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有権者の多様性が進展、接戦州で勝敗要因に(米国)
2020年大統領選、接戦州でマイノリティー市民は(前編)

2021年1月22日

2020年11月の米国大統領選挙で、民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利した。ドナルド・トランプ大統領(共和党)は激戦州となったフロリダ州やテキサス州を制し、当初は優勢という見方もあった。しかし、2016年の大統領選挙ではトランプ氏が勝ったミシガン州やペンシルベニア州でバイデン氏が勝利したことなどが影響。最終的な選挙人獲得数では、バイデン氏が306人、トランプ氏232人という結果だった。

米国のピュー・リサーチ・センターが2020年8月に発表した世論調査では、83%が米国の次期大統領が誰になるかは深刻な問題と回答した。大統領選挙への国民の関心が高まり、2020年の投票率は66.7%と歴史的に高かった(注1、2012年58.6%、2016年60.1%)。バイデン氏が8,100万票、トランプ氏も7,400万票を獲得した。得票数の上ではバイデン氏がおよそ700万票上回った結果だ。しかしその実、大変な接戦であったことがわかる。

今回の大統領選挙で、バイデン氏とトランプ氏の得票率の差が3ポイント未満の接戦だった州は、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの7州。このうち特に、アリゾナ、ジョージア、ウィスコンシンの3州は得票率差が1ポイント未満と特に僅差だ(表参照)。これら7州の接戦州での選挙結果が勝敗を決したといえる。

本稿では、接戦7州でのバイデン氏勝利の要因をみる。あわせて、近年、ラテン系人口が増加して選挙結果が注目されていたテキサス州、フロリダ州の状況も報告する。前編では、特に激戦だったアリゾナ州、ジョージア州に加え、ミシガン州、ネバダ州を例に、マイノリティー有権者の投票行動を考察する。後編では、主にラテン系有権者の動きに焦点を絞り、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、テキサス州、フロリダ州について見る。

表:各州の2020年大統領選挙の得票率および出口調査結果 (単位:%)(△はマイナス値)
州名 アリゾナ ジョージア ミシガン ネバダ ペンシルベニア ウィスコンシン ノースカロライナ テキサス フロリダ
選挙人数(人) 11 16 16 6 20 10 15 38 29
黒人有権者の割合 5 32 13 9 10 6 22 13 14
ラテン系有権者の割合 23.6 5.0 3.5 19.7 5.3 4.2 4.4 30.4 20.5
アジア系有権者の割合 3 3 2 8 2 2 2 4 2
投票率 65.9 67.7 73.9 65.4 71.0 75.8 71.5 60.4 71.7
得票率 ジョー・バイデン(a) 49.4 49.5 50.6 50.1 50.0 49.4 48.6 46.5 47.9
ドナルド・トランプ(b) 49.0 49.3 47.8 47.7 48.8 48.8 49.9 52.0 51.2
(a)ー(b) 0.4 0.2 2.8 2.4 1.2 0.6 △ 1.3 △ 5.5 △ 3.3
出口調査 人種 白人 ジョー・バイデン 46 30 44 43 42 46 33 33 37
ドナルド・トランプ 52 69 55 56 57 52 66 66 62
黒人 ジョー・バイデン n.a. 88 92 80 92 92 92 90 89
ドナルド・トランプ n.a. 11 7 18 7 8 7 9 10
ラテン系 ジョー・バイデン 61 62 55 61 69 60 57 58 53
ドナルド・トランプ 37 37 44 35 27 37 42 41 46
年齢 18~29歳 ジョー・バイデン 63 56 61 63 62 59 57 57 60
ドナルド・トランプ 32 43 37 33 35 36 40 40 38
30~44歳 ジョー・バイデン 47 54 48 58 60 53 56 49 48
ドナルド・トランプ 51 44 50 40 39 45 43 49 50
45~64歳 ジョー・バイデン 44 46 51 41 42 47 47 44 45
ドナルド・トランプ 55 53 49 56 58 52 52 55 54
65歳以上 ジョー・バイデン 49 44 51 46 46 47 40 41 45
ドナルド・トランプ 50 56 49 53 53 53 59 58 55

注:太字は相手候補を上回っている。
出所:人種別有権者の割合は、ピュー・リサーチ・センター。投票率は、United States Elections Project。その他は、CNN。

アリゾナ州―移住IT技術者やラテン系有権者などの投票行動が影響

「共和党州」と言われていたアリゾナ州で、バイデン氏は得票率0.4ポイントの僅差で勝利した。大統領選の民主党候補者が同州で勝ったのは、1996年以来だ。同州の連邦上院議員の特別選挙(注2)でも、民主党のマーク・ケリー氏が、共和党のマーサ・マクサリー氏を破り勝利していた。

