中間選挙で上院の民主党優位後退の可能性(米国)
注目州では、今

2022年1月24日

ジョー・バイデン大統領の支持率低迷が続く(注1)。この状況下、バージニア州知事選挙で、共和党候補者が勝利した(注2)。同知事選は2022年中間選挙の前哨戦と目されていた。中間選挙は共和党に有利な状況だ。

一方、連邦上院議会では現状、民主党と共和党の議席数が各50と同数だ。しかし、カマラ・ハリス副大統領が議長としての議決権を有することで、民主党は微妙にせよ優位に立っている。2022年11月8日の中間選挙では、34州(民主党14、共和党20)で連邦上院議員が改選される。その結果によっては、民主党議席が過半数を割る可能性がある。民主党としては、現有議席数は守りたいところだ。

本稿では、民主・共和党の勢力が拮抗(きっこう)しがちな「スイング・ステート」を中心に上院選挙で注目される各州の状況をみる(表参照)。

バイデン氏勝利州で民主党議席を守れるか

アリゾナ州とジョージア州は、かつて共和党の牙城とされていた。実際、2016年の大統領選挙では、ドナルド・トランプ氏が勝利した。しかし2020年には、一転してバイデン氏が勝利(表参照)。この結果は、両州の状況が変化していることも示した。

アリゾナ州では、民主党を支持する傾向にあるカリフォルニア州からの移住者が増加した。これに加え、ブラック・ライブズ・マター運動の高まりなど、マイノリティーの意識が変わりつつあることも要因だろう。ジョージア州でも、アジア系・ラテン系人口の増加や、黒人支援団体の働きかけなどが民主党への投票を後押してきた。このように、マイノリティーの意識改革が進んでいる(2021年1月22日付地域・分析レポート参照)。

一方、共和党からみると、両州とも大統領選挙でトランプ氏が敗れたとはいえ、僅差に過ぎない(注3)。となると、改めて議席を奪還し、2024年の大統領選挙に向けて態勢を整えたいところだ。両州とも、接戦(注4)が予想されている。

  • アリゾナ州(接戦)
    現職のマーク・ケリー上院議員(民主党)が再立候補する。ケリー氏は2020年の特別選挙(注5)で、当時現職の上院議員だったマーサ・マクサリー氏(共和党)に勝利した。
    共和党の候補者は、マーク・ブノビッチ氏(州司法長官)、ミック・マクガイア氏(元空軍少将)、ブレーク・マスターズ氏(ベンチャーキャピタリスト)らだ。トランプ氏は、2022年1月15日にアリゾナ州での選挙集会を開始した。
  • ジョージア州(接戦)
    2020年に実施された上院補欠選挙で決戦投票の結果、勝利したのがラファエル・ワーノック上院議員(民主党)だ。そのワーノック議員が再立候補する。2020年には補欠選挙を含めて上院2議席について選挙。この2議席とも民主党(ジョン・オソフ氏、ワーノック氏)が獲得したことで、民主党の上院議席が50に達した。
    共和党からは、トランプ氏が支持するハーシェル・ウォーカー氏(元フットボール選手)のほか、州農業局長のゲーリー・ブラック氏、レーサム・サドラー氏(元銀行幹部)などが立候補表明済みだ。
    なお、現職の州知事は、ブライアン・ケンプ氏(共和党)だ。前回2018年の州知事選挙では、ケンプ候補とステーシー・エイブラムス候補(民主党、元・州下院議員) が大接戦。そのエイブラムス氏が立候補を表明した(2021年12月16日付地域・分析レポート参照)。エイブラムス氏は、2022年の選挙で、全米初の黒人女性知事を目指すことになる。民主党は、同氏と共に上院選挙も含めて流れを変えたい意向だ。
表:2022年連邦上院選挙での注目州
党名 州名 現職議員(候補者) 再出馬 選挙予想 2016年大統領選挙の勝者 2020年大統領選挙の勝者
民主党 ジョージア ラファエル・ワーノック 接戦 トランプ バイデン
アリゾナ マーク・ケリー 接戦 トランプ バイデン
ネバダ キャシー・コルテス・マスト 接戦 クリントン バイデン
ニューハンプシャー マギー・ウッド・ハッサン 民主党やや優勢 クリントン バイデン
共和党 ペンシルベニア パトリック・トゥ―ミー × 接戦 トランプ バイデン
ウィスコンシン ロン・ジョンソン 接戦 トランプ バイデン
ノースカロライナ リチャード・バー × 接戦 トランプ トランプ
フロリダ マルコ・ルビオ 共和党やや優勢 トランプ トランプ
オハイオ ロブ・ポートマン × 共和党優勢 トランプ トランプ

