ジェトロ対日投資報告2025
第3章 新たなステージを迎えた対日直接投資拡大の取り組み
第2節 【座談会】「つながり支援」が促す対内直接投資の波及効果

外国企業の国内進出は、雇用創出、国際共同研究や技術交流を通じたイノベー ション促進やそれによる国内企業の生産性•競争力向上など、多面的な効果をもたらす。今回ジェトロでは、国際経済学の専門家で対内直接投資による経済効果等を研究する早稲田大学政治経済学術院教授の戸堂康之氏を招いて対談を実施。日本経済を強くするための対内直接投資の意義や課題、対策や今後の取り組みの方向性について聞いた。

[ 実施日は2025年10月28日、対談相手はジェトロ イノベーション部長 中島丈雄、モデレーターはイノベーション部 戦略企画課長 宮﨑拓 ]

早稲田大学政治経済学術院教授
戸堂 康之氏

ジェトロ イノベーション部長
中島 丈雄


国外の力も活用してイノベーションを創出する時代

(敬称略)

宮﨑(司会):2025年6月に日本政府は、2030年の対内直接投資残高の目標値を100兆円から120兆円に引き上げ、さらに2030年代前半のできるだけ早期に150兆円を目指すとした。対内直接投資促進のモメンタムが高まる中、まずは先生のご研究内容から見える対内直接投資の効果についてお伺いしたい。

戸堂:対内直接投資が国内の雇用を生み出すことは言うまでもない。しかしそれ以上に、日本経済に大きなインパクトを与えていることを強調したい。日本に投資できる外国企業は一般に高度な技術を有していることが多く、その技術はさまざまな産業を通じて国内企業にも波及していく。国内外の技術者同士の交流、知識の共有や、外国企業と日本国内の大学との共同研究実施、日本にはないビジネスモデルやマネジメント手法が入ってくることなどを通じて、生産性や売り上げの向上、経済成長を促進する効果があると、企業データによって実証されている(※1)

中島 : ジェトロは 20年以上前から対日投資促進に取 り組んでいるが、事業立ち上げ当初は、海外から日本への直接投資が極めて少なく、まずは量的な拡大が目標の中心であった。近年は、イノベーションをもたらし、日本経済の拡大や競争力強化に資する企業の誘致に重点をシフトさせている。戦後、日本は自国企業の競争力強化によって発展してきたが、諸外国の多くがそうであるように、外国企業がもう一つのエンジンとして経済成長に貢献するべき時代が来ている。それにより健全な競争が促され、イノベーションが起き、国内企業のビジネス拡大にもつながる。

早稲田大学政治経済学術院教授 戸堂 康之氏

戸堂 : 現在は国内だけのイノベーションでは十分な成長が望めない段階にある。
他の先進国も、対内直接投資や国際共同研究を通じてイノベーションを創出している。開発途上国は対内直接投資への依存が大き過ぎて、自国のイノベーションに繋がらない例も多いが、中国やシンガポールは外資を取り入れるだけではなく、近年は自国でのイノベーションにも力を入れており、国の発展に奏功している。国内でのイノベーション創出、国外からの技術の吸収、どちらの要素も必要だ。

効果最大化のカギは技術・研究における結びつき

宮﨑(司会): 海外からの優れた技術やイノベーションを国内に広く波及させ、その効果を最大化するために必要な要素は何だと考えるか。

戸堂 : 研究から二つの条件が明らかになっている。一つは、外国企業が国内企業 とサプライチェーンで強く結びついていること。もう一つは、両者が共同研究を通じて技術協力を行っていること。すなわち、外国企業が日本に存在するだけでは不十分で、双方が何らかの形で繋がっていることが重要だ。
一点目に関連する実証研究としては、大阪大学の研究 者が、外国企業がサプライチェーンを通じて川上・川下の国内企業の生産性を高めることを明らかにしている。二点目については、自身の研究で国際共同研究の有効性を示した。国内共同研究と比較すると、国際共同研究の方が、特許引用数が多い(図参照)。また、研究開発拠点の設立を伴う対内直接投資は、国内企業の生産性を向上させる効果が大きいことがわかっている。

図 イノベーションの質を表す特許引用数に対する共同研究の効果

〔出所〕 Iino T, Inoue H, Saito YU, Todo Y. 2021. How Does the Global Network of Research Collaboration Affect the Quality of Innovation? Japanese Economic Review. 72; 5-48.

