危機の背景に脆弱な経済構造(スリランカ)
新型コロナが引き金

2022年5月13日

人口2,000万人強のスリランカが現在、経済危機に瀕している。直接の契機は、新型コロナ禍で外国人観光客の来訪が止まったことにある。しかし、問題の根幹には、長年続く赤字体質の国家財政、貿易構造に由来する貿易収支赤字がある。これらマクロ経済の構造上の問題は、長年放置されてきた。それが表面化した結果といえる。

スリランカ経済が持ち直すには外部からの支援が必要ながら、それは地政学的な環境変化にもつながる可能性がある。

生命線の観光業が大打撃

スリランカ経済は、2021年は3.7%成長と、前年の3.6%減から回復の動きをみせた(2022年4月8日付ビジネス短信参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、2020年の成長率は2001年以来のマイナス成長と大幅に落ち込んでいた。その反動増に加えて、経済活動の正常化やワクチン接種の進展が回復に寄与した。2021年の成長率は、新型コロナ前の2015年から5年間の平均成長率3.7%と同じ伸びだった。

外国からの観光客動向は、スリランカ経済を左右する。政府は観光産業を最大の有望産業とし、主要な外貨獲得産業とみている。スリランカ観光開発局(SLTDA)が観光動向をまとめた報告書(24.91MB)によると、2019年のGDPへの寄与は4.3%。40万2,607人の雇用を生み出したとする。外国人観光客の動向が経済成長の鍵を握る。しかし、その入国者数は、新型コロナの影響から大きく減少した。2021年は、2019年比89.8%減の19万4,495人と激減した(図1参照)。本格的回復が見込みにくい現状は、今後の成長率の先行きを不透明なものにしている。

図1:2020年以降外国人観光客は激減
2009年以降、観光客は右肩上がりで増加していた中、2020年に発生した新型コロナによって、観光客数は激減した。

出所:スリランカ観光開発局(SLTDA)から作成

双子の赤字が新型コロナで拡大

2022年以降は、多くの国がウイズコロナ政策を打ち出している。本来であれば、スリランカに外国人観光客が戻って、力強い経済成長が期待されるシナリオが想定される。にもかかわらず、現況のスリランカは経済危機に陥っている。それは、スリランカ経済に構造的な問題があるためだ。新型コロナ前から、同国は財政と経常収支の双子の赤字を抱えていた。新型コロナの影響は、外国人観光客の大幅減による経常収支悪化だけではない。コロナ対策に伴う財政支出の結果、財政赤字の増加を招き、結果的に、双子の赤字をさらに拡大させた。

スリランカの財政収支は元来、財政支出が収入を上回る状態が恒常化していた。こうした財政赤字が、対外債務の返済を難しくした。その結果、2017年には債務返済と引き換えに、政府が中国に対して南部のハンバントタ港の99年間リースを認めた。それほど、スリランカの国家財政は追い詰められていた。IMFの統計からみると、財政赤字の対GDP比は、2021年には12.6%になった。財政の悪化は、海外借り入れを含め、政府債務の拡大につながる。債務残高がGDPに占める割合は、2021年に107.2%とGDPを上回る規模にまで膨れ上がった(図2参照)。

図2:拡大する債務・経常収支赤字
 名目GDPに占める一般政府債務残高の割合は上昇を続け、2021年には107.2%となった。10年前の2011年は71.1%だった。GDPに占める経常収支赤字の割合は4.3%と9年ぶりの高い比率だった。

注:2021年は予測値。
出所:"World Economic Outlook Database, April 2022"(IMF)から作成

スリランカの貿易は、アパレル、茶類などの農産品関連を輸出する一方、国際商品市況に左右される燃料や単価の高い機械類を輸入する構造となっている。それゆえに、貿易赤字体質が続いていた。この埋め合わせのため、外国人観光客の誘致が重要な外貨獲得の手段になっていた。しかし、新型コロナによる逆風によって、ヒトの流入が途絶え、経常収支の赤字は、2021年にGDP比4.3%と一気に拡大した(図2参照)。結果的に、外貨準備も大幅に減少し、債務返済のめどが立たなくなった。そのため、為替が大幅に減価し、それが輸入コストの増加を通じて貿易赤字、さらなる経常収支の赤字を招くという悪循環に陥っている(図3参照)。

