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新型コロナ感染拡大続くグジャラート州、日系製造業は8割超が操業再開(インド)
労務課題や駐在員の負担増などの問題も

2020年6月22日

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うインド全土のロックダウンは3月25日に始まり、なおも延長されている。しかし、「ロックダウン4.0」(5月17日~5月31日)の下で、経済活動再開に向けた規制緩和も見られた。北西部のグジャラート州では、5月下旬にスズキ・モーター・グジャラート(SMG)、ホンダ二輪第4工場などの自動車メーカーや関連サプライヤーが操業を一部再開した。一方、再開に向けた標準作業手順(SOP)に基づいた現地従業員や日本人駐在員の新型コロナ禍対策徹底の難しさが露呈している。本稿では、感染者増加が依然として続く同州の現状と、進出日系企業が抱える課題を取り上げる。

発注量減で本格的再開までには及ばず、労務課題も発生

グジャラート州政府産業コミッショナーのラフル・グプタ氏は、州全体の産業の8割が既に操業を再開していると発表した(6月3日付「ファイナンシャル・エクスプレス」紙)。ジェトロがヒアリングした日系製造業約40社でも、8割超が操業再開、または在庫調整後すぐに製品を出荷できる状態だ。「ロックダウン2.0」の発令(2020年4月20日付ビジネス短信参照)で4月20日以降、工業団地での一部操業が認められた。このため、同州最大都市アーメダバードの中心部から北西に位置するマンダル・ベチャラジ地域やサナンド地域に入居する日系企業は、製品の棚卸しや機械メンテナンス作業、工場敷地や食堂、トイレ、執務室の消毒作業、従業員の健康状態確認や移動手段確保など、操業再開に向けた準備を進めていた(2020年4月24日付ビジネス短信参照)。5月下旬には、スズキ・モーター・グジャラート(SMG)、ホンダ二輪第4工場の完成車メーカーと一部の日系部品メーカーが操業を再開した。

一方で、取引先からの発注量が大幅に減少している。この結果、本格的に生産を再開できるまでには至ってない。また、SOPに基づいて工場稼働時間を短縮せざるを得ない。そのため、ワーカーの人数が制限される。このことから、5月分の給与削減措置や州外の契約社員の一部解雇で人員整理を行うとともに、当面の資金繰りを確保する企業も多い。操業を再開した企業からは「正規従業員だけを出社させ、派遣社員は自宅待機の状態。数十人の契約社員を解雇した」「工場内の消毒作業やソーシャルディスタンスの確保など、操業再開に向けたSOPを実際の現場で働くワーカーや派遣スタッフにどのように順守してもらうのか試行錯誤中」といった声がある。

感染者数は5月の1カ月間で3.6倍、6月末までに2万7,000人を超える見通しも

グジャラート州は、インドで4番目に感染者が多い。マハーラーシュトラ州とタミル・ナドゥ州、デリー準州に次ぐ(表参照)。6月1日時点で同州の累計感染確認者数は1万7,200人だった。4月30日までの3.6倍に上ったことになる。図からも、感染拡大の深刻化が読み取れる。

表:感染確認者が多い州の新型コロナ感染状況一覧(6月16日時点)
州・都市 感染確認者(人) 治療患者(人) 死亡者(人) 致死率(%)
マハーラーシュトラ州 113,445 50,044 5,537 4.88%
階層レベル2の項目ムンバイ市 60,228 26,012 3,167 5.26%
タミル・ナドゥ州 48,019 20,709 528 1.10%
階層レベル2の項目チェンナイ市 34,245 15,261 419 1.22%
デリー準州 44,688 26,351 1,837 4.11%
グジャラート州 24,628 6,004 1,534 6.23%
階層レベル2の項目アーメダバード市 17,299 4,011 1,231 7.12%
インド全体 355,060 155,375 11,922 3.36%

出所:ウェブサイト(https://www.covid19india.org/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を基にジェトロ作成

図:グジャラート州およびアーメダバード市内の感染者数推移(累計)

出所:政府サイト(https://www.covid19india.org/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )を基にジェトロ作成

