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欧州、南米との貿易協定が改定へ
メキシコの自動車産業の現状と対外通商政策(4)

2019年5月9日

メキシコは欧州や南米諸国とも自由貿易協定(FTA)など特恵貿易協定を締結しており、欧州や南米に向けての輸出製造拠点として活用する完成車メーカー(OEM)もある。トランプ米国政権の誕生と北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉は、対米輸出製造拠点としての発展を遂げてきたメキシコが、過度な対米依存からの脱却を本格的に進める契機となった。ペニャ・ニエト前政権下でEUとのFTAの現代化、南米2大国(ブラジル、アルゼンチン)との経済補完協定(ACE)の拡大深化などが進められ、EUとの協定は2018年4月に実質合意に至った。ブラジルとの自動車協定は交渉期限の2019年3月18日に間に合わず、自動車部品の原産地規則の緩和などを目指す交渉が継続している。メキシコの自動車産業の現状と展望に関する4本シリーズの4本目は、欧州や南米2大国との関係とそれらの国との通商協定の改定について。

マツダとアウディの進出で大きく伸びたEU向け完成車輸出

2018年のメキシコの対EU自動車(HS87.02~87.04項)輸出額は63億860万ドル、輸入額は24億5,040万ドルで、貿易収支は38億5,820万ドルのメキシコ側の黒字になっている(図1参照)。EU・メキシコFTAの発効初年度の2000年と比べると、輸出は11.0倍、輸入は4.8倍に拡大している。輸出額は2014年以降で右肩上がりとなっており、特に2017年の伸びが大きい。

図1:メキシコの対EU自動車(完成車)貿易額の推移
輸出は2000年の6億ドル弱の水準から数年間はほぼ横ばいで推移。その後2006~2008年に急速に増加し2008年には36億ドルの水準に達した。その後、リーマンショック等の影響で2009年に20億ドルの水準に低下、その後徐々に回復して2012年に36億ドル弱の水準に回復。その後2013年に25億ドル、2014年に20億ドルの水準に下落も、2015年から回復に転じ、2015年に27億ドル、2016年に32億ドルに達し、その後は2017年に62億ドルと急増。2018年もわずかに増加して63億ドルとなった。輸入は2000年の5億ドルの水準から2003年には13億ドルの水準まで増加。その後はほぼ横ばいで推移し、2012年以降に増加に転じ、2012年に16億ドル、2013年に19億ドル、2014年に20億ドル、2015年に23億ドルまで増加、2016年は21億ドルに減少したが、2017年は再び23.5億ドルに増加、2018年は24.5億ドル。貿易収支は当初はEU側の黒字、メキシコ側の赤字で赤字幅は2002年に9億ドルに拡大したが、その後は縮小に転じ、2006年にメキシコ側の黒字に逆転。その後は波を打ちながらもメキシコ側の黒字が続き、2017~2018年はメキシコ側の38億ドル超の大幅な黒字になっている。

出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

メキシコからEUに自動車を輸出している主なOEMは、フォルクスワーゲン(VW)、フィアット・クライスラー(FCA)、マツダの3社(図2参照)。VWグループは2017年以降、高級車アウディ・ブランドのSUVの生産をメキシコで開始し、欧州に輸出している。マツダは2014年に生産を開始したが、欧州に輸出を開始したのは2015年以降である。マツダは2018年にメキシコにおける生産台数の約3割を欧州に輸出しており、欧州はマツダにとって重要な市場だ。アウディも生産台数の42.8%を欧州に輸出しており、メキシコを欧州向けの輸出製造拠点として積極的に活用している。

図2:企業別の対欧州輸出台数
VWの対欧州輸出台数は2014年に8万1,232台、2015年に5万9,629台、2016年に5万9,067台、2017年に7万971台、2018年に12万4,191台。FCAの対欧州輸出台数は、2014年に1万6,064台、2015年に1万2,353台、2016年は126台、2017年に4万1,250台、2018年に8万324台。マツダの対欧州輸出台数は、2014年は実績なし、2015年に4万6,509台、2016年は5万6,535台、2017年に5万5,592台、2018年に4万4,120台。その他の対欧州輸出台数は、2014年に888台、2015年は実績なし、2016年は11台、2017年に245台、2018年に53台。

