インドネシアで強まる国産品優先政策と国産化率
工業省、国営検査機関が日系企業向けに情報提供を実施

2022年5月27日

インドネシア政府は、2018年から国産品優先(P3DN)政策を実施している。同政策は、産業の競争力強化についてのプログラムで、インドネシア産の原材料・部品の利用を積極的に促進するものだ。2021年2月10日には、アグス・カルタサスミタ工業相が「国内産業を発展させるためP3DNの取り組みを加速していきたい」と発言し、同政策を強化する姿勢を見せている。工業省は、2022年に国産品への輸入代替目標を2019年の35%としている。

P3DN政策は、政府調達品について満たすべき国産比率を指定しているうえ、間接的な影響として、完成品の輸入許可も運用が厳格化する動きをもたらしている。そのため、さまざまな日系企業の製品を含む、多方面の品目で影響がでているのが実情だ。本レポートでは、ジェトロが実施したセミナーの内容を踏まえた、P3DN政策と国産化率や政府調達の概要、および最近の輸入制限の事例を紹介する。なお、同セミナーでの工業省の講演資料PDFファイル(2.92MB)、スコフィンドの講演資料PDFファイル(4.07MB)(いずれも日本語)もご参照いただきたい。

強まる国産品優先(P3DN)政策の概要

ジェトロ・ジャカルタ事務所は2022年3月9日、工業省と国営の審査・管轄機関であるスコフィンドを招き、P3DN政策の背景と、その中核となる国産品の定義や国産化率(TKDN)の算出方法を解説するウェビナーを実施した。 P3DNについて定めた政令2018年第29号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(インドネシア語)によると、同政策は、商品に対するTKDN証明書付与などを通じ、国産品の競争力強化、国産品利用促進を図ることを目的とする(2021年4月14日付ビジネス短信参照)。工業省は、省内にP3DN推進センターを設置し、同政策を推進している。工業省国産品利用向上センターのガバナンス・認証担当調整官であるアルネス・ルクマン氏はウェビナーにおいて、P3DNの趣旨は(1)インドネシア国内での雇用促進効果、(2)国内生産による技術力の向上効果だ、と説明した。また、同省は日本との関係について、ものづくり産業(製造業)の新規投資を期待しているとのことだった。

特定の商品や政府調達で義務化される国産化率(TKDN)

政令2018年29号によると、TKDNは、原材料、労働力、製造間接費などの生産要素・コストにおいて、どれだけインドネシア国内の要素を使用しているかで算出される。算出を行うのは、政府が指定する審査・監査機関だ。工業省が指定するのは、国営のスコフィンドとサーベイヤーインドネシアだ。これら2社は、企業からの申請に基づき個別の商品のTKDNを審査の上、審査合格証を発行する。企業はこれらの審査合格証をもって、工業省にTKDN証明書を申請する流れとなる。

企業がTKDN証明書を必要とするのは、主に次の2つの場合だ。1つ目は、工業省によって特定の商品の国産化率が定められている場合だ。これまでに、携帯電話[工業大臣規定2017年第29号(インドネシア語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.83MB)]、太陽光発電関連機器(工業大臣規定2017年第4号)、バッテリー電気自動車[工業大臣規定2020年第27号(インドネシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ]などで、個別商品ごとに国産化率の算出規定が定められている。

2つ目は、政府調達品の場合だ。政府調達品は国産品を使うことが義務とされ、国産化率40%以上の製品が国産品と定義されている(注)。この国産化率については、そのうち15%は「企業貢献指数(BMP)」が加味される。BMPとは、インドネシアで投資・生産を行い、国内経済に利益をもたらした企業の評価値だ。パートナーシップを通じた零細・小企業および協同組合の能力強化、安全・衛生・環境の維持(ISO14000などの取得有無によって算出)、コミュニティ能力強化、アフターサービス施設の提供、の4要素から算出される。仮にBMPが15%あれば、製品自身の国産化率は25%でよいことになる。つまり、原材料のほとんどが輸入品であっても、それだけで国産化率を満たさないというわけではなく、例えば、インドネシア産の生産設備を利用し、インドネシア人スタッフが作業を行っていれば、それらのコストは国産化率に加味される。また、社内で労働安全衛生や環境維持のための取り組み、アフターサービス施設の提供などを行っていれば、それらのコストがBMPに加味される。

政府調達における運用厳格化で日系企業にも影響

ここで、インドネシアの政府調達についてより詳しく解説すると、中央政府、地方政府および国営・公営企業(例:国立病院、国営企業のPLN、プルタミナ)などの公共事業体による購入・調達(注)が該当する。工業省によると、年間の調達規模は約10兆円となる。政府調達における調達者(公共事業体など)は、購入したい商品を政府調達庁(LKPP)が作成したE-カタログから選定する。このため、サプライヤー(企業)はE-カタログへの登録が必要になるが、直接サプライヤーからLKPPに申請はできず、まずはエンドユーザーである公共事業体からLKPPへ個別に推薦状をだしてもらう必要がある。それを基に、LKPPでE-カタログ登録資格の検討を行い、登録資格を得た場合、カタログに掲載される特定の品目の入札に参加できる。落札した場合は、商品がカタログに登録される。

