上海では操業再開の動きも3区分の動態管理が足かせに(中国)

2022年5月11日

新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、中国・上海市政府は4月1日から、全市を封鎖管理下に置いた。その後、市内各所の感染状況に応じた防疫管理体制へと移行。しかし、住民の市内移動容認や、企業や工場への出勤再開に向けた動きがスムーズに進んでいるとは言い難い状況にある。

本稿では、上海市による封鎖管理措置実施以降の規制緩和や従業員の職場復帰、企業の操業・生産再開に向けた課題をまとめた。

感染者数は減少傾向、防范区指定小区も増加

上海市政府は4月9日、追加的な市内全域のPCR検査を実施。感染者の発生状況などにより市内を「封控区」「管控区」「防范区」(注1)の3つに分けて管理するとした。さらに4月12日には、区分けした小区(マンション群、団地単位)の数と当該小区に居住する住民数を発表した(2022年4月14日付ビジネス短信参照)。

上海市での感染者数(無症状感染者を含む)は、封鎖管理開始後も増え続けた(最初に開始されたのは市内東部で、3月28日から。4月1日以降は全市に適用)。4月4日に1万人超、4月7日には2万人超。4月13日には2万7,720人と、ピークに達した。その後、感染者数は増減を繰り返しつつも減少傾向を示す。4月30日には1万人を下回った(図参照)。感染者数の減少に伴い、3区分のうち最も感染リスクが低いとされる「防范区」に該当する小区数と居住民数は、増加傾向にある(表参照)。

図:上海市の感染者数(感染者+無症状感染者)の推移
3月1日56人。3月2日66人。3月3日80人。3月4日53人。3月5日63人。3月6日96人。3月7日101人。3月8日101人。3月9日138人。3月10日115人。3月11日114人。3月12日79人。3月13日187人。3月14日154人。3月15日213人。3月16日179人。3月17日272人。3月18日392人。3月19日531人。3月20日777人。3月21日907人。3月22日995人。3月23日996人。3月24日1,626人。3月25日2,280人。3月26日2,684人。3月27日3,514人。3月28日4,489人。3月29日5,987人。3月30日5,657人。3月31日4,510人。4月1日6,313人。4月2日8,233人。4月3日9,018人。4月4日13,359人。4月5日17,082人。4月6日19,990人。4月7日21,229人。4月8日23,628人。4月9日24,954人。4月10日26,090人。4月11日23,347人。4月12日26,331人。4月13日27,720人。4月14日23,073人。4月15日23,519人。4月16日24,822人。4月17日21,845人。4月18日20,416人。4月19日18,903人。4月20日18,318人。4月21日17,629人。4月22日23,371人。4月23日21,058人。4月24日19,456人。4月25日16,980人。4月26日13,562人。4月27日10,622人。4月28日15,036人。4月29日10,182人。4月30日7,874人。5月1日7,337人。5月2日5,670人。5月3日4,986人。5月4日4,653人。5月5日4,271人。5月6日4,214人。5月7日3,977人。5月8日3,950人。

出所:上海市の発表を基にジェトロ作成

表:上海市の3区分管理の小区数、居住者数の推移
月日 封控区 管控区 防范区
小区 居住者
(万人)
小区 居住者
(万人)
小区 居住者
(万人)
4月12日 11,135 1,501 2,682 178 10,323 480
4月20日 16,650 1,188 13,304 448 28,075 786
4月28日 13,947 527 22,910 593 44,173 1,238
4月29日 15,895 444 21,230 539 49,651 1,378
5月1日 14,292 276 22,255 551 55,384 1,514
5月3日 12,435 239 20,808 519 47,861 1,578
5月4日 11,893 234 20,458 451 48,602 1,647
5月6日 10,390 235 19,403 403 49,277 1,686
5月7日 10,094 245 18,299 382 47,263 1,702
5月8日 9,829 230 18,281 362 46,464 1,737