注:企業は系列ブランドの台数を含む。例えば、VWにはAudiが含まれている。
出所:国立統計地理情報院(INEGI),メキシコ自動車工業会(AMIA)データからジェトロ作成

他方、自動車部品の貿易額をみると、部品貿易ではメキシコ側の大幅な入超となっており、輸入額はほぼ右肩上がりで増加している(図3参照)。VWグループを中心に、EU・メキシコFTAを活用して欧州から自動車部品を無関税輸入し、メキシコで自動車に組み立てて欧州に輸出するオペレーションが行われている。EUは完成車に10%の一般関税(MFN)を課しているため、米国など、EUとFTAを締結していない国で生産した自動車の輸入では10%の関税コストを覚悟する必要があるが、メキシコで生産される自動車については、FTAの原産地規則を満たせば関税が0%となるため、メキシコはEU向けの輸出製造拠点としても優位性がある(表1参照)。

図3:メキシコの対EU自動車部品(注)貿易額の推移
輸出は2000年の1.4億ドルの水準から緩やかな右肩上がりで2008年に5.5億ドルまで増加。その後、リーマンショック等の影響で2009年に3.4億ドルまで低下したが、2010年に5.6億ドルにV字回復、その後は緩やかな右肩上がりで2015年に11.6億ドルまで増加、2016年は10億ドルまで減少したがその後回復、2018年に13.8億ドルに達している。輸入は2000年の16.3億ドルの水準から右肩上がりで増加し、2008年に35億ドルの水準に達した。その後2009年に31.6億ドル、2010年に28.8億ドルに減少したが、その後は回復し、2014年には45.7億ドルの水準まで増加した。2015年に42.4億ドルの水準に下落したが、2016年は43.9億ドルに回復、その後急増し2017年に61.1億ドル、2018年は69.8億ドルの水準に達している。貿易収支は一貫してEU側の黒字、メキシコ側の赤字で赤字幅は多少の波は打ちながらも年々増加し、2000年に14.9億ドルだった赤字は2018年に56億ドルの水準まで拡大している。

注:HS8708項の自動車専用部品に加え、HS83類、84類、85類の中から、特に自動車用の部品・装置の輸出額を抽出して足し上げたもの。
出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

表1:FTA・特恵貿易協定による関税削減メリット(自動車産業)

自動車分野:主要輸出先および一般・対メキシコ関税率(2019年1月1日時点)(単位:%)
品目 米国 カナダ メルコスール コロンビア EU
一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨
乗用車 2.5 0.0 6.1 0.0 35.0 0.0 35.0 0.0 10.0 0.0
ピックアップトラック 25.0 0.0 6.1 0.0 35.0 0.0 35.0 0.0 10.0/22.0 0.0
自動車部品:主要輸出先および一般・対メキシコ関税率(2019年1月1日時点)(単位:%)
品目 米国 カナダ メルコスール コロンビア EU
一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨 一般 対墨
ガソリンエンジン 2.5 0.0 0.0 0.0 18.0 0.0 0.0 0.0 2.7/4.2 0.0
ディーゼルエンジン 2.5 0.0 0.0 0.0 18.0 0.0 0.0 0.0 2.7/4.2 0.0
エンジン部品 2.5 0.0 0.0 0.0 2.0/16.0 0.0 0/5.0/10.0 0.0 2.7 0.0
ワイヤーハーネス 5.0 0.0 0.0 0.0 16.0 0.0 10.0 0.0 3.7 0.0
車体部品 2.5 0.0 0/6.0/8.5 0.0 18.0 0.0 0.0/10.0 0.0 3.0/4.5 0.0
ブレーキ 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 0/5.0/10.0 0.0 3.0/4.5 0.0
トランスミッション 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 0.0/5.0 0.0 3.0/4.5 0.0
車軸・シャフト 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 0/5.0/10.0 0.0 3.0/4.5 0.0
クラッチ 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 5.0/10.0 0.0 3.0/4.5 0.0
ステアリング 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 5.0 0.0 3.0/4.5 0.0
エアバック 2.5 0.0 6.0 0.0 18.0 0.0 0.0 0.0 3.0/4.5 0.0

