AIを活用したスマートシティへの動き進む(モロッコ)
アフリカICT産業 現地レポート(1)

2019年10月10日

アフリカでは急速な経済発展に伴い、都市化が進んでいる。このような状況下で注目されているのが、情報通信技術(ICT)などのテクノロジーを活用して、都市の課題を解決し持続可能な都市づくりを目指す「スマートシティ」だ。モロッコのカサブランカで4月17~18日に、第4回「Smart City Expo」が開催された。「AI(人工知能)とデジタルのスマートシティへの活用」をテーマに、世界各国から政府や国際機関、民間企業関係者ら約3,250人が参加(注)。モロッコにおけるスマートシティ動向について議論した。サイドイベントでは、カサブランカにおける電子商取引(EC)やデリバリーサービスを提供するスタートアップ10社ほどが展示を行っており、各社が商談を実施した。モロッコ政府と現地企業のスマートシティへの取り組みについて紹介する。

モロッコ政府、AI活用で公共サービス向上による経済発展に期待

4月17日に開催された開会セレモニーでは、モロッコが目指すスマートシティの将来像について言及された。カサブランカ市議会議長のムスタファ・バクリ氏は、カサブランカの近い将来のビジョンとして、「AI活用を通した公共サービスの向上やセキュリティの確保によるさらなる経済発展を目指しており、この分野への投資を惜しまない。世界中を流通するデータはもはや領土であり、同様に取り扱っていく」と、今後の同分野についての期待を表した。

カサブランカ市長のアブデラジズ・オマリ氏は「デジタル・カサブランカというロードマップを策定している。シングルウィンドーのプラットフォームを構築することで、行政サービス・情報が共有できるようになり、それらを活用して行政・経済分野が改善発展することを期待している」と述べた。他方、「大学間連携などによる、埋もれている知見の共有も必要不可欠。さらに、行政と経済の間を埋めるため、多くのスタートアップによる革新的サービスを取り込んでいきたい」と、政府だけではなくスタートアップや大学間との連携についても呼び掛けた。

バドリア・ベンジェルーン都市開発省次官は「スマートシティの考え方は、各都市にとどまるものではなく、カサブランカ、ラバト、マラケシュなどの主要都市がスマートシティ化し、相互に連携することによって、国全体のマネジメントに資するものである。各種サービス内容は各都市が主導するものの、主要なプラットフォームやインターフェースなどは国が統一することで、国家としての整合性を取っていきたい」と、政府としてスマートシティを推進していく姿勢を見せた。

スマートシティへの移行を進める政府に対し、米国IMPACTデジタル経済研究所のミハエラ・ウリエル所長は「トップダウンで、個別メニューすべてを押し付けるやり方では、従来のように縦割りとなってしまう」と指摘する。「政策決定者は、国家の方向性や相互運用性(Interoperability)の確保など、共通分野におけるリーダーシップを発揮するべきである。個別のサービス内容や実施方法などは各都市に任せることで、新たなイノベーション、プロセス、テクノロジー、データが発生し、それらを活用することによって、大きな発展を遂げることができる」と述べた。

会議中、カサブランカの大きな課題の1つとして取り上げられたのは交通渋滞だ。同市ではトラムなどの公共交通を導入しているものの、十分に解決できているとは言えない。「AIを活用して、交通状況の監視・分析をし、迂回路や代替手段などの情報を提供する必要がある。AIに、路上駐車や公共交通、乗り換え状況などの人の動きを学習させ、その状況をリアルタイムで監視・分析することによって、最適な交通の流れを構築するべきである」との意見が聞かれた。


ディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

民間企業らAIを活用し市民サービス向上に寄与、SUとの協力も

モロッコでは政府だけではなく、民間企業や大学もAI活用を通した市民サービスのため、さまざまな取り組みを行っている。

ハッサン2世大学では、日本、チリ、フランス、スペインなどの大学と連携し、スマートシティを含むさまざまな分野に適用可能なAIやセキュリティの共同教育、知見の共有を行っている。また、米国エヌビディア(Nvidia)の最新のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)を利用して、AIアルゴリズム、アプリ、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータの活用などの研究を行っており、スマートシティを実施する際に協力できる、と語った。

モロッコ電力水道公社(ONEE)では、エネルギー消費効率化のために、AI活用を進めており、発送電におけるエネルギー管理だけでなく、電力利用サービスにも適用して、全体最適を目指している。

アラブ首長国連邦のアイホーム・フューチャー(iHome Future)は、建物のスマート化を目指す。日常生活に欠かせない電気や空調管理、セキュリティ管理、火災センサーなどを導入しているが、これらを実施するためには、IoTを活用したワイヤレスセンサーネットワークや、それらを収集・分析する統一プラットフォームが必要不可欠だと、述べた。

本会議には、32社のスタートアップ企業も参加した。ボッツファクトリー(Bots Factory)やヤシヌ・エサイード(YASSINE ESSAID)などのスタートアップや金融関係者などが、モロッコでのデジタル化に当たり、政府・大企業とエンドユーザーの間を埋めるためにスタートアップとの協力は必須だ、とする議論を繰り広げた。その中では、以下のような指摘もあった。

  • モロッコの起業家精神は非常に活発で意識が高く、関連人材や教育水準も高いため、それらをインキュベータや投資家につなげていかなければならない。
  • これまでモロッコのスタートアップサービスは国内での協業が多かったが、最近では海外との協力も増えてきている。
  • 一方で、スタートアップは常に政府や大企業との連携を模索しているが、モロッコの大企業はCEO(最高経営責任者)と担当者との間に非常に多くの人が介しており、意思決定に非常に時間がかかる。
  • さらに、対価の支払いもプロジェクト終了後であり、72時間以内にさまざまな支払いをする必要があるスタートアップとの連携は非常に難しいのが実情。スタートアップは大企業からの支払いを待っている暇はなく、このギャップを埋めていく必要がある。

パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

スマートシティ関連分野は日本企業にとっても有望

今後、日本企業がスマートシティ関連分野でビジネスを展開するに当たっては、特にIoT、AI、交通、セキュリティ分野に注目すべきであろう。例えば、モロッコでは交通渋滞解消が大きな課題の1つであり、同国では今後、ビックデータやAI学習に注力し、渋滞解消プロジェクトを進めていく予定だ。またモロッコは、アフリカの中でもICT関連の教育水準が高く、特にAIやセキュリティ教育に力を入れている。日本企業が得意とする高度な先端技術や、高度道路交通システム(ITS)や自動運転技術などを活用した交通分野、セキュリティ分野への参入、さらには高度な技術を有した人材の活用は、両国にとって新たなビジネスチャンスとなるかもしれない。


注1:
参加者数は登録ベース。

※本調査は総務省「平成31年度アフリカにおける情報通信・郵便分野の情報収集・調査事業」の一環として実施したもの。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
川崎 大佑(かわさき だいすけ)
2018年8月より現職。