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特集:トランプ政権の1年を振り返るトランプ政権下における米国メディア報道の現状
対外関係よりも多い米国内経済政策の報道量

2018年1月31日

税制改革法案や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉などに関する報道を日本から見ると、どちらも同程度のインパクトをもって米国で報道されているように感じられる。だが、実際に米国メディアの報道量をみると、NAFTAなどの通商政策に関する報道は税制改革などの米国内経済政策と比較して少ない。トランプ政権発足後約1年間のうち、米国内経済政策の他に報道量が多かったのは、ロシアによる選挙への介入疑惑、移民対策など、米国内の政治、経済情勢に影響を与えるものであった。トランプ政権下における米国メディアがどのような話題を取り上げ報道しているのか、米国市民はどのような媒体を通して報道と接しているのかを、現地有識者のコメント(注1)を交えて報告する。

報道量が多い米国内経済政策

トランプ大統領は、自身に否定的な報道を行うメディアを「フェイクニュース」とよび、メディアと度々衝突してきた。批判されたメディアはより大統領に批判的になり、大統領を支持するメディアとそうでないメディアの違いが鮮明になっていると言われている。この背景の1つには、米国内における民主党支持者と共和党支持者の分断が挙げられる。世論調査に基づけば、この20年間、民主党と共和党間の相互不信は年々悪化している。別の世論調査では、共和党支持者と民主党支持者の対立を「とても強い」か「強い」と感じている人の割合が2017年に86%となり、人種間対立の65%を上回る状態になっている。また、ある米国メディア関係者は、インターネットの普及によって視聴者や読者の関心の高いニュースが明示的にわかるようになったため、「視聴者や読者を確保する目的で、メディアはより政治的な心情を記事に込めるようになった」と話す。こうした状況を有識者は、「最近のメディアには偏向報道の傾向がある」と指摘する。

では、トランプ政権下において、実際に米国メディアが多く報道したのはどのような話題なのか。図1は、トランプ大統領就任後の2017年1月21日から12月31日までの約1年間における、任意の話題の報道を定量化したものだ(注2)。ジェトロが調査した中で最も多く報道されていたのは、税制改革や医療制度改革などの米国内経済政策であった。特に2017年12月に法案が成立し、約30年ぶりに行われた大幅な税制改革は、中間選挙を控えるトランプ政権にとって、経済面での功績として注目されていた。続いて報道量が多かったのは、大統領選挙期間中にロシアがトランプ大統領に有利な工作をしたのではないかといわれている、いわゆるロシア疑惑に関するものであった。5月にジェームズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官(当時)が解任されロバート・モラー氏が特別検査官に任命、その後はトランプ大統領の側近が事情聴取されるなど、ロシア疑惑は通年で一定量報道された。次に報道量が多かったのは、移民対策問題であった。移民に関する話題は大統領選挙期間中から着目されていたことに加え、トランプ大統領が9月に、オバマ前大統領が発出した不法移民の強制送還を一定条件の下で免除する行政命令(DACA)の撤回を発表したことなどが報道された。これら報道量が多かった話題は、いずれも米国内での経済・社会情勢に関するものであった。

調査した話題のうち、対外関係で最も報道量が多かったのは米中経済関係であった。その報道量は、日米経済関係のおおよそ2倍であった。米中経済関係は、4月に両国首脳会談が行われた際や5月に米国の対中貿易赤字縮小に向けた100日計画が発表された際、11月にトランプ大統領がアジア歴訪の中で、初めて中国を訪問した際などに報道が増えた。

図1: 米国メディアにおける報道量の比較
ウォールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズなど約380のメディアが登録されているFACTIVAというデータベースを利用し、2017年1月21日から12月31日間の任意に設定した話題の米国における報道量を定量化した図。最も多かったのは、米国経済政策(約32万件)で、その後は順に、ロシア疑惑(約30万件)、移民対策(約22万件)、米中経済関係(約15万件)、米アジア関係(約9万件)、東アジアの安全保障(約8.1万件)、日米経済関係(約8万件)、気候変動(約7.9万件)、米国第一主義(約7.4万件)、NAFTA(約4.4万件)、TPP(約1.4万件)、通商法(約5,000件)と続いた。
注:
ウォールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズなどデータベースに登録されている約380のメディアのうち、米国から発信された当該キーワードに関する報道を集計。集計期間は、2017年1月21日~12月31日。
出所:
FACTIVAより作成