出所:各国関税率表、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)関税率検索ウェブサイトなどからジェトロ作成

FTA現代化で原産地規則が緩和

メキシコ政府は、2000年7月に発効したEUとのFTAの現代化(Modernization)交渉を2016年6月から行ってきたが、同年11月のトランプ大統領の当選以降、急速に交渉を加速させた。そして、10回の交渉の後、2018年4月21日にブリュッセルで実質合意に達したことが発表された。メキシコ経済省のミロスラバ・ペレス市場アクセス局局長補佐によると、2019年3月末時点で全ての交渉は終了しており、現在は条文の法的な観点のレビューが両国で行われている。2019年上半期には、両国代表者による署名が行われる見通しだ。

EUとのFTAの現代化交渉は、既存協定では関税撤廃の例外品目となっていた多くの農産品について相互に関税が撤廃されるのに加え、サービス貿易に通信サービスが追加され、ビジネスパーソンの一時滞在の円滑化、通関手続きの円滑化、デジタル経済に関する分野などの規定が拡大される。加えて、メキシコ・EU間の投資保護に関するメカニズムとして、EU側が提案した2審制かつ常設の投資裁判所制度が盛り込まれた。

現代化した協定が発効した場合に、進出日系企業にとってプラスの影響があるのは、自動車分野の原産地規則の緩和だ。従来のFTAは15年以上前に発効したものであり、原産地規則がかなり厳格なため、メキシコで製造しても原産品とならない自動車部品も多かった。EUのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に掲載されている暫定条文によると、完成車の域内原産割合(RVC)は工場渡し(Ex-Works)価格ベース控除方式(注1)で従来の60%から55%に、主要自動車部品のRVCは同60%から50%に下がる。また、HS39類のプラスチック樹脂に加工工程基準(注2)の1つである「混合・調合」ルールが盛り込まれた。原料樹脂とは異なる物理的または化学的特徴が付与されるコンパウンド工程がメキシコで行われれば、原料樹脂が米国やアジアから輸入されたものでも、当該プラスチック・コンパウンドを原産材料と見なすことができるため、プラスチック製自動車部品の原産判定に有利に働く。

さらに新しい協定では、HS87.03項の乗用車に用いられている幾つかの部品・原材料について、共通にFTAを締結する第三国の部品・原材料を、一定の条件の下で原産材料と見なすことができる「多国間累積」の概念が盛り込まれている(Annex II-AのIII)。メキシコとEUは、双方とも日本との間で経済連携協定(EPA)を発効させており、将来的に日本の部品・原材料がEU・メキシコFTAの原産材料として活用できる可能性がある。

2008~2009年に逆転した南米2大国との自動車貿易収支

メキシコは、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイとの間で2002年7月にラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定(ACE)55号(通称、「メキシコ-メルコスール自動車協定」)を締結し、2003年1月から発効させている。ACE55号は付属書Iが対アルゼンチン、付属書IIが対ブラジル、付属書IVが対ウルグアイの自動車および自動車部品貿易を規定している。メキシコにとって、2018年にブラジルは第4位、アルゼンチンは第8位の自動車輸出先だ。ブラジルに輸出しているOEMは、ゼネラルモーターズ(GM)、VW(アウディーを含む)、日産、FCA、フォード、起亜の6社。2018年はGMのエキノックス、トラックスといったスポーツ用多目的車(SUV)の輸出が伸びている(図4参照)。アルゼンチンに輸出しているOEMは、VW、GM、日産、フォード、起亜、FCAであり、2018年は同国の景気後退の影響で、ブラジルとは対照的に輸出が減少している(図5参照)。