図3:外貨準備の減少と通貨安が進行
図は外貨準備高と為替レートの推移を示している。外貨準備は2020年以降大きく減少している。為替レートについては、2018年以降、右肩下がりが続いている。

注:「外貨準備」の2022年値は3月値。為替レートは4月末値。
出所:スリランカ中央銀行、Rifinitivから作成

モノ不足で国民の怒り沸騰

今回の経済変調が危機にまで拡大したことは、民衆の動きにも象徴される。2022年3月31日夜、ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領の自宅近辺に、大統領退陣を要求するデモ隊が集結し、一部が暴徒化した(2022年4月12日付ビジネス短信参照)。政府は非常事態宣言と外出禁止令を発出し、デモの鎮圧に動いた。デモの理由の1つに、経済危機による消費者物価上昇(インフレ)率の上昇が挙げられる。インフレ率が国民の日常生活に実感できる悪影響を及ぼした点が響いた。3月のインフレ率は、前年同月比21.5%上昇した。2019年3月のインフレ率が2.9%だったことを踏まえると、国民にとって生活の厳しさが一気に深刻化したことがうかがえる。

政府はこれまで、外貨の流出を抑止するために、保護主義的な通商・為替管理政策を実施してきた(表参照)。中央銀行は2020年3月、為替の減価圧力を回避するために、自動車と非必需品の輸入に関する信用状の開設を停止すると発表した(2020年4月30日付ビジネス短信参照)。また、2021年10月からは、企業の輸出収入は、外貨で支払う必要がある経費以外は全てスリランカ・ルピーに強制換金する制度を導入した。これも、外貨流出防止策の一環だ。一連の輸入抑制政策は企業だけでなく、物資不足というかたちで家計にも跳ね返る。これら保護主義的な政策も、食料品や生活雑貨などのインフレ率押し上げの要因の1つとなっている。これが、政府が実施した2022年2月からの計画停電(2022年2月24日付ビジネス短信参照)やガソリンスタンドへのガソリン、ディーゼル燃料供給制限と相まって、国民の怒りに火をつけた。

表:輸入増加・外貨流出抑止のため保護主義的な政策を立て続けに発動
時期 通商・為替管理政策
2020年3月 自動車・バイクの輸入禁止を決定
2020年4~9月 非必需品などの輸入制限を開始
2020年5月 特定輸入品目(パーム油、砂糖など)に特別商品税を課税
2021年5月 化成肥料の輸入禁止(2021年11月に全面解禁)
2021年10月 輸出企業の輸出収入のスリランカ・ルピーへの換金義務
2022年1月 海外観光客の宿泊費の支払いは外貨払いに

出所:スリランカ中央銀行、財務省などの各種資料から作成

政策運営の不手際は、国民の怒りを政権に向かわせ、政府は内閣改造に踏み切らざるを得なかった。広範な抗議活動を背景に、4月3日にマヒンダ・ラージャパクサ首相を除く26人の閣僚が辞職し、4月18日には新たな内閣が発足した(2022年4月26日付ビジネス短信参照)。大きな変化は、ゴタバヤ大統領(国防相兼務)とマヒンダ首相を除き、ラージャパクサ一族が閣僚ポストから一切手を引いたことだ。ゴタバヤ大統領は就任式で、多くの政府機関は財政難に苦しんでいるとして、全閣僚に真摯(しんし)に効率的かつクリーンなガバナンスを実行するように求めた。しかし、政治への影響は続き、9日には、首相が辞任を表明した。

地政学的環境変化も

米国格付け大手S&Pグローバル・レーティングスは4月25日、スリランカの外貨建て国債の信用格付けを引き下げた。現時点のレーティングは、部分的な債務不履行に当たる「一部デフォルト」だ。IMFは翌日、支援の前提として政府に増税措置導入を要求した。スリランカの構造問題にメスを入れることを狙う。政府がこの要求を受け入れるかどうかにかかわらず、スリランカ経済は今後、厳しい局面に立たされることが避けられない。物価高や計画停電などは、日系を含めた外資系企業の投資環境の見方にもマイナスに働く。

そうした中、スリランカに関係の深い中国やインドが、支援を通じ関与に踏み込む意向も取りざたされる。その結果次第では、国際物流の要衝スリランカの地政学的な立ち位置にまで影響が及ぶ。それだけに、多くの関係者が人口2,000万人強の島国の行く末を注視している。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。

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