西アフリカ諸国、デジタル利活用促進について議論
アフリカICT産業 現地レポート(3)

2019年10月10日

西アフリカには、アフリカ最大の人口を誇り、その成長性へ期待が高まっているナイジェリアや、高い経済成長率を維持するコートジボワールなどが位置し、日本企業の関心も高い。通信分野の発展も目覚ましく、セネガルの首都ダカールでは7月9~11日に、デジタル分野をテーマとする「West Africa Com 2019」が開催された。世界各国から、各国政府機関や通信系の民間企業関係者ら約500人が参加。西アフリカ地域のデジタルエコシステムについて、議論した。同地域における、デジタル化の課題と機会について注目したい。

デジタル利活用の促進、通信料金の低廉化がカギ

開会セレモニーでは、セネガル通信大手Sonatelの副最高経営責任者ファブリス・アンドレ氏が「アフリカにおけるデジタル利活用は、フェイスブックの利用などシンプルなものであった。それが現在では、ウーバーやモバイルマネーの活用など、より広範なものへと変化している。アフリカ諸国の人々の多様なアイデアによる、デジタル利活用はさらに勃興していくだろう。将来的には、アフリカがICT(情報通信技術)利活用分野をリードしていく可能性もある」と、ICT利活用への期待を示した。一方で、GDPに比べて高額なデータ通信料金が、アフリカにおけるデジタル利活用促進の障害になっている、と懸念を示し、本会合でのICT関係者による意見交換を求めた。

各国政府機関・企業からも、アフリカのデータ通信料金の低廉化を訴える声が多く聞かれる。ベナン開発庁のマーク=アンドレ・ロコ氏は「2017年から通信市場は15%成長しているが、継続的成長のためにはデータ通信料金の低廉化が必須」との考えを示した。対策として、「携帯電話へのさらなる周波数割り当てが必要で、周波数割り当ての追加を検討しているところだ。周波数割り当てにあたっては、特定技術を免許要件とせず、技術中立性を確保すること、通信料金、サービス品質に要件を設けることも重要である」と強調した。

Telecel Fasoのフィリップ・ゴアブガ理事は、高額な料金の原因について「海底ケーブルや光ファイバー敷設に莫大(ばくだい)な資金が必要となるため、消費者のデータ通信料が高止まりしている」と分析する。衛星通信事業者World Wide Web Foundationのオニカ・マクワクワァ地域コーディネーターは、通信料金の低廉化に向けて、インフラシェアリング(社会基盤の共有)も一考の価値がある、と見解を述べた。「インフラシェアリングを実現するためには、制度整備も必要となるため、官民協力が必要不可欠。また、携帯用周波数を携帯事業者のみに割り当てるのではなく、各地域におけるコミュニティでの保有も認めるべきだ」と話した。

データ通信料金と並んで、課題の1つに挙げられるのが、農村部におけるデジタル格差の解消である。米国の衛星事業者インテルサットのレア・アチャ=ウブ地域総括は、広大な地域を安価にカバーできるとし、衛星通信の活用を提案する。「衛星通信は地上網に比べて、スケーラビリティを有しており、構築コストが安く導入しやすいのがメリット。アフリカの人口の多くは、農村などの村落(rural)地域に存在している。継続的、かつさらなる経済発展に向けたイノベーション創出のためには、都市部だけではなく、これら村落地域の人材活用やデジタル利活用を促し、デジタル経済活動に巻き込んでいくことが必要不可欠」と語った。

これに対して、ICT4Dのコンサルタントであるマット・ハルス氏は「衛星網は構築にかかる費用は安価だが、運用コストや受信端末は高い。また速度も、地上網に比べて高速ではなく、単位当たりのデータ通信料も携帯網より高いことが多い。そのため、顧客の観点からは地上網をメインで活用し、その料金低廉化をどう促していくかに注力することがよい」との意見を示した。

データベースを活用した小規模農家向けのサービスも

デジタル利活用の有望分野としては、セネガルの主要産業である農業が考えられる。ICT4Dのニルス・カイザー氏は「セネガルでは、光ファイバーやデータセンターなどICTインフラが整いつつある。経済発展のためには、農業や医療などへのICT利活用を進めていく必要がある」と語る。


パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

農業へのICT導入例として、セネガルのソフトウエア企業マノビ(Manobi)がある。同社は主に、小規模農家へICTを活用したサービス「mAGRI」を通して、農業関連情報提供(価格動向、天気予報など)や農作物モニタリングサービスを提供している。現在は、マリ、コートジボワール、ベナン、ニジェール、ブルキナファソにも事業を展開。個々の農家、農業関連団体、代理店などからデータを収集してデータベースを作成。それらを分析することで、さまざまなサービスに適用している。農家はアプリケーションを利用して、作物を育てるにはどれだけの肥料が必要なのかなどの情報を入手し、植えた作物量、収穫量、価格などを入力することによって、それぞれの農家が各種情報へのアクセス、土地管理、 農産物のマーケティング、仕入れ先との関係構築、生産管理を効率的に行うことが可能となる。農家の生産を支援するだけではなく、銀行なども各種データを参照することによって、作物、収穫量、気候条件などに関する、リアルタイムの情報を入手することが可能である。銀行は各種情報に基づいて融資計画や条件を設定することが可能となり、農家はこれまでより優れた条件で融資を受けることが可能となる。

一方、農業での利活用には課題も存在する。セネガル農業省ではデジタル農業の育成に力を入れているが、農家におけるデジタルに対する理解不足のため、デジタルと農家の結び付きがうまくいっていない。農家の需要やICT導入メリットをきちんと見極める必要があるため、農家の人々がデジタルの恩恵を実感できるよう、デモンストレーションなどが必要だ。

西アフリカにおける農業ICTの発展に期待

セネガルを含む西アフリカ諸国では、欧州にも近く、海岸沿いという地理的特性もあり、都市部では海底ケーブルや光ファイバーの敷設が進んでいる。現地政府や企業からは、それらを活用しICT利活用を進めていきたい、という意向が感じられた。他方、都市部以外の農村部におけるインターネット接続が課題となっており、デジタル格差の解消および農村地域の人材のデジタル社会参画に向けた取り組みの必要性も高まっている。セネガルのラッキー・セイ通信・デジタル経済省情報システムセキュリティ部長へのヒアリングでは、産業の多くを占める農業分野の利活用に関心があるとのことだったが、ICT人材が不足しているとのこと。セネガルで魅力的な農業ICTができれば、人材も育つ、との考えを示していた。現地需要も高い農業でのICT提携は、日本企業が西アフリカに進出する際の有望な選択肢の1つになるのではないだろうか。


※本調査は総務省「平成31年度アフリカにおける情報通信・郵便分野の情報収集・調査事業」の一環として実施したもの。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
川崎 大佑(かわさき だいすけ)
2018年8月より現職。