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米中貿易摩擦を受けて、中国も技術関連分野での取り組みを強化

2019年7月3日

米国が中国原産の輸入品に追加関税を賦課し、中国も米国原産の輸入品に追加関税を賦課する報復合戦を展開し、米中貿易摩擦の激化の一側面として注目されている。これに合わせて、米国は2018年8月に中国製通信機器の政府調達を禁止すること、2019年5月に華為技術(ファーウェイ)などをエンティティー・リスト(EL)に加え、事実上、米国製品の輸出を不可能とすることを決定するなど、技術関連分野で中国を意識した取り組みを強化してきている。こうした中、中国も技術関連分野で対抗措置ともとれる制度構築に乗り出しており、その動向が注目を集めている。メディアの間では、米中貿易摩擦を米中間の技術覇権争いとみる向きが強まっている。

米国の対応策は技術分野に至るまで広範囲に

米国は通商法301条に基づいて、中国の知的財産権などの不当な措置の是正に向けた対抗策と主張し、2018年7月に中国原産の輸入品に追加関税を賦課した。これに対して、中国も米国原産の輸入品に追加関税を賦課する報復合戦を展開。2019年6月29日開催の米中首脳会談で、米国側が第4弾の追加関税賦課の当面の延期を決めたものの(2019年7月1日付ビジネス短信参照)、まだ予断を許さず、米中貿易摩擦の激化の一側面となっている(表参照)。

表:米中間の追加関税の賦課の動向
月日 動向
2018 7月6日 米国が1974年通商法301条に基づき中国から輸入する818品目(対中輸入額340億ドル、自動車および部品、航空機、情報通信、産業ロボットなど)に対して25%の追加関税を賦課。同時刻に中国も既に準備していた同等規模(米国から輸入する大豆など農産物、牛肉、豚肉などの畜産物、自動車、水産物など545品目)の対抗措置を正式に実施(追加関税は25%)。
8月23日 米国は1974年通商法301条に基づく第2弾の25%の対中関税賦課を開始(対中輸入額160億ドル相当の279品目。主要品目は、プラスチックや半導体、鉄道車両・部品、トラクターなど)。中国も対抗措置として、対米輸入額160億ドル相当に25%の報復関税を即時発動。古紙、銅のくず、乗用自動車などが含まれる。
9月24日 米国は1974年通商法301条に基づく第3弾の対中関税賦課を開始(対中輸入額2,000億ドル相当の5,745品目。主要品目は家具、家電、機械など)。追加関税率は2018年末までは10%、2019年以降は25%に設定。トランプ大統領は、中国が譲歩しなければ、さらに2,670億ドル相当の対中輸入に関税を賦課すると発言。中国も対米輸入額600億ドル相当に10%と5%との報復関税を即時発動。前者には液化天然ガス、機械類、後者にはレーザー機器、走査型超音波診断装置などが含まれる。
12月1日 G20首脳会議閉幕後の米中首脳会談で、米側が2019年以降に予定していた追加関税を猶予することで合意(米側声明によると、構造改革が猶予の条件で90日以内に結論を得るのが条件)
2019 5月10日 米中政府は閣僚級の貿易交渉会合を5月9、10日にワシントンで開催したが合意できなかった。米国は1974年通商法301条に基づく第3弾の対中輸入額2,000億ドル相当の5,745品目の追加関税率を10%から25%に引き上げた
5月13日 中国は米国原産の輸入品第3弾リスト(600億ドル相当の4,545品目)に対して、6月1日午前0時から追加関税率(4段階:10%→25%、10%→20%、5%→10%、5%→5%)を引き上げると発表。
5月13日 米国は1974年通商法301条に基づく追加措置として、新たに第4弾の対中輸入額3,000億ドル相当の追加関税対象品目リスト案(リスト4)を公表。米国関税率表の上位8桁ベースと10桁ベースの3,805品目で構成されており、最大で25%の追加関税を課すとしている。
6月29日 大阪で開催されたG20サミット(首脳会議)の機会を利用し、米中首脳会談が開催され、米中貿易交渉の再開、第4弾の追加関税賦課の当面の延期などが決まった。トランプ氏はファーウェイへの米国製品の輸出規制の緩和を示唆した。

出所:政府発表などを基にジェトロ作成

米国は2018年8月成立の2019会計年度国防授権法(NDAA)で、2019年8月より安全保障上の観点から、ファーウェイ、中興通訊(ZTE)などが生産する中国製の通信機器やビデオ監視装置の政府調達を禁止した(2020年8月から、これら製品を利用している企業と米国政府との契約も禁止、2019年5月15日付地域・分析レポート参照)。