出所:上海市および関係部署の発表を基にジェトロ作成

上海市疫情防控領導小組弁公室の顧洪輝副主任は5月1日の記者会見で、「上海市内各区の感染状況について、以下の通り述べた。

  • 現在上海市内で社会面基本的ゼロ(注2)の基準に合致しているのは、奉賢、金山、崇明、青浦、松江、普陀の6区。この6区では3区分を適切に管理し、社会面ゼロ(注3)の目標を早期に実現するよう努力する。
  • 社会面基本的ゼロを達成していない黄浦、静安、徐匯、長寧、虹口、楊浦、宝山、閔行、嘉定の9区は、引き続き厳しく管理。全住民をPCR検査などでスクリーニングし、社会面基本的ゼロをできるだけ早く実現するよう努力する。
  • 浦東新区は面積が広いため、街道と鎮に区分。区分ごとに相応の防疫措置を実施する。現在、浦東新区の宣橋、泥城、大団、万祥、老港の5鎮は、社会面基本的ゼロの基準に合致している。

そのうえで顧副主任は、今後の対応について、「(市内全域での)社会面ゼロが達成された後、上海市全域は予防・コントロールの常態化の段階に入る」とした。

操業再開に向け、取り組みが進む

上海市は、集積回路、自動車製造、装備製造、バイオ医薬など重点産業666社をホワイトリスト重点企業に位置づける。これらにリソースを集中して、該当企業の生産再開を優先的に進めている。また、上海市経済信息化委員会は4月16日、「上海市の工業企業の操業再開に伴う防疫対策の手引き(第1版)」を発表した。この動きに見られるように、操業再開に向けた取り組みを進めている(2022年4月18日付ビジネス短信参照)。ちなみに、666社のホワイトリスト企業の構成は以下の通りだ(「財新」4月18日)。

  • 自動車および自動車産業サプライチェーン関連:251社(ホワイトリスト全体に占める割合7%)
  • 医薬医療関連:184社(同6%)
  • 半導体・集積回路関連:83社(同5%)
  • エネルギー化学工業関連:66社(同10%)
  • 食品および食品加工関連:17社(同6%)
  • 航空宇宙関連:9社(同4%)。

張為上海市副市長は、4月22日の記者会見で「最近1週間(4月16~22日)で、666社の重点企業のうち70%が既に操業を再開。各社の稼働率も上昇している」と報告した(2022年5月2日付ビジネス短信参照)。また、上海市経済信息化委員会の張宏韜総工程師は4月30日の記者会見で、以下の通り報告した。

  • 第1弾ホワイトリスト企業の操業再開率は、80%を超えた。
  • そのうち自動車分野では、上海汽車グループの各完成車工場とテスラが完成車の安定的な量産ラインオフを実現した。
  • 半導体・集積回路分野では、中芯国際集成電路製造と上海華虹集団の生産能力利用率が90%以上を維持し続けている。
  • こうした重点産業のサプライチェーンの回復を持続的に保障しつつ、1,188社から成る第2弾ホワイトリストを策定した(企業リストなどは未公表)。一部の区では、このリストを基に、条件に合致する企業の操業再開を推進している。

製造業以外でも、操業再開の動きがみられる。上海市国有資産監督管理委員会は4月21日、「委員会が監督管理する企業の生産再開の推進に関する通知」を発表した。この通知では、地下鉄、バスなどの重点公共サービス企業および小売業、金融機関の窓口などの市民向けサービス企業の操業再開に向けた準備を進めるとしている(2022年4月26日付ビジネス短信参照)。また、上海市新型コロナ防疫ワーキンググループは上海市各部門に対して、「重点対外貿易企業の操業再開のガイドライン(試行)」と重点対外貿易企業142社から成るホワイトリストを通知した(「東方財富網」4月28日)。さらに、上海市商務委員会は4月26日、「対外貿易分野の重点物資輸送車両の通行証申請に関する通知(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。物流分野での操業再開に必要な通行証などを申請する際の窓口を示した(2022年5月2日付ビジネス短信参照)。

このように、操業再開を進める動きは活発化している。その一方、従業員が小区から出られないため、従業員が集まらないという問題も発生した。666社のホワイトリストに掲載された上海岱美自動車内装品の葉春雷販売総監は、SNS上で「出勤条件に合致する従業員は40%未満にとどまる。そこで、当局が通知したホワイトリストと職場復帰通知を持って小区を訪問。従業員の外出許可を求めた。しかし、管理会社と居民委員会は認めなかった」ことを明らかにした。ある新エネルギー自動車分野の企業幹部も「政府が提示した再稼働条件は非常に厳しく、閉鎖的生産の条件を具備していても、各小区から生産を最低限保証するのに必要な人員を出勤させるのは難しい」と述べている(「中国汽車報」4月28日)。

