採用」は11.6%。「提携先ロシア企業への権限移譲」は6.3%。「その他」は25.3%。 製造業13社のうち「ロシア人従業員への権限移譲」と回答した企業の割合は61.5%。「撤退手続」は15.4%。「駐在員に代わる人材の現地採用」は15.4%。「提携先ロシア企業への権限移譲」は0.0%。「その他」は23.2%。 非製造業82社のうち「ロシア人従業員への権限移譲」と回答した企業の割合は61.0%。「撤退手続」は19.5%。「駐在員に代わる人材の現地採用」は11.0%。「提携先ロシア企業への権限移譲」は7.3%。「その他」は23.2%

3.今後のビジネス展開の見通し

  • 今後半年から1年後の事業見通しでは、撤退(5%)、縮小(35%)、現状維持(30%)、拡大(1%)、わからない(28%)という結果だった(図5)。前回アンケート(3月24日~28日実施)では、撤退=6%、縮小=38%、現状維持=25%、拡大=2%、わからない=29%だった。前回調査から撤退・縮小含め傾向は変わらなかった。なお、回答対象には「撤退済みもしくは撤退を決定」した企業は含まれない。
  • 「政治的スタンスを念頭には置きながら、ビジネスの視点で継続をしていく方向」、「現状維持の予定だが、今後の物流事情の悪化や制裁強化の要因などにより、不採算品の事業停止・縮小やロシア市場からの撤退もありうる」といったコメントがみられた。

図5:今後のビジネス展開の見通し

今後のビジネス展開の見通しについて。有効回答数は合計110社。製造業15社、非製造業95社。合計110社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は0.9%。「現状の規模を維持する」は30.0、「縮小する」は35.5%、「撤退する」は5.5%、「わからない」は28.2%。 製造業15社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は0%。「現状の規模を維持する」は40.0%。「縮小する」は26.7%。「撤退する」は0.0%。「わからない」は33.3%。 非製造業95社のうち「拡大する」と回答した企業の割合は1.1%。「現状の規模を維持する」は28.4%。「縮小する」は36.8%。「撤退する」は6.3%。「わからない」は27.4%。

ジェトロ海外調査部 主幹(ロシアCIS担当)下社 学(しもやしろ まなぶ)
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理 浅元 薫哉(あさもと くにや)
Tel:03-3582-1890
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