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ドイツ自動車産業が直面する課題と今後の展望
ドイツ自動車産業連合会(VDA)会長の定例記者会見から

2018年9月18日

保護主義の台頭や世界的な貿易摩擦への懸念、環境保護意識の高まりと電気自動車(EV)シフト、2015年の排ガス不正問題以降の相次ぐ不祥事により失墜した信頼の回復、自動運転をはじめとした新技術の開発―100年に1度の大転換期といわれる世界の自動車業界の中で、ドイツの自動車産業は多くの課題に直面している。本稿では、2018年7月3日に開催されたドイツ自動車産業連合会(VDA)のベルンハルト・マッテス会長による定例記者会見の内容を中心に、現在ドイツの自動車産業が直面する課題と今後について考察する。

国の基幹をなすドイツの自動車産業

ドイツにおける自動車関連産業の存在感は、年々拡大している。自動車関連産業が2015年に創出した粗付加価値(注1)は1,240億ユーロで、GDPの4.5%を占めた。2005年と比べ、この割合は1.1ポイント増加した。2017年の自動車の輸出は1,389億ユーロで、輸出全体の11%を占める。自動車産業は雇用創出面からも国内最大の産業であり、約82万人が自動車産業に従事している。ドイツを代表する自動車メーカーであるメルセデス・ベンツとBMWは業績好調で、いずれも7年連続で最高益を記録している(2018年2月21日ビジネス短信記事参照)。

岐路に立たされる自動車産業界

VDAのマッテス会長は、7月3日に開催された定例記者会見の中で、現在ドイツの自動車産業が直面する課題として、(1)ディーゼル車の窒素酸化物(NOx)および大気汚染の解消、(2)自動車産業の信頼の回復、(3)貿易の保護主義や関税、貿易摩擦、(4)2020年以降の二酸化炭素(CO2)の規制を挙げた。

欧州委員会は2017年2月に、ドイツ国内28都市で二酸化窒素(NO2)がEU指令(2008/50/EC外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )で義務付けられた基準値を超えていることを警告し、2018年5月にEU司法裁判所に提訴することを決定した。このニュースは、ドイツ国内の環境意識の高まりを喚起するとともに、自動車大手による相次ぐ不祥事も重なり、国内で環境保護団体やメディアを中心に、ディーゼル車への批判的な論調が目立つようになった。2018年2月には、ドイツ連邦行政裁判所が国内2都市に対し、各都市のNOxの数値の改善などのため、ディーゼル車乗り入れの禁止措置を講じることを認めた。これを受け、2018年5月にハンブルク市が排ガス規制「ユーロ6」(乗用車)および「ユーロVI」(大型トラックやバスなどの重量車)を満たさないディーゼル車の市内中心部2カ所の乗り入れを禁止(2018年6月1日ビジネス短信記事参照)、さらに7月には、ドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州でも、州都シュトゥットガルト中心市街地における「ユーロ4」(乗用車)、「ユーロIV」(大型トラックやバスなどの重量車)およびそれ以前の基準しか満たしていないディーゼル車の走行を、2019年1月1日以降禁止する方針を示すなど、ドイツ国内の各都市では旧式ディーゼル車からの脱却を目指す動きが出てきている(2018年7月24日ビジネス短信記事参照)。ディーゼル車のイメージ低下は、ドイツ国内の新規登録台数においても顕著だ。以前は約半数を占めたディーゼル車のシェアが、2018年上半期には3割強まで減少、一方、EVやハイブリッド車などのほか、ガソリン車のシェアが増加した(表1参照)。こうした傾向を受け、マッテス会長は記者会見の中で、ディーゼル車の乗り入れ禁止措置を講じる各自治体の動きを牽制するとともに、二酸化炭素排出量の大幅な削減が義務付けられる気候変動対策目標(注2)の達成には、二酸化炭素および窒素酸化物の排出量の少ない新型ディーゼル車も必要不可欠であるとの見解を示した。また同氏は、2015年9月のフォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル車排ガス不正ソフト発覚以降、多くの不祥事が露見したことから、ドイツの自動車産業への信頼が失墜している現状を受け止め、信頼の回復に努める必要性を強調した。

表1:燃料別新規登録台数の推移 (単位:台、%)
種別 2012年上半期 2013年上半期 2014年上半期 2015年上半期 2016年上半期 2017年上半期 2018年上半期
台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア
ガソリン 832,864 51.0 769,270 51.2 774,608 50.4 813,530 50.3 893,065 51.5 997,357 55.8 1,160,339 63.1
ディーゼル 783,288 49.7 711,148 47.3 738,605 48.0 778,608 48.1 812,440 46.9 738,757 41.3 590,775 32.1
ハイブリッド 9,232 0.6 12,421 0.8 13,815 0.9 16,013 1.0 20,635 1.2 37,520 2.1 60,904 3.3
EV 1,419 0.1 2,389 0.2 4,188 0.3 4,663 0.3 4,357 0.3 10,189 0.6 17,234 0.9
圧縮天然ガス(CNG) 2,553 0.2 3,732 0.2 4,312 0.3 3,096 0.2 1,738 0.1 1,025 0.1 7,194 0.4
液化石油ガス(LPG) 5,005 0.3 3,657 0.2 2,692 0.2 2,915 0.2 1,557 0.1 2,154 0.1 2,517 0.1
出所:
連邦自動車局(KBA)

