Section 4. 人事・労務

4.3 労働契約

4.3.1 労働条件

労働者を採用する際には労働契約を結びます。その際使用者は、次の労働条件の事項については書面により明示しなければなりません。 労働者が希望した場合は、FAXや電子メール、SNS等でも明示可能です。

  • 契約期間、更新基準、更新上限の有無等(期間の定めがない場合はその旨)
  • 就業する場所及び従事すべき業務(変更の範囲を含む)
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  1. ただし、パートタイム労働者の場合は、上記に加えて、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」も文書等で明示しなければならない。

また、法令に定められた基準に満たない労働契約は、その部分について無効となります。例えば、「会社は理由を問わずいつでも労働者を解雇することができる」、「残業手当は支払わないこととする」、「社会保険料は全て労働者の負担とする(社会保険の適用事業所で)」等の契約は、その部分が無効となります。さらに、労働契約の不履行について違約金を定めることは、違法となります。例えば、「入社2年以内に退職した場合は、労働者は、会社に50万円を支払わなければならない」等の定めは、違法となります。ただし、このことは、会社に生じた実際の損害について労働者に請求できないと言う訳ではありません。

4.3.2 労働契約期間

労働契約の期間は、その定めをしないのが通常ですが、期間の定めをする場合には、いくつかの特例の場合を除き3年が上限です。期間の定めのある労働契約では、その更新により通算5年を過ぎると、労働者からの申し出により期間の定めのない労働契約となります。

但し、高度専門職及び定年退職後の継続雇用の高齢者には、特例が認められています。

4.3.3 試用期間

労働者の本採用を決定する前に、一定期間、その労働者の能力や適正を見極めるための試用期間を設けることは認められています。しかし、その期間中または終了後にその労働者の本採用を拒否することは、解雇と同じことになり、それが認められるためには、労働者について採用時にわからなかった事実が試用期間中にわかった場合で、その事実により本採用を拒否することが客観的に見て相当である必要があります。

4.3.4 配置転換・出向・他社への労働者の派遣

日本の企業では、労働者に対する配置転換や出向が頻繁に行われています。そのなかには、転勤を伴うものも少なくありません。一般に使用者は、業務の合理的な必要性から労働者の業務を変更したり、一時的に別の会社に働きに出すことについて裁量権限を持っています。ただし、一時的に別の会社に働きに出す場合には、出向として適正に行うことが必要です。(4.3.9(3)参照)

また、自己が雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させる場合には、労働者派遣を行っていることになります(4.3.9参照)。業として労働者派遣を行う場合は、国の許可が必要となります。無許可で労働者派遣事業を行った場合は、罰則の対象となります。

4.3.5 労働条件の不利益変更

賃金、労働時間等の様々な労働条件は、契約当事者である労働者と会社との合意により変更することができます。

就業規則を変更することによって、労働条件を労働者の不利益に変更することは、原則できませんが、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、変更後の就業規則に定めるものが、新たな労働条件となります。

4.3.6 準拠法

国際間の契約においては、どちらの国の法律をその契約の準拠法とするかということは、当事者の合意により決めることができます(法の適用に関する通則法第7条)。労働契約もその例外ではありません。しかし、労働基準法などのように、労働者を保護するための強い政策的な意思表示をしている法規は、当事者の合意に関らず、その法廷地においては、強制的に適用されます。さらに、労働者がその労働契約について労務提供地以外の法律に準拠することに合意している場合であっても、労務提供地の特定の強行規定(相対的強行法規)については、その規定を適用すべき旨の意思を使用者に対して表示することによって、その強行規定に基づく効果を主張することができます。また、準拠法の定めがない労働契約は、労務提供地の法を準拠法とすると推定されます。

4.3.7 身元保証契約

会社が労働者の採用に際して、その労働者の親族等と身元保証契約を結ぶことがあり、これは、法律上、原則有効です。ただし、その契約期限は、定めのない場合は、3年とみなされ、期限の定めをする場合にも、5年が最長とされています。また、身元保証人に金銭的保証も求める場合には、その極度額を定める必要があります。

4.3.8 法人の取締役、職務執行者等(以下、「取締役等」)

会社と取締役等との契約関係は、原則、労働契約ではなく、委任契約であると解されています。よって、労働法ではなく会社法の適用を受けるのが原則です。ただし、代表権がなく、就業の実態から労働者性が強い場合には、労働者兼務取締役等として、労働法の適用も同時に受けることになります。

4.3.9 他の企業の労働者の利用

他の企業の労働者を利用する場合には、主に、労働者派遣、業務請負、出向の3つの形態があります。

  1. (1)

    労働者派遣

    原則として、港湾運送業務、建設業務、警備業務及び一部の医療業務以外の業務については、派遣労働者を就業させることができます。同一の事業所で派遣労働者を受入れることが出来るのは、原則として3年間が限度です。また、同一の派遣労働者を同一の組織単位で受け入れることが出来る期間も、3年間が限度です。但し、派遣元企業に無期雇用されている派遣労働者の場合には、上記の期間制限は適用されません。なお、派遣先企業は派遣される労働者を事前に特定する行為を行うことはできません。また、派遣先企業が、その派遣労働者をさらに別の企業に派遣することは、職業安定法に違反する行為として罰則の対象となることがあります。この他、派遣先として派遣労働者を受け入れる場合には、法令に定められた義務を果たす必要があります。