図4:企業別の対ブラジル輸出台数
GMの対ブラジル輸出台数は2014年に1万7,191台、2015年に1万4,007台、2016年に5,235台、2017年に2万3,046台、2018年に3万8,513台。VWの対ブラジル輸出台数は、2014年に1万9,988台、2015年に1万5,474台、2016年は8,749台、2017年に6,962台、2018年に1万7,248台。日産の対ブラジル輸出台数は、2014年に28,166台、2015年に8,721台、2016年は24,596台、2017年に9,758台、2018年に8,692台。FCAの対ブラジル輸出台数は、2014年に8,647台、2015年は4,768台、2016年は722台、2017年に1,593台、2018年に6,822台。フォードの対ブラジル輸出台数は、2014年に2万2,897台、2015年は1万3,680台、2016年は4,082台、2017年に6,197台、2018年に4,002台。起亜の対ブラジル輸出台数は、2014~2015年は実績なし、2016年は1,000台、2017年に1,487台、2018年に3,163台。ホンダの対ブラジル輸出台数は、2014年に5,939台、2015年は2,778台、2016年は1,661台、2017年以降は実績なし。

注:企業は系列ブランドの台数を含む。例えば、VWにはAudiが含まれている。
出所:国立統計地理情報院(INEGI),メキシコ自動車工業会(AMIA)データからジェトロ作成

図5:企業別対アルゼンチン輸出台数
VWの対アルゼンチン輸出台数は2014年に5,860台、2015年に1万575台、2016年に1万1,657台、2017年に1万1,956台、2018年に1万2,502台。GMの対アルゼンチン輸出台数は、2014年に5,981台、2015年に1万1,665台、2016年は9,531台、2017年に1万3,647台、2018年に1万1,674台。日産の対アルゼンチン輸出台数は、2014年に3,917台、2015年に8,520台、2016年は8,530台、2017年に7,505台、2018年に5,794台。フォードの対アルゼンチン輸出台数は、2014年に5,522台、2015年は6,249台、2016年は4,752台、2017年に4,731台、2018年に1,417台。起亜の対アルゼンチン輸出台数は、2014~2015年は実績なし、2016年は1,000台、2017年に1,487台、2018年に958台。FCAの対アルゼンチン輸出台数は、2014年に3,589台、2015年は1,724台、2016年は2,482台、2017年に1,466台、2018年に784台。ホンダの対アルゼンチン輸出台数は、2014年に851台、2015年は658台、2016年は2,042台、2017年は339台、2018年は実績なし。

注:企業は系列ブランドの台数を含む。例えば、VWにはAudiが含まれている。
出所:国立統計地理情報院(INEGI),メキシコ自動車工業会(AMIA)データからジェトロ作成

ACE55号が発効した2003年以降、当初の数年間はブラジルやアルゼンチンからメキシコへの輸入が目立ち、メキシコから南米両国への輸出はわずかで、貿易収支はブラジルやアルゼンチン側の黒字であった。ところが、南米両国における人件費の高騰など製造コストの上昇により徐々にメキシコからの輸出に追い風が吹き、2008年(対ブラジル)や2009年(対アルゼンチン)になると貿易収支は逆転し、メキシコ側の黒字が続くようになった(図6、7参照)。

