特集:トランプ政権の1年を振り返る日本企業の対米直接投資

2018年1月31日

世界の対内直接投資が微減した2016年、米大統領選挙真っただ中の米国への投資額は最高値を更新し、世界最大の投資受け入れ国の座についた。世界を騒がす出来事が次々と起こる米国。その一方、安定したマクロ経済環境、人口増加を背景に、投資対象として注目を浴びる米国。日系企業は米国市場をどのように観察し、判断しているのか、動向を追う。

2016年の世界の直接投資は微減、米国は引き続き最大の投資受け入れ国

経済協力開発機構(OECD)(注1)によると、2016年の世界の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は1兆7,893億ドルで、前年比11%減と2015年の大幅増加から減少へ転じた。世界の対内直接投資が減少した中、米国向けの直接投資は4,683億ドルと、世界最大の投資受け入れ国となった(図参照)。

図:世界の対内直接投資額(国別)
米国の対内直接投資額は、2015年4,766億ドル、2016年4,683億ドル、2017年第1四半期798億ドル、第二四半期811億ドル。英国の対内直接投資額は、2015年327億ドル、2016年2,355億ドル、2017年第1四半期349億ドル、第二四半期137億ドル。中国の対内直接投資額は、2015年2,424億ドル、2016年1,705億ドル、2017年第1四半期330億ドル、第二四半期219億ドル。オランダの対内直接投資額は、2015年695億ドル、2016年747億ドル、2017年第1四半期191億ドル、第二四半期67億ドル。ブラジルの対内直接投資額は、2015年642億ドル、2016年579億ドル、2017年第1四半期183億ドル、第二四半期142億ドル。

出所:経済協力開発機構(OECD)

米国経済はリーマン・ショック以降、8年にわたり景気拡大が続いており、2016年の実質成長率は通年で1.5%、2017年は第2四半期(4~6月)、第3四半期(7~9月)も堅調な個人消費と設備投資が全体をけん引した。小売売上高は右肩上がりの成長が見て取れ、2016年は前年比2.9%増加、2017年は前年比4.2%増加した。成立した税制改革法を受けて、消費者信頼感や賃金・賞与上昇期待が高まったことが、特に年末商戦の売上高の押し上げの一因と言えるだろう。

個人消費にけん引される安定したマクロ経済環境や、先進国の中でも人口が増加し続けている市場であることから、各国企業の投資先として引き続き注目され、米国向けへの投資が高い水準で実行されている。2017年第1四半期、第2四半期の対内直接投資額においても、米国は国別第1位となっており、1,610億ドルに達している(注2)。

1990年以降、日本の対米直接投資は堅調に増加し、2016年末の対米直接投資残高(注3)は4,243億ドルとなっており、2008年比で78.5%増加し、同期間の投資額は1,866億ドルに達している。

日本はグリーンフィールド投資でカナダに次ぐ第2位

対米直接投資額を国別でみると、2016年の最大投資国はカナダで585億ドル、これに英国(545億ドル)、アイルランド(354億ドル)、スイス(349億ドル)と欧州勢が続いた。5位は中国で、前年の約3.5倍の276億ドルと急増した。日本は2016年は182億ドルと前年から3割以上減少し、8位だった。一方、グリーンフィールド投資に限定すると、2015年では国・地域別で最大、2016年もカナダに次いで2位につけている(表1参照)。

表1:米国への国・地域別直接投資額の推移(単位:100万ドル)
国・地域 グリーンフィールド投資 M&A 合計
2015年 2016年 2015年 2016年 2015年 2016年
カナダ 1,741 1,592 86,994 56,910 88,735 58,502
日本 2,675 1,083 24,180 17,123 26,855 18,206
中国 1,198 800 6,583 26,819 7,781 27,619
ドイツ 659 627 45,759 12,756 46,418 13,382
フランス 639 397 13,276 18,848 13,916 19,246
英国 404 145 20,354 54,352 20,758 54,496
アイルランド n.a. 99 175,885 35,299 175,978 35,397
スイス 169 82 5,511 34,798 5,679 34,880
オランダ n.a. 17 n.a. 23,242 13,784 23,260
英領諸島 n.a. n.a. 2,147 n.a 2,351 3,800
合計(その他含む) 13,776 7,740 425,788 365,700 439,563 373,440
注:
グリーンフィールド投資は新規および拡張投資の合計
出所:
New Foreign Direct Investment in the United States in 2016, 商務省経済分析局(BEA)

日本からのグリーンフィールド投資件数を業種別にみると、2015~2017年(注4)の合計で最も多いのは自動車部品(70件)で、次に産業機械・設備機器(67件)、金属(30件)と続く。4位はソフトウエア・ITサービス(24件)となった(表2参照)。

表2:日本からの業種別投資(グリーンフィールド投資)件数 (単位:件数)
業種 2015年 2016年 2017年 合計
自動車部品 26 22 22 70
産業機械・機器 22 26 19 67
金属 6 14 10 30
ソフトウエア・ITサービス 4 10 10 24
プラスチック 12 8 3 23
自動車部品OEM 7 8 8 23
化学 8 8 5 21
通信 7 7 3 17
電子部品 5 6 5 16
食料品・たばこ 8 3 5 16
金融サービス 5 5 3 13
ゴム 2 7 4 13
医療機器 3 5 2 10
消費財 3 2 3 8
不動産 4 0 4 8
オフィス機器 3 4 1 8
その他 24 21 26 71
合計 149 156 133 438
出所:
ファイナンシャル・タイムズ