頻繁なPCR検査と3区分の動態管理が足かせに

上海市経済信息化委員会が発表した「操業再開における防疫対策の手引き」によると、職場復帰した従業員が生産活動を行う間は、閉鎖型管理の実施が求められている。そのため、日本企業からは操業再開のハードルは高いとの声も上がっていた。また、一度出勤した従業員は基本的に小区内の自宅に戻れなくなる。このことから、出勤を躊躇(ちゅうちょ)する従業員もいるとみられる。実際、従業員の工場復帰にあたり、本人の意思を確認している日系企業もある。確認するのは、居住する小区が防范区であることや、小区の居民委員会の外出許可が出ることだけでは足りないというわけだ。

上海市は、条件に合致する従業員などの職場復帰を進めるべく、「操業再開人員の職場復帰電子通行証(復工証)」や交通輸送問題を解決するための「電子通行証(通行証)」の発行をオンライン化したとする。復工証には、48時間以内のPCR検査陰性証明などの情報が反映されるという。その上で、自身の住むマンションの同じ棟に直近7日間で感染者がいないこと、抗原検査による陰性を確認できれば外出できるとした。通行証にも、PCR検査結果や抗原検査結果などの情報が反映されるとしている。

自宅がある小区から外出して経済活動に復帰し、活動を継続するためには、頻繁にPCR検査を受ける必要がある。上海市は4月29日、こうした経済的な負担を軽減するため、従来有料であった上海市の534カ所の常設PCR検査施設でのPCR検査を、5月1日から6月30日まで無料とすると発表。これにより、経済的負担は軽減されることとなった。

感染者数は減少し、全体として「封控区」から「防范区」への移行が進んでいる。しかし、現在の3区分は動態管理とされる。すなわち、PCR検査結果に基づく感染事例発生状況を踏まえ、区分が変更される。「防范区」で感染者が発生した場合には、逆に管理の最も厳しい「封控区」に移行することになる。このため、小区の居民委員会の中には、「防范区」に指定されていても住民の外出を認めないケースが目立つという。社会的ゼロ維持を実現するため、リスク回避を図るのがその狙いだ。住民側にとっても、自分が感染者になると居住マンション同棟の住民が封鎖管理を余儀なくされてしまうわけで、心理的な負担ともなっている。

繰り返しながら、上海市で封鎖管理からの規制緩和は進みつつある。しかし、3区分の動態管理が継続する状況下では、住民の感染状況次第で区分変更が容易に生じうるのが実態だ。こうした管理は、経済活動に必要な人員移動の足かせにつながる。これは、日系企業の操業再開に向けた動きにも影響を与える。

上海日本商工クラブは5月5日、「上海市封鎖管理による事業への影響等に関する実態把握(第2回)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公表(2022年5月6日付ビジネス短信参照)。その中でも、3区分の動態管理や工場の閉鎖管理を前提にすると、従業員の現場復帰が容易でないとの声が多く寄せられた。

上海市といえば、中国最大の経済都市だ。その経済活動の本格再開は、中国全体のマクロ経済や在中日系企業のビジネス環境を見通すうえでも、極めて重要といえる。当局には、感染拡大防止と経済活動の本格再開という「二兎(にと)」を追うことができる政策の展開を期待したい。


注1:
「封控区」「管控区」「防范区」は次のとおり。
  • 「封控区」:
    直近7日間に感染者が報告された小区(マンション群、団地単位)。住民は、7日間の封鎖管理、その後7日間の自宅健康管理下におかれる。 なお、封鎖管理期間中は住居から出ることができない。自宅健康管理期間中は住居から出られる一方、小区を出ることはできない。
  • 「管控区」:
    直近7日間に感染者が報告されていない小区。住民は7日間の自宅健康管理となり、小区を出ることはできない。
  • 「防范区」:
    直近14日間に感染者が報告されていない小区。行政区域内(街道、鎮)での適切な活動は可能。「封控区」「管控区」への移動は避ける。
注2:
「社会面基本的ゼロ」とは、行政区単位で、社会面(管控区、防范区、および非閉鎖管理の社会流動人員などを含む)の陽性感染者数の割合が、3日連続して、当該行政区内総人口の10万分の1未満に収まる状態。
注3:
「社会面ゼロ」とは、行政区単位で、社会面の陽性感染者数が3日連続してゼロになる状態。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月よりジェトロに出向し現職。