図6:メキシコの対ブラジル自動車(完成車)貿易額の推移
輸出は2003~2005年までは1,600~3500万ドルと僅かだったが、2006年以降急増、2008年には14.4億ドルに達した。2009年には8.6億ドルに低下したが、2010年に13.8億ドルにV字回復。その後急増し、2012年には24.5億ドルまで拡大した。その後は右肩下がりで減少に転じ、2016年には7.3億ドルまで減少、その後は回復に転じ、2017年に7.9億ドル、2018年に12.5億ドルとなった。輸入は2003年の12.7億ドルの水準から右肩上がりで増加し、2006年には15.9億ドルの水準まで増加。その後はほぼ右肩下がりで減少し、2014年には3.4億ドルまで減少。その後は増加して2017年には7.4億ドルに達したが、2018年は再び4.7億ドルに減少した。貿易収支は当初はブラジル側の黒字、メキシコ側の赤字で赤字幅は2003年の12.5億ドルから2005年に15.4億ドルに拡大したが、その後は縮小に転じ、2008年にメキシコ側の6.1億ドルの黒字に逆転。その後は2012年までメキシコ側の黒字幅が拡大し、一時は20.2億ドルまで拡大した。その後は黒字幅が縮小し、2017年にはほぼ収支均衡の4,900万ドルまで縮小したが、2018年には再び7.9億ドルに拡大している。

出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

図7:メキシコの対アルゼンチン自動車(完成車)貿易額の推移
輸出は2003年の1,000万ドルの水準から右肩上がりで増加、2008年に4.2億ドルに達した。2009年には3.6億ドルに低下したが、2010年に8.9億ドルにV字回復。その後2013年まで横ばいに8億ドル台で推移。2014年に3.9億ドルに減少、その後は2017年まで増加し、2017年に6.5億ドルとなった後、2018年に5億ドルまで下落。輸入は2003年の3.3億ドルの水準から右肩上がりで増加し、2005年には5.2億ドルの水準まで増加。その後はほぼ右肩下がりで減少し、2012年には7,500万ドルまで減少。その後は増加して2015年には2.6億ドルに達したが、その後は右肩下がりで減少、2018年には1.4億ドルまで下落。貿易収支は当初はアルゼンチン側の黒字、メキシコ側の赤字で赤字幅は2003年の3.2億ドルから2005年に4.3億ドルに拡大したが、その後は縮小に転じ、2009年にメキシコ側の7,400万ドルの黒字に逆転。その後は2012年までメキシコ側の黒字幅が拡大し、一時は8.0億ドルまで拡大した。その後は黒字幅が縮小し、2014年には1.7億ドルの水準まで下落。その後は再びメキシコ側の黒字が増え、2017年には4.9億ドルまで拡大したが、2018年には3.6億ドルに縮小した。

出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

メキシコからの輸出拡大ばかりが目立つようになった2012年、メキシコとの自動車分野の貿易赤字を懸念したブラジル、アルゼンチン両国の政府はメキシコ政府と交渉し、完成車の無関税貿易に一定の制限をかける、金額ベースの関税割当の設定で合意した(第4次追加議定書)。同割当の設定は3年間の時限措置であったが、その後も景気後退に苦しんだ両国の要請に応じて、2015年3月に割り当ての4年間の延長を定める第5次追加議定書が締結され、同時に自動車部品の原産地規則も厳格化された。ブラジルとの間では2016年末に第6次追加議定書が発効しており、第5次追加議定書で厳しくなりすぎた自動車部品の原産地規則を、品目に応じて暫定的に緩和する措置が採られた。

ブラジル、アルゼンチンとの間の自動車部品の貿易をみると、近年は両国向けともメキシコ側の黒字になっているが、ブラジル側が拡大基調にあるのとは対照的に、アルゼンチンは近年の景気後退により同国の自動車販売台数が減少していることもあり、ここ2年は輸出額が減少している(図8、9参照)。

