ジェトロ対日投資報告2025
第3章 新たなステージを迎えた対日直接投資拡大の取り組み
第3節 【座談会】世界に誇るスタートアップ
エコシステム形成に向けた海外資金と有力支援機関の役割

日本のスタートアップ(SU)の成長が著しい。資金調達を実施した社数は 約10年で 1,000社以上増加、資金調達額は5倍以上に拡大している。しかし、世界の他の先進的な SUエコシステムに比べると、ユニコーン(※1)企業数など世界にスケールアップする SUの創出といった点については課題が残る。今後さらに世界水準の日本発 SUを増やすとともに、海外からも優れた SUを呼び込み、そのエコシステムを強化していくためには、グローバル化の推進が必要であり、海外のリスクマネーのみならず、ノウハウや人材、文化などを先進地域から取り入れることが必要である。

今回、2024年に日本拠点を設立した世界最大級の米プレシードインベスター Techstars(テックスターズ)の日本代表兼マネージングディレクター白戸勇輝氏、そのポートフォリオ(出資先)企業である AssetHub(アセットハブ) CEO の後藤卓哉氏を迎え、日本のSUエコシステムの現状や今後の展望について聞いた。

[ 実施日は 2025年10月3日、モデレーターはジェトロ イノベーション部次長(スタートアップ担当)樽谷範哉 ]

Techstars
日本代表兼マネージングディレクター
白戸 勇輝 氏

AssetHub CEO
後藤 卓哉 氏

ジェトロ イノベーション部次長
樽谷 範哉


グローバルなマインドセットを持った起業家はいるか

(敬称略)

樽谷(司会):本日は「対日投資報告」の新しい試みである座談会開催にあたり、お集りいただいた。ジェトロのSU課としては日本のSUの海外展開を主に支援しているが、今回は「対日投資報告」ということで、日本の SUエコシステムを活性化させるための海外資金や海外投資家等を誘致することの意義について深堀していく。
まずは自己紹介も兼ねて自社の概要などを説明いただきたい。

白戸:Techstarsは米コロラド州で2006年に設立されたアクセラレーター(※2)。創業者の一人であるブラッド•フェルドが「アクセラレーター」という言葉を作ったといわれており、同じく創業者のデビッド•コーエンが現在もCEOを務める(創業者は他2名おり、共同で計4名)。 Techstars の理念としては「Talent is everywhere」。同規模のエクイティ(※3)•アクセラレーターは他にもあるが、米国の拠点に起業家を一堂に集めて育成するケースが多い。他方、Techstars は世界中に拠点を設けて、現地の有力なパートナーと組みながら、その地で優れた起業家を発掘する。東京の場合はジェトロと三井不動産とタッグを組んでプログラムを実施している。自身は過去に3社を共同創業した連続起業家でもあり、その前は米国をはじめとする海外数カ国で外国法事務弁護士としてベンチャーキャピタル(VC)やSU の資金調達などの案件に携わってきた。

Techstars 日本代表兼マネージングディレクター 白戸 勇輝 氏

後藤:AssetHub は 2023年に米国で創業したAIを活用したゲーム制作ツールを開発•提供する企業。その前は2018年に web3(※4)SUの Gaudy(ガウディ)を日本で共同創業したが、日本の規制やマーケットに限定性を感じ、「グローバルスタンダードで勝負したい」という気持ちから独立してAssetHub起業に至った。2024年夏に Techstars Tokyoアクセラレータープログラムに参加し、直近ではシードラウンドで Techstars Tokyoのメンター数名を含む複数の外国人エンジェル投資家やTechstarsのフォローオンファンド、B2B特化型 VCのArchetype Venturesらから総額3億円の調達に成功した。

樽谷(司会):ここで少し日本の SU概観を見ると、2024年の国内スタートアップで資金調達を実施した企業数は 3,480社、調達額は 8,748億円と、2015年比で 1,400社程度増加、4倍超の調達額となった(図 1)。2023年から社数は減少しているものの、調達額は伸長しており、1社あたりの平均調達額は増えている。他方、ユニコーン企業の数で言うと、2025年10月時点で日本は8社、トップの米国724社、2位の中国158社と、世界の主要地域と比較するとまだ日本の存在感 は薄い(図 2)。
そもそもジェトロが Techstars 誘致に乗り出したのは、日本独特の SUエコシステムに課題を感じており、変革の起爆剤になってほしいという思いからであった。Techstars は 2024年に東京に拠点を設けたが、ジェトロからは 2 つの期待があり、第一にリスクマネーの流入、もう一つは人材やノウハウの導入。日本ではまだエクイティを取得する形でのアクセラプログラムは主流ではなく、そういった資金が入ってくる点でも貴重だが、資金面だけでなく Techstarsのもたらす人材やノウハウが、日本の SUエコシステム全体にポジティブな影響を与えると信じている。そこで、日本に着地してみて、 Techstars から見た日本の現状や課題感はどういったものがあるかお聞きしたい。