ただし、米国内経済政策やロシア疑惑などの政治や経済に関する報道よりも、大きく報道された話題がある。スキャンダルや天災だ。図2は、12月4日~10日の1週間の主要な話題の報道量を示したものだ。同期間に議員辞職にまで発展したセクハラに関する報道は、米国内経済政策やロシア疑惑よりも大きく報道された。同期間はまた、税制改革法案の審議が大詰めを迎えていた時期であったが、セクハラに関連する報道の方が圧倒的に多かった。ワシントンDCの日系企業関係者は「税制改革法案がメディアで大きく取り上げられず、世論を喚起するまでに至っていない」と当時の状況を述べている。さらに当該期間には、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定する発表を行った12月6日も含まれている。このニュースは日本を含む多くの国で報道されたが、米国内では、セクハラに関する報道の方が多かった。加えて、当該期間にはカリフォルニア州で山火事があり、このニュースも他の主要な政治、経済、外交問題などよりも大きく報道された。日本におけるメディア報道を定量的に調査しているパースペクティブ・メディアの小口日出彦代表取締役社長は「日本では、どんな政治案件でも、報道量の観点からは、芸能、スポーツ、天災にはかなわない。データをみる限り、米国も同様であると考えられる」と指摘する。

図2:米国メディアにおける報道量の比較(政治、経済、スキャンダル、天災等)
2017年12月4日から12月10日の任意に設定した話題の米国における報道量を定量化した図。セクハラに関する報道量が最も多く、Franken議員が辞任の意向を表明した12月7日の報道量は約3万4,000件。同日のカリフォルニア州での山火事の報道量は約2万件。他のセクハラ関連ではConyers議員が辞任した12月5日が2万3000件で、トランプ大統領がムーア氏の応援演説を行い、Franks議員が辞任した12月8日は3万件。トランプ大統領がエルサレムを首都と認定する発表を行った12月6日の同ニュースの報道量は、約7千件。当該1週間で、税制改革を含む米国内経済政策の報道量は12月4日の約6,000件が最多で、以降、5,000件以下で推移。
注:
TV、ラジオ、オンラインニュースにおいて、当該ワードがどれだけ言及されたのかを測定。
資料:
Critical Mentionを基に株式会社パースペクティブ・メディアが作成

通商政策の報道量は多くなく、選挙への影響も限定的との見方

NAFTAや環太平洋パートナーシップ(TPP)協定などの通商協定は、日本でも比較的大きく取り上げられることに加え、2016年の大統領選挙の争点の一つになったことから、ともすれば米国全土から注目されているようにみえる。だが図1の通り、2017年の米国での報道量は、他の話題と比較すると多くはなかった。NAFTAが最も注目されたであろう再交渉第1回会合(8月16日)こそ、NAFTAの報道量は税制改革やオバマケアに関する報道量を上回ったが、それ以後は大きな盛り上がりをみせなかった(図3)。

図3:米国メディアにおける報道量の比較(税制改革、オバマケア、NAFTA)
Critical Mentionという米国のテレビ、ラジオ、オンラインニュースが登録されているデータベースを利用し、2017年8月4日から10月3日の税制改革、オバマケア、NAFTAの米国における報道量を定量化した図。NAFTAに関する報道量は8月16日に約6,000件と、税制改革(約2,000件)とオバマケア(約2,500件)を超えたが、その後はおおよそ2,000件弱程度で推移。税制改革は、おおよそ2,000件から1万件の間で推移し、9月27日には1万6,000件となり、測定期間内で最多の報道量となった。オバマケアはおおよそ1,000件から6,000件程度で推移した。
注:
2017年8月4日~10月3日までの2カ月間のうち、どれだけ当該ワードに言及したのかを測定。
出所:
Critical Mentionより作成

NAFTA以外の通商課題に関する報道量は、さらに少なくなる。TPP11の首席交渉官会合が9月に東京で行われたが、米国メディアの報道量に目立った変化はなかった。1962年通商拡大法232条に基づく調査開始を「トランプ政権発足以降、一番大きなイシューだった」とする声も日本国内からは聞かれるが、米国内の報道量でみればわずかしかなかった。ワシントンDCの有識者は、「米国通商法は非常に専門的で一般市民にはなじみがないため、ワシントンDC以外では議論されていない」と指摘する。