図8:メキシコの対ブラジル自動車部品(注)貿易額の推移
輸出は2003年の1.2億ドルの水準から緩やかな右肩上がりで2008年に3.0億ドルまで増加。その後、リーマンショック等の影響で2009年に2.3億ドルまで低下したが、2010年に3.8億ドルにV字回復、その後は緩やかな右肩上がりで2015年に9.8億ドルまで増加、2016年は8.9億ドルまで減少したがその後回復、2018年に15.2億ドルに達している。輸入は2003年の5.2億ドルの水準から右肩上がりで増加し、2008年に15.2億ドルの水準に達した。その後2009年に9.6億ドルまで急落、その後2014年まで9億ドル台の水準で横ばいに推移したが、2015年に7.5億ドルまで下落、その後は緩やかに回復し、2018年は10.7億ドルの水準に達している。貿易収支は2003年時点で4億ドルのメキシコ側の赤字だったが、2008年まで赤字幅が拡大し、同年に12.2億ドルまで増加した。その後は赤字幅が縮小し、2014年にメキシコ側の7,500万ドルの黒字に逆転、その後はメキシコ側の黒字が増えて2018年に4.5億ドルの水準に達した。

注:ACE55号付属書II対象品目の貿易額。
出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

図9:メキシコの対アルゼンチン自動車部品(注)貿易額の推移
輸出は2003年の1,500万ドルの水準から緩やかな右肩上がりで2013年に1.4億ドルまで増加。2014年に1.1億ドルに減少したが、2015年に1.3億ドル、2016年に2.1億ドルと増加に転じた。2017年以降減少に転じており、2017年に1.4億ドル、2018年は1.3億ドルまで減少した。輸入は2003年の5,500万ドルの水準から2005年の3,400万ドルまで減少し、その後は増加に転じて2008年に1.0億ドルの水準に達した。その後2009年に6,700万ドルの水準に急落。その後は2012年まで横ばいに推移し、2013年に4,800万ドルに下落、その後4,000万ドルの後半から5,000万ドルの前半で横ばいに推移している。貿易収支は2003年時点で4,000万のメキシコ側の赤字だったが、2005年まで赤字幅が縮小し、同年に940万ドルまで縮小した。その後は2007年まで赤字幅が拡大し、同年に7,300万ドルまで拡大すると、その後は縮小し、2010年にメキシコ側の2,400万ドルの黒字に逆転、その後はメキシコ側の黒字が増えて2016年に1.7億ドルの黒字に達したが、その後は2017年に9,400万ドル、2018年に8,100万ドルと減少している。

注:ACE55号付属書I対象品目の貿易額。
出所:メキシコ側通関統計からジェトロ作成

ブラジルとの交渉は継続、原産地規則緩和を目指す

2017年のトランプ政権発足を機に、輸出先の多角化を目指すメキシコ政府は、ブラジルとの間では自動車以外の分野の特恵貿易協定であるACE53号、アルゼンチンとの間ではACE6号の拡大深化に向けた交渉を加速させ、同時にACE55号(自動車協定)の完成車の無関税割当の撤廃(数量制限なしの自由貿易)と、自動車部品の原産地規則緩和に向けた交渉を進めていた。しかし、アルゼンチンの景気後退、メキシコとブラジルにおける政権交代などがあり、第5次追加議定書の無関税割当適用期限である2019年3月18日を直前に控えても、交渉は思ったように進展しなかった。

アルゼンチンとの間では、同国の要請を受け入れるかたちで2019年3月18日に第6次追加議定書が締結され、完成車の無関税割当が3年間延長された。金額ベースで割り当て額は2019年度(3月19日~翌年3月18日)に前年度比10%増、2020年度に5%増、2021年度に5%増となる。過去4年間のメキシコからアルゼンチンへの完成車の輸出額をみると、2017年度は輸出額が割り当て金額を上回っていたが、2018年度の9カ月間は同国の不況により、割り当て金額の72.7%しか輸出していない。そのため、アルゼンチンの自動車販売市場が今後大きく回復しない限りは、割り当てが不足する事態にはならないと想定される。また、上記割り当て額に加え、輸出者は相手国からの輸入額と同額の割り当てをクレジットとして追加付与される(第3条)。なお、原産地規則にも変更はなく、自動車および自動車部品のRVCは積み上げ方式(注3)で35%のままであり、品目に応じた軽減措置も維持される。また、自動車部品については関税分類変更基準(CTC、注4)を適用して原産品と見なすことも可能だ。2022年3月19日に完成車無関税輸入割り当てが撤廃されて自由貿易に戻った後は、RVCが40%に引き上げられるが、計算公式は両国の合意の上で、2020年3月19日までに変更される(議定書第4条)。無関税割当と原産地規則の詳細は、2019年4月2日付ビジネス短信参照。

