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米中摩擦の中国白書、原則で譲歩せずを強調

2019年8月22日

米中の閣僚級の経済貿易協議が7月30~31日に上海で開催された。その際、中国が米国産の農産品の購入を増加させること、9月に再度、経済貿易協議を開催することなどで合意したと発表された。しかし、トランプ大統領が8月1日に、追加関税対象リスト第4弾に10%の追加関税を課すと発表し、中国の商務部は8月6日に、中国企業が米国からの農産物の購入を暫定的に停止したと発表。経済貿易協議の見通しが以前にも増して不透明になっている(注)。中国のスタンスを理解し、今後の協議を見通す上で、中国が6月に発表した「米中経済貿易協議に関する中国の立場」と題する白書は参考になると考える。本稿では同白書の主な内容を紹介する。

中国として事実を明らかに

中国国務院新聞弁公室は、米中政府が5月9~10日にワシントンで開催した閣僚級の経済貿易協議決裂後の6月2日に、「米中経済貿易協議に関する中国の立場」と題する白書を発表した(2019年6月7日付ビジネス短信参照)。白書の記者会見の際、商務部の王受文副部長は、国際社会の高い関心を受け、いくつかのうわさや推測がある中で、事実を明らかにし、中国の同問題における立場を表明するため、中国政府は白書を作成したとしている。米国の通商専門誌「インサイドUSトレード」(5月6日)が、中国がこれまでの通商協議で合意した内容をほごにする動きがあったと指摘するなど、協議の頓挫の責任が中国にあるとの主張が見られるなか、これらに反論するものである。

白書の構造としては、「はじめに」「1. 米国が米中貿易摩擦を引き起こし両国と世界の利益に損害を与えている(以下「1.」)」「2. 米国が米中経済貿易協議の中、前言を翻す行動をとっており、不誠実である(以下「2.」)」「3. 中国は終始平等で、互いに利益をもたらす、誠実な協議の立場を堅持している(以下「3.」)」「おわりに」となっている(参考参照)。

参考:「中米経済貿易協議に関する中国の立場」と題する白書の構成について

  1. はじめに
  2. 1. 米国が米中貿易摩擦を引き起こし両国と世界の利益に損害を与えている
    (コラム1)中国の科学技術イノベ―ションは自力更生に基づくもので、中国が知的財産権を「窃盗」し、技術移転を強制するとの非難には根拠がない
    (コラム2)米中経済は相互に融合しており、貿易投資は双方に恵みをもたらす
    (1)米国の追加関税措置は他者に損をさせ、自己の利益を損ねる
    (2)貿易戦争はいわゆる「米国を再び偉大にする」をもたらさない
    (3)米国の覇権行為で世界に災いが及ぶ
  3. 2. 米国が米中経済貿易協議の中、前言を翻す行動をとっており、不誠実である
    (1)第1の前言を翻す行動
    (2)第2の前言を翻す行動
    (3)第3の前言を翻す行動
    (4)米中経済貿易協議が頓挫した責任は完全に米国政府にある
  4. 3. 中国は終始平等で、互いに利益をもたらす、誠実な協議の立場を堅持している
    (1)協議は相互尊重、平等で相互利益をもたらすことが必要
    (2)協議は向かい合って前進するもので、誠実であることが重要
    (3)中国は原則的な問題では決して譲歩しない
    (4)どのような挑戦も中国の前進の歩みを止めることができない
  5. おわりに

出所:中国国務院新聞弁公室「米中経済貿易協議に関する中国の立場」と題する白書よりジェトロ作成

「はじめに」の部分では、中国の米中貿易摩擦への態度が一貫しており、明確であると主張している。すなわち、「米中が協力をすれば相互に利益をもたらし、争えばともに傷つく。協力が双方の唯一の正しい選択である」「中国は貿易戦争をしたくないが、恐れないし、必要ならば戦う」と従来の姿勢を改めて示している。

そして、「協力には原則があり、協議には最低ラインがあり、重大な原則の問題では中国は決して譲歩しない」と強調している。5月9~10日の経済貿易協議決裂後に、劉鶴・副首相は、米中間で不一致が残る点として、(1)合意後にすべての関税措置を撤廃するか否か、(2)中国が米国から輸入する規模、(3)合意文書のバランス、の3点を挙げ、こうした原則の問題では決して譲歩しないとの姿勢を示したとされる(「環球時報」5月11日)。この3点に関連する内容の調整が、今後の交渉のカギを握りそうだ。