注1:「×」は、再出馬の意思がないことを意味する。
注2:選挙予想の出所は、270toWin。
出所:各種報道に基づきジェトロ作成

勢力が均衡するスイング・ステートの行方

ネバダ州とニューハンプシャー州では、2016年、2020年の大統領選挙でいずれも民主党(ヒラリー・クリントン候補またはバイデン候補)が勝利した。ペンシルベニア州とウィスコンシン州では、2016年大統領選挙でトランプ氏、2020年にはバイデン氏が勝利した。これらは、スイング・ステートの中でも民主・共和両党勢力が均衡している州として知られる。

現状では、ニューハンプシャー州は民主党候補がやや優勢。一方で、他3州では接戦とされる。

  • ネバダ州(接戦) 民主党の現職キャシー・コルテス・マスト上院議員が再立候補する。
    共和党からは、アダム・ラクソール氏(元州司法長官)がトランプ氏およびミッチ・マコーネル上院議員の支持を受け立候補を表明した。そのほかでは、アフガニスタンから帰還した退役軍人のサム・ブラウン氏らが立候補を表明している。共和党は、同州の失業率の高さやインフレの進行(注6)などをバイデン政権の失策として挙げ、中間選挙での勝利につなげようとしている。
  • ニューハンプシャー州(民主党候補やや優勢)
    民主党の現職マギー・ウッド・ハッサン上院議員が再選を目指す。ハッサン氏は、2013~2017年に同州の知事も務めた。
    片や共和党側では、クリス・スヌヌ州知事を上院選候補に立てる計画もあった。しかし、当人が州知事として再選を望み、同意しなかった。そのため、有力候補の人選は難航している模様。2020年に上院予備選挙で敗北したドン・ボルダック氏(元陸軍准将)らが立候補を表明している。
    上院選挙を想定した2022年1月の世論調査(注7)では、ハッサン氏(43%)がボルダック氏(36%)をリードしている。
  • ぺンシルベニア州(接戦)
    共和党の現職上院議員パトリック・トゥーミー氏は、再立候補しない。共和党からは、メフメト・オズ氏(心臓外科医、テレビ司会者)が2021年11月に立候補を表明した。また、共和党が立候補を促したデビッド・マコーミック氏も、2022年1月、ヘッジファンドのブリッジ・ウォーター・アソシエイツ最高経営責任者(CEO)を退任。正式に、上院選立候補を発表した。
    民主党候補は、ジョン・フェッターマン氏(州副知事)やコーナー・ラム氏(連邦下院議員)、バレリー・アークーシュ氏(全米医師連盟会長)らだ。
  • ウィスコンシン州(接戦)
    共和党の現職ロン・ジョンソン上院議員が、立候補について決定を保留していた。しかし、2022年1月に再立候補を表明。トランプ前大統領も、同氏の再立候補を後押ししたという。
    民主党の候補者は、マンデラ・バーンズ氏(州副知事)、サラ・ゴドルースキー氏(州財務長官)、アレックス・ラスリー氏(プロバスケットボールチーム幹部)らだ。

