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新型コロナ禍に伴う制限措置緩和と経済回復に向けた模索が続く(ドイツ)

2020年6月30日

ドイツでは、新型コロナウイルス感染拡大の第2波を警戒しながらも、商業施設、文化施設の営業再開や出入国制限などの緩和措置が次々と打ち出されている。感染経路追跡アプリも導入された。

メルケル現政権の対策に向けた国民の評価は高い。しかし、2カ月以上続いた制限措置がドイツ経済に及ぼした影響は大きい。2020年の経済見通しは厳しく、労働市場への影響も懸念されている。このため政府は、3月の経済対策に加えて、2020年および2021年にかけて実施する約1,300億ユーロ規模の経済対策第2弾を決定した。

経済正常化への回帰に向け、緩和を進める

ドイツでは、経済再開に向け、感染拡大対策の緩和が続いている。5月初旬からは各州で、店舗面積の規模にかかわらず全店舗の営業再開を認められた。このほか、レストランや観光目的のための宿泊施設の営業、劇場・オペラハウス、映画館といった文化施設についても、各連邦州の判断で部分的・段階的に再開されている。多くの日本人選手が所属するサッカー・ブンデスリーガも5月後半から無観客試合で再開された。このように、徐々にではあるが、日常の生活への回帰が実現しつつある。また3月中旬から導入されていたルクセンブルク、オーストリア、フランス、スイス、デンマーク、イタリアおよびスペインからの入国を対象にした暫定的国境管理(注1)についても、夏季休暇シーズンを前に、6月15日までにスペインを除き解除された。さらにスペインについても、6月21日に期限切れとなった。

一方、感染拡大第2波への危機感もある。先述の国内緩和措置については、1つの市郡の新規感染者数が過去7日間で10万人当たり50人を超えた場合、制限措置が市郡ごとに再導入される。実際、緩和後には教会でのミサや食肉工場、複数家族間でのパーティーなどで、集団感染(クラスター)が発生した事例も報告された。特にノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州内の精肉工場で発生した集団感染では、1,400名以上の感染が発覚するなど、連邦政府の緩和方針策定後、最大のクラスターに発展した。これを受け、アルミン・ ラシェットNRW州首相は、6月23日、工場が所在するギュータースロー郡および隣接するバーレンドルフ郡に3月に州内で実施されていた制限措置を一時的に再導入する旨を発表している。

自国民の海外渡航に関しては、不急不要の渡航に対してドイツ政府が警告を発していた。多くの欧州諸国について現在、その警告が解除されている。一方、日本を含むその他の国・地域は、状況に応じて個別に早期解除される可能性に含みを持たせつつも、当面8月31日までの渡航警告の延長が閣議決定されている。

このほか、感染防止策の1つとして、新型コロナウイルス感染経路追跡アプリが6月16日から導入された。ドイツテレコム子会社のT-SystemsとSAPが開発に携わったこのアプリは、ブルートゥース(無線通信規格)を使い、スマートフォン同士が互いの匿名IDを交換、一定期間保存する仕組みだ。プライバシー保護の観点から、地理データの評価も位置情報の送信も行われない。利用者同士の接触に関する履歴は、匿名ID同士の接触履歴として暗号化された形で利用者端末に記録される。同時に、感染経路を特定するために接触履歴のみが政府サーバに集約される。アプリを利用するか否かは個人の自由で、義務化はされていない。

政府対応には、依然として高い評価

ドイツ公共放送局ARDの世論調査(回答者:1,005人、調査期間:6月2~3日)によると、連邦政府による新型コロナウイルスの一連の対策は、依然として高く評価されている。前回実施時から若干ポイントを落としているものの、「とても満足」または「満足」とした回答者の割合が62%に及ぶ(表1参照)。

表1:連邦政府による一連の新型コロナウイルスの対策について(△はマイナス値)
項目 回答者の割合(%) 2020年5月との比較
とても満足 9 △1
満足 53 △1
あまり満足していない 26 0
全く満足していない 12 3

出所:ドイツ公共放送局ARD

また、制限の緩和について回答者の56%は「正しい」と回答。「緩和度合いが過度」(29%)、「緩和度合いが不十分」(13%)と比較して支持する声が多い(表2参照)。