米国側へのマイナスの影響を強調

「1.」では、冒頭に2つのコラムが掲載されている。「コラム1」では、米国側の、中国が知的財産権を「窃盗」し、強制的な技術移転政策をとっているとの非難には根拠がない、と主張している。これらは中国が従来から主張していることであるが、米中双方が同分野で納得する妥協ライン設定の難易度は高そうである。

ただし、実際には、中国は「外商投資法」を制定し、行政手段を用いて技術移転を強制してはならないと定める、「技術輸出入条例」を改正し、改良した技術は改良した側に帰属するとの条項を削除するなど、米国の非難を踏まえて、自国のビジネス環境の改善につながる同分野での取り組みを強化している。

「コラム2」では、米中経済が相互に融合しており、貿易、投資分野で双方に恵みがもたらされている、と説明している。そして、貨物貿易のみならず、サービス貿易、双方の投資などを総合的に考慮すると、米国が主張する「米国のみが損をしている」という結果にはならない、としている。

そして、本文では、第1に、米国の中国原産の輸入品への追加関税賦課が双方向の貿易・投資分野の協力を阻害し、両国および世界の市場心理や経済の安定に影響を与えているとした。第2に、追加関税措置は、米国の経済成長にマイナスの影響を及ぼしているとした。多くの米国の製造メーカーが、中国の原材料や中間品に依存しており、短期的に代替のサプライヤーを見つけることは難しいことから、追加関税コストを負担せざるを得ないとした。また、追加関税措置を経て、米国での中国製品の最終販売価格が上昇することから、米国の消費者もその関税コストを負担しなければならないとした。さらに米国の経済成長や就業にもマイナスの影響を与えるとしたほか、米国の対中輸出を妨げるとした。そして、米中貿易摩擦が激化した2018年に、米国の農産品の対中輸出が前年比33.1%減となり、うち大豆が50%近く減少したことなどを挙げた。

第3に、米国の一国主義、保護主義は、中国とWTOのその他のメンバーの利益を損ねるのみならず、WTOとその紛争解決メカニズムの権威を損ね、多国間貿易体制と国際貿易秩序が危険な状態に直面しているとした。また、米国政府が貿易摩擦を加速させ、関税引き上げを行っているため、関連する国が対抗措置を取らざるを得ず、世界の経済貿易秩序を乱し、世界経済の回復を阻害している、と非難した。そして、米国が中国原産の輸入品に追加関税を課すことで、米国企業を含め中国企業と協力している多くの多国籍企業が被害を受けるもので、世界の産業チェーンとサプライチェーンを乱しているとした。

6月15日発刊の「中国経済周刊」では、元重慶市長である中国国際経済交流中心の黄奇帆副理事長の寄稿を掲載したが、米中両国を含めグローバル製造バリューチェーン、サプライチェーン、産業チェーンは一体化しており、既に関税や非関税障壁で分断できない状況になっていることを米国は分かっていない、と批判した。また、貿易戦争が、グローバル製造バリューチェーン、サプライチェーン、産業チェーンを歪曲(わいきょく)することに触れつつ、1つのアセンブリー工場が移転し、再び操業を始めるには少なくとも2~4年を要し、必然的に産業チェーンのリーダー企業はこの3~4年のうちにチェーンのコントロール力を失うため、(移転をすれば)一連の米国のリーダー企業は力を失うだろうとした。さらに、中国市場では、米国ハイテク企業が20~50%の市場シェアを占めているが、中国への供給を中止するということは、まずは市場を失うことになり、これらの米国企業の業務は大幅に縮小し、損失が生まれ、倒産にも至ると指摘した。

同章の一部の記述や前述の黄副理事長の寄稿では、米中貿易摩擦により、米国企業の受けるマイナスの影響が大きい点を強調している。

米国が前言を翻す行動をとったと非難

「2.」では、2018年2月に経済貿易協議を開始して以来、既に大きな進展を見せており、両国は大部分では共通認識を形成しているが、協議は幾度も紆余(うよ)曲折を経験しており、それは毎回、米国の前言を翻す行動、不誠実さが原因であるとした。