一般的に、米国民の通商問題への関心は高くないといわれている。米国の非営利団体である公共宗教研究所(PRRI)が2016年に行った調査によれば、「他国との貿易協定」 が「自身にとって重要な課題」と答えた人の割合は、民主党支持者で3割にも満たず、全質問の中で最も低い数値だった(注3)。自由貿易賛成派が多いといわれる共和党支持者でも4割程度と、半数を超えることはなかった。それ故、今後行われる中間選挙(2018年)や大統領選挙(2020年)において、貿易そのものは争点にはなりづらく、通商政策が争点になるのは、経済状況が悪化した際にスケープゴートとして取り上げられる場合、との見方が多い(表)。こうした点を踏まえ、前述のワシントンDCの有識者は、「報道されているのは貿易そのものではなく、貿易を巡る政治」と指摘する。

表:選挙の争点と通商政策に関する有識者の評価(―は該当なし)
争点にならない 経済状況によって変わる 争点になる
中間選挙で貿易に焦点があたるとは考えていない。(中西部、法律事務所) 2018年の中間選挙と2020年の大統領選挙で通商課題が争点になるかどうかは、経済の状況に応じて変わるだろう(南部、学術機関) 2018年の中間選挙、2020年の大統領選挙共に、通商問題は確実に争点の一つになるだろう。(中西部、経済開発団体)
個人的に危惧している通商政策はNAFTAとTPP。しかし通商政策が中間選挙や次期大統領選挙の焦点になるとは考えにくい。(南部、金融機関) もし、株価、経済指標などがよければ、争点としての比重は相対的に小さくなると思う。(中西部、業界団体) オハイオ州では、トランプ大統領の通商政策が勝利の一因になったことから、それを想起し、2020年の大統領選挙でも争点になるだろう。(中西部、学術機関)
個人的には通商政策全般に注意している。他方、州民が、通商政策に知識も関心もあるとは思えない。TPPやNAFTAを理解していないし、そもそも基本的には他国との関係に関心があまり無いのではないかと思っている。(中西部、業界団体) 2018年の中間選挙でも、海外に関連する報道よりも米国市民により密接に深く関係する国内での争点にメディアは焦点を当てるだろう。ただし、経済状況が悪い選挙区の議員は、引き続き貿易をスケープゴートにし、共和党議員であるならば再選するためにトランプ大統領が主張する通商政策のレトリックを支持するだろう。そうすれば、NAFTAと米韓FTAにさらに焦点があたる可能性も。(ワシントンDC、研究機関)。 2016年の大統領選以来、通商政策は重要な争点となっている。2018年の中間選挙および2020年の大統領戦選でも間違いなくNAFTAをはじめとした通商政策は主要争点の一つとなるだろう。(ワシントンDC、業界団体)
南部はメキシコとの貿易関係が近いため、NAFTAへの関心が高い。しかし、これは今後行われる選挙(2018年中間選挙や2020年大統領選挙など)までには決着がついていると予測されるので、争点にはならないと思われる。(南部、経済開発団体) 最終的には「雇用」が焦点になる。2016年の大統領選挙のように貿易がスケープゴートになってしまうと、通商政策が争点の一つになるであろう。(南部、学術機関)
出所:
ジェトロのインタビューを基に作成

