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産官学連携でAIを武器に新型コロナウイルス感染拡大と戦う(中国)

2020年3月31日

感染病追跡を手掛けるカナダのブルードットは2019年12月31日、自社開発した人工知能(AI)ツールを用いて新型コロナウイルスの感染拡大について、クライアントへいち早く警告をしていた。

中国でも、産官学が一体となり、感染の早期終息に向けた取り組みが進む。その有力なツールとして、AIを活用する動きが注目されている。

中国政府、イノベーション技術の利活用を加速

中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、AIなどイノベーション技術の利活用を加速させている。習近平国家主席は、2月14日に開催された中央全面深化改革委員会第12回会議で、「感染情況のモニタリング・測定、ウイルスの追跡、感染者の救急治療、防疫資源の配分などに関して、ビッグデータ、AI、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術のさらなる応用によって支援する」と強調した。

これを受け、工業情報化部は2月19日、「次世代情報技術の活用による感染拡大防止、操業・生産再開を支援する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(工信庁信発〔2020〕4号)を発表した。新型コロナウイルス感染の影響を最小限に抑えるために、感染拡大防止、医療研究、操業再開、社会インフラの面で、AIなどの新技術を生かすことを奨励する(参考参照)。

参考:「次世代情報技術の活用による感染拡大防止、操業・生産再開を支援する通知」に見る感染拡大防止、医療研究の内容

  1. インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AIなどの新技術を活用し、感染情況のモニタリング・分析、ウイルスの追跡、患者の追跡、人の移動とコミュニティ(社区)の管理を行う。
  2. インターネットのプラットフォームを利用して、医療防疫物資の需給マッチング、効率的生産、支給、回収管理を行う。
  3. IT企業と医療科学研究機関が連携し、AI、ビッグデータ、第5世代移動通信システム(5G)などの技術を生かし、ウイルスの検査診断、ワクチンの研究開発、感染防止や治療のスピードを加速させる。
  4. 企業のインターネット利用力を強化し、オンラインでの感染拡大の予防リソースと情報ツールを十分に生かし、オンラインとオフラインとで連携した管理システムを構築する。
  5. ネット通販と物流配送システムを改善し、電子書籍、映画・テレビ、ゲームなどのコンテンツ製品を開発し、非接触型のショッピングとエンターテインメントにより、人々の生活必需品と精神的に豊かにしてくれるものの供給を確保する。

出所:工業情報化部の発表を基に、ジェトロ作成。

民間企業による実証実験も進む

中国政府は2017年7月、「次世代AI発展計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。2030年までに中国がAI分野で世界のトップレベルになること、産業規模を1兆元(約15兆円、1元=約15円)超、関連産業を含めると10兆元超へと発展させることを目指している。2019年8月には科学技術部が「AIイノベーション発展試験区設置ガイドライン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、AIの社会実装を全国的に広げることを打ち出した。

政府によるAIに関する実証実験、開発の支援策を受け、中国では新型コロナウイルスの感染抑制や医療診断、研究開発などにおいてさまざまな取り組みが進められている。

(1) 感染拡大の抑制

感染拡大を抑制するため、ディープラーニングに基づく画像認識や、自然言語処理が活用されている。

サーチエンジンを提供する百度(バイドゥ)は、画像認識とサーモグラフィー技術を活用した、体温測定システムを開発した。1分間で200人の体温を同時に測定するとともに、マスクを着用していても高い精度で顔認証を行い、体温に異常のある人を選別することができる。2月2日から北京市の清河高速鉄道駅に導入されており、今後、新型コロナウイルスの感染防止ツールとして、公共施設や店舗、オフィスなどの入室管理に利用される見込みだ。また、AI産業をリードする商湯科技(SenseTime)や曠視科技(Megvii)などが開発した体温測定システムも、既に実用化が始まっている。

新型コロナウイルスの感染者の増加を抑えるには、官民一体で感染状況の実態を把握することが重要となる。アリババや百度は新型コロナウイルスに関するAIチャットボット(自動応答システム)を開発し、希望する地方政府、医療機関、公共団体へ無償で提供している。海外への渡航歴のある人や地元住民に対し、自動音声による電話をかけ、感染の有無の確認と健康相談サービスの提供を行う。人手をかけずに、かつ効率的に作業を実施することができる。アリババが開発したAI電話システムは、1月27日~2月24日に中国国内の40都市で1,100万回の電話サービスを実施した。