第1の前言を翻す行動は、以下に見られたとしている。2018年2月以降、閣僚級の経済貿易協議を数度行い、中国が米国から農産品やエネルギー製品などの輸入を拡大することなど、両国は初歩的な共通認識を形成し、協議は重要な進展を見せたが、米国は2018年3月に、通商法301条に基づき500億ドル相当の中国原産の輸入品に25%の追加関税を課すことを決めたと、非難している。

第2の前言を翻す行動は、以下に見られたとしている。2018年5月19日に、米中両国は経済貿易協議に関する共同声明を発表、閣僚級の協議を引き続き継続し、解決策を模索することとなり、米国は追加関税を暫定停止するとした。しかし、わずか10日で米国はそれを翻し、5月29日に、通商法301条に基づく対中追加関税賦課の最終的な対象品目リストを公表し、その後速やかに25%の追加関税を賦課すると発表した。その後、米国は7月から3段階に分けて、対中追加関税賦課を実施し、中国も対抗措置を取らざるを得なくなったとしている。

第3の前言を翻す行動は、以下に見られたとしている。2018年12月に、G20首脳会議が開催されていたアルゼンチンで米中首脳会談が行われ、米国は第3弾の2,000億ドル相当の中国原産の輸入品の追加関税の引き上げ(現行の10%を2019年から25%に引き上げ)を留保することで合意し、その後閣僚級で協議を継続した。しかし2019年に入り、5月6日には米国は無責任に中国の立場が後退したと非難し、5月10日に第3弾の追加関税率を10%から25%に引き上げ、5月13日には新たに3,000億ドル相当の中国原産の輸入品に対して、追加関税を課すと公表したとした。そして、米国が不合理で過度な要求をし、貿易摩擦発生後のすべての追加関税を取り消ししないと主張し、協議文書の中で中国の主権に関わるような事項を無理やり盛り込むように求めた、と批判した。

第4に、中国が協議を逆戻りさせたとの米国の非難には、完全に根拠がなく、協議の過程でその内容や関連する表現を修正したり、調整したりするのは通常のやりかたで、米国も過去の交渉でそのようにしており、中国を責めるのは無責任である、と非難した。

同章を踏まえると、中国が協議をまとめようと試みる中で、米国が前言を翻す行動を数度とったという思いを中国が持っており、不信感を募らせているとみられ、その協議に臨む姿勢は硬化していると推察される。

協議には相互の立場の尊重が必要と主張

「3.」では、第1に、一方の発展の権利を対価としたり、さらに一国の主権を傷つけるようなことはあってはならず、双方の協議における地位は平等で、協議の成果は相互に利益をもたらすもので、かつ最終的な協議はウィンウィンであるべきとしている。そして、お互いの社会制度、経済体制、発展ルートや権利を相互に尊重するべきであると、両国の各制度、体制の違いに理解を求めている。

第2に、協議は問題に直面して、共通認識を模索する、あるいは相互に歩み寄る過程であるとし、協議期間の変数が多く、それぞれが自身の利益から出発して、異なる段階の各種変化に異なる反応をとるのも協議の正常な状態であるとした。そして、11回に及ぶ閣僚級協議は重大な進展を見せており、その成果は米中双方の利益に合致するとしつつ、中国は終始極めて誠実に米国政府と協議をしており、双方の妥結した協議で中国が承諾した内容は必ず確実に履行するとしている。

第3に、協議において、一国の主権や尊厳は尊重されるべきで、重大な原則の問題では中国は決して譲歩しないとした。そして、米国が追加関税を引き上げた(第3段階)ことに強く反対を表明し(2019年5月13日付ビジネス短信参照)、中国としても対抗措置を取らざるを得ないとしている。かつ、協議の大門は開いているが、貿易戦争となる場合は徹底的に付き合うとした。

第4に、各種のリスクと挑戦に直面してそれを克服し、危機を機会とし、新天地を開拓する自信があるとし、情勢がどのように変化しようとも、中国は自国のなすべきことを引き続きしっかり行うとした。その上で、中国経済の見通しが明るいことや、さらに対外開放を加速することを強調している。

中国としては、米国が双方の体制の違いを認識した上で、中国のメンツを保った形での協議内容とすることを求めている。米国メディアによると、米国が、米中双方が合意した協議内容の履行状況を検証するメカニズム構築を求めているとされるが、その難易度の高さが同章の記述からうかがえる。双方の妥結した協議で中国が承諾した内容は必ず確実に履行するとしていることも、これを牽制しているようにも読み取れる。