  2. (2)

    業務請負

    他社(A社)に自社(B社)業務の一部を請け負わせたり業務委託する場合には、A社が雇用している労働者が、B社内で業務を行う場合であっても、A社はその労働者の労務管理を含めた業務の遂行をB社から独立して行う必要があり、B社はその労働者に対して指揮命令や労務管理を行うことはできません。契約の名称や内容にかかわらず、実態として(1)の労働者派遣に当たると認められる場合には、労働者派遣に係る関係法令の適用を受ける他、労働契約申し込みみなし制度の対象となることがあります。

  3. (3)

    出向

    他社(A社)が雇用している労働者が、一定の期間、A社と自社(B社)の間の契約の下、B社と新たな労働契約を締結し、B社からの指揮命令を受けて労務の提供をすることは、労働者供給事業として禁止されています(職業安定法第44条)。ただし、一定の場合(※)には、いわゆる「在籍型出向」として、適法に行うことができます。

    1. (1)労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、(2)経営指導、技術指導の実施、(3)職業能力開発の一環として行う、(4)企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有して労働者を出向させる場合等。

4.3.10 組織再編と労働契約

近年、企業競争の激化と規制緩和が進む中で、企業組織の再編成が盛んになっています。そのような組織再編に対し、労働契約がどのように扱われるかを、合併、事業譲渡及び会社分割の別に見た場合、以下のようになります。

  1. (1)

    合併

    企業合併の場合は、権利義務関係が包括継承されます。よって、新設合併(合併により新たな会社が成立するもの)及び吸収合併(既に存在する会社が合併を行うもの)のどちらの場合でも、労働契約は合併後の会社に承継されます。

  2. (2)

    事業譲渡

    企業の事業の一部または全部を他の企業に事業譲渡する場合、権利義務の承継は当事者間の契約によって決められ(個別的承継)、労働契約の承継も、譲渡会社、譲受会社及び労働者の3者間の合意によって決まります。よって、譲受会社または労働者のいずれかが雇用の承継を拒否した場合には、雇用は譲受会社に承継されません。

  3. (3)

    会社分割

    会社分割には、A社がその事業に関して持つ権利義務の一部または全部を分割してB社を設立する「新設分割」と、A社の事業の一部または全部を既存のC社が吸収する「吸収分割」とがあります。そして、「承継される事業に主として従事する」労働者の労働契約は、会社分割によって新設(吸収)会社に承継されます。

4.3.11 同一労働同一賃金

同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることは禁止されています。但し、派遣労働者については、派遣先の労働者との均等・均衡待遇に代えて、一定の要件を満たす労使協定による待遇にすることも可能です。

4.3.12 フリーランス保護法(2024年秋施行)

フリーランス(業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの)に業務委託を行う発注事業者には、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられています。業務委託契約が、実態は労働契約である場合には、労働関係諸法令が適用されます。

Section 4:目次


Section 4:人事・労務 各種申請書類

Section 申請書式名 申請様式の掲載箇所 管轄省庁
(当該制度箇所)
4-3 労働条件通知書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 主要様式ダウンロードコーナー内、手続名:労働条件通知書:【一般労働者用】 常用、有期雇用型を参照 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-3 雇用契約書(例) 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-5 時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 主要様式ダウンロードコーナー内、手続名:時間外労働・休日労働に関する協定届:新様式第9号 限度時間以内で時間外・休日労働を行わせる場合(一般条項)を参照 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-5 時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 主要様式ダウンロードコーナー内、手続名:時間外労働・休日労働に関する協定届:新様式第9号の2限度時間を超えて時間外・休日労働を行わせる場合(特別条項)を参照 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-6 就業規則(例)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます モデル就業規則を参照 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 雇用保険被保険者資格取得届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「雇用保険被保険者資格取得届」から印刷 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「主な届出書様式の一覧」から、申請様式を参照 日本年金機構外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 労働保険 概算・増加概算・確定保険料申告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「年度更新申告書計算支援ツール」を参照 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 健康保険・厚生年金被保険者報酬月額算定基礎届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「主な届出書様式の一覧」から、申請様式を参照 日本年金機構外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 健康保険被扶養者(異動)届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「主な届出書様式の一覧」から、申請様式を参照 日本年金機構外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 労働保険、保険関係成立届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 雇用保険適用事業所設置届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「雇用保険適用事業所設置届」で内容入力・印刷 厚生労働省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 健康保険・厚生年金保険新規適用届外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」から、申請様式を参照 日本年金機構外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-9 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」から、申請様式を参照 国税庁外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
4-10 給与所得の源泉徴収票外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 「[手続名]給与所得の源泉徴収票(同合計表)」から、申請様式を参照 国税庁外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

会社設立の手続き パンフレット

日本での会社設立に関わる基本的な法制度情報や各種手続きをまとめた冊子(PDF)を提供しています。8種類の言語(日本語、英語、ドイツ語、フランス語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、ベトナム語)で作成しています。
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