深刻な干ばつの影響を受け、2019年は発電量が減少(ラオス)
レジリエンスの強化が課題

2020年9月7日

2019年のラオスの電力の総発電量は、3万1,227ギガワット時(GWh)だった。前年比9.3%減と、かなり落ち込んだことになる。重度の干ばつにより、水力発電で十分な貯水が確保できなかったことが主な理由だ。

一転して2020年は、十分な雨量に恵まれている。また、発電所の運開(商業運転の開始)も進むことから、4万1,340GWhと前年比32.4%増になる見通し。今後は、電力開発セクターにおいても、干ばつや洪水などの気候変動へのレジリエンス(対応能力)のさらなる強化が求められる。

2019年は干ばつの影響を受けて発電量が減少

ジェトロが2020年8月下旬にエネルギー鉱山省エネルギー政策計画局から入手した2019年電力統計によると、2019年1~12月の総発電量は3万1,227GWhで前年比9.3%の減少となり、当初計画の3万3,875GWhを7.8%下回った(図1参照)。水力発電は現状、総発電容量(注)の約8割を占める。しかし2019年は、過去の年平均の50%の降雨量しかない重度の干ばつだった。このためダムの貯水量が最大時でも6割程度で、十分な発電ができなかったことが原因だ。

事実、発電量では、水力が1万9,669GWh 、火力、太陽光、バイオマス発電が1万1,558GWhだった。水力による発電量は全体の約6割に低迷したことになる。また、2019年11月には、ラオス北西部を震源としたマグネチュード6.4の地震が発生。インドシナ地域としてはまれな規模の地震だ。発電所に対する現実の被害は少なかったものの、震源に近いホングサー火力発電所や一部の大型水力発電所が、点検のため操業を一時停止せざるを得なかった。このことも、発電量に影響したとみられる。

発電所は、2018年末の61発電所〔発電容量7,207メガワット(MW)〕から、2019年末には73発電所(9,531MW)に拡大した。特に、2019年9月に関西電力の投資で建設されたナムニアップ1ダム(290MW)、10月にはメコン川本流ダムであるサイニャブリダム(1,220MW)、12月にはドンサホンダム(260MW)や2018年7月に建設中に決壊事故を起こしたセーピアン・セーナムノイダム(410MW)がそれぞれ商業発電を開始した。

図1:ラオスの総発電量(GWh)、総輸出量(GWh)、総輸入量(GWh)、総発電容量(MW)の推移
ジェトロが8月下旬にエネルギー鉱山省エネルギー政策計画局から入手した2019年電力統計によると、2019年1~12月の総発電量は3万1,227GWhで前年比9.3%の減少となり、当初計画の3万3,875GWhを8.5%下回った。

出所:ラオス・エネルギー鉱山省エネルギー政策計画局の資料からジェトロ作成

輸出が減少、電力不足を輸入で補完

ラオスでは数年来、発電した電力の8割程度を輸出してきた。しかし、2019年の総輸出量は2万4,399GWhと前年比10.4%減となった。うち、タイへの輸出は2万3,167GWh(10.0%減)、ベトナム1,089GWh(22.4%減)、カンボジア129.2GWh(2.2倍)、マレーシア13.5GWh(19.3%減)、ミャンマー1.6GWh(2.1倍)となった(表1参照)。カンボジア向けは、ラオス南部に建設されたドンサホンダム(260MW)が完成したことで大きく増加した。またミャンマー向けの増加は、メコン川を越えて22kv送電線による送電が徐々に拡大してきた結果だ。なおマレーシアへは2018年から2019年末まで、電力相互融通プロジェクト(LTM-PIP)に基づき、タイの送電線を経由して100MWの契約で輸出されることになっている。

表1:ラオスからの電力輸出(GWh)(△はマイナス値、-は値なし)
国名 2017年 2018年 2019年
GWh GWh GWh 前年比
タイ 23,921.5 25,736.7 23,165.5 △10.0%
ベトナム 1,024.1 1,404.2 1,089.4 △22.4%
カンボジア 52.7 58.3 129.2 121.7%
マレーシア 16.7 13.5 △19.3%
ミャンマー 0.2 0.8 1.6 106.3%
合計 24,998.5 27,216.8 24,399.3 △10.4%

