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投資を呼び込み産業の多角化を目指す
新型コロナを経て変わるインド南部タミル・ナドゥ州(前編)

2020年12月1日

インドの新型コロナウイルス感染者数は、2020年3月後半ごろから増え始め、9月中旬には1日に10万人近くの新規感染者が確認された。感染の拡大に伴い、政府は厳格なロックダウンを実施し、インド経済は大きく落ち込んだ。製造業が盛んな南部タミル・ナドゥ(TN)州では特に大きな影響があったが、11月現在、経済活動や人の移動に関する制限の多くが解除され、新規投資などの動きも見られるようになった。本稿では、TN州の産業・政治の変化を2回に分けて報告する。

南インド最大級の産業集積地に広がった新型コロナウイルスの感染

インド南部のTN州は、製造業が集積する州として知られる。産業部門別の粗付加価値(GVA)でみると、インド全体では製造業のシェアが2019年度時点で17%にとどまるのに対し、TN州は25%とその比率が高くなっている。

中でも、自動車産業の存在感が大きく、ルノー日産、現代自動車、フォード、ダイムラー、BMW、アショク・レイランド、ヤマハ発動機など、多くの四輪・二輪の完成車メーカーとそのサプライヤーが製造拠点を構えている。そのため、州都のチェンナイは「インドのデトロイト」とも称される。実際に、TN州とプドゥチェリー連邦直轄領(注1)における2000年1月から2019年9月までの間の対内外国直接投資(FDI)流入額では、自動車がセクター別シェアで最大の20%となっている(出所:インド準備銀行FDI統計)。

TN州では、2020年3月上旬に最初の新型コロナ感染者が確認された。その後、デリー準州で行われたイスラム教団体ジャブリーギ・ジャマートの大規模集会に参加した人々から感染が広がり、4月末ごろに州都チェンナイの野菜卸売市場でクラスター感染が起きたことなどにより、感染が急速に拡大した。5月に入り中央政府・州政府が経済活動や人の移動に関する制限を徐々に緩和し始めると(注2)、感染が広がり続け、7月下旬には州内で1日に約7,000人の新規感染者が確認された。それ以降は新規感染者数が減少に転じ、11月中旬には1日の新規感染者数が2,000人を下回るようになった(図1参照)。

図1:TN州の新型コロナ新規感染者数の推移
タミル・ナドゥ州は、3月上旬に最初の新型コロナ感染者が確認。4月末頃に州都チェンナイの野菜卸売市場でクラスター感染が起きたことなどにより、感染が急速に拡大した。5月に入り中央政府・州政府が経済活動や人の移動に関する制限を徐々に緩和し始めると、感染が広がり続け、7月下旬には州内で1日に約7,000人の新規感染者が確認された。それ以降は新規感染者数が減少に転じ、11月中旬には1日の新規感染者数が2,000人を下回るようになった。

出所:TN州COVID-19 Dashboard

厳しいロックダウンで経済に打撃

TN州政府は、新型コロナ感染拡大に伴うロックダウンが始まった当初から、中央政府のガイドラインより厳しい州独自の措置を実施した。6月後半には、チェンナイで完全ロックダウン(2020年6月18日付ビジネス短信参照)を行った。これらの措置により、人の移動が大きく制限され、物流や工場の操業など多くの経済活動に支障をきたした。図2は、住宅地、職場、公共交通機関、公園、食料品店・薬局、小売り・娯楽施設関連という6つのコミュニティにおける人の移動(モビリティー)が、新型コロナ禍前の2020年1月3日~2月6日の約5週間における曜日別中央値に対して、どの程度変化したかを示している。これをみると、ロックダウンで住宅地に人が滞留していた一方、それ以外のコミュニティでは、必需品を買う必要がある食料品店・薬局では人の動きが多少みられるものの、極めて移動が制限されていたことがわかる。