5月1日以降の急激な感染者拡大を受け、アーメダバード市では、(1)5月6日付で、同市行政区による完全ロックダウンを発表する(2020年5月14日付ビジネス短信参照)、(2)5月11日付で、従業員の健康診断結果の報告を義務化する(2020年5月15日付ビジネス短信参照)など、独自の対策を講じてきた。しかし、感染拡大防止には結び付いていない。また、感染者数も直近2週間(5月26日~6月8日)では平均して1日当たり442人の増加だったが、それ以降は連日500人前後だ。引き続き拡大傾向にあるわけだ。6月中には感染確認者が2万7,120人になるとの予測(ARIMAモデルによる推定値)も出ている(「タイムズ・オブ・インディア」紙6月4日)。

さらなる感染拡大も考えられる。州内感染者の約7割を占めるのがアーメダバード市だが、6月8日以降、ホテルやレストラン、ショッピングモールの営業が再開された。なお、州独自のガイドラインにより、感染の疑いのある患者にはPCR検査実施前の入院が義務付けられていた。このため、検査結果が出るまでに感染者と濃厚接触するリスクにさらされ、感染者数の増大につながったのではないかとの指摘もある(「タイムズ・オブ・インディア」紙6月7日)(注)。

加えて、同州・同市内での致死率の高さも問題視されている。インド全体の3.4%に対し、グジャラート州は6.2%、アーメダバード市は7.1%だ(表参照)。その原因として、以下の指摘がある(BBCニュース、6月14日付)。

  1. 私立病院は、受け入れ態勢が逼迫しているため、感染の疑いのある患者を受け入れてもらえない。州立病院は医療体制が整っていないとのイメージがある。このため、患者が病院に行きたがらない。この結果として初期対応が遅れた。
  2. 新型コロナ感染への不名誉感から、検査を受けたがらない人が多い。
  3. 人口が密集し感染が拡大している封じ込めゾーンで、検査数が少ない。このため、感染状況の把握や対策が十分でない。

さらに、市内には外国人専用の新型コロナ対策病院がなく、日本語で受診可能な病院もない(会社などで契約した医療サービスを利用し、電話での通訳を介した医師とのコミュニケーションは可)。すなわち、日本人駐在員にとっては万全な医療体制ではないことも課題といえる。滞在中の日本人駐在員は「州立病院はもちろん私立病院ですら、実際に自分が罹患した場合に適切な処置を行ってもらえるのか疑問だ。日本では治癒できた症状でも、当地では重症化するリスクもあり、非常に不安」と話す。

ロックダウン長期化を見据え、本社を含めて現地駐在員の安全対策を

ロックダウンの長期化は、操業のための工場建設や操業再開に向けて活動する駐在員にとって先の見通せない状況を招いている。グジャラート州はデリーなど他州に比べ、平時でも日本人駐在員にとって厳しい生活環境にある(例えば、日本食レストランや日本食材、肉魚類などの販売点数が非常に少なく、禁酒州であるため酒類の購入量が制限される)。そんな中、ロックダウン直後の市内は警察による検問が厳しく実施され、スーパーマーケットなども営業停止を余儀なくされた。また、自宅待機要請により不要不急の外出が認められず、かつ車などの利用が制限されたため、多くの駐在員が工業団地周辺のゲストハウスや自社寮に閉じ込められる事態になった。この状況を踏まえ、ジェトロは4月に3度ほど食材や日用品をアーメダバード市内で調達し、工業団地に滞在する日系企業の複数人に配送するなどの緊急対応を実施した。


日本人駐在員がよく使うスーパーも一時期閉店に
(3月31日、ジェトロ撮影)

アーメダバード市内のS.G.Highway沿いで集中的に
検問を実施(3月31日、ジェトロ撮影)

日系企業に配送する食材・日用品
(4月24日、ジェトロ撮影)

食材の確保以外にも、課題が山積している。駐在員に発症の疑いが出た場合、アーメダバード市内までの移動や病院の予約、同行アテンドなどの一時対応をどのように円滑に行うのか、心身の不調を訴える駐在員への対応など、操業再開にかかる業務以外での検討事項も多い。駐在員の精神的負担が増している。

本社側とのオンライン会議などを通じて、健康状態や業務状況を定期的にフォローアップする、ロックダウン長期化を見据えた各種安全対策の見直す(事態がさらに悪化した場合の一時退避シミュレーションを検討するなど)動きも見受けられる。課題の対応に当たっては、駐在員と本社側で共通認識を持つことが必要になっている。


注:
グジャラート州政府は6月12日に、新型コロナウイルス感染の疑いのある患者に対する検査ガイドラインの見直しを発表した。この結果、アーメダバード市内におけるPCR検査の実施に関わる入院義務が同日から廃止された(2020年6月17日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。

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