出所:ラオス・エネルギー鉱山省エネルギー政策計画局の資料からジェトロ作成

また、ラオスの国境付近では、国内グリッドを接続するよりも、周辺国から電力を輸入した方が低コストで安定的に電力を確保できる。このため、中国やベトナムからの輸入が行われている。また、乾季(11月~5月)は、特に電力消費の多い都市部で電力が不足しがちで、主にタイからの輸入が行われてきた。ただし近年、ラオス国内各地で発電所の整備が進み、電力輸入自体が徐々に減少してきた。

2019年の電力輸入は、やはり重度の干ばつの影響を受ける結果となった。輸入総量は1,344.7GWh。前年比4.5倍の大幅な増加だ(表2参照)。特に、タイからの輸入が前年比5倍と大幅に増えた点が特徴的だ。2019年は、通常の雨季のシーズン(5月~10月)になっても降雨が少なかった。8月にようやく輸入が底打ちしたものの、9月には再びタイからの輸入が必要になった(図2参照)。

表2:ラオスの電力輸入(GWh)(△はマイナス値)
国名 2017年 2018年 2019年
GWh GWh GWh 前年比
タイ 424.6 260.7 1,305.5 400.8%
ベトナム 26.3 25.6 29.9 16.8%
中国 48.1 14.2 9.3 △34.4%
合計 499.0 300.5 1,344.7 347.5%

出所:ラオス・エネルギー鉱山省エネルギー政策計画局の資料からジェトロ作成

図2:2018年と2019年のタイからの月別電力輸入量(GWh)
電力輸入総量は特にタイからの輸入が前年比401%増と大幅に増えた点が特徴である。2019年は通常の雨季のシーズン(5月~10月)になっても降雨が少なく、8月にようやく輸入が底打ちしたものの、9月には再びタイからの輸入が必要となっていた。

出所:ラオス・エネルギー鉱山省エネルギー政策計画局の資料から筆者作成

2020年は順調な発電の見通し、レジリエンスへの課題も残る

2020年初の時点では、2019年の干ばつの影響を受け、2020年3~6月の乾季に電力供給不足によるブラックアウトが生じる可能性があるとの懸念が出ていた。このため、大規模工場に対して、通常の電力使用量を50%削減するよう通達〔2020年2月10日付 節電要請に関するエネルギー鉱山大臣告示(No.0516/MOEM)〕が発せられた。結果的には、3月30日から5月3日にかけて新型コロナウイルスによるロックダウンが実施され、電力消費も落ち込んだことから、ブラックアウトは発生しなかった。

6月下旬~7月上旬に開催された第9回国民議会において、トンルン首相は2020年1~5月の総電力生産が1万8,808GWhとなり、2020年通年で4万1,340GWh(前年比32.4%増)となる見通しを発表した。2020年は、例年並みの降雨となる見通しで、貯水率が回復するとみられる。加えて、発電所も、ナムウー1.3.4.7連続ダム(732MW)などで順調に運転開始が進む見込みになっている。

また輸出は、3万6,656GWh程度が計画される。特に、カンボジア向けには送電基盤の強化が輸出増に寄与するだろう。2020年1月からは500kv送電線がカンボジア北部のストゥントレン州変電所まで接続された(これまで115kv送電線を使用して輸出)。これを利用したドンサホンダムからの本格的な輸出がスタートした。マレーシア向けには、2020年1月~2021年末までの契約で、これまでの3倍の容量となる300MWの電力販売(LTM-PIP2.0)が開始されている。

ラオスでは近年、気候が安定しない。2018年は、豪雨による洪水などの被害が各所で多発した。セーピアン・セーナムノイダムの決壊もその一例だ。また、2019年は干ばつと局地的な洪水が大きな被害をもたらした。今後は、このような気候変動へのレジリエンス(対応能力)のさらなる強化が求められる。


注:
ここでの発電容量は、発電機の発電能力を示す。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員