特集:2021年中南米の貿易動向銅価格高騰と国内消費活動の回復で輸出入とも大幅な伸び(チリ)

2022年9月13日

2021年のチリの貿易は、銅価格の高騰と国内の消費活動が回復し、輸出入ともに堅調な伸びを示した。貿易黒字を維持したが、黒字幅は前年比で縮小した。対日貿易も輸出入ともに増加し、輸入は最大の構成比を占める乗用車が顕著に増加して全体でも77.2%増を記録した。2022年3月に、若き大統領を擁する左派政権が誕生した。上院で審議中の、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)批准法案の行方など、長年にわたりチリの経済成長を支えてきた自由貿易路線への影響について、注目が集まっている。

2021年の貿易黒字は減少

2021年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比28.9%増の947億500万ドル、輸入は55.1%増の918億4,300万ドルだった。貿易収支は28億6,200万ドルの黒字で、前年に比べて黒字幅は縮小した(表1参照)。

表1:チリの主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
農林水産物 6,355 6,710 7.1 5.6 1,526 1,942 2.1 27.3
階層レベル2の項目果物 5,703 6,024 6.4 5.6 227 348 0.4 53.4
鉱産物 43,604 60,735 64.1 39.3 3,848 6,863 7.5 78.4
階層レベル2の項目鉄・銅 39,505 55,868 59.0 41.4
階層レベル2の項目石炭・石油・天然ガス 3,282 5,850 6.4 78.3
工業品 23,526 27,259 28.8 15.9 53,853 83,039 90.4 54.2
階層レベル2の項目加工食品類、飲料・アルコール類・たばこ 11,719 12,950 13.7 10.5 6,218 8,956 9.8 44.0
階層レベル2の項目繊維・衣類・革製品 397 473 0.5 19.0 3,832 5,461 5.9 42.5
階層レベル2の項目木材・木製家具 2,222 2,654 2.8 19.5 621 1,479 1.6 138.2
階層レベル2の項目セルロース・製紙 2,656 3,263 3.4 22.8 929 1,260 1.4 35.7
階層レベル2の項目基礎化学製品・石油派製品・ゴム・プラスチック 2,951 3,878 4.1 31.4 14,252 22,577 24.6 58.4
階層レベル2の項目鉄・鉄鋼、非鉄基礎産業 964 1,513 1.6 56.9 1,847 3,405 3.7 84.4
階層レベル2の項目金属製品・機械・機器類、電気機器類、輸送機器 2,441 2,326 2.5 △ 4.7 24,687 37,247 40.6 50.9
合計(その他含む) 73,485 94,705 100.0 28.9 59,226 91,843 100.0 55.1

注1:輸出申告および輸入申告の数値を使用。
注2:輸出額には、港での購入品が含まれる。
注3:果実、鉱産物の輸出額は、一部推定値を含む。
注4:中銀の統計では「農林水産物」に含まれる水産物は採取漁業によるもののみで、畜産物は工業製品に分類されている。
出所:チリ中央銀行資料から作成

輸出を品目別にみると、最大シェアの鉱産物が前年比39.3%増の607億3,500万ドルだった。これは世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、銅の国際価格の平均が50.8%増の1ポンド4.23ドルと高値で推移したことによる。農林水産物は5.6%増67億1,000万ドルで、果物輸出全体の30%を占めるサクランボが13.1%増となった。工業品は15.9%増の272億5,900万ドルで、サーモンは22.3%増、ボトルワインは8.5%増となった。ボトルワインの輸出は2019年から2年連続で減少していたものの、2021年は増加に転じた。

輸入を品目別にみると、構成比の9割を占める工業品は54.2%増の830億3,900万ドルだった。木材・木製家具の輸入は2.4倍、金属製品・機械・機器類、電気機器類、輸送機器は50.9%増となった。これは、コロナ禍で停滞していた国内の消費活動が回復したことによるもので、石油やディーゼル油の輸入がそれぞれ85.6%増、55.7%増、耐久消費財の自動車やテレビが2倍以上に、衣類や履物も2桁増となった。