保護主義の台頭に警戒感

ドイツの自動車輸出は増加傾向にあり、2017年は台数ベースで437万8,108台、金額ベースでは1,389億ユーロだった。輸出先を国別(金額ベース)にみると、米国が14.6%で最も大きく、さらに英国が13.7%で続く(表2参照)。原料や部品のサプライチェーンの国際化がより一層進む今日において、米国をはじめとした保護主義の台頭は、今後のドイツの自動車産業の行方を占ううえで大きなリスク要因となっており、自動車産業は警戒を強めている。米国のトランプ政権による鉄鋼およびアルミニウムへの関税発動、自動車への追加的な関税の検討、さらに米中関係の悪化による大規模な追加関税が導入され(2018年7月12日ビジネス短信記事参照)、今後さらなる関税措置が取られる可能性も否めない(2018年8月3月ビジネス短信記事参照)。こうした状況を踏まえ、マッテス会長は「EUとして米国と政治的な話し合いを継続し、関係強化を図るとともに問題を解決に向け努力すべきである」との見解を示した。同氏はまた、WTOの規則に即した協定の締結を解決方法の1つとして挙げるとともに、片務的な譲歩や自動車のみに適用される関税撤廃は決して受け入れないとの立場を強調している。さらに同氏は、7月25日のEU米首脳会談後、「政治的な話し合いがトップレベルでなされたことを評価する。これらの話し合いが将来の取り決めに向けた建設的な対話の出発点になればよい」とのコメントを発表、今後のさらなる状況改善に期待感を示している。

表2:ドイツの自動車輸出先(国別、金額ベース)(単位:100万ユーロ、%)
国名 輸出金額 割合
米国 20,264 14.6
英国 19,068 13.7
中国 12,204 8.8
フランス 9,617 6.9
イタリア 8,652 6.2
スペイン 5,531 4.0
ベルギー 5,175 3.7
日本 4,971 3.6
韓国 4,265 3.1
合計 (その他を含む) 138,921 100
出所:
連邦統計局

環境規制対応は今後の大きな課題に

EUが定める新規登録車の二酸化炭素排出量に関する規制対応は今後、ドイツの自動車産業にとって大きな課題になる。新規登録車の二酸化炭素排出量は、現在EUでは130g/km以下とされているが、2021年からは95g/kmまで抑制することが義務付けられており、これは日本の105g/km、中国の117 g/km、米国の121 g/kmと比較しても厳しい水準といえる。さらに、欧州委員会は2017年11月に、二酸化炭素排出量を2021年比で2025年まで15%、2030年まで30%減らす目標を提案した。マッテス会長は「2020年以降の目標は実行可能で現実的なものとすべき」との見解を示し、過度に困難な目標が政治的な判断により設定されることに警戒感を示した。また、同氏は「目標達成のためには電気自動車のシェアのさらなる拡大が必要不可欠」とした。

「イノベーション」が成功のカギ

マッテス会長は記者会見の中で、ドイツ自動車産業の将来的な成功のカギの一つとして、「イノベーション」を挙げ、(1)電気自動車および代替燃料技術や、(2)デジタル化やコネクティビリティー、自動運転などの分野における新技術の開発を進めていく必要性を指摘している。

VDAによると、ドイツの自動車メーカーは、今後3年で電気自動車のモデルを30から100以上に増やし、電気自動車をはじめとした代替燃料技術の確立に400億ユーロを投資するという。電気自動車の新規登録数は2017年上半期には前年同期比で2倍以上となり、2018年上半期も 69%伸びた(表3参照)。また同氏は、今後のEVシフトを実現するためには、電気自動車のモデルの増加のみならず、充電スタンドのさらなる設置など国内インフラの拡充のほか、政府の補助金政策の延長など、電気自動車の需要喚起のための政策の必要性を指摘した。さらに、自動車産業と政府が協力して普及に取り組むことによってのみEVシフトが実現可能との認識を示すとともに、こうした協力体制により現状2%にとどまる欧州の電気自動車のシェアは2025年までに15%まで拡大可能との見解を示した。また、電気自動車のみならず、高効率の内燃機関や、天然ガス車、水素自動車、e-fuel(注3)などの拡大にも期待感を示した。

表3:電気自動車(EV)の新規登録台数と推移 (単位:台、%)(△はマイナス値)
期間 新規登録台数 前年同期比 全体に占める割合
2012年上半期 1,419 11.3 0.1
2013年上半期 2,389 68.4 0.2
2014年上半期 4,188 75.3 0.3
2015年上半期 4,663 11.3 0.3
2016年上半期 4,357 △ 6.6 0.3
2017年上半期 10,189 133.9 0.6
2018年上半期 17,234 69.1 0.9
出所:
連邦自動車局(KBA)

自動車産業におけるイノベーションが期待される分野として、デジタル化やコネクティビリティーの促進、自動運転技術の確立も言及された。ドイツの自動車産業は、今後3年で180億ユーロを投資するとの方針を示している。すでにミュンヘン、ニュルンベルク、デュッセルドルフなど国内多くの都市に自動運転の試験施設が設置されているほか、今後さらに複数の都市で設置計画が発表されている。また、公共交通機関網を補填(ほてん)する手段として、デジタル化技術を利用したモビリティーサービスの登場も期待されている。VWは2018年末からハンブルクで電気自動車の乗り合いサービスを開始し、2020年にこのサービスを他の都市に拡大する予定だという。こうした動きは大気汚染対策としても期待が集まる。一方で、マッテス会長は、自動運転における国際標準の確立をさらに加速すべきとの考えを示し、自動運転やコネクティビリティーの実現のため、国内全土におけるモバイル通信ネットワークのさらなる拡充の必要性を指摘している。


注1:
生産額から原材料費などのコストを差し引いて計算される価値。全産業の国内粗付加価値を足しあげると国内総生産(GDP)となる。
注2:
ドイツは、温室効果ガスの排出量について、1990年比で2020年までに少なくとも40%、2030年までに少なくとも55%、2050年までに少なくとも80~95%減を実現するという目標を設定。
注2:
e-fuelは、電気を用いて水および二酸化炭素で製造された気体または液体の合成燃料。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。

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