拡大を続けてきたウクライナとの経済関係(中国)
侵攻による影響は既に顕在化

2022年6月3日

ここ数年、中国とウクライナとの経済関係は拡大を続けてきた。ウクライナにとって2019年以降は、中国が最大の貿易相手国だ。一方で足元のウクライナ情勢の緊迫化は、両国の経済関係にも大きな影響を与えかねない。本稿では、中国とウクライナの経済関係について、貿易や投資面の状況を概観する。

ウクライナは、トウモロコシや大麦で中国の主要輸入先

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊に伴って1991年8月に独立した。中国は1992年1月に独立を承認。その後、両国は2001年に全面的な友好協力関係の樹立を、2011年に戦略的パートナーシップ関係の樹立を、それぞれ宣言した。中国外交部は両国関係について「両国間の各分野の友好的、互恵的な協力は急速に発展している。両国人民の伝統的な友情は絶えることなく深まっている」としている。直近では、2022年1月に国交樹立30周年を迎えた際、習近平国家主席とゼレンスキー大統領が祝電を交換している(2022年1月31日付ビジネス短信参照)。

中国とウクライナとの経済関係は、特にここ数年で大きく拡大した。まず両国の貿易関係を概観する。ウクライナ関税委員会の統計(注1)を基にウクライナの主要貿易相手国をみると、2012年の最大の貿易相手国はロシアだった。貿易額は450億5,000万ドルと全体の29.4%を占めた。一方で対中貿易額は96億7,700万ドル(構成比:6.3%)。ロシアの4分の1以下にすぎなかった。しかしその後、ウクライナの対ロシア貿易額は減少を続ける。2021年の貿易額は95億200万ドル。構成比は6.8%にまで低下した(図1参照)。

対して、対中貿易は2016年以降急速に増加。2019年にはロシアを抜いて、中国が最大の貿易相手国になった。2021年の対中貿易額も188億8,900万ドルと引き続き首位で、ウクライナの貿易総額の13.5%を占めている。内訳は、輸出が79億6,100万ドル(構成比:11.7%)、輸入が109億2,700万ドル(構成比:15.2%)。いずれも1位だ。

図1:ウクライナの貿易総額上位3カ国
貿易総額(左軸)と構成比(右軸)の推移
ウクライナの中国との貿易額と構成比は、2012年96億7,700万ドル、6.3%。2013年106億2,700万ドル、7.6%。2014年80億8,300万ドル、7.5%。2015年61億6,900万ドル、8.2%。2016年64億9,100万ドル、8.6%。2017年76億3,900万ドル、8.2%。2018年98億500万ドル、9.4%。2019年127億5,000万ドル、11.5%。2020年153億7,300万ドル、14.9%。2021年188億8,900万ドル、13.5%。ウクライナのポーランドとの貿易額は構成比は、2012年61億3,200万ドル、4.0%。2013年66億1,700万ドル、4.7%。2014年57億1,200万ドル、5.3%。2015年43億200万ドル、5.7%。2016年48億7,400万ドル、6.5%。2017年61億3,700万ドル、6.6%。2018年68億3,600万ドル、6.6%。2019年73億5,800万ドル、6.7%。2020年73億6,000万ドル、7.2%。2021年101億7,500万ドル、7.3%。ウクライナのロシアとの貿易額と構成比は、2012年450億5,000万ドル、29.4%。2013年382億9,900万ドル、27.3%。2014年224億7,800万ドル、20.8%。2015年123億1,500万ドル、16.3%。2016年87億4,900万ドル、11.6%。2017年111億4,400万ドル、12.0%。2018年117億5,000万ドル、11.3%。2019年102億3,000万ドル、9.3%。2020年72億6,000万ドル、7.1%。2021年95億200万ドル、6.8%。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

一方で、中国税関の統計(注1)を基に中国の2021年の主要貿易相手先をみると、対ウクライナ貿易額は中国の貿易総額の0.3%を占めるにすぎない(表1参照)。ちなみに、輸出は全体の0.3%、輸入は0.4%だ。

表1:中国の国・地域別 貿易取引額(2021年)(金額:100万ドル、構成比:%)

輸出
順位 国・地域名 輸出額 構成比
1 米国 576,604 17.1
2 香港 351,640 10.4
3 日本 165,902 4.9
4 韓国 150,554 4.5
5 ベトナム 137,954 4.1
13 ロシア 67,596 2.0
49 ウクライナ 9,411 0.3
全体 3,368,005 100.0
輸入
順位 国・地域名 輸出額 構成比
1 台湾 251,460 9.4
2 韓国 213,555 8.0
3 日本 206,153 7.7
4 米国 179,466 6.7
5 オーストラリア 162,183 6.1
10 ロシア 78,351 2.9
41 ウクライナ 9,760 0.4
全体 2,678,836 100.0
貿易総額
順位 国・地域名 輸出額 構成比
1 米国 756,070 12.5
2 日本 372,055 6.2
3 韓国 364,109 6.0
4 香港 361,412 6.0
5 台湾 329,845 5.5
11 ロシア 145,947 2.4
48 ウクライナ 19,170 0.3
全体 6,046,841 100.0