また、2019会計年度国防授権法(NDAA)に盛り込まれるかたちで、2018年輸出管理改革法(ECRA)が成立し、商務省産業安全保障局(BIS)の許可が必要となる対象に、バイオテクノロジーや人工知能(AI)などが想定される「新興・基盤的技術」が加わった(2018年11月22日付ビジネス短信参照、必要な手続きを経て発効予定)。これまでは、軍事転用可能な物品・ソフトウェア・技術が想定されていた。

さらに、米国は2019年5月20日、ファーウェイと関連68社をエンティティー・リスト(EL)に加えた(2019年5月16日付ビジネス短信参照2019年5月21日付ビジネス短信参照)。ELに記載された事業体へ米国製品(物品・ソフトウエア・技術)を輸出・再輸出する際は、通常は輸出許可が必要ない品目でも、事前の許可が必要となる。しかし、原則として不許可になるため、事実上、ファーウェイなどは米国製品の調達ができなくなる(8月下旬から実施の見込み)。さらに、6月24日には、政府系スーパーコンピュータ大手の曙光信息産業など中国企業5社をELに追加した。トランプ大統領は、米中首脳会談を踏まえて6月29日にファーウェイへの米国製品の輸出規制の緩和を示唆してはいるが、その詳細がまだ明らかになっていない(2019年7月1日時点)。

中国原産の輸入品に対する追加関税賦課に加えて、米中貿易摩擦が激化する中、米国は技術関連分野においても、前述などの中国への対応策を展開してきている。

中国もエンティティー・リストを策定

こうした中、中国商務部の高峰報道官は、2019年5月31日の定例記者会見で、「信頼できないエンティティー・リスト(中国語では不可靠実体清単)」制度を策定すると発表した(2019年6月3日付ビジネス短信参照)。同リストの対象は、非商業目的で中国企業との取引を停止する、製品・サービスの提供を断つなどの差別的措置を取り、中国企業や関連の産業に実質的な損害を与え、中国の国家安全に対する脅威となる外国の企業、組織、個人としており、掲載された企業には必要な措置をとるとしている(注1)。同制度の根拠法は、対外貿易法、独占禁止法、国家安全法など関係する法規、と説明された。なお、具体的な措置は近日中に発表する、と述べるにとどまった。

目的は、国際経済貿易ルールと多国間貿易体制を守り、中国の国家安全や企業の合法的権益を守るため、とした。なお、環球時報は5月31日付の社説で、同制度策定の背景に、「米国がファーウェイを同国のELに加えると発表し、既に数社の米国企業が中国企業に対する技術提供の停止や締め出しを行っていることがある」と指摘した。そのほか、中国各メディアの中には、「リスト制定は米国の覇権主義への反撃だ」との有識者の意見を掲載するなど、やや過熱気味の報道もみられた(2019年6月7日付ビジネス短信参照)。

その後6月6日、高峰報道官は定例記者会見で「同制度の策定は国際通例を参考にしたもので、公平な競争を実現する市場秩序維持を目的としている」と説明。「同制度は非商業目的で市場を歪曲(わいきょく)する行為に対して設計した規範化を促す制度で、具体的な領域、個別企業、組織あるいは個人に対するものではない」と強調し、「米国に対抗する措置でない」とした上で、「中国の法律や法規、市場ルールなどを順守する企業は心配する必要がない」と述べた。

高峰報道官は上記のように述べているが、前述の記事のように、米国のファーウェイなどのELへの追加を意識したものとみる向きがある。ファーウェイなどへの輸出を停止した米国企業や、米国以外で商品を生産して同じくファーウェイなどへの輸出を停止した外国企業が規制対象になるのでは、と懸念する声はある。ブルームバーグの5月31日付記事は、「グーグルやクアルコム、インテルなど米国のテクノロジー企業に加え、ファーウェイへの部品供給を停止した米国外の企業も対象となる可能性がある」と伝えている。

前述の通り、米国のELに掲載された企業へは米国製品の再輸出も事実上禁止されるため、外国企業が米国以外で生産し、ファーウェイなどに納入している場合でも、米国原産品・技術が25%超含まれている場合は規制対象となる(注2)。このため、外国企業が米国の規制を順守するため、ファーウェイとの取引を停止するというケースが、メディアで報じてられている。

つまり、こうした行為をもって中国の「信頼できないエンティティー・リスト」に掲載される懸念が完全には否定できず、同リストが制定された場合は、米国のELに掲載された企業と取引を持つ企業にとっては、さらに判断が難しい状況となるとの見方がある。

重要なコア技術を確保か

新華社は6月8日、中国の国家発展改革委員会が中心となり「国家技術安全管理リスト制度」の策定に向けた検討を行っており、具体的な措置が近く発表される、と報じた(2019年6月13日付ビジネス短信参照)。

ハイテク技術の中国国外への輸出を管理・制限するものとみられるが、現時点では詳細は明らかにされていない。ただし、6月13日に商務部の高峰報道官は、国家が法律制度で重要なコア技術を保護、管理するのは国際社会でも一般的なやり方で、現在制定中の「輸出管理法」と「国家技術安全管理リスト制度」の根本目的は、国家安全と発展利益を維持することである、とした。

