中国経済が直面する持続的発展に不可欠な課題解決とは-有識者に聞く 成長率目標5%前後は達成の見通し
安定回復には供給面の対策も必要

2023年9月11日

中国経済の回復が遅れている。長引く不動産市場の低迷、消費意欲の弱さ、欧米の景気減速などを受けた貿易不振も指摘されている。中国経済の現状や見通し、金融・財政面の課題、求められる対策などについて、中国のマクロ経済、金融、財政などに明るい大阪経済大学経済学部の福本智之教授に聞いた(取材日:2023年8月9日)。


福本智之氏(同氏提供)

成長率目標達成の見通しも、回復は力強さ欠く

質問:
7月17日に第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率が前年同期比6.3%と発表されたが、足元の中国経済をどう評価しているか。また、2023年の政府目標(前年比5%前後)の達成見通しなどについて聞きたい。
答え:
中国政府は各種経済政策を展開しており、今年(2023年)は政府の成長目標である5%程度にはいくと思う。ただ、回復は思いのほか弱い。2022年の成長率が3%だったことから、比較となる前年の基数が低いので、2023年の政府目標が5%前後とされたことは、控えめとみられていた。私もそのように思っていた。
民間エコノミストでも、第1四半期終了ごろは5%台後半、6%台という見方が大勢だった。第1四半期は経済再開のペントアップ・デマンド(繰り越し需要)が大きかった。飲食や不動産内見などができるようになり、(新型)コロナ(ウイルス禍)で抑えられていた需要効果が表れた側面があるだろう。
しかし、第2四半期には明らかに景気回復が弱まった。消費は伸びてこないし、2023年になって持ち直しつつあった不動産販売も、4月ごろから再び不振になってきた。輸出も世界経済の減速を背景に、5月から弱くなった。
個人、企業ともに経済活動が弱い状況にある。民間投資は前年を下回っているほか、4~6月の小売売上高について、2021年同期比で年率成長率を計算すると、2.8%にとどまる。家計においては、消費よりも貯蓄に目が向けられている。
2023年上半期の個人預金増加額は約12兆元(約240兆円、1元=約20円)だった。2019年から2021年の年間平均増加額は約10兆元、ゼロコロナ政策により都市封鎖などが頻発した2022年が年間約17兆8,000億円増だったことを踏まえると、2023年上半期の増加が著しいことがわかる。
中国の家計資産の約7割が住宅とされるが、現状で値上がり期待は持てず、逆資産効果が働いている。2020年から2022年の住民1人当たり可処分所得(名目)の平均成長率は4.3%で、2019年の5.8%よりも低い。政府の強力な支援策も期待できない中、国民は保守的になり、貯蓄に走っている。一部リベンジ消費はあるものの、全体として回復の勢いは強くない。
こうした状況の中、7月24日の中国共産党中央政治局会議では、内需拡大に向けて消費を促進することや、不動産政策を適時調整・最適化することなどを挙げた。それに先立つ7月19日には、31項目からなる民間経済発展に関する意見を発表していた。ただし、財政資金を大規模に投入するという感じではなく、スローガン的なものが多い。もちろん、地方政府の地方特別債(専項債、注1)発行を急ぐ、政策銀行のインフラ投資を加速するなどといったことは今後進むだろう。
私は、政府が目標として掲げた5%前後を達成するよう政策を打つとは思うが、はっきりとした景気回復にはならないだろう。2023年上半期の成長率は5.5%。昨年2022年の第3四半期(7~9月)が3.9%、第4四半期(10~12月)が2.9%と低い成長でベースが低いということもある。2024年以降の低成長は懸念される。
質問:
関連産業を含めてGDPの約3割を占めるとの指摘もある不動産市場をどうみているか。不動産市場不振の経済への影響を聞きたい。
答え:
ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は2022年のペーパーで、不動産分野の直接関連産業はGDPの12%で、間接産業を含めると全体で25%に達するとした。政府が「住宅は住むためのもので、投機のためのものではない」という方針の下、市場のコントロールを図って、それが効いてきたこともあり、ここ2年間くらいは不動産市場が低迷してきた。
低迷の背景として、規制強化による一時的な影響に止まらず、実需が減り始めている点に注目が必要だ。住宅は2021年に約15億平方メートル売れていたが、2022年は約11億5,000万平方メートルに減少した。1軒目の主力住宅購入人口に当たる25~34歳の人口は2017年をピークに減少しており、実需が減り始めている。
今後いかにソフトランディングできるかが注目点だ。植信投資研究院の連平チーフエコノミスト兼院長は、不動産の低迷が年間のGDP成長を0.9%下押しするとしている。政府は不動産政策を適時調整・最適化し、政策のツールボックスを打ち出すとしているが、買い替えの支援などサポーティブな政策展開の方向だろう。
需要喚起策としては、1軒目の住宅購入の頭金比率と住宅ローン金利を引き下げたり、買い替えにかかる税金を減免したりしている。しかし、需要面のみの対策で安定化を狙うのではなく、供給面の対策をやるべきだろう。心配なのは、そうした動きはあまりみえないことだ。
中国国民が住宅を買うケースは、9割が完成前に新築物件を売り出す予約販売だ。引き渡しは2年後になる。住宅を購入する家計からすれば、デベロッパーが健全経営で物件を引き渡してくれるかが最大の関心事だ。IMFの試算〔国際金融安定性報告書(GFSR)、2022年10月〕では、2割超の上場不動産デベロッパーが実質債務超過状態にあるとみられている。こうした状況では、国民が住宅購入をちゅうちょするのも無理はない。
不動産デベロッパーの業界再編を急ぐべきだろう。具体的には、公的資金を入れたほうが良いと思うが、露骨には入れられないだろう。国有銀行、国有資産管理会社(AMC)、国有不動産デベロッパーなどを活用して実質救済を行うのが現実的だと思う。しかし、現時点では、問題先送りを繰り返しており、ゾンビ企業が残ってしまっており、処理が進んでいない。
ただし、日本が経験したようなバブル崩壊から金融危機のようになるかというと、リスクはあるものの基本シナリオではそのようには考えていない。中国は土地供給がコントロールできるし、国有セクターを動員できることもある。また、銀行の不動産の担保価値評価はバブル期の日本の金融機関よりも保守的だ。市場価値の5割から7割でみている。上場銀行の不動産デベロッパー向け貸し出しのウエイトは5~10%で、平均6%程度。これらを総合すれば、バブルの大規模崩壊にはならないように抑えこむ可能性が相応に高い。

