アフリカ最大の産業の農業にデジタル化の動き
アフリカICT産業 現地レポート(4)

2020年2月13日

アフリカの農業は生産性が低いことから、人口増加による食料需要に供給が追い付かないなどの課題がある。しかし、近年の急激な携帯電話普及に伴い、現地農家のデジタル技術やデジタルサービスへのアクセスが増加している。域内最大の産業部門の農業をデジタル化する動きは、これまでの伝統的な農業の課題だった生産性の低さから脱却し、飛躍的に成長する可能性を秘める。ガーナの首都アクラで2019年9月3~6日、第9回「African Green Revolution Forum 2019」が開催された。「Grow Digital-デジタルトランスフォーメーションの活用によるアフリカの持続可能な食料システムの促進-」をテーマに掲げ、アフリカ諸国や欧州、中国など89カ国から政府や民間企業の関係者ら約2,400人が参加した。各国政府、民間企業が議論するアフリカの農業におけるデジタル活用の課題と機会に注目したい。

持続的な成長のため農業へのデジタル活用に期待

フォーラムの開会あいさつでは、主催者である「アフリカ緑の革命のための連合(Alliance for a Green Revolution in Africa:AGRA)」のアグネス・カリバタ事務局長が「農業はアフリカ最大の産業のため、農業にデジタル技術を組み合わせたビジネスへの移行は持続的な成長に必要不可欠であり、投資の呼び込みや雇用創出の大きな要素にもなるだろう。2019年8月に日本で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でも、アフリカにおけるイノベーション支援が盛り込まれた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて、農業のイノベーションを推進していきたい」と、アフリカの農業へのデジタル活用に意欲を示した。アフリカ連合(AU)のジョゼファ・レオネル・コリア・サコ農村経済・農業委員は、AUが農村地域のデジタルインフラ構築やアグリファイナンスなどのスタートアップを活用したアグリテックの促進、デジタルスキル向上に関する戦略立案などを実施していることを紹介し、「アフリカは各種インフラの多くが未整備なため、インフラからサービスまでのバリューチェーンを一気通貫でデジタル化することが比較的容易にできる。他の先進国と比してアフリカはデジタルトランスフォーメーションに最も適していると考えている」と期待を表した。


開会あいさつの様子(ジェトロ撮影)

アフリカでの農業に対するデジタル活用状況を見てみる。農業に関するプラットフォームとしては、政府関連サービスや支払いサービス、携帯電話事業者のサービス、銀行のサービス、スタートアップやアグリビジネスのサービスなど多数存在する。これら農業ソリューションを適用する農家は約3,300万人とされているが、実際にデジタル技術を活用しながら農業を行うアクティブユーザーは15~30%程度だ。一方で、モノのインターネット(IoT)やブロックチェーン、人工知能(AI)の活用を望む農家は6割を超えており、国別にみると、ケニアなどの東アフリカ諸国が最も多い。2030年までには2億人以上が農業へデジタルを活用すると予想されており、今後さらなる増加が期待される。特に、農業へのデジタル活用として有望視されている分野は、各種情報を活用した作付けアドバイスサービス、天候などの情報提供サービス、作物を売買するマーケット連携サービス、種子などを購入するための金融サービス、サプライチェーン管理、各種情報を分析・活用するアグリインテリジェンスなどだ。

各国政府、環境整備や支援策で農業のデジタル化を推進

各国政府も農業のデジタル化に向けてさまざまなロードマップを打ち出している。フォーラム会場では以下の指針が示された。

ガーナ

アクフォ=アド大統領は、農業のデジタル化とファイナンスの提供、民間投資の促進を行っていくことによって、貧困の解決や雇用創出を約束すると意欲を示した。具体的には、モバイルによるトラッキングやマーケティング、収穫マネジメントなどAIを活用したデジタル技術の導入農業や、生産、流通、売買までの全体サプライチェーンの構築、人材育成、ファイナンス提供、さらには、付加価値を向上させるための加工産業の強化、低費用の加工機械の提供などだ。大統領は、グローバルマーケットにアクセスするためには、原料の生産だけでなく、加工などで付加価値の高い製品を国内で製造し、それらを欧米諸国やASEAN諸国などと自由貿易協定(FTA)を締結することによって、貿易を促進していくことが重要だと強調した。ウスラ・オウス・エクフル通信相も、ガーナでの情報通信技術(ICT)インフラ整備、電子商取引やデリバリーサービスの促進、国民IDの導入など、情報社会に向けたロードマップを策定していることを取り上げた。また、農家の支払いや決済などへの国民IDの活用や、農業・漁業の効率化促進のためのGPSなど位置情報の活用を進め、農業ビジネスを円滑に行いたいとの考えを明らかにした。