輸出を主要地域別にみると、アジア向けが構成比57.3%を占め最大となり、国別では、中国(38.8%)、米国(15.8%)、日本(7.7%)の順だった(表2参照)。欧州向けでは、スペイン、フランスへの銅関連製品の輸出が増加し、欧州全体で前年比15.8%増となった。米州は41.1%増で、米国、ブラジル向けは特にサーモンの輸出が増加した。

輸入を主要地域別にみると、米州からが構成比42.1%を占め最大で、国別では、中国(29.9%)、米国(17.4%)、ブラジル(8.4%)の順だった。米州からの輸入は前年比53.4%増で、米国やブラジルからのエネルギー製品の輸入増が目立った。アジアは66.3%増で、中国からは携帯電話、自動車、コンピュータの輸入が増加した。欧州は34.8%増だった。国内の新車販売台数の増加に伴って、日本、中国、韓国、フランスなどからの輸入が前年比で特に大幅に増加した。

表2:チリの主要国・地域別輸出入(通関ベース) (単位:100万ドル、%)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 42,961 54,295 57.3 26.4 21,992 36,570 39.8 66.3
階層レベル2の項目日本 6,374 7,252 7.7 13.8 1,235 2,189 2.4 77.2
階層レベル2の項目中国 28,550 36,722 38.8 28.6 16,459 27,486 29.9 67.0
階層レベル2の項目韓国 4,145 4,812 5.1 16.1 1,014 1,729 1.9 70.5
階層レベル2の項目インド 774 1,278 1.3 65.3 718 1,263 1.4 75.9
欧州 9,495 10,996 11.6 15.8 9,907 13,355 14.5 34.8
階層レベル2の項目EU27 6,916 8,351 8.8 20.8 8,561 11,326 12.3 32.3
階層レベル3の項目ドイツ 1,044 1,067 1.1 2.1 2,299 2,967 3.2 29.1
階層レベル3の項目スペイン 1,182 1,551 1.6 31.2 1,442 2,126 2.3 47.4
階層レベル3の項目フランス 1,366 1,583 1.7 15.9 883 1,220 1.3 38.2
米州 20,009 28,235 29.8 41.1 25,234 38,707 42.1 53.4
階層レベル2の項目米国 9,698 14,948 15.8 54.1 10,563 15,984 17.4 51.3
階層レベル2の項目メルコスール 4,170 5,926 6.3 42.1 8,565 13,860 15.1 61.8
階層レベル3の項目ブラジル 3,074 4,586 4.8 49.2 4,318 7,686 8.4 78.0
階層レベル3の項目アルゼンチン 618 786 0.8 27.2 3,312 4,912 5.3 48.3
階層レベル2の項目太平洋同盟 3,141 3,726 3.9 18.6 3,825 5,681 6.2 48.5
階層レベル3の項目メキシコ 1,043 1,395 1.5 33.8 1,622 2,553 2.8 57.4
階層レベル3の項目ペルー 1,514 1,638 1.7 8.2 1,098 1,730 1.9 57.6
合計(その他含む) 73,485 94,705 100.0 28.9 59,226 91,843 100.0 55.1

注1:輸出申告および輸入申告の数値を使用。
注2:メルコスールには、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイが含まれる。
注3:太平洋同盟には、メキシコ、コロンビア、ペルーが含まれる。
出所:チリ中央銀行資料から作成

対日貿易は輸出入ともに増加

チリ側の統計によると、対日貿易は、輸出が前年比13.8%増の72億5,200万ドル、輸入が77.2%増の21億8,900万ドルで、日本はチリにとって3位の輸出先、7位の輸入元だった(表3参照)。主な対日輸出品は銅鉱で、62.0%のシェアを占める。他の上位品目である太平洋サケ(冷凍、頭・はらわた抜き)やモリブデン精鉱は、前年比でそれぞれ12.5%増、81.6%増となった一方で、トラウト、大西洋サケ(冷凍、フィレ)、木材チップ(ユーカリ・グロビュラス)は2桁減となった。

対日輸入品では、乗用車以外に、軽油、ディーゼル油、さらには鉱山用タイヤなど産業用資機材・中間財が、前年から大きく増加した。前年にはなかった貨物船及び貨客船や、輸入量がわずかだったセメントクリンカーの輸入が目立った。