近年利用者が増えるソーシャルメディア、客観性が評価されるNPR

これらの報道に、米国市民は、どのような媒体を通して接しているのか。大手調査会社のギャラップ(GALLUP)の調査(注4)によれば、ニュースを得る主要な情報源として回答割合が最も高かったのはテレビだった。2013年の26%からは減少したものの、2016年に22%と依然として最も高い割合を示した。他方、上昇傾向にあるのは、ソーシャルメディアだ。同調査でソーシャルメディアが主な情報源と回答した割合は、2013年の2%から2016年には6%に増加した。またピュー・リサーチ・センターによれば、何らかの形でソーシャルメディアからニュースを得ている18 歳以上の米国市民の割合は、2017年に67%となった(注5)。媒体別にみると、ツイッター(Twitter)からニュースを得ている人の割合が増えた。ツイッター利用者のうち、ツイッターからニュースを得ている人の割合は、2013年の52%から2017年に74%となり22ポイント上昇した(注6)。中西部の有識者は、「中西部の労働者は、トランプ大統領のツイッターをよくみている。大統領が直接自分にコンタクトをしてくれるということが、受け取る側に大きな意味がある」と話す。ただし、ソーシャルメディア上では、自身が好んで視聴するメディアの情報が優先的に表示される傾向がある。従って、利用者が増え注目されているのと同時に、有識者からは、「極端な意見が培養され、結果として異なる意見への不寛容が増幅する」と指摘する声もあがっている。

一方で、客観性が保たれていると有識者から評価されているのが、公共ラジオ放送(NPR)だ。有識者からは、「英BBCやNPRは客観的に物事を捉えているので役に立っている」、「NPRというラジオが、影響がある。しっかりニュースの背景を説明する上、貿易などにも詳しい」とジェトロのインタビューに答えている。NPRを聞きながら通勤するという声も複数聞かれた。米国では、ラジオの利用者が多い。大手調査会社のニールセンによれば、18歳以上の米国民が1週間に最も利用したメディアの媒体はラジオだ。同社が調査したすべての年代の90%以上がラジオを利用していた(注7)。NAFTAの報道量をメディアの媒体ごとに比較しても、ラジオによる報道量の多さが目立った(図4)。

図4:米国メディアの報道量比較(NAFTA・媒体別)
Critical Mentionという米国のテレビ、ラジオ、オンラインニュースが登録されているデータベースを利用し、2017年8月4日から10月3日におけるNAFTAの米国における報道量を、地域別かつメディア媒体別に定量化した図。南部でのNAFTAの報道量は、テレビが15.6%、ラジオが52.3%、ネットが32.1%。西部では、テレビが8.3%、ラジオが71.0%、ネットが20.7%。中西部では、テレビが13.0%、ラジオが54.2%、ネットが32.7%。北東部では、テレビが12.7%、ラジオが62.2%、ネットが25.1%。全米では、テレビが12.3%、ラジオが36.0%、ネットが51.7%。報道の発信地域を特定、限定できないものは各地域後の集計には計上されない。地域分類は米国センサス局に従った。
注:
(1)全米ケーブル局や一部のオンラインニュースなど、報道の発信地域を特定、限定できないものは、地域ごとの集計に計上されない。(2)地域分類は米センサス局による。
出所:
Critical Mentionより作成

以上のように、トランプ大統領が当選した際の選挙では通商がひとつの争点になったと指摘されているが、報道量という観点からは、通商政策は決して多くはなかった。それ故、今後の選挙では、通商政策は争点になりづらいとの指摘が複数あった。また近年、メディアに偏向報道の傾向があるとの指摘がある中、多くの有識者がNPRを、客観性・中立性が保たれている、と評価していた。利用者が増え注目されているソーシャルメディアについては、複数の有識者が米国民への影響力を認めるものの、特定の立場にたった情報のみが拡散する危険性を指摘する声も併せて聞かれた。


注1:
本レポートの有識者のコメントはすべて、ジェトロが2017年10月から2018年1月にかけて行ったインタビューに基づく。
注2:
報道量に関する図表は、いずれも、利用したデータベースに登録されているメディアでの報道量を測ったもの。すべての米国メディアを網羅しているわけではない。
注3:
他の選択肢は、「テロ」、「連邦政府の赤字」、「雇用と失業」など。”2016 American Values Survey”, Public Religion Research Institute, 2016.
注4:
GALLUP Polls, June 20-24, 2013, and June 14-23, 2016.
注5:
News Use Across Social Media Platforms 2017”, Pew Research Center, 2017.
注6:
ただし、同調査によれば、利用者数が最も多いのはFacebook。
注7:
STATE OF THE MEDIA - AUDIO TODAY 2017”, Nielsen Corporation, 2017.
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
赤平 大寿(あかひら ひろひさ)
2009年、ジェトロ入構。貿易投資相談センター人材開発支援課(2009~2014年)、海外調査部国際経済課(2014~2015年)、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員(2015~2017年)を経て2017年8月より現職。

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