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

中国の対ウクライナの貿易収支は、2012年から2019年まではおおむね黒字だった。しかし2020年以降は、鉄鉱石とトウモロコシの輸入が増加したことなどから赤字化した(図2参照)。

図2:中国の対ウクライナ貿易収支
2012年43億600万ドルの黒字。2013年45億8,100万ドルの黒字。2014年16億1,800万ドルの黒字。2015年3,900万ドルの赤字。2016年17億2,100万ドルの黒字。2017年26億9,700万ドルの黒字。2018年43億8,500万ドルの黒字。2019年28億7,100万ドルの黒字。2020年9億1,200万ドルの赤字。2021年3億4,900万ドルの赤字。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

中国の対ウクライナ貿易の特徴をみると、輸出は工業品を中心とした幅広い品目で構成される。輸入は、2021年は鉄鉱石(HS:2601)とトウモロコシ(HS:1005)の2品目で全体の約6割。一次産品が中心で品目に偏りがある。両国は、垂直貿易の関係にある(注2)といえそうだ(表2参照)。

表2:中国の対ウクライナ品目別輸出額・輸入額(2021年、HSコード4桁)

(金額:100万ドル、構成比:%)
中国からウクライナへの輸出
HSコード 品目名 輸出額 構成比
9503 三輪車、スクーター、足踏み式自動車、その他これらに類する車輪付き玩具、人形用乳母車、人形、その他の玩具、縮尺模型、その他これに類する娯楽用模型、パズル 339 3.6
8517 電話機およびその他の機器 334 3.5
3808 殺虫剤、殺鼠(さっそ)剤、殺菌剤、除草剤、発芽抑制剤、植物生長調整剤、消毒剤、その他これらに類する物品 276 2.9
8471 自動データ処理機械およびこれを構成するユニット、ならびに磁気式または光学式の読取機、データをデータ媒体に符号化して転記する機械および符号化したデータを処理する機械 247 2.6
8541 ダイオード、トランジスター、その他これらに類する半導体デバイス、光電性半導体デバイス、発光ダイオード(LED)および圧電結晶素子 224 2.4
合計 9,411 100.0
中国のウクライナからの輸入
HSコード 品目名 輸出額 構成比
2601 鉄鉱石 3,506 35.9
1005 トウモロコシ 2,346 24.0
1512 ヒマワリ油、サフラワー油および綿実油ならびにこれらの分別物 925 9.5
1003 大麦および裸麦 915 9.4
2306 その他の植物性の油かす 762 7.8
合計 9,760 100

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

中国の輸入でウクライナが占める割合が大きい品目を数量ベースで確認すると、2021年はヒマワリ油など(HS:1512)が総輸入量の69.1%(89万トン)を占める。当品目については、ウクライナが最大の輸入相手元だ(表3参照)。そのほか、トウモロコシ(HS:1005)が29.1%(824万トン)で、米国に次ぐ第2位、大麦および裸麦(HS:1003)は25.7%(321万トン)で、フランス、カナダに次いで第3位だ。輸入額として最大なのが鉄鉱石(HS:2601)だ。その量は1,745万トンと、中国の輸入量全体の1.6%にすぎない。とはいえ、中国にとって第5位の輸入元だ。

表3:中国のウクライナからの輸入量が大きい品目の国・地域別輸入量(2021年)

(輸入量:万トン、構成比:%)
ヒマワリ油(HS:1512)
順位 国・地域名 輸入量 構成比
1 ウクライナ 89 69.1
2 ロシア 36 28.3
3 カザフスタン 1 0.8
4 トルコ 1 0.6
5 ブルガリア 1 0.6
総輸入量 128 100.0
トウモロコシ(HS:1005)
順位 国・地域名 輸入量 構成比
1 米国 1983 69.9
2 ウクライナ 824 29.1
3 ブルガリア 14 0.5
4 ロシア 9 0.3
5 ミャンマー 3 0.1
総輸入量 2,836 100.0
大麦および裸麦(HS:1003)
順位 国・地域名 輸入量 構成比
1 フランス 365 29.2
2 カナダ 356 28.5
3 ウクライナ 321 25.7
4 アルゼンチン 174 13.9
5 カザフスタン 11 0.9
総輸入量 1,248 100
鉄鉱石(HS:2601)
順位 国・地域名 輸入量 構成比
1 オーストラリア 69,390 61.6
2 ブラジル 23,756 21.1
3 南アフリカ 4,027 3.6
4 インド 3,356 3.0
5 ウクライナ 1,745 1.6
総輸入量 112,563 100.0

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

前述のとおり、ウクライナからの穀物輸入は中国で一定の存在感を示している。では、ウクライナ情勢を受けた中国国内の食糧供給への影響はどう考えると良いのか。この点について、中国人民大学農業農村発展学院の鄭風田教授は「ロシアとウクライナの衝突が中国の食糧供給に与える影響は基本的に無視できる。国際的な食糧価格の変動が中国に与える影響は限定的でコントロール可能な範囲」とした(「人民網」3月29日)。