表3:チリの対日主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
銅鉱(精鋼を含む) 3,800 4,497 62.0 18.3
太平洋サケ(冷凍、頭・はらわた抜き) 503 566 7.8 12.5
モリブデン精鉱(焼いたもの) 253 460 6.3 81.6
トラウト(冷凍、フィレ) 230 162 2.2 △ 29.3
太平洋サケ(冷凍、フィレ) 98 137 1.9 39.9
リチウムの炭酸塩 98 92 1.3 △ 5.9
木材チップ(ユーカリ・グロビュラス) 128 83 1.1 △ 35.0
豚肉(冷凍、骨なし) 72 81 1.1 12.1
ウニ(冷凍) 95 74 1.0 △ 22.1
大西洋サケ(冷凍、フィレ) 97 71 1.0 △ 27.4
木材チップ(ユーカリ・ニテンス) 68 62 0.9 △ 8.1
鉄鉱 0 61 0.8 全増
木材(松、針葉樹) 40 58 0.8 47.2
化学木材パルプ(針葉樹のもの) 35 58 0.8 66.4
ぶどう酒〔注〕 39 33 0.5 △ 15.6
合計(その他含む) 6,374 7,252 100 13.8
輸入(CIF)(単位:100万ドル、%)(-は値なし)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車(1500cc超3000cc以下) 349 600 27.4 72.0
軽油、ディーゼル油 57 259 11.8 354.1
タイヤ(建設、産業車両用) 106 139 6.3 30.3
シャシー(トラック用、有効積載量2トン超) 40 121 5.5 204.5
鉄・非合金鋼のフラットロール製品(厚さ3mm未満) 37 98 4.5 166.4
フロントエンド型ショベルローダー(上部構造が360度回転するもの) 16 49 2.2 199.7
乗用車(1000cc超1500cc以下) 32 41 1.9 28.3
硫酸及び発煙硫酸 20 33 1.5 64.7
乗用車(3000cc超) 16 32 1.5 97.6
貨物自動車(有効積載量2トン超) 18 30 1.4 63.6
セメントクリンカー 3 30 1.4 942.9
フロントエンド型ショベルローダー 15 28 1.3 91.2
ブルドーザー及びアングルドーザー(無限軌道式のもの) 12 22 1.0 84.8
その他の貨物船及び貨客船 21 1.0
鉄鋼製のストーブ(液体燃料用のもの) 13 18 0.8 36.9
合計(その他含む) 1,235 2,189 100 77.2

注:HSコード22042168の品目。
出所:チリ中央銀行資料から作成

2022年はCPTPPの議論再開に期待

チリの2021年の通商協定による往復貿易カバー率は95.2%に達した(表4参照)。1月には、EUを離脱した英国との間で2国間FTA(自由貿易協定)が発効した。11月には、同FTAを近代化するための作業部会が設置され、2022年に本格的に議論が開始される予定となっている。また同月には、シンガポール、ニュージーランド、チリの3カ国間で結んだデジタル経済連携協定(DEPA)が国内で発効した。DEPAは、デジタル経済発展のための最新課題を盛り込んだ先駆的な貿易協定として注目を集めており、すでに中国やカナダが加入申請を行い、韓国も加入の意向を示している。8月18日には、DEPA合同委員会が中国の加入手続き開始に合意し、交渉に当たる加入作業部会の設置を発表した。同作業部会の議長はチリが務める。CPTPPについては、数年にわたって国会での審議が滞っているものの、2022年3月に36歳の史上最年少で就任した、左派のガブリエル・ボリッチ大統領は「CPTPPの議論再開時期を、現在チリで行われている新憲法制定に係るプロセスの終了後に予定している」と発言している(2022年3月22日付ビジネス短信参照)。ボリッチ大統領は当初、CPTPPを含むFTA全般について見直しが必要と発言していたものの、2022年中にはCPTPP批准につき何らかの進捗が期待されている。