ケニア

ハマディ・イディ・ボガケニア農業省首席次官は、小規模農家の収入増加や付加価値の高い加工産業の推進、農業のデジタル化などの新たな農業政策の立案を紹介した。デジタル化を進める上で重要なのは、信頼性の高いデータを取得することだとし、政府関係機関だけでなく民間企業、NGOまで活用してデジタル化を進め、これまでばらばらだった各省庁のシステムを統合して、農家を含めた全国民が政府関係システムにアクセスしやすくしていくと語った。また、ファイナンスやアドバイザリー、マーケットアクセスの改善に関する農家の要望が非常に多いことを挙げ、これらを担うことが期待されるM-pesaなどの民間スタートアップ企業を引き続き支援していくとした。

ルワンダ

エドゥアール・ンギレンテ首相は、国家としてICT化を進めていることに言及。農業分野へのデジタル投資も増加していることを明らかにした。また、ICTを活用して収穫から加工、物流、売買までのサプライチェーンを構築し、各工程を連携させるだけではなく、工程自体にICTを導入していくことが重要と述べた。さらに、デジタル活用による高付加価値な製品についてはアフリカ域内貿易を行っていきたいと考えており、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の形成はそのために非常に役立つと思うとした。ジェラルディーン・ムケシマナルワンダ農業・動物資源相は、農業のデジタル化の初期段階は政府が旗を振って実施するものの、重要なのはそのシステムのスケールアップであり、そのためには民間資金を活用していくことが必要不可欠との見方を示した。また、同国では、作物育成管理などへのドローンの活用、農家の収穫高・収入予想や返済履歴などの情報を取得し、銀行がそのデータを活用・分析することによって、農家向け融資の円滑化につなげているなど、農業のデジタル化を推進している事例を紹介。今後については、政府として基礎となるICTインフラ構築と利活用への支援を進め、将来的にはブロックチェーンを通じて、農家だけでなく国民全員がそのシステムを利用できるようにしていくと述べた。


フォーラムの様子(ジェトロ撮影)

民間企業ら農業の生産性向上のため技術協力

農業のデジタル化には、政府のリーダーシップだけでなく、民間企業の技術協力も必要不可欠だ。各企業は技術を活用した農業の生産性向上に注目しており、フォーラムでは活発な議論が繰り広げられた。

ケニアの農業ソリューション企業アポロ・アグリカルチャー(Apollo Agriculture)は、農家の収入が安定しない大きな要因として、表に現れないインフォーマルな取引が多く、安く買いたたかれたり、だまされたりすることを挙げた。デジタル技術の活用によってそれらを表面化させることが可能になり、公正な取引を行っていくことが必要と指摘した。

インドの農業ソリューション企業クロピン(Cropln)は、AIを活用したスマートファームとして、収穫高予測などのリスク管理、効率的な売買のためのセールスマネジメント、画像データのAI分析を活用して作物の収穫後の見た目など状態予測も行っている。同社は「これまでの農業は気候や災害などに左右されるものだったが、これからは生産性向上のためデータ、プラットフォーム、デジタル人材を農業に活用していくことが重要。2030年のアフリカ農業は、AIやドローン、IoT、スマート農機を組み合わせた自動農業が主流となるだろう」と語った。

フランスの農業ソリューション企業ソウィット(SOWIT)も、今後の有望分野として精密測位農業を挙げ、センサーや地理情報システム(GIS)、オートメーション、リモートセンシング、測位データプラットフォームを活用して、生産性を向上させていくことが重要だと述べた。

参入のカギは生産性向上技術とデータ活用ビジネス

アフリカの農業へのICT活用では、人口と労働力が膨大なため、日本のような農業の効率化(人員削減)を図るものではなく、農業自体の生産性向上と作物の付加価値向上を図るシステムであることが望ましいと考えられる。具体的には、ドローンやAI分析などを活用した農薬散布や生育状況管理、収穫高予測などのリスク管理、マイクロファイナンス、保険、気候災害などの予測・情報提供、市場売買のマッチングなど、プラットフォームとそのデータを活用した農業ビジネスなどだ。特に、今後アフリカにおいて膨大なデータが流通することは間違いないと予想されるため、プラットフォーム構築とそのデータ活用は大いに需要があると考えられる。さらには、日本が得意とするスマート農機や精密測位農業などの技術で現地参入を検討することは、一考の余地があるだろう。

※本調査は総務省「平成31年度アフリカにおける情報通信・郵便分野の情報収集・調査事業」の一環として実施したもの。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
川崎 大佑(かわさき だいすけ)
2018年8月より現職。