特集:2021年中南米の貿易動向2021年貿易は輸出入とも減少、中国向け鉄鋼輸出が不振(ベネズエラ)
米国による経済制裁で原油の自由な輸出はできず

2022年8月26日

2021年のベネズエラの貿易は、輸出入ともに金額ベースの前年比で減少した。特に輸出は、石油関連製品を除いた主要輸出品である鉄鋼の中国向けが大きく落ち込み、80%超減少した。石油関連製品は、2019年に米国政府がベネズエラ国営石油会社(PDVSA)を制裁対象に指定して以降、ベネズエラ産原油の自由な輸出ができない状態が続いている。対日貿易は、輸出入ともに増加し、日本の対ベネズエラ輸入では、メタノールやカカオ豆が増えている。

中国向け輸出が急減し、オランダが最大市場に

2021年の石油部門以外の輸出(通関ベース)は、2億8,900万ドルだった(表1参照)。異例の約11億ドルにも上る金の輸出が行われた2020年と比べると、82.2%の大幅減になっている。品目別にみると、最大の輸出品である鉄鋼が1億600万ドルと52.2%減少している。中国向け輸出額が前年比約10分の1になったことが大きい。また、それに次ぐ主力商品である水産品(魚、甲殻類、軟体動物)についても、エビの不振から5,600万ドルと21.9%減少した。一方、オランダや米国向けが増加したメタノールを中心とする有機化学品は3,000万ドル、ブラジル向けが好調だったアルミニウム原料のアルミナなどアルミニウム関連が2,700万ドルと、それぞれ20%近く伸びた。

表1:ベネズエラの主要品目別輸出(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄鋼 222 106 36.7 △ 52.2
魚、甲殻類、軟体動物 71 56 19.3 △ 21.9
有機化学品 25 30 10.2 18.2
アルミニウム 22 27 9.2 19.6
肥料 20 15 5.2 △ 23.2
電気機器 9 11 3.7 26.8
銅およびその製品 6 7 2.4 17.1
生きた動物 0 5 1.7 23,052.3
ココアおよびその調製品 3 3 1.2 20.5
鉛およびその製品 2 3 0.9 24.0
合計(その他含む) 1,625 289 100.0 △ 82.2

注:非石油部門のみ。ベネズエラでは石油部門の通関統計は公表されていない。
出所:SENIAT(Global Trade Atlas)

国・地域別では、前年に最大の輸出先だった中国向けが鉄鋼の大幅減で前年比91.8%減少した(表2参照)。最大の輸出先はオランダで、鉄鋼が約3倍に増えエビも倍増した結果、2.6倍の4,300万ドルとなった。次いで、ブラジル向けがアルミナや窒素肥料(尿素)の増加により39.2%増の4,100万ドルとなった。2018年まで最大の輸出先だった米国向けは、財務省外国資産管理局(OFAC)による経済制裁への警戒から前年に大幅に落ち込んだが、肥料やカカオなどで回復が見られ、3,800万ドルと91.3%増加した。

表2:ベネズエラの主要国・地域別輸出(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
オランダ 16 43 14.8 162.5
ブラジル 29 41 14.0 39.2
米国 20 38 13.2 91.3
中国 292 24 8.3 △ 91.8
グアテマラ 10 22 7.5 108.8
フランス 25 16 5.5 △ 36.7
コロンビア 18 16 5.4 △ 10.7
スペイン 19 15 5.1 △ 22.9
イタリア 7 13 4.4 92.4
台湾 3 8 2.6 131.6
エクアドル 4 7 2.4 56.5
ドミニカ共和国 1 6 2.2 731.4
ポルトガル 16 5 1.8 △ 67.8
トルコ 1 5 1.8 288.9
エジプト 0 5 1.7
キューバ 7 4 1.5 △ 35.8
インド 5 4 1.3 △ 28.4
タイ 1 4 1.3 207.9
メキシコ 12 3 1.1 △ 73.1
韓国 5 2 0.6 △ 68.6
合計(その他含む) 1,625 289 100.0 △ 82.2

注:非石油部門のみ。ベネズエラでは石油部門の通関統計は公表されていない。
出所:SENIAT(Global Trade Atlas)

イランの協力により石油生産がやや回復

米国による経済制裁で、ベネズエラ産原油の自由な輸出はできない状態が続いていることから、かつての主要市場である欧米諸国向けの2021年の輸出は皆無だった。とはいえ、OPECの推定によると、2021年のベネズエラの原油生産量は日量68万3,000バレルと前年の同56万9,000バレルから若干の回復をしている。ニコラス・マドゥーロ大統領ら政府関係者からは、これを100万バレル以上に引き上げる目標もたびたび発表されている。ベネズエラで産出される原油は重質・超重質油が中心であり、石油製品や輸出グレード原油の生産にはコンデンセートやナフサなどの希釈剤が必要となる。これらの米国からの調達は停止したままだが、イランとの協定により、ベネズエラ産原油とのスワップで不安定ながらも定期的に入手が可能となっている。

一方、原油の外国市場での販売については、制裁回避のための間接取引も多く、実態をつかむのは非常に困難だ。多くの外国企業が関与するほか、沖合での積み替えや追跡困難なタンカー輸送なども行われるようであり、これらの組み合わせなども経て、最終的には中国市場に流れているとみられる。しかし、こうした事情から、ベネズエラ原油の販売は25%程度の値引きが強いられるうえ、さらにはウクライナ紛争によるロシアへの経済制裁から、同国産の原油との競合も起こりうるなど安定的な生産回復、国際市場への復帰といった状況からは程遠い。