図1 国内スタートアップ資金調達額・調達社数

注1) 各年の値は集計時点までに観測されたものが対象で、2025 年は半期の値
注2) 今後の調査進行により過去含めて数値が変動し、その影響は直近年や金額が小さい案件ほど受けやすい
〔出所〕 Speeda「Japan Startup Finance 2025 上半期」

図2 世界のユニコーン企業数

〔出所〕 CB Insights, Global Unicorn Club: Private Companies Valued at 1 billion dollars+ (as of October 7th, 2025)

白戸:プログラム開始前の一番の懸念は、文化や考え方の違う日本の SU エコシステムにうまく入り込めるか、ということ。日本で実施されるアクセラプログラムの大半は日本語で、日本の大企 業やVCと繋げるというのが基本路線。他方、Techstars はじめ米国のアクセラは最初からユニコーンを目指すが、そういった考え方は日本にまだ根付いていない。加えて、Techstars のプログラムはすべて英語であり、グローバルなマインドセットをもった起業家が日本にどの程度存在するかは未知であった。しかし、数は少ないかもしれないが、AssetHubの後藤さんのような世界を目指す起業家は確かに存在する。我々はそういった企業を発掘していく。

樽谷(司会):グローバルなマインドセットというのは非常に重要なポイント。そもそも後藤さんが Gaudyを離れ米国での起業を決意した背景について、もう少し詳しくお聞かせいただきたい。

後藤:一言でいうと、グローバルで通用するモデルを作ることにチャレンジしたかった。私見もあるが、日本の Web3 業界は独自の世界を築いており、日本の限られたユーザーに対してプレー人口が大きく変動しない中で継続的に利益を得るモデルにしなければならず、安定性を重視する必要が生じ、また、日本独自の法規制にも制約を感じていた。日本においてSUは、大企業にサービスを広げるか、日本の人口 1 億2千万のマーケット全体を取りに行くか、のどちらかでないと成功しえないという状況もある。そうではなく、最初からグローバルで勝負して、グローバルに受容されるものを作って、世界のスタンダードになりたいという気持ちから、米国での起業に至った。

AssetHub CEO 後藤 卓哉 氏

樽谷(司会): 確かに、日本のSUは、ことBtoC領域においては、子どもから高齢者までマーケット全体に当てはめようとするきらいがある。他方、米国のSU企業は、例えば 20代男性や 40代女性など、ニッチなマーケットに狙いを定めて取りに行き、そこからグローバルに拡大していくという手法が多い。この方が刺さりやすく、そういったモデルを日本でも広めたいと、ジェトロとしても考えている。

米国の文化•考え方を取り入れることで変革を

樽谷(司会):後藤さんはグローバルに勝負するためにもTechstarsプログラムに参加したという面もあると思うが、そこで得たものは何か。

後藤:特定の海外コミュニティに入る接点を得られたことは大きかった。特に米国で起業する場合には、人とのつながり、そこで生まれる信用がなければ、採用や調達に繋がらない。日本の場合はそういったコネクションがなくても成り立つが、米国の場合は、まず入り口として、自身の業界のコミュニティに入り込んで、交流を深め、人からの紹介を通じてアクセスしていく必要があり、Techstarsに繋いでもらうことでスピード感を持ってそのステップを攻略できた。今回Techstarsの紹介によるエンジェル投資家の出資もあった。また、Techstars に参加しているということによる信用度も高く、各種方面の投資家と継続的に接点を持ち、出資を得ることができている。

樽谷(司会):「人脈、ネットワーク」も、Techstarsに 大きく期待する点のひとつ。Techstarsが考える、日本のエコシステム強化のために必要なものはそのほかに何があるか。

ジェトロ イノベーション部次長 樽谷 範哉

白戸:3つほどあると考える。まずは今出た人脈•ネッ トワークと通ずるところもあるが、コミュニティ。日本のSUコミュニティは入っていくのが難しい側面があるが、Techstars含め米国のコミュニティは人を介するというプロセスは発生するものの、比較的オープンで、面白いアイディアやバックグラウンドがあれば他者を受け入れる素地がある。

樽谷(司会):そこに入り込んでいくためにはグローバルマインドセットは不可欠。

白戸:仰るとおり。入れたとて、その後コミュニティに残れるかは自分次第だが、尖ったものさえあれば、入ること自体のハードルは日本より低いように思う。
そして、そのコミュニティの質を維持するためにも、2つ目に必要な要素として、メンターが鍵となる。これも日本と米国の考え方、文化の違いであるが、日本でメンターというと一方的に教える教師や親子のような関係•役割を想像するが、米国では “Give First(自分から先に貢献していく)”の精神で自身の知見や経験を共有しながら、壁打ちとなるような対等な関係を保ち伴走する存在としてある。特に Techstars Tokyoの抱えるメンターは 2/3が日本以外、あるいは、日本に居住する外国人と、グローバルな成功体験を持つ人が多い。例えばNASDAQ最年少女性CEO(スティッチフィックス)としても注目を集めたカトリーナ•レイク氏、米国最大のドローン企業 Skydioの共同創業をはじめ複数の企業を創業•イグジット(投資回収)してきたトム•モス氏、かつてレノボジャパン社長を務めたエンジェル投資家のデビット•ベネット氏なども日本のスタートアップを支援したいという気持ちで入っている。