表2:新型コロナウイルス対策に関する制限緩和措置について(△はマイナス値)
項目 回答者の割合(%) 2020年5月との比較
緩和度合が過度 29 4
正しい 56 △2
緩和度合いが不十分 13 △2

出所:ドイツ公共放送局ARD

新型コロナウイルス感染経路追跡アプリの利用予定について、回答者の42%が「利用する」と回答した。一方、39%が「利用しない」と回答、16%は携帯電話またはスマートフォンを持っていないなどの理由で対象外となった(表3参照)。「利用しない」とした回答者のうち45%は、個人情報保護の観点、監視を受けることへの反発など個人の権利に関する懸念を理由として挙げた。同じく13%は「アプリの機能や効果に懐疑的」「他の対策の方が優れていると考えている」などの理由を挙げている。

表3:新型コロナウイルス感染経路追跡アプリの利用予定
項目 回答者の割合(%)
利用するつもり 42
利用するつもりがない 39
対象外(携帯電話を持っていない、など) 16

出所:ドイツ公共放送局ARD

厳しい経済予測と悪化する労働市場

2カ月以上続くロックダウンは、経済に大きな影響を与えている。経済・エネルギー省(BMWi)は4月29日、2020年から2021年にかけての経済予測を発表した。2020年の実質GDP成長率は、前年比マイナス6.3%と落ち込む。しかし、2021年には、2020年比でプラス5.2%まで回復するとの見方を示した(2020年5月7日付ビジネス短信参照)。2020年の予測を需要項目別にみると、世界経済全体の深刻な景気後退と外需減少の影響で、輸出は前年比11.6%減と大幅に減少する。国内経済を過去数年にわたって牽引してきた内需についても、4.5%減と厳しい予測を示した。産業分野における投資意欲の減退はさらに深刻だ。機械設備投資は15.1%減となると指摘している。さらに政府の経済諮問委員会(通称「五賢人委員会」)が6月23日に発表した2020年および2021年の経済予測では、前回3月30日に発表した経済予測よりさらに悪化する可能性を指摘した。2020年の実質GDP成長率(季節調整済み)は前年比6.9%減、2021年に同4.9%増加するとし、GDPが危機前の水準に戻るのは早くとも2022年になる見方を示している。

国内主要経済研究所の1つであるifo経済研究所は6月8日、国内製造業の向こう3カ月の生産予測に関するアンケート調査結果を発表した(表4参照)。生産が増加すると回答し企業の割合から減少回答企業の割合を差し引いたDI値(5月調査時)は、製造業全体でマイナス20.4ポイントだった。4月調査時のマイナス51.0ポイントよりは回復したことにはなる。しかし、同研究所は「企業は依然として生産減少を見込んでいる」と指摘している。自動車産業では23ポイントのプラスとなったものの、製造が完全に止まっていたことを考えれば「当然である」とした。このほか、「金属生産および加工」「金属製品」「産業機械」などでも回復がみられるが、「生産量が減る」と回答する企業は依然として多いのも現実だ。

表4:今後3カ月の産業別の生産動向について(「生産増」と「生産減」の回答企業割合の差) (△はマイナス値)
項目 アンケート調査月
4月 5月
製造業全体 △51 △20
衣服 △72 △88
ゴムおよびプラスチック関連 △55 △37
情報処理機器 △54 △37
金属生産および加工 △60 △36
金属製品 △59 △36
電気機器 △68 △34
テキスタイル △68 △33
産業機械 △62 △33
家具 △76 △31
木材、籠など、バスケット、コルク(家具を除く) △45 △28
ガラス、セラミック、土石製品 △56 △28
革・皮革製品・靴 △97 △27
飲料 △78 △26
紙、段ボールおよびその関連製品 △39 △26
印刷物の製造および音声・画像・データの複製等 △43 △20
化学 △42 △20
食料品および飼料 △16 △5
薬品 14 △3
自動車および自動車部品 △41 23