懸念される一部地方都市の財政状況

質問:
金融面、財政面から見た中国経済の評価を聞きたい。商業銀行の不良債権比率、不良債権や要注意債権も一定額にコントロールされているようには見える。一方、地方財政の不動産関連収入への依存度が高過ぎるという指摘や、非金融部門債務残高のGDP比で企業の比率が高まっており、地方融資平台(注2)の債務など「隠れ債務」拡大が懸念されている。
答え:
2023年2月のIMF4条協議に基づくコンサルティング報告によると、2020年末に地方政府公式債務のGDP比率が25%、地方融資平台債務(偶発債務を含む)が44%で、中央政府公式債務(20%)とその他政府債務(偶発債務を含む、9%)も入れると、中国の政府債務は99%となる。2022年末見込みでは110%とされており、低くないレベルではあるが、日本の政府債務と比べると低い。中国の政府債務は国内で閉じており、すぐ債務危機になるというレベルではない。
ただ、財政状態が深刻な地方都市の状況は懸念される。これらの都市では成長率が低下しており、財政収入も減っている。2021年に黒龍江省にある旧産炭地、鶴崗市では債務リストラを実施した。東北3省の政府債務は特に深刻だ。省・市・県で末端に行くほど深刻で、人口が減少し、不動産が売れない、売れないので土地も売れず、政府は土地譲渡収入が十分に取れないという悪循環に陥っている。また、地方の都市商業銀行の資産悪化にも繋がり、金融リスクを招いている。中央政府は、資産状態が悪くなった地方の銀行を、初めから救済するとモラルハザードを生むことを懸念している。地方債務問題にしても地方の金融機関のリスクにしても、中央政府は基本的には各省で処理しなさいというスタンスで、システミックリスクになると判断した場合には解決策を取ると思う。2019年に包商銀行が破綻した際には、預金保険法が適用されて、損失を被った債権者がごく一部に発生し、人々の不安心理への影響は大きかった。しかし、その後、同年の錦州銀行のケースでは、国有銀行が買収して救済し、預金は全額保護された。システミックリスクへの影響を気にしたのだと思う。
中国人民銀行(中央銀行)は金融安定化法制定に向けて2022年から準備を進めている。同法を基に秩序だった金融機関の処理を進めることを検討している。システミックリスクを起こさせないような仕組みをつくろうとしている。

