デュアルユース品目の区分方法、技術・ソフトウエアも対象に
タイの安全保障貿易管理(3)

2022年5月27日

タイ商務省外国貿易局(DFT)による安全保障貿易管理の解説シリーズ。第3回は、軍事用途と民生用途の両方に使えるデュアルユース品目(DUI)と、その輸出状況について、3月23日のタイ安全保障貿易管理セミナーから紹介する。輸出者は、具体的にどのような品目がDUIに該当するのか、事前に調査しておく必要がある。タイからは、ハードディスクなどの記憶装置、集積回路といったDUI関連品目が輸出されており、主な仕向け地は米国、中国、日本などがある。

デュアルユース品目をリスト規制

タイ商務省外国貿易局(DFT)商務専門官のチャマイペン・シリサッチャワット氏は、デュアルユース品目(DUI)と基本的な区分方法について解説した。DUIは、有形品目だけでなく、無形品目である技術やソフトウエアも含まれる。「デュアルユース」が意味するとおり、二重用途の物品であり、一般的な民生用でありながら、軍事用・兵器としても利用することが可能な物品であることを意味する。

タイ商務省は2019年版EUリストに基づき、タイのDUI規制品目リストを作成した。EUリストでは、5つの国際輸出管理レジームによって管理品目を集約している。タイの輸出規制品目は、2021年12月26日に発効したキャッチオール規制(CAC)措置に関する通達(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます でリストアップされている。

CAC措置通達のリスト1には、DUIコードで規制品目リストが掲載され、対象物品のコードと管理活動が記載されている。例えば、「5A001.b.1.b.」をみると、管理活動の「輸出、再輸入」の欄には「管理対象外」として記載されている。これは、他省庁が管理する品目で、「タイ商務省としては輸出・再輸入活動を管理しない」ということを意味する。リスト2には、HSコードと物品の概要が記され、HSコード6桁ベースで記載がされている。

このうち、リスト1の見方を説明する。品目にはデュアルユース・コードと呼ばれる5桁のコードが記載されている。最初の桁は物品の大分類で、全部で10分類(0~9まで)ある。2番目の桁は小分類で、A~Eのアルファベットだ。3番目の桁は、基となる輸出管理レジームを示しており、「0」はワッセナー・アレンジメント(WA)、「1」はミサイル技術管理レジーム(MTCR)、「2」は原子力供給国グループ(NSG)、「3」はオーストラリア・グループ(AG)、「4」は化学兵器禁止条約(CWC)を意味している。4~5番目の桁は品目の順番といった構成となっている。

例えば、分類3は電子関連用品で、232品目存在する。次に、この場合の小分類は、有形品目がA~Cまでの1,572品目、無形の技術・ソフトウエアがD~Eの259品目、全部で1,831品目ある。

  • 例1:無人航空機(UAV)。9A012というコードで管理され、最初の「9」は物品の大分類コードで「航空宇宙に関する推進製品」のカテゴリーを意味し、「A」は装置・アッセンブリ・コンポーネント。輸出管理レジュームは「0」の「ワッセナー・アレンジメント」で、その中では12番目の品目という意味となる。9A112、9E101の品目特性として、UAVが作動できる距離を規定している。UAVは民生用では研究用途、交通や災害情報を収集するのに使用することが可能な一方、軍事用ではミサイルに転用が可能である。
  • 例2:炭素繊維(1C010)。民生用ではテニスラケットなどスポーツ用品の生産に使用されるが、大量破壊兵器(WMD)用途では核兵器開発用のガス遠心分離機を生産するために使うことが可能。
  • 例3:ウイルス(1C351)。民生用ではワクチン生産に使用されるが、WMD用途では呼吸器官を害する生物兵器の生産に転用できる。

デュアルユース品目の調べ方

リストには、DUIコードでのリスト、HSコードでのリストの2つがあり、HSコードリストでは物品特性が規定されていないが、DUIリストでは明確に物品の特性が規定されているのが特徴。どのHSコードがどのDUI品目に該当するかを判別するため、EUでは相関表である「EU Correlation List」を導入している。タイも同表に準じてリストを作成したため、EUのリストを活用して自社の品目が規制対象かどうかを調べることができる。

例えば、「8542.32.69」のHSコードで検索すると、DUIの5A002、5A004、5A003、または3A001aに該当することがわかる。どのDUIに該当する可能性があるかを調べた上で、EUリストが規定しているそれぞれのDUIコードの特性と照合し、DUIか否かを確認することができる。1つのDUIコードに複数のHSコードが対応する場合もあり、例えば、8443.31、8443.32、8443.99は全て5A002というコードのDUIに該当するため、DUIか否かはその物品の特性次第である。

もう1つの簡易なDUIの調べ方として、キーワード検索がある。例えば、エポキシ樹脂関連製品を扱っている企業の場合、EUリストのファイルの中でキーワードを入れて検索することが可能。これで、「Epoxy resin」というキーワードがどこに現れているかを確認することができる。ただし、この方法で検索する場合、似た意味がある別のキーワードなどを使い、網羅的に調べる必要がある。

こうしたEUリストを用いた検索について、タイではTCWMDウェブサイト(タイ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 上から実行できるようにしている。DUI検索のメニューから入り、キーワード検索やHSコードによる検索を選ぶことで、DUI品目に該当するか調べることができる。

タイのDUI品目、HDD、集積回路など多く輸出

前出のとおり、タイにおけるDUI関連物品の分類について、商務省外国貿易局(DFT)は、DUIに該当するHSコードの相関表である「EU Correlation List」とEUのDUI品目コードに基づいて、CAC通達の付則リスト1とリスト2を作成している。ジェトロは、これを基に、タイのDUIに該当する829品目のHSコードを使い、DUIに該当するタイの輸出品の統計データをみた。その結果、輸出額(2020年)が大きいDUI品目は以下のとおりだ。

  • ハードディスク、CD-Rドライブなどの記憶装置(HS8471.70):3,429億バーツ(約1兆2,687億円、1バーツ=約3.7円)
  • 集積回路(HS8542.39):3,057億バーツ
  • 石油・瀝青油(HS2710.19):1,161億バーツ
  • 携帯電話や無線通信システムの端末(HS8517.12):713億バーツ
  • 航空機、飛行機、ヘリコプターなど(HS8802.40):711億バーツ

2020年、タイからのDUI輸出が最も大きいのは米国で、続いて、中国、日本、香港、オーストラリアの順となっている。

DUIの輸送形態については、2020年は航空輸送が最も多く、全体の46%を占める。DUI輸出で最も利用される空港はスワンナプーム空港となっている。続いて、海上輸送が35%で、最も使われる港湾はレムチャバン港だ。全国にある国境税関支局で通関される陸上輸送が19%を占める。

DUIが輸出通関される税関支局は、1位がスワンナプーム空港税関、2位はレムチャバン港税関、3位はムクダハン税関(ラオス国境)、4位はサダオ税関(マレーシア国境)、5位はアランヤプラテート税関(カンボジア国境)の順となっている。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。