キャッチオール規制の概要と輸出差し止めフロー
タイの安全保障貿易管理(2)

2022年5月18日

タイ商務省外国貿易局(DFT)による安全保障貿易管理の解説シリーズ。第2回は、「2019年大量破壊兵器および関連品目貿易管理(TCWMD)法」に基づいて実施されるキャッチオール規制の概要やリスク情報が通知される仕組み、輸出差し止めのフロー、罰則などについて、3月23日に行われたタイ安全保障貿易管理セミナーでの内容を紹介する。

キャッチオール規制で物品、技術、ソフトウエアを管理

アケポップ・ウィラシー商務専門官は、2019年の「大量破壊兵器および関連品目貿易管理(The Trade Controls on Weapons of Mass Destruction:TCWMD)法」に基づいて発効した、大量破壊兵器(WMD)関連物資および最終用途や最終需要者が大量破壊兵器に関連する物品にかかわる貿易管理上の措置、通称「キャッチオール規制(CAC)」措置について説明した。

CAC措置は、2019年TCWMD法の第12条1項(3)に基づいて定められており、商務大臣は大量破壊兵器関連品目貿易管理委員会の助言に基づいて、以下のとおり、CAC措置にかかる通達(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発した。同通達は2021年10月11日に官報に掲載され、60日後の12月26日に発効した。まず、通達には、以下のような用語の定義がある。

  • 「貿易管理上の措置」:大量破壊兵器拡散に関連する物品および最終用途・最終需要者が大量破壊兵器に用いられる物品の輸出、再輸入、積み替え、輸出入通関、技術やソフトウエア提供を禁止する措置を指す。
  • 「不審な物品」:デュアルユース(DUI、軍事用途と民生用途の両方に使える物品)品目を指しており、デュアルユースに該当する物品がリスト1(DUIコードで記載)と、リスト2(HSコードで記載)に記載されている。DFTは局長が指定した書式によって、関係行政機関から大量破壊兵器拡散のリスク情報の連絡を受け、初めてCAC措置に基づく調査を行う流れとなる。
  • 「技術およびソフトウエアの提供」:知識、スキル、専門的な情報、またはデュアルユース品目の開発・生産・使用に必要な情報を提供することを意味し、これは技術支援、トレーニング、アドバイス、教育機関や研究機関における研究支援、会議やセミナーにおけるプレゼンタテーション、Eメール・電話・FAX・ソフトウエア・インターネット・電子媒体などの媒体を通じ、技術・ソフトウエアを提供することを含む。
  • 「輸出、再輸入、積み替え、輸出入通関、または技術やソフトウエア提供の関係者」:DFTが不審な物品の輸出、再輸入、積み替え、輸出入通関、または技術やソフトウエア提供に関与しているというリスク情報の連絡を受けた、購入者、販売者、輸出業者、再輸入業者、積み替え業者、輸出入通関業者、技術およびソフトウエア提供者などあらゆる立場の人物を意味する。
  • 「行政機関」:部局長が大量破壊兵器関連品目貿易管理委員会の委員を務めている行政部門を指す。警察庁の公安警察司令部、国軍最高司令部のセキュリティセンター、高等教育科学研究イノベーション省のタイ国立科学技術開発庁なども名を連ねる。
  • 「局長」:タイ商務省外国貿易局長を意味する。
  • 「電子情報システム(e-TCWMD)」:大量破壊兵器および関連品目貿易管理法に基づく取り組みを展開するにあたって、DFTが導入した電子情報システム。同システムは、物品区分の情報を確認したり、企業がWMD関連品目を管理したりするための内部コンプライアンスプログラム(ICP)制度においても使用される。

各行政機関がDFTに情報提供

前出の通達によると、行政機関がDFTにリスク情報を通報する仕組みは以下の通りである。

  1. 通達で規制されている事業活動で、WMD拡散や、最終用途がWMDに該当するリスクがあるとの情報を受けた行政機関は、DFTに書面(指定書式)で連絡し、そのリスクの検証を要請する。
  2. 行政機関側では、リスト1、リスト2を参照し、DFTの管理において、どの品目に該当するか調査する(注)。そのため、行政機関は検証対象物品のHSコードを特定し、物品の仕様に関する情報や、当該物品を区分するための情報を調べ、DFTに提供する。
  3. 行政機関は、輸出品の納入先の氏名、住所、輸送経路などの情報を調査する。輸出当事者の貿易相手が、国連安保理統合リストに記載されているか、国連安全保障理事会決議1540号(UNSCR 1540)に基づいたデータベースにて、当該輸出先がWMD拡散との関連性があるかを調べ、DFTに提供する。
  4. DFTは、前述の情報に基づいてリスク評価を行う。外国貿易局長は、WMD拡散リスクがどの程度あるか、提供を受けた情報の範囲内で、可能な限り速やかに検証する。検証にあたってのポイントは、(1)その事業活動がリスト1とリスト2にどの程度関係するか、(2)輸出業者や納入先などの関係当事者が、国連リストに該当するかどうか、(3)当事者が、外国貿易局長による証拠提出の要請に対し、リスクがないことを証明する証拠(DFTが定める基準を満たすもの)を提出できるかどうか、である。

事業者に対する輸出禁止措置と見直しの要求

DFTがWMD拡散のリスクがあると判断した場合、同局長はその事業者に対し、「当該企業が輸出している物品納入先の安全性が確保できないため、輸出、再輸入、積み替え、輸出入通関、または技術提供を禁止する」措置を、書面をもって通達する。DFTは禁止措置の対象となる事業者に通達を送付すると同時に、税関にも発出する。税関は、これを受け、事業者に対して安全性を確保できない納入先にDUI関連品目を輸出することを禁じる。

輸出禁止措置の通知を受けた事業者は、その措置の見直しを要求することができる。その事業者は、通達を受けたあと、当該物品および納入先の安全性が確保できることを証明し、措置の見直しを申し出ることができる。その際、DFTは追加情報の提出を要請する。これらは、書面をもって行われ、DFTは書面を踏まえて再検証を行う。提出資料を踏まえて、リスクがないと検証できた場合、当該措置を中止するが、リスクを払拭(ふっしょく)できない場合は、措置は継続され、税関に対しても当該物品の輸出禁止を継続するよう依頼する。

本通達による取り組みは、将来的に電子情報システム(e-TCWMD)を通じて行うことが可能となる見込みで、DFTは各行政機関がリスク情報を報告するための手段を増やしていく予定だ。


注:
タイは、DUI貿易管理において、規制対象品目リストを作成するに際し、EUの規制品目リストをベースにしている。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。