「輸出管理法」は、商務部が2017年6月に草案を発表し、意見募集を行った経緯がある。草案では、輸出管理の適用範囲として「両用物資(注3)、軍事物資、核およびその他国家の安全に関係する貨物および技術、役務などの品目」と規定しており、管理措置として「国家は統一した輸出管理制度を実行し、管理リストの制定を通じて、許可などの方式により管理を実施する」ことが示されていた。また草案では、再輸出も規制対象とすることになっていた。

こうした状況を踏まえ、米国の輸出管理規則(EAR)、ECRAの成立、ELへのファーウェーなどの追加などを受け、対抗的に中国のコア技術確保と流出防止を強化する意図がある、との指摘がある。「輸出管理法」は国務院の2019年の立法計画において、全国人民代表大会常務委員会で審議する法案の1つとして明示されていることから、「国家技術安全管理リスト制度」の策定と「輸出管理法」「信頼できないエンティティー・リスト」の関係性を含めて、今後の動向を注視していく必要がある。

高まるレアアースへの関心

このように中国政府は、追加関税賦課以外にも、米中貿易摩擦が激化する中で、米国の技術関連分野にかかわる政策を意識したともとれる関連制度の制定を進めており、その動向が注目されている。

このほかにも、中国国家発展改革委員会は6月4日、レアアース産業専門家の座談会などを開催し、その輸出管理・コントロールを強化するようにとの提言を受け、早急に有効な措置を打ち出すと表明している(2019年6月14日付ビジネス短信参照)。毎経網の2019年6月11日付記事が、前述の「国家技術安全管理リスト制度」にレアアース関連技術が含まれるのではないかとするなど、さまざまな憶測が飛んでいる。

ちなみに、日中間では、2010年9月の尖閣諸島での漁船衝突事件を背景に、中国のレアアースの対日輸出停止問題が発生。中国政府は輸出停止を指示した事実はないとしたものの、実際には日本企業へのレアアース輸出が滞った(日本政府が中国政府への働き掛けを行ったことなどもあり、11月末からは輸出再開)。米国のレアアース輸入額に占める中国の割合は56.4%と高く、品目によってはほとんどを中国から輸入しているケースもある(2019年6月20日付ビジネス短信参照)。

全世界のレアアース生産に占める中国のシェアは、米国、オーストラリアをはじめ供給源の多様化が進展したこともあり、2009年の97.0%から2018年に70.6%に低下はしている〔米国地質調査所(USGS)〕。しかし、依然として高いシェアであり、レアアースの輸出管理の強化は、中国にとって米国への一定の影響力を持つ交渉カードにはなり得ると考えられる。

これまで、中国が米国側の3段階の追加関税の賦課に対抗する形で実施した追加関税対象品目は、第1弾が340億ドル規模、第2弾が160億ドル規模、第3弾が600億ドル規模の合計1,100億ドル規模であり、2018年の中国の米国からの輸入額が1,551億ドルであったことを考えると、今後の追加関税対象範囲は限られる。

米国が、6月の米中首脳会談を経て、発動を一時見送ったものの、新たに対中輸入額3,000億ドル相当の追加関税対象品目リスト案(リスト4)に最大で25%の追加関税を課すカードをちらつかせている状況は、レアアースも含めて、中国の技術関連分野での取り組み強化を後押ししやすい。6月の米中首脳会談で再開が決まった米中貿易交渉の行方や米国側のファーウェイへの輸出規制の緩和の詳細内容と合わせて、今後の中国の技術関連分野での関連制度の構築状況を注視する必要がある。


注1:
2019年6月27日の商務部定例記者会見で、高峰報道官は「信頼できないエンティティー・リスト」への掲載について、以下の要素を総合的に考慮するとしている。(1)中国の実体に対して封鎖、製品・サービスの提供の中止あるいはその他の差別的行為があったかどうか、(2)行為が非商業目的で、市場ルールと契約精神に反するかどうか、(3)行為が中国企業および関連産業に実質的な損害をもたらしたかどうか、(4)行為が国家安全の脅威あるいは潜在的脅威かどうか、である。
注2:
安全保障貿易情報センター(CISTEC)の「米国再輸出規制、エンティティ・リストなどの懸念リスト、 IEEPA(国際緊急経済権限法)による大統領令についてのQA風解説(2019.05.30)」を参照。
注3:
同法における両用物資とは、民事用途であると同時に、軍事用途あるいは軍事力向上の潜在力を有し、特に大量破壊兵器の設計、開発、生産あるいは使用に資する貨物、技術および役務などを指す。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、北京センター、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・北京事務所を経て、2018年8月より現職。

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