新型コロナ禍の下、オンライン教育などの利用が拡大(中国)
ネット利用者が9億人超え

2020年7月2日

中国インターネット情報センター(CNNIC)は、中国でのインターネットの発展状況をまとめた報告の最新版を発表した。インスタントメッセージや動画(ショートビデオを含む)などに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大の中、オンライン教育やライブ配信などでの利用率上昇が目立った。本稿では、同報告の主な内容を紹介する。

ネット利用者のほとんどが携帯端末を利用

中国インターネット情報センター(CNNIC)が4月28日に発表した「第45回中国インターネット発展状況統計報告」(以下、報告)によると、3月時点の中国のネット利用者数は9億400万人に達した(図参照、注1)。ネット普及率は64.5%だった。2018年12月時点より4.9ポイント、2019年6月時点より3.3ポイント上昇したことになる。都市部のネット利用者数が6億4,900万人(利用者全体の71.8%)、農村部が2億5,500万人(同28.2%)となっている。

ネット利用者のうち、スマートフォンなどの携帯端末によるネット利用者数は8億9,700万人で、ネット利用者の99.3%が携帯端末を利用している。

図:中国のインターネット利用者数の推移
中国のインターネット利用者数は、2014年6月時点の6億3,200万人から2020年3月時点には9億400万人へと拡大した。携帯端末によるネット利用者数も2014年6月時点の5億2,700万人から2020年3月時点には8億9,700万人へと拡大した。2020年3月時点のネット普及率は64.5%、携帯端末からの利用者数がネット利用者数全体に占める割合は99.3%になっている。

出所:中国インターネット情報センター「中国インターネット発展状況統計報告」第42回、第44回、第45回

逆に、4億9,600万人はいまだにインターネットを利用していないことになる。その比率は、都市部で40.2%、農村部で59.8%だ。ネットを利用しない最大の理由は、「パソコンやインターネットが分からない」(51.6%)だった。続いて、「ピンインが分からないなど、文化レベルに限りがある」(19.5%)、「高齢すぎる、または若すぎる」(14.0%)、「パソコンがないなど、ネットを利用するための設備がない」(13.4%)などが挙がった。

オンライン教育が8割増、ライブ配信が3割増

ネットサービスの利用状況をみると、「微信(WeChat)」などのインスタントメッセージ(即時通信)の利用者数が8億9,613万人。利用率で99.2%と、最も高かった(表1参照)。次いで動画(ショートビデオを含む)、ネット決済、検索エンジン、ニュース閲覧で、利用率はいずれも8割を超えた。

2019年6月時点と比べると、オンライン教育の伸びが81.9%増と目立った。その利用者数は4億2,296万人、利用率は46.8%となった。2018年12月時点と比べると2.1倍だ。その時点での利用率は24.3%だったので、1年3カ月ほどのうちに急速に上昇したことになる。この背景として、報告は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を挙げる。全国の小中学校、高校、大学で新学期の開始が延期され、オンライン学習に切り替わったわけだ。教育部は1月27日に、「2020年春学期の授業開始の延期に関する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を公布して授業開始の延期を通知した後、1月29日には、小中学校の休校期間中はオンライン授業を受けることで学習を継続するとした方針をウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に掲載していた(2020年2月19日付ビジネス短信2020年6月9日付ビジネス短信参照)。

次いで2019年6月時点と比べ伸びが目立ったのは、ライブ配信だ。利用者数は5億5,982万人、利用率は62.0%になった。2018年12月時点と比ると41.1%増(同時点利用率47.9%)と、やはり近年利用者数が急拡大している。後述するネットショッピングの利用拡大に伴い、ライブ配信で商品説明を行いながら商品を販売するライブコマースが効果的に用いられるようになっていた。新型コロナウイルス発生後、その動きがさらに加速したとみられる。

表1:各種インターネットサービスの利用状況(単位:万人、%)
サービス 2020年3月 2019年6月 2018年12月 2019年6月比伸び率 2018年12月比伸び率
利用者数 利用率 利用者数 利用率 利用者数 利用率
インスタントメッセージ(*) 89,613 99.2 82,470 96.5 79,172 95.6 8.7 13.2
検索エンジン(*) 75,015 83.0 69,470 81.3 68,132 82.2 8.0 10.1
ニュース閲覧(*) 73,072 80.9 68,587 80.3 67,473 81.4 6.5 8.3
ネット決済(*) 76,798 85.0 63,305 74.1 60,040 72.5 21.3 27.9
ネットショッピング 71,027 78.6 63,882 74.8 61,011 73.6 11.2 16.4
出前予約 39,780 44.0 42,118 49.3 40,601 49.0 -5.6 -2.0
旅行予約 37,296 41.3 41,815 48.9 41,001 49.5 -10.8 -9.0
タクシー予約 36,230 40.1 n.a. n.a. 38,947 47.0 n.a. -7.0
オンライン教育 (**) 42,296 46.8 23,246 27.2 20,123 24.3 81.9 110.2
ネット音楽 63,513 70.3 60,789 71.1 57,560 69.5 4.5 10.3
ネット文学 45,538 50.4 45,454 53.2 43,201 52.1 0.2 5.4
ネットゲーム 53,182 58.9 49,356 57.8 48,384 58.4 7.8 9.9
動画(ショートビデオ含む)(*) 85,044 94.1 75,877 88.8 72,486 87.5 12.1 17.3
ショートビデオ(*) 77,325 85.6 64,764 75.8 64,798 78.2 19.4 19.3
ライブ配信(**) 55,982 62.0 43,322 50.7 39,676 47.9 29.2 41.1
財テク 16,356 18.1 16,972 19.9 15,138 18.3 -3.6 8.0