ブラジルとの間の第7次追加議定書の交渉は、第5次および第6次追加議定書が定める3月18日の交渉期限に間に合わず、3月19日以降、当面の間は両追加議定書に規定されている以下の内容に変更される(表2参照)。

(1)
完成車の無関税割当は撤廃され、自由貿易に戻る。
(2)
完成車および直接輸出される自動車部品のRVCの閾値(いきち)は35%から40%に引き上げ。
(3)
第6次追加議定書第2条が定めていた特定自動車部品のRVC軽減措置(2017年1月16日付ビジネス短信参照)は撤廃され、全て40%に統一。
表2:メキシコ-ブラジル自動車協定の原産地規則
製品分野 原産地規則の内容
完成車(乗用車、小型トラック) 製品取引価額(FOB)に占める原産材料の価額合計が40%以上
(「原産材料」には労働コストや間接経費は含めない)
(自動車部品)
原則
製品取引価額(FOB)に占める原産材料の価額合計が40%以上
(自動車部品)
完成車に組み込まれる部品を原産品と判断する基準
HS4桁レベルの関税分類変更,もしくは非原産材料価額合計が製品価額(FOB)の50%以下
自動車部品とみなされない部材を原産材料と判断する基準 HS4桁レベルの関税分類変更,もしくは非原産材料価額合計が製品価額(FOB)の50%以下

出所:ACE 55号別添II(原産地規則)、同付属書II第5次・第6次追加議定書からジェトロ作成

無関税割当の撤廃は、完成車をブラジルに輸出する企業にとっては追い風となるが、原産地規則の厳格化は、自動車部品をブラジルに輸出する企業にとっては厳しい内容だ。日系OEMのサプライチェーンは、ブラジルよりもメキシコの方が充実していることもあり、日産やホンダのサプライヤーを中心に、メキシコからブラジルに自動車部品を輸出する企業は多い。鋼材や樹脂などの素材の現地調達が難しいメキシコにおいて、積み上げ方式で40%以上というRVCは高いハードルだ。

メキシコ自動車部品工業会(INA)は、2019年3月21日付の会員向けメール配信の中で、(3)の軽減措置が維持できなかったことに遺憾の意を表し、交渉中の第7次追加議定書では、RVCの計算公式の変更に加え、アルゼンチン向けと同様、相手国に直接輸出される自動車部品の原産地規則にCTCの適用を認めさせるよう、経済省のルス・マリア・デ・ラ・モラ通商交渉担当次官に働き掛け、同次官の同意を得た、としている。またINAによると、RVCの計算公式については、既にブラジル自動車部品工業会(Sindipeças)との間で、FOB取引価額から非原産材料価額を控除して残った付加価値が、FOB取引価額の何%に相当するかで計算する公式(控除方式)に変更することで合意しているという。閾値については、INAは40%を想定しているが、メルコスール(南米南部共同市場)域内のRVCの閾値が控除方式で60%に設定されているため、公式の変更後の閾値は60%になるだろうという見方もある。


注1:
計算式は、次のとおり。
RVC(%)=(Ex-Works取引価額-非原産材料)/Ex-Works取引価額×100
注2:
非原産材料を使用しても、当該材料に特定の加工工程が域内で施されていれば、加工後の製品を原産品と見なす実質的変更基準。
注3:
FOB取引価額に占める原産材料の価額で計算する。「材料」の価格しかRVCに算入できないため、人件費や製造経費などの付加価値が反映されない。
注4:
製品を生産するために使用した非原産材料と製品の間に、指定された桁数のHSコードの変更があれば、原産品と見なす基準。通称、タリフジャンプ。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。

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