また、習近平国家主席は、対外開放を拡大するとして、(1)大幅な市場参入制限の緩和、(2)投資環境のさらなる整備、(3)知的財産権保護の強化、(4)主体的な輸入の拡大、の4つに取り組んでいるところであるが、自国のビジネス環境の改善などにつながる取り組みを着々と進める意思も感じられる(取り組みの主な例としては、表参照)。米中貿易摩擦を自国の改革を進める外圧として利用しつつ、従来進めたかった改革を加速させる見込みである。

表:取り組みの主な例
月日 主な内容
2018年 7月1日 広範囲にわたる日用品の輸入関税率の引き下げを実施。
2018年 6月28日 国家発展改革委員会と商務部は「外商投資参入ネガティブリスト(2018年版)」を発表。7月28日から施行。制限・禁止条項が63から48に減少。
2018年 11月5日 第1回中国国際輸入博覧会(CIIE)が上海市で開幕。習近平国家主席は開幕式で、輸入拡大に努める考えを示した(2019年11月に第2回を開催予定)。
2019年 1月1日 最高人民法院は、専門の技術性の高い特許などの上訴案件を統一的に審査する知的財産権法廷を開設したと発表。これらの案件の第二審は各地方の高級人民法院から最高人民法院で審理することに。
2019年 3月15日 外商投資法が成立。「技術協力の条件は、投資の各当事者が公平の原則にのっとり、平等に協議を行うことにより確定する」こと、「行政機関およびその職員は、行政手段を用いて技術移転を強制してはならない」ことなどが定められた。
2019年 3月18日 技術輸出入管理条例の「技術輸入契約の有効期間内に、改良した技術は改良した側に帰属する」との条項などが削除。中外合資経営企業法実施条例については、「技術移転協議書の期間は一般的に10年を超えない」「技術移転協議書の期間満了後も、技術譲受側は当該技術を引き続き使用する権利を有する」の項目が削除。
2019年 6月30日 商務部および国家発展改革委員会は6月30日、外資企業の投資を制限・禁止する分野を示した「外商投資ネガティブリスト(2019年版)」を公布し、7月30日から施行すると発表。制限事項が2018年版の48項目から40項目に削減された。マルチ通信、データの保存・転送、コールセンター、公演・興行を行うマネジメント会社などが独資可能に。
2019年 7月2日 李克強首相は、証券、先物、生命保険の出資比率制限撤廃の1年前倒し(当初2021年予定)、通信、交通運輸などの参入制限の緩和を実施すると発表。

出所:中国政府発表などを基にジェトロ作成

望まれる協議の進展、長期化の可能性も

「おわりに」の部分では、「協力こそが米中両国の唯一の正しい選択で、ウィンウィンがあって初めて、より良い未来に進む」「双方の経済貿易分野での不一致や摩擦は最終的に対話と協議で解決すべきだ」「中米両国が一つの相互にウィンウィンの協議を締結することが、中米両国の利益、世界各国の期待に合致する」とし、米中協力の重要性への認識と協議での解決が必要との姿勢を依然として強調している。

中国の2019年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は6.2%で、四半期ベースでの統計が確認できる1992年以降で最低の水準となっており(2019年7月24日付ビジネス短信参照)、そこに影響を及ぼしている米中貿易摩擦を解消したいという思いは強い。

しかし、今回の白書を通じて、中国はお互いの社会制度、経済体制、発展ルートや権利を相互に尊重するべきで、重大な原則の問題では中国は決して譲歩しないと強調しており、また、米国が前言を翻す行動をとったとして中国の不信感が募っていることなどがうかがえる。米国側が8月5日に中国を為替操作国に認定し、8月20日にファーウェイ関連46社を新たな輸出管理対象にするなど新たな動きを見せる中で、中国が米国の要求をすべて受け入れるとは考えにくく、米中貿易摩擦が長期化する可能性は否定できない。各国が打ち出す通商政策も踏まえながら、今後の経済貿易協議を注意深く見守る必要がある。


注:
8月13日に、米国通商代表部(USTR)が一部品目を対象から除外し、携帯電話やノートパソコン、一部の履物、衣類などに対する発動は12月15日に延期すると発表(2019年8月14日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、北京センター、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・北京事務所を経て、2018年8月より現職。

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