民主党は共和党地盤を崩せるか

フロリダ、ノースカロライナ、オハイオの各州では、比較的共和党が強い。2016年、2020年とも、大統領選挙でトランプ氏が勝利した。

フロリダ州では、共和党現職が出馬する。一方、他2州では、共和党現職は不出馬となる。

  • フロリダ州(共和党やや優勢)
    現職のマルコ・ルビオ氏が再立候補する。
    民主党からは、バル・デミングス氏(連邦下院議員、元オーランド市警察署長)が立候補している。2020年大統領選挙の際は、副大統領候補に同氏の名前が挙がったこともあり、バイデン氏の評価も高い。民主党がデミングス氏にかける期待も大きい。2021年9月までに同氏が獲得した選挙資金は1,300万ドル。ルビオ氏の選挙資金(1,160万ドル)を上回るといわれる。
  • ノースカロライナ州(接戦)
    現職の上院議員リチャード・バー氏(共和党)は、再立候補しない。
    共和党の候補者としては、パット・マクローリー氏(元・州知事)、トランプ氏が支持するテッド・バッド氏(連邦下院議員)やマーク・ウォーカー氏(前・連邦下院議員)らだ。
    民主党の有力候補は、シェリ・ビーズリー氏(前州最高裁判所長官)だ。ジェフ・ジャクソン氏(州上院議員)も立候補を表明していたものの、12月に取り下げた。それによって、民主党は結束して、選挙資金調達などで先行するビーズリー氏を支援できるとする。
  • オハイオ州(共和党優勢)
    現職の上院議員ロブ・ポートマン氏(共和党)は、再立候補しない。
    共和党の候補者としては、ジョシュ・マンデル氏(前州財務長官)、J.D.バンス氏(作家、ベンチャーキャピタリスト)らだ。バンス氏は、トランプ氏の熱心な信奉者として知られる。
    民主党側の候補者は、ティム・ライアン氏(連邦下院議員)だ。ライアン氏には、シェロッド・ブラウン上院議員(民主党、オハイオ州、注8)が支持を表明した。ブラウン氏は、共和党が地盤を持つ当州で議席を獲得していた。ブラウン議員に続き、ライアン氏も議席獲得を目指すかたちだ。

なお、アラスカ州では、現職のリサ・マコウスキー上院議員が再立候補する。同議員は、トゥ―ミー議員(ペンシルベニア州、前出)やリチャード・バー議員(ノースカロライナ州)などと並んで、2021年2月の上院でのトランプ氏弾劾裁判で有罪とすることに投票した共和党員の1人だ(注9)。そのため、トランプ氏からの攻撃は避けられないとみられる。トランプ氏は、ケリー・ツィバカ氏(元アラスカ州行政局委員)を支持。共和党の予備選挙で、マコウスキー氏に対抗する。ちなみに同州では、共和党候補者の当選が確実と予想される。そのため、民主党からの立候補者は現時点で不在だ(リベラル派とされる立候補者は数人いる)。

連邦上院議会での優位を保ちたい民主党としては、1議席も落とせない。2022年に新型コロナ禍から回復し米国の経済状況が上向いたとしても、中間選挙を民主党有利に転換するには遅すぎる、とみる向きもある。2022年1月3日に米国のシンクタンク、ユーラシア・グループが発表した「2022年の10大リスクPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.64MB)」の中で、2022年中間選挙は3番目のリスクに取り上げられた。具体的には、上下院で共和党が多数派となる可能性が予測されていた(2022年1月7日付ビジネス短信参照)。バイデン民主党政権にとって、厳しい選挙になりそうだ。


注1:
選挙情報サイト、リアルクリアポリティクスは、バイデン大統領の全米平均支持率を随時発表している。2021年11月15日時点では41.9%、12月15日43.9%、2022年1月15日41.6%だ。
注2:
2021年11月4日付ビジネス短信参照
注3:
2020年大統領選挙で、バイデン氏の得票率はジョージア州でトランプ氏を0.24ポイント(1万1,779票)上回った。また、アリゾナ州では、0.31ポイント(1万467票)の差だった。
注4:
各州の選挙予想は、選挙情報サイト270toWinに基づく。サバトズ・クリスタル・ボール、クック・ポリティカル・レポート、インサイド・エレクション各社の予想を総合的にまとめている。
注5:
2018年に共和党のジョン・マケイン上院議員が亡くなり、ダグ・デュ―シー知事(共和党)がマーサ・マクサリー氏を後任に指名した。
2020年にはその議席を巡り、特別選挙が実施された。
注6:
2021年12月現在、ネバダ州の失業率は6.8%(11月)。インフレ率(西部)は7.1%。なお、全米の失業率は4.2%、インフレ率7.0%。
注7:
セントアンセルム大学のニューハンプシャー政治研究所の調査。実施時期は、2022年1月11~12日。対象者はニューハンプシャー州の有権者1,215人。
注8:
上院議員は、各州に2名ずつ割り振られる。ブラウン議員は当年非改選。
注9:
上院の弾劾裁判では、トゥ―ミー、バー、マコウスキー各議員のほか、ビル・キャシディ議員(ルイジアナ州選出)、スーザン・コリンズ議員(メイン州選出)ら計7人の共和党員がトランプ氏の有罪に投票した。
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。