メンタリングの様子

樽谷(司会):メンターは確かに重要な要素。海外で成功した優秀な人材が、アクセラプログラムのメンターとして日本に来ることは、新たな文化も取り入れているということ。海外のメンターが入ることで、日本のメンターも刺激を受けることはあるか。

白戸:もちろんある。これはメンターに限らず、Techstarsプログラムに参加するスタートアップについても、日本と海外半々の割合にすることで、視点やピッチの手法も異なるため、お互いに刺激しあっていることがよく分かる。

樽谷(司会):VC同士でも、国内外 VCの交流が相互利 益に繋がることはよくあると聞く。

白戸:日本のエコシステム強化のために必要だと考える 3つ目はエクイティ投資。中でも Techstarsは優先株ではなく普通株を取り、創業者と伴走していくところが、他のアクセラとの違いであり、我々のこだわり。

後藤:3つ目のところで、特に普通株というのは非常に 重要な視点。エクイティ投資では、その投資割合ばかりに目が行くが、実は普通か優先かといった条件の違いを受ける側も意識しておくべき。

樽谷(司会):つまり、Techstarsは投資を通じて共同創業者になっているという考え方。Techstarsの日本参入が、文化面での変革を起こしてくれることにも期待している。

日本での資金調達と、エンタメや製造業など強みのある産業に注目

樽谷(司会):現在、Techstars 東京が日本で抱えるポートフォリオ企業についてもお聞かせ願いたい。

白戸:2024年の最初のプログラムでも採択率は 1%台であり、採択企業が 12社、内訳としては日系 SU6社、海外 6社。AssetHub はじめ本プログラムの採択企業が資金調達に成功していることも多く、2025年は応募者数が 2.5倍以上増えた。参加国地域も120カ国以上まで増えており、採択率は 1%を大きく割り込み、極めて厳しい関門になってきた。海外から日本に来たいという SU が増えているのを強く感じる。

樽谷(司会):どの国からが多いか。また、日本に何を求めてくるのか。

白戸:やはり米国が一番、次いでインド、東南アジアは国による差はあるが地域全体としては大きい。
日本への期待としては、2つある。1つは、海外 SUからは日本で資金調達したいという声が、実は多い。欧米の VC投資額が数年前に比べて落ちているところ、絶対額としては少ないものの、日本の VC投資額の増加率は注目されており、特にアーリーステージのSU への投資意欲が強いところが注目されている。2つ目は、日本の競争力が強い産業。アニメ、漫画、ゲームなど、IPコンテンツ、エンタメフィールドは群を抜いており、世界に誇れるもの。加えて、ディープテックやハードテック、例えばロボティクスや製造業は日本の技術力、品質が引き続き世界で評価されている。
海外SUが Techstarsのプログラムに参加したことで、資金調達に成功しただけではなく、実際に日本に拠点を設けた例もある。AIを活用した 2Dアニメーション制作支援アプリを提供する米国SU のDondon Technologies は、アニメなどIPコンテンツの本場である日本進出は欠かせないとして、子会社を設立予定で日本での人材採用の意欲もある。その過程で、ジェトロのサービスも活用し、大変助かっ たと言っていた。

後藤:今後の展望として、世界にスケールする為には、PLG(Product-Led Growth)、つまり製品起点の成長モデルの観点がないと成功しない。一方、自身の中でも明確に定まっていないものの、一つ思う所は、日本における大企業の強さ、そして、そこの資金へ日本人ならばアクセスしやすいという点を活用しない手はない。PLG と大企業との取引•資本提携を両立するような典型的な成功事業モデルを自分たちで作っていかなければならない。

白戸 : あとは、米国以外の海外に目を向けていくことも重要。
昨今の目まぐるしく変わる情勢と地政学的にも不安定な状況で、オイルマネーが潤沢な中東や、技術力向上が著しく優秀な人材も多い東南アジアにも注目している。日本は、食や文化の面も含めソフトパワーの強さから、世界中の人々から訪れたい場所とされており、そういった評価を活用することで海外 SUの呼び込みもうまく絡められると良い。

  1. ※1

    ユニコーンとは、評価額が10億ドル以上の非公開スタートアップ企業を指す。 本文に戻る

  2. ※2

    アクセラレーターとはスタートアップの成長を短期間で加速させるための支援プログラムや組織。 本文に戻る

  3. ※3

    エクイティとは、企業が株式等の形で出資を受け、資本を増強する資金調達手法。 本文に戻る

  4. ※4

    ブロックチェーン技術などを基盤とする分散型インターネット。 本文に戻る

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