注目される全要素生産性の今後の推移、米中対立や人口減の影響を懸念

質問:
2035年までに中国のGDPと1人当たりの収入を2020年対比2倍にするため、2021年から15年間で年平均4.7%の成長が必要との中国有識者の指摘があるが、中長期の経済成長の見通しは。
答え:
2022年6月に執筆した「中国減速の深層 『共同富裕』時代のリスクとチャンス」の中で、中国経済の中長期的成長について、私なりの基本シナリオ、良好シナリオ、リスクシナリオの3つを想定した。基本シナリオでは、2035年にGDPは倍増しないが、経済は失速もしないとみており、年平均4.1%くらいの成長率で推移するとみていた。リスクシナリオは年平均3.5%で、2020年に6%の潜在成長率で、2035年には1.6%としていた。このシナリオとIMF世界経済予測の数値が似ている。私も、現状は明らかに基本シナリオからリスクシナリオに近づいていると思う。
不動産分野が足を引っ張る部分があることと、3期目の習近平政権が経済運営を正しく行えるかという不安がある。現在の中国では循環的な景気の悪さと潜在成長率の低下が同時に起こっている。このため、総需要喚起と供給側の構造改革がともに必要だ。しかし、2022年10月に開催された中国共産党第20回全国代表大会からここまでの経済運営をみていると、動きが鈍いと感じており、リスクシナリオとなる確率は高まっている。
質問:
前述の著書の中で、中国で全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)を高めることが不可欠との認識を示しているが、中国の人口は2022年には1961年以来初めて減少し、国連の2022年人口見通し(中位推計)でも、生産年齢人口(15~64歳)が今後大きく減少すると見通されている。イノベーション力なども含め、全要素生産性の今後の見通しは。
答え:
私の基本シナリオでは、全要素生産性の経済成長への寄与度は2020年の2.8%から2035年には1.8%に低下するとみていた。これに対して、良好シナリオでは全要素生産性の成長寄与度は2035年に2.8%、リスクシナリオでは1.3%とみていた。しかし、現在は全要素生産性が下振れしやすい要素が増えている。
技術革新について、中国は昨今の情勢を受けて、自立自強、新型挙国体制ということで進めているが、米中対立などもあり、その進展に影響を受けるのは避けられない。
デジタル化については、民間プラットフォーマーの勢いが弱まっていく方向だが、BtoB分野での産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化、農業のDX化は進むだろう。政府のサポートを受けて、5G(第5世代移動通信システム)、データサーバー分野も整備が進むし、「東数西算」プロジェクト(注3)も展開される。労働人口が生産性や効率性の低いところから高いところにどのような速度で移動していくかにも注目している。
国有経済と民営経済の「いいとこどり」を意味する「2つのいささかも揺るぐことなく」(注4)を進めているが、国有企業が独占ないし寡占する分野が多く残っている。例えば、金融セクターを例にあげると、世界銀行推計によると、同セクターの88%を国有企業が占めている。ここを変えていければ、生産性はあがる。しかし、民営経済のウエイトを引上げる方向に明確に政策を持っていくのかどうか不透明である。
質問:
その他、中国経済の持続的発展を考える上で、特に注目しておいたほうがよい中国経済の課題があれば聞きたい。
答え:
米中対立の動向やサプライチェーンの変化が気になる。これらは中国への外商直接投資にも関係してくる。米国の海外からの輸入で、2023年上半期の国・地域別の状況をみると、首位だった中国の順位はメキシコとカナダに抜かれて3位に低下した。中国からの輸入シェアはここ2~3年は落ちていた。
ただその一方、米国のメキシコやASEANからの輸入が増えている。そして、中国からこれらの国・地域への輸出が増加し、そのシェアは高まっている。中国の労働集約産業が移転し、そこへの中国からの供給が増えているという構図と、米国の制裁関税逃れで中国からの最終組み立て地を移転しているという両方の要素があるだろう。ASEANの対中貿易収支は赤字になっている。これらの状況をみると、単純に広範なデカップリングが進んでいるという解釈ではなくて、中国の産業高度化を受けてサプライチェーンに変化が起こっているという面があることをおさえておくべきだろう。
一方で、軍事技術に転用可能な最先端分野においてはデカップリングが部分的に起こっている。米国のサリバン国家安全保障担当大統領補佐官は「スモールヤード・ハイフェンス」と言っているが、米国がその政策を展開する中国への影響は先端技術分野では、大きいだろう。2022年10月からの米国の先端半導体の対中輸出規制の影響を受けているし、日本の先端半導体の製造装置などの輸出管理強化の影響も出てくるだろう。半導体やAIにおいては、中国の先端技術開発への影響は避けられない。
質問:
中国を取り巻く国内外の状況が激しく変化している中で、日本企業の対中ビジネス展開に対する見方は。
答え:
ジェトロの2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)によると、2022年8~9月の進出日系企業の今後1~2年の事業展開の方向性について、「縮小」は4.9%、「第三国(地域)へ移転、撤退」は1.4%と少数で、「拡大」は33.4%と前年より減少して、「現状維持」が60.3%と増加した。いま中国にいる日系企業の担当者が中国ビジネスを頑張ろうとしている様子はみてとれる。
しかし、自分が感じるよりも「縮小」「第三国(地域)へ移転、撤退」が少ないなという印象だ。今年(2023年)のジェトロの調査でこれらがどのように推移するかに注目している。昨年来、中国自動車市場において、EV化が急速に進展する中、日本車のシェアが大幅に下がっている。日本の自動車産業や部品産業で、今後は撤退や事業縮小の事例がでてくる懸念がある。
また、日本の本社が抽象的なレベルの情報で、対中ビジネスに慎重になっているとよく聞く。日本企業は情報をしっかり集めて判断しつつ、したたかにビジネスを行うべきだと思う。
中国米国商会のフラッシュサーベイ(2023年4月)で、43%はグローバル拠点もしくは地域本社幹部が2022年12月からで既に中国を訪問したと回答。31%は今後数カ月のうちに中国を訪問すると回答している。各種情報をしっかりと収集していくことが重要で、必要に応じて商会組織とともにロビイングもしていくべきだ。これは対中ビジネスの必須項目になっていく。個社、産業界、政府で連携を取って、各種問題解決に努めるべきと思う。
日本企業には、戦略的不可欠性も必要だ。中国で売れるものを持っていることが強みとなる。これがあると、経済安全保障の観点でも強い立場に立てる。