州別でみると、カリフォルニア州への投資が56件で最多だが、製造拠点は3件にとどまる。販売拠点や設計・開発の業種としては、産業機械・機器、化学、ソフトウエア・ITサービスなど多岐にわたる。2位はテキサス州で45件、3位インディアナ州(31件)、4 位ケンタッキー州(26件)、5位にテネシー州とオハイオ州(25件)が続き、いずれも従来、日系自動車メーカーの組立工場や部品製造拠点が集積しているエリアだ(表3参照)。

表3:日本からの州別投資(グリーンフィールド投資)件数
州名 2015年 2016年 2017年 合計
全拠点 製造拠点 全拠点 製造拠点 全拠点 製造拠点 全拠点 製造拠点
カリフォルニア 25 1 16 2 15 0 56 3
テキサス 9 3 17 5 19 5 45 13
インディアナ 8 6 15 10 8 7 31 23
ケンタッキー 11 10 9 6 6 5 26 21
テネシー 10 8 9 6 6 5 25 19
オハイオ 10 8 6 3 9 3 25 14
ミシガン 1 0 11 4 8 2 20 6
ジョージア 5 3 7 1 4 0 16 4
ニューヨーク 6 1 5 1 5 2 16 4
ノースカロライナ 5 1 5 2 4 4 14 7
イリノイ 5 2 5 0 3 0 13 2
サウスカロライナ 5 4 4 2 3 1 12 7
バージニア 3 3 6 3 2 2 11 8
マサチューセッツ 4 0 3 1 4 1 11 2
ペンシルバニア 2 1 8 2 1 0 11 3
オレゴン 3 1 2 0 3 2 8 3
ワシントン 3 1 3 0 2 1 8 2
ニュージャージー 2 1 3 0 2 0 7 1
カンザス 2 0 1 0 3 2 6 2
フロリダ 2 0 2 1 2 0 6 1
アラバマ 3 3 1 0 2 2 6 5
その他 25 10 18 9 22 9 65 28
合計 149 67 156 58 133 53 438 178
出所:
ファイナンシャル・タイムズ

以前から集積する業種以外の投資事例も

2017年の日本からの主な投資案件をみると、三井不動産のニューヨーク・マンハッタンにおけるオフィスビル「50ハドソンヤード(仮称)」の開発事業(総事業費35億ドル、同社の事業シェアは9割)や、トヨタのケンタッキー工場の拡張投資(13億3,000万ドル)、デンソーのテネシー州に所在する生産拠点強化投資(2020年までに10億ドル、約1,000名の従業員を現地で新規採用)などが、金額的に大きい案件となっている。

州別第2位のテキサス州では、2016年の人口増加率が全米平均の4.5%(2010年比)に対し、10.8%と大きく上回る。人口増加による消費市場の拡大に伴い、サービス企業の投資が今後増加しそうだ。セブン&アイ・ホールディングス(本社:東京都千代田区)は2017年4月、子会社を通じてスノコ(Sunoco LP)から同州を中心としたガソリンスタンド併設型のコンビニエンスストア1,108 店舗を約33億ドルで取得した。

州別第9位ニューヨーク州では、和食人気を背景に、より付加価値の高い食材を提供する動きがみられる。例えば、「とらふぐ亭」などを運営する東京一番フーズ(本社:東京都新宿区)は、ニューヨーク中心部にマグロやブリなどの鮮魚を提供する和食レストランを出店した。また、日本酒「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(本社:山口県岩国市)は、同州に大規模な酒蔵を計画しており、2019年1月稼働を目指す。米国産の食用米を使って純米大吟醸酒などを製造し、米国人が日常的に飲むワインに近い価格で販売する予定だ。その他、シェアオフィスへの投資や、人工知能(AI)などへの投資も見られる。今後、日本の長期的な人口減少が物価上昇につながりにくいという見方もある中、国内市場へ投資を充てるよりも、成長性のある米国を海外進出先とする動きが顕著になっている業種が増えている。

「企業の米国投資を呼び込む」トランプ氏が2017年12月、税制法案に署名した際に述べた言葉だ。2017年12月に税制改革法案が成立し、米国市場の成長や投資への追い風になると期待の声が上がっている。企業の対米投資を訴えてきたトランプ政権2年目の米国における、日本企業の今後の動向がより一層注視される。


注1:
FDI IN FIGURES October 2017PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(636KB)」を参照。
注2:
2017年10月15日時点。
注3:
米国商務省統計による。最終受益株主(UBO)出資比率が50%以上の企業が対象。
注4:
ファイナンシャル・タイムズの2017年のデータは、2017年1月~11月までの11カ月分。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
飯沼 里津子(いいぬま りつこ)
2017年、ジェトロ入構。大手外資系不動産のリサーチ部アナリスト(調査担当)を経て、2017年7月より現職。