出所:ifo経済研究所

こうした状況を踏まえ、労働市場への影響も懸念が高まっている。連邦雇用庁によると、失業者数は5月に前月比で16万9,000人増加し、281万3,000人まで上昇。失業率も0.3ポイント増加し、6.1%に上昇した。ドイツでは、「短時間労働給付金制度」が導入されている。一時的に休業する労働者の賃金などの一部を助成する制度で、日本の雇用調整助成金に相当する。今回の危機に伴い、この給付金について対象を拡大し条件が緩和された。雇用維持がその狙いだ。3月と4月だけで合計1,066万人分が申請されたのに加え、5月1日~27日で106万人分の申請があった(注2)。経済・エネルギー省は、この制度が雇用情勢のさらなる悪化に歯止めをかけていると分析する。

なお、2020年の第1四半期の破産申請件数は4,683件だった。2019年の第1四半期よりも3.7%減少している。2020年4月および5月も、破産手続きの開始件数は減少傾向にあるという。この要因として、ドイツ復興金融公庫(KfW)によるつなぎ融資や即時支援などの一連の支援のほか、2020年3月1日以降、企業の破産申請義務が一時停止されていることが挙げられる。しかし、これはあくまで一時的な結果をもたらしているにすぎず、多くの企業が破産危機に直面している状況は変わらない。危機が長期化すれば、破綻に追い込まれる企業の増加や労働市場のさらなる悪化が避けられないだろう。

政府による追加経済刺激策は奏功するか

政府は6月12日、2020年および2021年にかけて実施する約1,300億ユーロ規模の経済対策第2弾を閣議決定した。すでに導入している経済策に加え(3月13日3月18日3月26日付ビジネス短信参照)、同刺激策には、(1)付加価値税の引き下げや子供を持つ家庭に対する補助金の導入、(2)電力コストの軽減、(3)経済的な影響が大きい外食産業など、特定産業を対象とした最大250億ユーロの追加支援、(4)財政難に陥る地方自治体への支援、(5)研究開発などの支援、電気自動車の普及、充電ポイントのさらなる設置といった将来に向けた投資促進(500億ユーロ規模)、(6)ドイツ鉄道への財政支援(最大50億ユーロ)などが盛り込まれた(2020年6月10日付ビジネス短信参照)。

今回の経済対策の策定にあたり、大きな議論の的になったのが自動車購入支援策だ。ドイツ自動車産業連合会(VDA)の発表によると、5月の国内自動車新規登録台数は16万8,100台(前年同月比50%減)、1~5月で99万300台(前年同期比35%減)だった。1990年のドイツ統一後、最低の水準だ。このため、自動車産業からは2009年の金融危機と同様、買い替え支援策の導入に向け期待が寄せられていた。しかし、「景気に大きな影響を与えず、既存の経済構造を強化するだけの支援」「需要喚起だけではなく、産業構造改革を促進する支援策を策定すべき」〔経済諮問委員会(通称「5賢人委員会」)〕、「短期的に自動車の購入が増加するが、中期的には自動車購入の増加は期待できない」(ifo経済研究所)、「経済的に意味をなさないほか、産業政策的に誤った刺激を与え、気候変動対策に貢献しない」(キール世界経済研究所(IfW))など、否定的な声が上がっていた。最終的には、電気自動車に支援の対象を絞り、新規購入補助金を倍増させることで落ち着いた。しかしそれでも、「電気自動車の購入補助金については、既存の仕組みでほとんど効果がみられない中、倍増させることは疑問」(キール世界経済研究所(IfW))など、一部の条件に疑問を呈する声も出ている。

上記のような議論やさらなる支援を求める声は、少なからずある。しかし、国内の主要な経済・産業団体や経済研究所からは、追加経済刺激策について、おおむね評価する声が上がっている。特に付加価値税の引き下げなど刺激策の影響が幅広く波及する可能性があることや、気候変動対策やデジタル化促進といった重要課題との両立を目指す政府の姿勢が感じられることなど、が理由として挙げられる。感染拡大第2波を抑えつつ、経済の回復の実現ができるか、メルケル政権の模索が続く。


注1:
これらの国はシェンゲン協定加盟国で、通常、加盟国間の移動については入国審査が実施されない。
注2:
申請された従業員全員が、最終的に短時間労働を行うとは限らない。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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