注1:
省、自治区、直轄市などが収益性のある公益プロジェクト実施を目的として発行する地方債券。プロジェクトに対応する政府基金収入やプロジェクト収入により、元利返済する。主に地方のインフラ投資などに使用される。
注2:
地方融資平台は、中国の地方政府傘下の資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた投資会社を指す。「平台」はプラットフォームを意味している。
注3:
「東数西算」プロジェクトは、データセンター、クラウドコンピューティング、ビッグデータが一体となった新たなコンピューティングネットワークの構築により、東部地区(沿海部)のデータ処理業務を西部地区(内陸部)へ移転し、データセンターの配置を最適化することで、両地区の連携を促進するもの(2022年3月2日付ビジネス短信参照)。
注4:
公有制経済をいささかも揺るぐことなく強固にし、発展させることと、非公有制経済の発展をいささかも揺るぐことなく奨励し、支援し、誘導することを指す。
略歴
福本智之(ふくもと・ともゆき)
1989年、日本銀行入行。2000年、在中国日本大使館一等書記官として、中国金融経済の調査と当局とのリエゾンを担当。2010年、日本銀行国際局総務課長、2011年、国際局参事役(IMF世界銀行東京総会準備を担当)、2012年、北京事務所長、2015年、北九州支店長、2017年、国際局審議役(アジア担当総括)、2020年、国際局長を歴任、2021年に日本銀行退職を経て、同年から大阪経済大学経済学部教授。東京財団政策研究所研究員を兼任。主な著作に「中国減速の深層 『共同富裕』時代のリスクとチャンス」がある。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課 課長代理
宗金 建志(むねかね けんじ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジアチーム、ジェトロ岡山、ジェトロ北京、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ北京を経て、2018年8月より現職。