バイデン氏は、フェニックスのあるマリコパ郡で得票数を104万票(得票率50.3%)獲得。4万5,000票トランプ氏を上回った。ピマ郡では得票率58.6%で9万7,000票、上回った。州全体では、1万票の差だった。

近年マリコパ郡には、家賃の高騰するカリフォルニア州から移住するIT系技術者などが多い。こうした移住者は民主党を支持する傾向にあり、全体的に左派色が強まっているとみられる。2018年の連邦上院議員選挙でも、民主党のカイルステン・シネマ氏が共和党のマーサ・マクサリー氏を破り、議席を奪取した。また、アリゾナ州では、2010年に成立した州の移民法(SB1070)(注3)が人種差別的取り締まりにつながるとして、ラテン系住民などが反発。民主党に期待する声が高い。

アリゾナ州では、ラテン系有権者の割合が23.6%と比較的高い。しかし、必ずしも同州で「ブルー・ウェーブ」が起こったというわけでもなさそうだ。むしろ、ラテン系有権者の意識変革のため草の根の活動を続けてきた市民団体(注4)などの働きが投票率押し上げに大きく貢献し、民主党勝利に寄与したという指摘もある。

ジョージア州―人種構成の多様化が進む

共和党優勢と見られていた南部のジョージア州も、バイデン氏が得票率0.2ポイントの僅差で勝利した。

得票率では、アトランタのあるフルトン郡でバイデン氏が7割を超えた。38万票を獲得し、トランプ氏を24万票上回った。隣接するデカルブ郡、クレイトン郡では、バイデン氏の得票率が8割を超えた。州全体で、1万2,000票の差になった。

ジョージア州では、有権者の人種構成の多様化が進んでいる。米調査会社ターゲット・スマートによれば、2016年の大統領選挙時と比較して、アジア系有権者が2倍増、ラテン系72%増と急増した。しかし白人層は16%増にとどまり、白人層の全体に占める割合が66%から63%に3ポイント低下した。特に、アトランタ近郊のグイネット郡にはアジア系および太平洋諸島系(AAPI、注5)の有権者が集中する。AAPIの有権者登録数は、2016年時点では9,500人に過ぎなかった。それが、今回選挙では3万人超に増加したという。同郡では、バイデン氏が得票率で18ポイント上回り、トランプ氏と8万票差だった。

ボート・ラティーノ(Vote Latino)は、ラテン系有権者の意識改革を目指す非営利団体だ。その呼びかけにより、今回選挙に向けてジョージア州でラテン系有権者の若年層3万5,000人が選挙登録したという。そのうち54%は、投票経験のない有権者だった。

また、ジョージア州では、有権者に占める黒人の割合が32%(240万人)と全米で最も高い。2018年の中間選挙では、ジョージア州知事選挙が実施され、民主党のステーシー・エイブラムス氏が、共和党のブライアン・ケンプ氏に僅差で敗北した。エイブラムス氏は、大統領選立候補の可能性もささやかれるような存在だ。他方で、同州で黒人などマイノリティーの有権者登録が少ないことに着目し、マイノリティーの意識を高め投票を後押しする活動を続けてきた。2014年にニュー・ジョージア・プロジェクト(New Georgia Project)、2018年にフェア・ファイト(Fair Fight)という組織を立ち上げている。

また、2016年には、ブラック・ボーターズ・マター(Black Voters Matter)という黒人支援団体が設立されている。この団体は、600を超える各地団体と協力し支援してきた。同団体の設立者のひとり、ラトーシャ・ブラウン氏は「ジョージア州ではこれまで黒人層への選挙運動が不十分だった。今回選挙で同州の上院2議席が決戦投票(注6)に持ち込まれたことは、極めて重要」と指摘した。また、「ジョージア州で起こったことが、米国の方向性を示している」と述べ、今回トランプ氏が勝ったテキサス州やノースカロライナ州でも今後、民主党が勝利する可能性を示した。今回、事前投票で100万人以上の黒人が投票したという。市民団体の活動に支えられ、黒人票もバイデン氏の勝利に大きく貢献した。これまで、共和党が有利とみられていた南部諸州で、マイノリティーの意識が変化し選挙結果に影響を与えた可能性がある。

ミシガン州―アラブ系コミュニティが民主党を支持

ミシガン州は、民主党と共和党の勢力が拮抗する「スイング・ステート」と言われる。今回選挙では、バイデン氏が得票率で2.8ポイント上回り勝利した。この勝利で、選挙の流れを変えるきっかけとなった。2016年の大統領選挙では、トランプ氏が0.2ポイントの僅差で勝利していた。