中国企業は、エネルギーや農業分野などでウクライナに投資

続いて、両国の投資関係を概観する。

まず、2020年度中国対外直接投資統計公報から、中国の対ウクライナ直接投資額(フロー)の推移を確認してみる。2013年は1,014万ドル。2014年に472万ドル、2015年マイナス76万ドルと減少した。しかし、2016~2019年に大きく増加。2020年は前年比で大きく減少しながらも、2013年と比較して約2倍の規模だ。

その結果もあり、直接投資額(ストック)も増加傾向にある。2020年末時点で1億9,034万ドル。2012年と比較して、約6倍になっている(図3参照)。

図3:中国のウクライナへの直接投資(左軸:フロー、右軸:ストック)
中国からウクライナの直接投資額(フロー)は、2012年207万ドル。2013年1,014万ドル。2014年472万ドル。2015年マイナス76万ドル。2016年192万ドル。2017年475万ドル。2018年2,745万ドル。2019年5,332万ドル。2020年2,106万ドル。中国からウクライナの直接投資額(ストック)は、2012年3,314万ドル。2013年5,198万ドル。2014年6,341万ドル。2015年6,890万ドル。2016年6,671万ドル。2017年6,265万ドル。2018年9,048万ドル。2019年15,083万ドル。2020年19,034万ドル。

出所:2020年度中国対外直接投資統計公報からジェトロ作成

中国商務部国際貿易経済合作研究院などが2020年12月にまとめた「対外投資合作国(地域)別指南ウクライナ(2020年版)」では、ウクライナに54社の中国企業が進出していると報告された。

分野別には、エネルギーや農業分野の投資が目立つ(添付資料表参照PDFファイル(359KB) )。例えば、中国電力建設集団は2020年10月、風力発電事業に関して契約締結していた(800メガワット規模の風力発電所建設プロジェクトの共同実施に関して、ウクライナ企業のWindfarmとEPC契約(注3)を締結)。ロシア・ウクイライナ情勢による同プロジェクトに対する影響について、同集団は中国紙「毎日経済新聞」のインタビューで「この契約はウクライナではまだ実施されず、資本も注入されていない。そのため、影響は非常に小さい」と回答した。一方、穀物・食品企業の中糧国際(COFCO)は、マリウポリにヒマワリ油の採油工場を有するが、当該工場の一部設備が被害を受けたとも報じられている(「鳳凰網」「ブルームバーグ」4月6日)。

また、ウクライナはIT人材が豊富だ(2020年7月29日付地域・分析レポート参照)。これを反映して、華為技術(ファーウェイ)がウクライナに研究開発(R&D)センターを設置している。

このように、中国企業による対ウクライナ投資案件は、多岐にわたる。もっとも、中国の対外直接投資全体に占める比率は小さい。2020年の中国の対外投資額全体に占めるウクライナへの投資額は、フロー、ストックともに、0.1%にも満たないのだ。ロシアとの比較でも小規模と言える。2020年時点で、対ロシア向け投資額のフローは対ウクライナの約27倍、ストックでは約63倍に上る。

ちなみに、ウクライナからの対中直接投資額(実行ベース、フロー)は2019年が20万ドル、2020年が61万ドルだった。世界各国からの対中投資額全体が2019年に1,381億ドル、2000年に1,443億ドルだったことを考え合わせると、ごくわずかだったことが読み取れる。

中国政府「ロシア・ウクライナ両国と、通常の経済関係を維持」

商務部の高峰スポークスマンは3月17日の定例会見で、中国とロシア、中国とウクライナ間の通商関係について言及。記者からの質問に対し、「中国は相互の尊重、平等、相互利益の原則に基づき、ロシアおよびウクライナと通常の経済・貿易協力体制を維持する」と説明した。中国としては、ロシアのウクライナ侵攻後も、両国との経済関係を維持していく姿勢を示したかたちだ。一方、現時点で中国側から、同国との経済関係に関してウクライナ侵攻による影響を懸念する公式コメントなどは示されていない。

しかし、貿易面では既に侵攻による大きな影響が出ている。中国側の統計によると、3月単月の中国の対ウクライナ向け輸出は前年同月比8割超減少、4月には95%超減少した。輸入も4月には減少に転じた(2022年4月25日付ビジネス短信2022年5月26日付ビジネス短信参照)。中国政府は特別なコメントこそ出していないものの、輸入面を含む貿易や中国企業の投資プロジェクトなど、侵攻に伴う影響を注視し続けているものとみられる。


注1:
貿易データベースGlobal Trade Atlasを使用し、当データベース上でドル換算された数値を用いて計上。
注2:
垂直貿易とは、2国間貿易で、一方が1次産品を主体に輸出し、もう一方が工業製品を主体に輸出する貿易形態。
注3:
EPC契約とは、設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を含む建設プロジェクトの工事請負契約。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 リサーチ・マネージャー
亀山 達也(かめやま たつや)
2021年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。