図2:チェンナイにおけるコミュニティ・モビリティーの推移
住宅地、職場、公共交通機関、公園、食料品店・薬局、小売・娯楽施設関連という6つのコミュニティにおける人の移動(モビリティー)が、新型コロナ禍前の2020年1月3日~2月6日の5週間における曜日別中央値に対して、どの程度変化したかを示している。これをみると、ロックダウンで住宅地に人が滞留していた一方、それ以外のコミュニティでは、必需品を買う必要がある食料品店・薬局では人の動きが多少みられるものの、極めて移動が制限されていたことがわかる。

出所:Google

また、雇用面でも、その影響は顕著にあらわれ、地場調査機関CMIEの調査によると、ロックダウン措置が最も厳しかった4月から5月にかけて、インド全体の失業率の平均が23%台となった中で、TN州では4月に49.8%、5月に33.2%と平均を上回る失業率を記録したとされる。

このように、TN州は国内で最も厳しいロックダウン措置を実施していた州の1つだった。しかし、中央政府が8月末に段階的ロックダウン解除(Unlock4.0)のガイドラインで州独自のロックダウンを原則禁止して以降、中央政府のガイドラインにおおむね沿ったかたちで、各制限措置を緩和している。11月中旬時点では、娯楽施設・飲食店の席数上限や営業時間、第9学年(日本の中学3年生に相当)未満の学生の通学、他州へ移動する公営・私営バスの運行などに制限が残るのみとなっている。


人が戻りつつあるチェンナイのショッピングモール内のフードコート(11月7日、ジェトロ撮影)

コロナ禍でも投資を誘致、自動車産業依存から脱却なるか

TN州では、感染者数が多いインドの中でも特に新型コロナの感染が広がったものの、その間に州政府が注力していたのは感染対策だけではない。TN州政府は、2020年度上半期(4~9月)において、42件計3,146億ルピー(約4,404億円、1ルピー=約1.4円)の新規・拡張投資に関する覚書(MoU)を企業と結んだと発表した。最近では、州政府が近年力を入れる電気自動車(EV)やエレクトロニクス分野での投資が目立つようになってきた。

TN州政府は、EV政策(2019年9月27日付ビジネス短信参照)や電子機器産業振興政策(2020年9月17日付ビジネス短信参照)を発表し、内燃機関を使用する自動車以外の分野においても、産業の振興を目指している。

EV分野では現在、中国のEV大手BYDや、ヒーロー・モトコープが出資する電動二輪車メーカーのアザー・エナジーなどが、州政府と投資に関するMoUを結んでいる。また、チェンナイ近郊に工場を持つ現代自動車は、インド国内でEVの販売を行っている。

エレクトロニクス分野ではこれまで、パナソニック、サムスン電子に加え、EMS(電子機器受託製造サービス)大手のフォックスコンやフレックスが進出していたが、既存の自動車産業のように産業集積に厚みと広がりがあるわけではない。しかし、2020年7月には、フォックスコンがチェンナイ近郊のスリペルンブドゥール工場でiPhone11の組み立てを開始した、と複数の地元紙が報道。また、足元では、同じくApple製品を受託製造する台湾ペガトロンが、同年7月にチェンナイで会社登記を行い、TN州を含む複数の州と工場設立について協議している、との報道もされている(「エコノミック・タイムズ」紙11月9日)。加えて、iPhoneの充電器を製造するフィンランドのサルコンプが、2014年から閉鎖されていたノキアのスリペルンブドゥール工場を買収するなど、サプライヤーの投資も行われるようになった。


注1:
旧名は、ポンディシェリ連邦直轄領。TN州、アンドラ・プラデシュ州、ケララ州内に飛び地のように存在している。
注2:
TN州政府はロックダウン措置を緩和し始める一方で、6月後半には州全体の感染者数の多くを占めるチェンナイで完全ロックダウン(2020年6月18日記事参照)を実施。感染の拡大状況に応じ局所的に措置を厳格化することもあり、一貫して制限の緩和を行っていたわけではない。

新型コロナを経て変わるインド南部タミル・ナドゥ州

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執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
坂根 良平(さかね りょうへい)
2010年、財務省入省。近畿財務局、財務省、証券取引等監視委員会事務局、金融庁を経て、2017年6月からジェトロ・チェンナイ事務所勤務。

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