そうした中、欧州におけるロシア産原油への依存軽減のため、米国のバイデン政権は2022年6月、国内で石油・ガス生産事業を保留しているイタリアのエニ、スペインのレプソルに対し、欧州向けベネズエラ原油供給を認めるなど、制裁緩和ととれるような動きもあり、今後の国際情勢で制裁内容が変化する可能性が出ている。

米国が再び最大の輸入先に

2021年の輸入(通関ベース)は、23億2,600万ドルと前年比31.1%減少した(表3参照)。穀物、砂糖といった生活物資の輸入が全般に急増した前年からの反動が大きい。また、最大の輸入品目であるボイラーなど機械類が2億9,900万ドルと6.5%減少したほか、穀物、電気機器などについてもほぼ軒並み減少している。国・地域別では米国が2.9%増の4億6,200万ドルと再び首位になった一方、中国は大豆油かす、医療機器、医薬品などが大幅に減少し、3億4,900万ドルと48.0%減になった(表4参照)。

表3:ベネズエラの主要品目別輸入(通関ベース)
輸入(CIF) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
ボイラーおよび機械類、同部品 319 299 12.8 △ 6.5
穀物 392 263 11.3 △ 32.9
プラスチックおよび同製品 126 146 6.3 16.4
電気機器、音響機器、テレビなど 220 137 5.9 △ 37.5
動植物性油脂 176 105 4.5 △ 40.0
食品工業残留物・くず、調製飼料 95 87 3.7 △ 8.3
自動車・同部分品 105 78 3.4 △ 25.8
穀粉、加工穀物 194 74 3.2 △ 61.8
有機化学品 62 73 3.1 18.1
調整食料品・飲料、穀物、でん粉など 202 62 2.7 △ 69.1
合計(その他含む) 3,378 2,326 100.0 △ 31.1

注:非石油部門のみ。ベネズエラでは石油部門の通関統計は公表されていない。
出所:SENIAT(Global Trade Atlas)

表4:ベネズエラの主要国・地域別輸入(通関ベース)
輸入(CIF) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
米国 449 462 19.9 2.9
中国 671 349 15.0 △ 48.0
ブラジル 571 323 13.9 △ 43.5
ドイツ 132 212 9.1 60.1
コロンビア 212 160 6.9 △ 24.9
メキシコ 316 101 4.4 △ 67.9
アルゼンチン 81 79 3.4 △ 2.3
トルコ 225 72 3.1 △ 68.2
パナマ 116 71 3.1 △ 39.0
カナダ 19 69 3.0 266.3
イタリア 36 52 2.2 45.2
スペイン 41 44 1.9 8.2
ペルー 24 40 1.7 66.4
インド 60 37 1.6 △ 38.0
チリ 28 31 1.3 11.4
フランス 10 21 0.9 108.1
エクアドル 15 18 0.8 16.8
アラブ首長国連邦 15 18 0.8 14.3
日本 16 13 0.6 △ 18.2
韓国 8 12 0.5 52.1
合計(その他含む) 3,378 2,326 100.0 △ 31.1

注:非石油部門のみ。ベネズエラでは石油部門の通関統計は公表されていない。
出所:SENIAT(Global Trade Atlas)

日本の輸出は横ばい、輸入ではメタノールが約50%増加

日本の貿易統計(通関ベース)によると、2021年のベネズエラ向け輸出は1,806万ドルと前年から1.3%増加した(表5参照)。品目別にみると、最大の乗用車が731万ドルと10.1%減少したが、貨物自動車が2.9倍、二輪車が2.4倍と急増している。

ベネズエラからの輸入は、5,325万ドルで前年比42.5%の大幅増加となった。最大の輸入品となったメタノールが4,220万ドルと51.8%増加したことが大きく寄与している。メタノールの対日輸入実績は、過去3年で4倍以上増加している。次いで多いカカオ豆も804万ドルと17.0%の増加となった。なお、原油の輸入実績は2018年以降みられていない。

表5:日本の対ベネズエラ主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 8,132 7,313 40.5 △ 10.1
ピストン式火花点火エンジン 2,757 2,999 16.6 8.8
貨物自動車 538 1,567 8.7 191.1
二輪車 619 1,498 8.3 142.2
自動車用部分品および付属品 1,176 722 4.0 △ 38.6
ゴム製タイヤ(新品) 577 623 3.4 7.9
原動機付きシャシ 11 322 1.8 2,759.0
バルブ・コック類 123 250 1.4 102.3
ガスケットその他ジョイント 69 212 1.2 205.6
有機硫黄化合物 43 206 1.1 379.2
合計(その他含む) 17,833 18,059 100.0 1.3
輸入(CIF) (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
メタノール 27,800 42,195 79.2 51.8
カカオ豆 6,871 8,036 15.1 17.0
アルミニウムインゴット 1,452 1,073 2.0 △ 26.1
肉筆書画 0 652 1.2
銅のくず 469 503 0.9 7.2
ラム酒その他類似品 207 398 0.7 91.9
アルミニウムくず 0 167 0.3
冷凍魚 270 111 0.2 △ 58.9
医療用機器 0 42 0.1
特殊取扱品 0 34 0.1
合計(その他含む) 37,383 53,254 100.0 42.5

出所:財務省「貿易統計」(通関ベース)

執筆者紹介
ジェトロ・ボゴタ事務所長
豊田 哲也(とよた てつや)
1993年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラカス事務所長、ジェトロ・パナマ事務所長、ジェトロ福井所長のほか、地方創生事業、水産品輸出などの担当を経て、2018年11月から現職。