中島:たいへん示唆に富む内容だ。今の話から、日本は対内直接投資の効果が出やすい国だと感じる。経済発展が初期の段階の国では、例えば輸入した部品を組み立てて輸出するだけにとどまるケースが多い。こうなると、雇用は増えるが地元企業への技術波及効果は薄い。日本の場合は、進出してくる外国企業と国内企業は対等な関係にあり、相 乗効果を生みやすい。

オープンイノベーション歓迎の姿勢を示し、日本を選ばれる投資先に

宮﨑(司会):こうした国内企業との協業•連携により外国企業誘致の効果を最大化するために有効な施策はどのようなものか。

戸堂 : まずは情報支援が非常に重要。企業が国外に進出する際は、投資先の情報を入手するのが簡単ではないことが一般的。日本にどういった企業やサプライヤー、取引先、顧客が存在するかといった情報を、海外に発信すべきだ。また、誘致した後も重要で、進出先の地域の企業とのネットワークを構築することを支援するなど、企業同士が円滑に結び付き、外国企業が日本企業と協業できる環境•仕組みを整えることが求められる。

中島 : ジェトロは、外国企業と日本企業、あるいは研究機関などとの協業も、積極的に支援している。例を挙げると、シンガポールの AI 画像診断企業 FathomX は、 2022年にジェトロのアレンジで、国立がん研究センター東病院と共同研究契約を締結した。その後、2024 年には日本に拠点を設立し、ジェトロは実証補助事業などを通じて支援を続けている。
このような協業を一層強力に後押しすべく、ジェトロは「J-Bridge(ジャパン•イノベーション•ブリッジ)」というビジネス•プラットフォームを立ち上げ、国内外の企業や大学、研究機関などをお繋ぎし、技術提携や実証実験、共同研究といった協業プロジェクトの組成をお手伝いしている。日本の大学や研究機関がオープンイノベーションを歓迎しているという姿勢を世界に示すことが大切だと考えており、ジェトロでもさらに力強く発信していきたい。

ジェトロ イノベーション部長 中島 丈雄

人材育成や街づくりで地域の魅力的な投資環境の創出を

宮﨑(司会):続いて、対日投資を促進していく上での日本の課題や、それをどのように克服していくべきか、お伺いしたい。

戸堂 : 外国企業を誘致する際も、誘致の効果最大化のために国内外のプレーヤーを結び付ける際も、必要となるのは「多様性を許容して活用できる人材」だ。外国企業の考え方を理解し、自身の利益に繋げるという発想が重要となる。しかし、そういった人材が日本にはまだ不十分で、特に理系分野と地方都市で不足している点が大きな課題だ。打ち手としては、海外で高度教育や職務経験を積んだ人材を呼び戻す政策も有効で、そのためには給与水準を引き上げていく必要がある。また同時に、国内での人材育成にも力を注ぐべきであり、幼少期から国際交流を経験させ、学生時代には留学を促すなどして、国際感覚を育むことが望ましい。

中島 : 人材不足は、ジェトロが毎年実施している「外資系企業ビジネス実態調査」 でも最大の課題として挙げられており(※2)、外資系企業の事業拡大や地方都市への進出、新規事業開発などの阻害要因になりかねない。外国人留学生のうち日本国内の就職率は 51.6%(※3)だが、高度人材を日本に留め、外国企業とのビジネスなどにおいて活躍してもらうことも重要で、ジェトロでは主要大学の学生に外資系企業への就職機会を紹介する講座なども実施している。