E-カタログに登録されると、原則2年間有効となる。有効期限が切れた商品は、E-カタログ登録入札会が繰り返されることになる。政府調達品は国産品が原則のため、輸入品のE-カタログへの登録は、国産品が存在しない場合または量的不足がある場合のみ可能だ。

工業省は、政府調達における国産品活用義務の運用を強化しており、日系企業の製品がE-カタログに登録できないという事例も発生している。代表的な例としては、輸入品が多くを占める医療機器だ。工業省は2021年6月15日、医療機器産業の発展を推進することにコミットすると発表し、国内生産される358種類の医療機器のリストを公表した。うち79種類は輸入品も流通しているが、そのうち現地調達率(TKDN)が40%を超えていない製品は、政府調達の対象から外れることになる(2021年7月8日付ビジネス短信参照)。

輸入規制の運用面にも影響、潤滑油や補完材など多方面

ここからは、ジェトロによるインドネシアの日系企業に対するヒアリングなどから、最近の輸入制限・引き締めの動向について紹介する。政府調達における国産品義務は、輸入規制ではなく国内流通規制にあたり、企業が製品を輸入後、民間に販売することは自由だ。しかしながら、インドネシアには以前から、さまざまな分野で輸入規制が存在し、最近では、広い意味での国産化推進とみられる、運用上の締め付けが散見されるようになっている。

特に多発していて注意が必要なのは、輸入許可取得までに、これまで以上に時間を要するケースだ。さらに、輸入許可の申請過程で、輸入が必要である理由・国産代替品の有無・国産化に切り替える予定の有無などを、工業省から確認され、回答内容によって許可される輸入量や許可期間が削減される事例がでている。

具体的事例としては、インドネシア国家規格(SNI)の強制品目、補完材(パススルー品)が挙げられる。潤滑油や鋼材、ガラス製品など多岐にわたるSNI強制品目は工業省、パススルー品は商業省の輸入許可がそれぞれ求められる。日系メーカーによると、SNI強制品目の潤滑油についてインドネシアに製造工場を有しているものの、これまで売り上げの小さい品目については完成品を輸入し販売していた。しかしながら、工業省の指摘を受けて、そうした品目も国内生産に切り替える準備をしている。また、日系の自動車部品メーカーによると、特定の部品では輸入許可期間が1年間から半年へ、輸入量も半分に減らされたケースがでている。

P3DN政策の狙いはインドネシア国内生産への移行

このように、インドネシアのP3DN政策は、携帯電話などの特定の商品や政府調達品における国産化比率の指定に加え、その間接的な影響が輸入規制まで及んでいるとみられる。ジェトロのウェビナーで工業省が述べたように、インドネシア政府の意図は、完成品の輸入から、インドネシア国内での生産(直接投資)またはインドネシア国内での委託加工を通じ、国産品活用に移行してもらうことである。また、輸入代替の優先順位としては、国産メーカーが存在している商品、国産品に切り替えが可能と思われる商品、輸入金額が小さい商品から輸入代替を促進し、完成品輸入の締め付けを行っているものと思われる。

企業にとっての影響は、輸入手続きの面でより広範にみられている。もし輸入許可が滞る場合は、国産化への意思表示を明確にして、そのロードマップ(国内生産のための移行期間の計画表)を基に、移行期間中の輸入認可をもらうことを交渉していくことが肝要だろう。インドネシアには以前から、さまざまな分野で輸入規制が存在し、関連法令が急きょ改正されることや十分な普及がないまま施行されることも多い。本レポートで取り上げたように、政府の政策と運用で、輸入が難しくなるケースもあることから、輸入関連の法規制と運用実態については、今後も注意深く情報収集することが必要だ。


注:
産業能力強化に関する政令2018年第29号第57条では、国産品の利用が義務付けられている利用者として、以下の者が規定されている。
  1. 国内外のローンまたは無償支援を含め、国家予算、地方予算を財源とする物品/サービス調達の場合、国家機関、省庁、地方の業務ユニット
  2. 次に該当する物品/サービス調達において、国営企業、その他国有法人、公営企業、および民間事業体:
    1. 資金調達が国家予算または地方予算に由来する
    2. 中央政府および/または地方政府と事業体との協力を通じて実施される工事
    3. 国家が占有する資源の事業化

関連法令

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 経済連携促進アドバイザー
中沢 稔(なかざわ みのる)
1982年、総合商社に入社。1998年ジャカルタ駐在、2013年韓国駐在、2016年にインドネシアのプルワカルタの自動車部品メーカーへの出向を経て、2018年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。