得票率では、地域別でデトロイトのあるウェイン郡ではバイデン氏が68%、隣接するオークランド郡で56%獲得した。州全体では、15万4,000票の差だった。

ミシガン州では、ラテン系有権者の割合は3.5%と比較的低い。今回の選挙ではアラブ系有権者がバイデン氏を支持し、同氏の勝利に貢献したと指摘された。同州には、27万人のイスラム教徒が居住する。また、デトロイトは全米でもアラブ系人口が集中する都市の1つだ。アラブ・アメリカン・インスティテュート(注7)などは共同発表で、「バイデン陣営の選挙運動では、民主党の支持基盤に向けたものに留まらない。加えて、東欧やアフリカ諸国など出身国別に地域社会へ働きかけた。とくに、アラブ系地域社会に積極的にアウトリーチ活動を行ったことが票の獲得につながった」と分析した。

米国のイスラム教徒の支援団体エムゲージ(Emgage)によると、ミシガン州では、早期投票や不在者投票だけでも8万1,000人のイスラム教徒が投票した。エムゲージは、全米でイスラム教徒の投票率を向上させるため「100万人投票キャンペーン」を展開。ミシガン州でも、メール発信220万件や電話46万件などで選挙運動したという。エムゲージのミシガン州支部は、白人至上主義や人種差別をトランプ氏が容認するかのような発言に反発し、バイデン氏の支持が高まったとみている。

また、同州有権者の13%を占める黒人層もバイデン氏勝利に貢献した。特にデトロイト市の8割の住民は黒人だ。デトロイト市に限っては、バイデン氏の得票率が94%に達した。

ネバダ州―選挙を動かしたラテン系有権者

ネバダ州では、バイデン氏が得票率で2.4ポイント上回り勝利した。2016年の大統領選挙では、民主党のヒラリー・クリントン氏が2.4ポイント差で勝利していた。

得票率では、バイデン氏はラスベガスのあるクラーク郡で53.7%獲得し、得票数ではトランプ氏を9万票上回り、同様に北部のワショー郡では、50.8%獲得し、1万票上回った。州全体では、3万3,000票の差だった。

ネバダ州では、ラテン系有権者の割合が19.7%と比較的高い。同州の食品サービス産業で働く労働者の組合(Culinary Workers Union)も、多数のラテン系組合員で占められている。同組合はトランプ政権の新型コロナウイルス対応に批判的で、バイデン氏を支持してきた。6万人のラテン系の組合員は、カジノやホテルなど観光業に従事し、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた。2020年8月から組合員の個別訪問を開始し、4万人のラテン系組合員にバイデン支持を訴えてきた。

支援団体ボート・ラティーノ(Vote Latino)によると、ネバダ州の事前投票で18~29歳のラテン系有権者だけで3万5,700人が投票した。2016年大統領選の際の投票者は1万9,200人に過ぎなかった。すなわち、2倍近く増加したことになる。ボート・ラティーノ傘下のボート・ラティーノ基金は、2020年9月に若年層をターゲットに「En La Lucha(英語でIn the Fight)」キャンペーンを開始した。これは、全米で100万人のラテン系有権者の投票を目指すのが狙いだ。接戦州での活動に、3,400万ドルを投じたという。ボート・ラティーノは、全米で2012年来の有権者登録が累積112万人、2020年選挙時だけでも60万人を達成した。ボート・ラティーノのマリア・テレサ・クマール会長は、アリゾナ、ネバダ、ジョージアなどの各州の選挙結果を見て、若年のラテン系有権者は、自身の票が今回だけでなく今後の選挙結果を動かす可能性も認識できた、と指摘した。


注1:
フロリダ大学のマイケル・マクドナルド教授作成のUnited States Elections Projectのデータ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に基づく。
注2:
2018年に亡くなったジョン・マケイン議員の空席を埋める選挙。
注3:
連邦最高裁は2012年7月に移民法(SB1070)の大部分を憲法違反と判示した。しかし、警官による移民の在留資格確認に関しては認めた。
注4:
例えば、LUCHAS(Living United for Change in Arizona)や、ミ・ファミリア・ボータ(Mi Familia Vota)など
注5:
Asian American and Pacific Islanderの略。
注6:
ジョージア州の上院2議席が、過半数を獲得する候補者がいなかったので、2021年1月5日の決戦投票に持ち越された。
注7:
全米のアラブ系アメリカ人の問題と関心について焦点を当てて活動する団体。

2020年大統領選、接戦州でマイノリティー市民は

  1. 有権者の多様性が進展、接戦州で勝敗要因に(米国)
  2. ラテン系有権者に多様性、きめ細かなアプローチが課題(米国)
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。

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