輸入車に依存するベネズエラの自動車・自動車部品産業の現状

2026年6月29日

ベネズエラにおける自動車・自動車部品産業の実態について、ベネズエラ自動車製品製造業者協会(FAVENPA)会長のオマール・バウティスタ氏に話を聞いた(取材日:2026年5月25日)。


FAVENPA会長、オマール・バウティスタ氏(ジェトロ撮影)

国内市場は輸入依存、自動車部品生産業も停滞

FAVENPAのバウティスタ会長によれば、ベネズエラの自動車産業は近年、輸入依存型へと完全に移行している。現在国内市場で販売されている自動車は全て輸入車であり、かつて存在した複数の完成車組立産業はほぼ消滅した状態にある。一方で、国内車両の老朽化が進行していることから、補修用部品の需要は一定程度維持されているものの、国内産業としての自動車部品セクターは深刻な停滞局面にある。

FAVENPAによれば、自動車部品輸入額は過去5年間で100%以上増加した。他方で国内メーカーの平均稼働率は約30%にとどまっており、生産能力の大半が活用されていない。この背景には輸入品、とりわけ中国製部品との価格競争において国内製品が著しく不利な立場に置かれている現状がある。国内製品が関税や付加価値税など各種税負担を負う一方で、輸入品の多くは「プエルタ・ア・プエルタ」制度(国際クーリエサービス)を通じて流入しており、実質的に課税負担を回避している。この制度的ゆがみが市場競争条件の不均衡を生み、国内製品の市場シェア拡大を阻んでいる。

輸入構造を見ると、流入部品の約80%が中国製で占められているが、米国やブラジルからも純正品および汎用品が一定量輸入されている。また、請求書を伴わない販売などのインフォーマル取引の広がりも顕著であり、市場の透明性低下と税収減少を通じて、業界全体の健全な発展を阻害している。

競争力の観点では、日本製部品は品質面で非常に高い評価を受けているものの、価格が高いことから購買選択において不利となるケースが多い。国産部品は品質面で中国製より優位とみられているが、価格差の影響が大きく、実際の需要は低価格の中国製に集中している。消費者の購買行動は所得層によって分かれており、低所得層は耐久性が劣ることを認識しつつも価格を優先して中国製を選択する傾向が強い一方、高所得層は品質重視から中国製を避ける傾向がみられる。このような市場構造の下で、国内メーカーは完全な撤退には至らないものの、回復・成長できない状態が続いている。

市場縮小と組立産業の崩壊

市場規模の縮小も顕著であり、過去10年間で自動車部品販売は65%減少した。特に影響が大きいのは完成車組立産業の崩壊だ。かつては約20社の組立メーカーが存在し、部品メーカーの売り上げの約40%がこれらOEM向け販売で占められていたが、現在では当該需要はほぼ消滅している。他方、2025年には二輪車組立が急増し、年間50万台以上が生産された。ただしこれらの車両に使用される部品はほぼ全て輸入品であり、国内部品産業への波及効果は限定的だ。二輪車の完成車には20%の関税が課されているものの、現地部品の活用によるコスト優位性は確立されておらず、国内メーカーによる供給提案も採用には至っていない。2025年5月に導入された自動車産業規則では国内組立車両に対し30%の国産部品使用が義務付けられたものの、実際には履行されていない状況にある。

産業基盤の弱体化は企業数の減少にも表れている。FAVENPA加盟企業はかつて約150社であったが、現在は32社にまで減少しており、過去5年間で22工場が閉鎖された。新規参入の動きはほとんどみられない。また、電力供給の不安定性や原材料不足も深刻である。特に、国営のオリノコ製鉄会社(SIDOR)の操業停止により、鋼材を国際市場から輸入せざるを得ない状況となっている。さらに違法性が指摘される「プエルタ・ア・プエルタ」制度による輸入も引き続き産業の健全な競争環境を損なっている。

こうした厳しい環境の中で、国内企業は生き残り戦略として輸出および事業多角化を進めている。具体的には、コロンビア向けにバッテリーやピストンの輸出が継続しており、2026年からはラジエーターの輸出も予定されている。さらに、自動車以外の建設・電力分野向け部品の生産にも取り組んでいる。FAVENPAは市場情報提供や技術支援、国際連携の促進を通じて加盟企業を支援しており、コロンビア自動車部品製造者協会(Acolfa)との協力関係も構築されている。

新車市場拡大の制約要因と輸入車主導の成長

国内の車両保有状況を見ると、車両の老朽化が一段と進行しており、平均使用年数は2025年に23~24年へと延びた。この長期使用傾向は補修部品需要の持続要因となる一方で、新車市場の拡大を抑制する要因ともなっている。

自動車市場全体では、JACおよびMACKの2社が国内で組立を行っているが、いずれも部品は全量輸入に依存している。販売面では輸入車が市場を占有しており、2024年の新車販売台数の総数は1万7,558台、2025年は3万8,610台と大幅に増加した。2026年1~4月の販売も前年同期比で大きく増加しており、通年でも同様の成長が見込まれている。市場には約30ブランド、200モデルが存在し、中国車が主力を占めるものの、日本車、韓国車、欧州車も一定のシェアを維持している。

なお、非公式輸入車は統計に含まれておらず、実際の市場規模は公表値を上回るとみられる。正規代理店は正規輸入車に対してのみアフターサービスを提供しており、非公式輸入車はサービス対象外となるケースが一般的だ。中国車は価格優位性により販売が拡大している一方で、補修部品の供給不足が課題となっている。

自動車市場の回復見通し

今後の市場見通しについてFAVENPAは一定の回復を予測している。その要因としては、車両の老朽化に伴う更新需要の顕在化と、民間銀行による自動車ローンの一部再開が挙げられる。2026年の新車販売は5万台以上に達し、前年比で50%以上の増加が見込まれている。さらに非公式輸入分を含めると、2万台程度の上振れも想定される。なお、従来は年間約10万台が平均的な市場規模であった。

電気自動車の普及台数は1,000台未満にとどまっており、高価格に加え電力供給の不安定さが主要な普及阻害要因となっている。資金調達面では主に民間銀行によるドル建て融資が提供されているが、為替変動により返済額が不確定となるため、利用にはリスクが伴う。制度面では、通関自体は通常1~2週間で完了するものの、外国貿易委員会(COMEX)の許可取得に時間を要する場合があり、輸入手続きの遅延要因となっている。また、メルコスール復帰については現時点で優先度は高くないとされる。

バウティスタ氏によれば、総じてベネズエラの自動車・部品産業は、輸入依存の深化、不公正競争、インフラ制約といった複合的要因により構造的な停滞に直面している。一方で、車両老朽化に伴う補修需要や新車販売の回復傾向は一定のビジネス機会を示しており、特に品質評価の高い製品に対する潜在需要は引き続き存在する。もっとも、価格競争力の確保と制度リスクへの対応が、同国市場での事業展開における重要なカギとなる。

執筆者紹介
ジェトロ・カラカス事務所
マガリ・ヨネクラ
1998年、ジェトロ入構。ベネズエラ業務全般。
執筆者紹介
ジェトロ・ボゴタ事務所長
中山 泰弘(なかやま やすひろ)
2002年、ジェトロ入構。青森、関東貿易情報センター、在ニカラグア日本大使館、サンティアゴ事務所、アディスアベバ事務所などの勤務を経て、2024年8月から現職。