注:伸び率は利用者数から計算。(*)は2020年3月時点の利用率が80%以上のサービス。
(**)は、2019年6月時点と比較して伸び率の上位2位のサービス。
出所:中国インターネット情報センター「中国インターネット発展状況統計報告」第44回、第45回

ネットショッピングユーザーも着実に増加

ネットショッピングの利用拡大も目立つ。2020年3月時点のネットショッピングユーザー規模は7億1,027万人に達した(表1、2参照)。2015年12月時点から約3億人、2018年12月からも約1億人増加した。ネットユーザーのうち、78.6%がネットショッピングを利用している計算になる。2019年6月時点の利用率と比べると、3.8ポイント拡大。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、店舗での買い物や飲食などを控え、ネットショッピングを活用した影響が考えられる。

なお、同じく3月時点の携帯ネットショッピングユーザーは、7億749万人だった。携帯ネットユーザーに占めるショッピング目的利用者の比率は78.9%と、ネットユーザー全体に比べて若干ながら増える。

表2:中国のネットショッピングユーザー規模と使用率の推移
年月 ユーザー規模
(万人)
使用率
(%)
2015年12月 41,325 60.0
2016年12月 46,670 63.8
2017年12月 53,332 69.1
2018年12月 61,011 73.6
2019年6月 63,882 74.8
2020年3月 71,027 78.6

出所:中国インターネット情報センター「第45回中国インターネット発展状況統計報告」

報告によると、ネットショッピングを牽引したのは、(1)ソーシャルコマース、ライブコマース、(2)「下沈市場」(3線以下の中小都市と農村地区)、(3)越境ECだ。(1)について報告では、2019年のソーシャルコマースの取引額は前年比60%超の伸びとなったことが指摘された。また、ライブコマース利用者が3月時点で2億6,500万人に達し、ネットショッピングユーザーの37.2%、ライブ配信利用者の47.3%を占めた点にも触れた。(2)に関しては、2019年の天猫「6.18」セール期間で、3線以下の都市のネット消費の伸び率が1線都市および2線都市の1.14倍となったとした。(3)では、2019年のBtoC越境EC輸出入額が前年比38.3%増の1,862億1,000万元(約2兆7,932億円、1元=約15円)に達した点を強調した。

名目の消費額である「社会消費品小売総額」(注2)は、1~5月累計で前年同期比13.5%減と大きく減少した(2019年は8.0%増)。しかし、そのうち実物商品のネット小売額に限っては11.5%増だった。ネット小売額の全体に占める構成比も、24.3%にまで拡大している(2019年は20.7%)。中国でのネットショッピングの発展には近年、目を見張るものがある。とくに新型コロナウイルス発生を経た今後は、さまざまな制約の中で、利便性の高さから拡大が予想される。

新たな成長分野の開拓へ

李克強首相は5月22日、第13回全国人民代表大会第3回会議で「政府活動報告」を発表した。その中で、政府の2020年の重点活動任務の1つとして「内需拡大戦略を実施し、経済発展パターンの転換加速を推進する」ことを掲げた。その実現のため、オンラインとオフラインの融合や、Eコマースと宅配便の農村への普及を促進するとしている。このほか、次世代情報ネットワークを発展させること、第5世代移動通信システム(5G)の応用を広げることなども挙げている。ネットの新たな成長分野の開拓で内需拡大を促し、2020年第1四半期(1~3月)のマイナス成長(マイナス6.8%)からいち早く回復することを狙うものだ。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がなおも継続し、北京市の生鮮食品卸売市場での集団感染確認など中国内の新規感染者数が再び急増する状況にある。こうした中で、中央政府の前述の方針も受けて、地方政府や企業、国民のさらなるネット利用が進むとみられる。新型コロナウイルスの対策にネット関連技術を活用する動き(2020年3月31日付地域分析レポート参照)、地方政府としてライブコマースを推進する動き(2020年4月29日付ビジネス短信参照)なども見られる。世界有数のデジタル先進国の1つと言われる中国のネット関連動向から目が離せない。


注1:
中国インターネット情報センター(CNNIC)は、この報告を1年に2回(上半期分と通年分)発表するのが通例だった。例えば2017年分と2018年分の通年情報は、2018年1月と2019年2月にそれぞれ発表された。しかし2019年分については新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、発表時期が2020年4月になった。またその調査期間も、従来は前年の12月31日までだったところ、当年3月15日までとされた。
注2:
百貨店やスーパー、インターネットによる販売などを合計した小売売上高。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、北京センター、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・北京事務所を経て、2018年8月より現職。