表4:チリのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
項目 FTA 発効日 チリの貿易に占める構成比(2021年)
往復 輸出 輸入
発効済み 中国、FTA深化協定(2019年3月発効) 2006年10月 1日 34.4 38.8 29.9
米国 2004年 1月 1日 16.6 15.8 17.4
メルコスール〔経済補完協定(ACE35)〕 1996年10月1日 10.6 6.3 15.1
EU27 2003年 2月 1日 10.6 8.8 12.3
日本(EPA) 2007年 9月 3日 5.1 7.7 2.4
太平洋同盟、追加議定書 2016年 5月 1日 5.0 3.9 6.2
韓国 2004年 4月 1日 3.5 5.1 1.9
インド、部分到達協定、拡張協定(2017年5月発効) 2007年8月17日 1.4 1.3 1.4
カナダ、FTA深化協定(2019年2月発効) 1997年 7月 5日 1.3 1.2 1.3
エクアドル〔経済補完協定(ACE65)〕 2010年1月25日 0.9 0.5 1.3
ベトナム 2014年 1月 1日 0.9 0.3 1.4
EFTA 2004年12月1日 0.8 1.0 0.5
タイ 2015年11月5日 0.7 0.5 0.9
英国 2021年1月1日 0.6 0.6 0.7
ボリビア〔経済補完協定(ACE22)〕 1993年 4月 6日 0.6 1.0 0.2
トルコ 2011年 3月 1日 0.5 0.3 0.7
オーストラリア 2009年 3月 6日 0.4 0.4 0.5
中米5カ国 〔注〕 0.4 0.5 0.2
マレーシア 2012年2月25日 0.3 0.2 0.4
インドネシア〔CEPA(包括的経済連携協定)〕 2019年8月10日 0.2 0.1 0.3
P4(EPA) 2006年11月8日 0.2 0.1 0.3
パナマ 2008年 3月 7日 0.2 0.2 0.1
香港 2014年10月9日 0.1 0.0 0.1
ベネズエラ〔経済補完協定(ACE23)〕 1993年 7月 1日 0.0 0.1 0.0
キューバ〔部分到達協定(ACE42)〕、追加議定書 2008年6月27日 0.0 0.0 0.0
シンガポールとニュージーランド、デジタル経済連携協定(DEPA) 2021年11月23日
合計 31協定(65カ国) 95.2 94.9 95.4
署名済み CPTPP
パラグアイ
香港、サービスの章を近代化
交渉中 EU、FTA深化協定
EFTA、近代化協定
インド、部分到達協定の拡大
韓国、FTA深化協定
インドネシア、CEPA(サービスの章)
トリニダード・トバゴ、部分到達協定
アラブ首長国連邦、〔CEPA(包括的経済連携協定)〕
英国、近代化協定

注1:構成比の算出には、輸出FOB価格と輸入CIF価格を使用。
注2:太平洋同盟には、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリが含まれる。
注3:追加議定書は、既存の2国間FTAをベースとする広域FTA。
注4:中米5カ国には、コスタリカ(2002年2月14日発効)、エルサルバドル(2002年6月1日発効)、ホンジュラス(2008年7月19日発効)、グアテマラ(2010年3月23日発効)、ニカラグア(2012年10月19日発効)が含まれ、発効日は異なる。
注5: P4には、チリ、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイが含まれる。
注6: キューバとは、2010年11月11日に追加議定書が発効した。
注7:メキシコ、コロンビア、ペルーについては太平洋同盟として、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルについてはメルコスールとして構成比は計算される。
出所:チリ国内法規およびSUBREI資料などから作成

左派の新大統領の経済政策に注目

そのボリッチ大統領だが、2019年10月に起こった反政府デモ後に、格差社会の是正を求める国民らの声に耳を傾けるかたちで新憲法草案の着手に至る交渉プロセスを推進した議員のうちの1人でもある。FTAの見直し以外にも、年金改革、単一の健康保険システムの確立、最低賃金の引き上げ、富裕層への課税、大規模鉱山における鉱業ロイヤルティー税の引き上げ、環境税の導入など、格差社会の是正に重きを置いた公約を発表している。新政権にて、これまでチリが長年続けてきた新自由主義的な経済政策がどう変化するか注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・サンティアゴ事務所
岡戸 美澪(おかど みれい)
2017年、ジェトロ入構。現在に至る。