戸堂 : 対日投資は首都圏に集中しており、地方都市にはなかなか及ばないことも課題だ。理由の一つに、外国人にとって生活環境が整っていないことがある。特に子弟教育への関心は高く、インターナショナルスクールは外国企業を引き付けるために重要な要素の一つであり、近年熊本や広島で設置が進められていることなどは、良い傾向だ。

中島:最近、地方都市では街づくりの一環として、スタートアップが集まるインキュベーション施設や研究ラボを設置し、そこに 国内外のスタートアップやアクセラレーターを誘致する事例が増 えている。自治体にとって街づくりは政策として取り組みやすく、外国人が生活しやすい環境が整備されることにもつながっている。北海道のエスコンフィールドHOKKAIDO 周辺、大阪のうめきた(大阪駅北地区)、千葉県の柏の葉などがその例である。こうした地方創生と多様な人材が共生する環境づくりは、日本の新たなビジネスチャンス。地方創生と対日投資の拡大にも寄与するだろう。

戦略分野に重点を置きながらも、余白のある誘致活動を

宮﨑(司会): 今後、日本政府やジェトロはどういった方向性で外国企業の誘致に取り組むべきか、ご示唆をいただきたい。

戸堂 : 経済安全保障の観点から、対日投資といっても無制限に受け入れるべきではない。2025年10月に発足した新政権では、高市総理大臣から全閣僚への指示書が発出されており、その中で「対日直接投資の審査高度化」が言及された。こういった方向性は良いことで、きちんと審査した上で、真に日本に利益をもたらす投資を誘致すべきだ。ただし、過度な規制は投資を阻害するため、ルールを明確化し、透明性のある運用をした上で、海外に向けて情報発信することが欠かせない。

中島:同感だ。
経済安全保障の面での配慮は重要で、またグローバルなサプライチェーン再構築の中で、日本は「どんな投資も受け入れる」姿勢ではなく、日本が必要とする戦略的な産業•企業•技術を誘致するべきであり、日本政府もジェトロもその方向へシフトしている。半導体•マイクロエレクトロニクス、ライフサイエンス、脱炭素などの分野を中心に、ジェトロの海外ネットワークを活用した能動的な誘致活動を行っている。

戸堂 : もちろん、現在世界各国で注力されている半導体など、重点分野を定めて誘致することも重要だが、競争的で開放的な環境の方が長期的には産業政策として成果を上げるというデータもある。特定企業や産業分野に偏りすぎることなく、顕在化していない潜在力のある産業の可能性も考慮し、分野を特定しない側面を残して誘致活動を実施してくことが望ましい。

  1. ※1

    出所は Todo Y. 2006. Knowledge Spillovers from Foreign Direct Investment in R&D: Evidence from Japanese Firm-Level Data. Journal of Asian Economics. 17; 996-1013. 本文に戻る

  2. ※2

    ジェトロ「外資系企業ビジネス実態調査 2024」の結果では、日本でのビジネス活動において特に改善を期待する項目として、一般人材の確保(21.7%)と高度人材の確保(18.0%)が上位2位を占めた(複数回答)。 本文に戻る

  3. ※3

    「2023年度外国人留学生進路状況調査結果」(2025年5月(独)日本学生支援機構) 本文に戻る

会社設立の手続き パンフレット

日本での会社設立に関わる基本的な法制度情報や各種手続きをまとめた冊子(PDF)を提供しています。8種類の言語(日本語、英語、ドイツ語、フランス語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、ベトナム語)で作成しています。
資料請求ボタンよりフォームに入力の上、ダウンロードしてください。

お問い合わせ

フォームでのお問い合わせ

ジェトロはみなさまの日本進出・日本国内での事業拡大を全力でサポートします。以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム

お電話でのお問い合わせ

受付時間

平日9時00分~12時00分/13時00分~17時00分
(土日、祝祭日・年末年始を除く)