(2) 医療診断時間の短縮

コンピュータ断層撮影装置(CT)やX線の画像検査では、人が診断するには時間がかかるとともに、医師の経験不足などにより誤診が発生するといった問題もある。AI技術をCT、X線画像検査で利用することにより、診断時間を短縮することが可能であり、感染拡大を抑える有力なツールとなる。

医療用画像AIエンジンを開発する北京推想科技(Beijing Infervision)は、2019年12月以降、数千件の新型コロナウイルス症例をAIエンジンに学習させることで、放射線科医の画像診断に役立てている。特に、ウイルス検査キットが不足している時期に、武漢同済医院などの医療機関における放射線科医の画像診断で同社のAIエンジンが活用され、診断の効率化および患者の早期発見に貢献してきた。今後、遠隔画像診断を行う日本のドクターネット(本社:東京都)と協力し、日本でのAIエンジンの実用化に向けた検証を進めるとしている。

広東省政府が3月12日に行った記者会見において、中山大学孫逸仙記念病院の林天歆副院長は、同院が開発した胸部CTとX線によるAI診断システムについて説明した。ベテランの放射線科医でも1件のCT画像診断にかかる時間が約15~30分になるのに対し、AIシステムを使用すれば20秒で診断が可能であり、かつ精度は90%以上に達するという。さらに、画像における肺のすりガラス状陰影について自動で定量分析を行い、患者の呼吸状態、血中酸素飽和度、代謝の状態、その他器官の損傷の程度などを基に、重症化の可能性を事前に予測することで、死亡率を低下できるとしている。また、同一患者の投薬前後のCT画像変化に対して対比分析を行い、治療薬が有効であるかどうかを判別し、臨床治療に役立てることも可能である。

開発インフラにも動き

AIを画像認識、音声認識、チャットボットといった具体的なアプリケーションとして活用するためには、計算能力を提供するアルゴリズム(ソフトウエア)と膨大なデータを処理するプロセッサー(ハードウエア)が必要となる。

ソフトウエアについては、「BAT」と呼ばれる中国のIT大手(百度、アリババ、テンセント)が、新システムを外部に公開して共有する「オープンサイエンス」を行っており、注目されている。アリババグループのクラウド部門は1 月 29 日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、各国の医療研究機関や疾病管理機関にAIアルゴリズムを無償で提供すると発表した。さらに3月13日には、「Alibaba Genomics Service」というウイルス遺伝子解析サービスも無償で提供すると発表した。新型コロナウイルスの特徴を理解して対策を行うためには、感染が進むに従い変異を起こすウイルスの遺伝子データの解析が重要となる。同サービスを活用して解析すれば、作業の所要時間は従来の30分間から60秒以内へと大きく短縮することができるとしている。

百度も1月30日、RNA(リボ核酸)構造予測サイトとともに「LinearFold」というアルゴリズムを、無料で公開すると発表した。これにより、新型コロナウイルスのゲノム解析にかかる時間を従来の55分から27秒へと短縮し、ワクチン開発を加速できるとして期待されている。

ハードウエアでは、大規模なデータを処理できるスーパーコンピュータが治療薬開発に貢献している。いまだ特効薬がないといわれる新型コロナウイルスに対して、既存の薬品の中から治療効果が期待できる候補薬を探すため、上海市などにある国家級スーパーコンピュータセンターが研究に取り組んでいる。まずは、ゲノム解析によってウイルス増殖の仕組みを解明し、次にどのような分子がウイルスに結合し、ウイルスの機能を失わせるのかを明らかにする必要がある。ただし、遺伝子の比較、候補薬のスクリーニング、精確な分子動力学シミュレーションなどの相関計算は、計算量が膨大で、人手で行う場合のコストが高く、所要時間も長いため、これまで創薬の現場では利用しづらいとされてきた。しかし、スーパーコンピュータにより、有効な薬物構造を迅速に見つけることで、後続の実験段階における化合物の選択をサポートすることが可能となる。

新型コロナウイルスの感染が世界各地に拡大する中、中国発のAIが感染拡大の防止に向けた一助となるか注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
盧 真(ロ シン)
2004年、ジェトロ・広州事務所入所。これまでに総務関係、日本企業の中国進出支援、調査、対日投資、イノベーション促進、経済分析などを担当。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
郭 冬梅(かく とうばい)
2018年6月から、ジェトロ広州事務所経済分析部に勤務。2019年9月から、同事務所市場開拓部で農林水産食品とヘルスケア事業を兼務。

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