義烏市における知的財産権侵害の現状と総合的保護体制の構築(中国)
2026年6月24日
浙江省義烏市は、世界最大級の小商品市場を有し、その特性から模倣品の流通や商標権侵害などの知的財産侵害が問題視されてきた。本稿では、近年の同市における知的財産権侵害の状況と、それに対する政府の対策について概観する。
義烏市場の概要
浙江省義烏市は「世界の小商品都市」として知られる。世界最大級の規模を誇る日用品の集積地であり、「一帯一路」における拠点都市でもある。同市の日用品市場の中核を担うのが義烏国際商貿城だ。1960年代の市場に始まり、1982年に義烏小商品市場として形成された。その後、2002年に現在の義烏国際商貿城へと発展した。現在は、総面積640万平方メートル、5つの市場エリアで構成され、約7万5,000店舗が集積している。約210万種類の商品を取り扱う巨大な卸売市場だ。中央電視台(CCTV)によれば、1日当たり延べ23万人以上が訪れている。さらに、毎分平均2万6,000件の貨物が世界各地へ発送され、毎時平均25.7社の事業者が新規に登録されているという。
義烏国際商貿城内の様子(ジェトロ撮影)
義烏市は230以上の国・地域と貿易関係を有している。義烏税関によれば、2025年の輸出入総額は8,365億元(約19兆2,395億円、1元=約23円)と過去最高を更新しており(図参照)、2026年第1四半期の輸出入総額も2,000億元を上回った。伸び率は全国平均より10ポイントも高い。なお、義烏市市場監督管理局の公表資料によれば、越境電子取引額は1,680億元(前年比19.9%増)に上る。
義烏市からの輸送ルートについても整理する。まず海路では、義烏国際商貿城を含む義烏小商品市場全体から毎年輸出される約120万個のコンテナのうち、約100万個が寧波舟山港経由で輸出されている。次に陸路では、2014年に整備された中欧班列(義新欧)による鉄道輸送が中心だ。2025年には、過去最高の3,005本(前年比14.7%増)の国際貨物列車が運行した。2025年末時点で、中欧班列(義新欧)は26路線にまで拡大している。2014年の開通以来の累計運行本数は1万4,900本を超え、輸送コンテナ数も累計122万TEUを超えた。このように、義烏市は海路と陸路の双方で大規模な国際物流ネットワークを構築しており、世界各地への輸出拠点として機能している。
出所:2024義烏概況公表数値からジェトロ作成
義烏市の卸売市場は、リアルのみならずオンラインへも展開している。2012年に浙江中国小商品城集団が、公式電子商取引プラットフォーム「義烏購(中国語)
」(YiwuGo)のサービスを開始した。日用品を中心とした卸売り取引に特化し、製造者と直接取引ができるのが特徴だ。同社によれば、掲載されている商品は、26カテゴリー約800万点に上る。約5万事業者が出店しており、1日のサイト訪問者数は約80万、閲覧件数は約2,500万件に達する。登録バイヤーは約1,800万人であり、その約10%を海外ユーザーが占める。
知的財産権侵害の現状分析
日々膨大な取引が行われる巨大市場では、長年、知的財産権侵害が問題となってきた。公表される事例の中でも、特に商標権侵害の多さが目立つ。同市の税関の摘発事例や人民法院の典型事例によれば、被害は主に玩具(著名IPの派生商品など)、日用雑貨(かばん類、服飾アクセサリーなど)、スポーツ用品に集中している。これらの商品は、模倣が容易であり、かつ市場での需要が大きいことから、標的となりやすい。人民法院が公表した2025年の知的財産侵害事案の中から、いくつかの事例を紹介する(表1参照)。
これらの事例にとどまらず、既に一部の侵害行為は組織化・産業チェーン化しており、侵害手口も多段階化、集団化、専門化する傾向もみられる。その結果、社会的被害も拡大している。例えば、義烏市が公表した「2023年知的財産権保護10大典型事例」では、公安局が摘発した商標権侵害案件として、表2の事例が紹介されている。
| 案件 | 内容 | 判決 |
|---|---|---|
| 模倣品販売による組織的な商標権侵害 |
|
最終的に本件は、22人が関与する組織的な侵害事案となった。犯行期間は3年に及び、模倣品は全国31の省・市・自治区に流通し、広範囲かつ深刻な影響を及ぼした。 |
出所:義烏市市場監督管理局
義烏市にとどまらず、近年、中国全体で侵害手段は多様化し、専門性も高まっている。従来の単純な模倣行為に加え、正当な権利を持たない第三者が他者の商標を無断で出願する商標の冒認出願も増えている。侵害者は売れ行きの良い人気ブランドを狙い、当該商標を先行して出願する。その上で、真の権利者に対して権利侵害の申し立てや通報を行い、金銭の要求や市場からの排除を図る事例がみられる。
また、近年では専利権(特許・実用新案・意匠権)侵害に関する紛争も顕著に増加しており、特に意匠権侵害が多くみられる。模倣コストが低く、設計が比較的容易であるという特性から、著名IP関連の日用品分野で意匠権侵害が多発し、日系企業にも被害が及んでいる。
政府の対策について
義烏市は、市場の適正化に向けて知的財産権保護の対策を講じている。義烏市関連当局(市場監督管理局、税関など)は取り締まり件数を公表してはいないが、ここ数年の取り組みとして、以下の例が挙げられる。
義烏市市場監督管理局では、「2+6+N」の法執行体制を構築している。「鉄拳」「亮剣」と名付けられた2大重点執行行動を中核に、全体を統括する6つの重点分野と、管轄区域ごとの特性に応じた取り締まり(N)を組み合わせて展開している。また、浙江省内で商標・特許・著作権の「三権一体」による知的財産権保護体制を先駆けて確立するとともに、「デジタル+ネットワーク+法執行」を融合した執行体系も整備している。さらに、スマート法執行プラットフォームを構築し、市場監督関連データの統合やキーワード情報の高度な抽出・分析を行うことで、違法・不正行為に対する取り締まりを強化している。
義烏税関では、知的財産権の水際取り締まりを目的として、「龍騰行動(輸出入貨物を中心とした模倣品の取り締まり)」「藍網行動(越境ECや小口貨物の取り締まり)」「浄網行動(輸出における中継貨物の取り締まり)」などの特別行動を実施し、輸出入段階における取り締まりを強化している(表3参照)。
権利侵害に関する苦情・相談対応などについては、市場監督管理局、公安、税関、裁判所など複数の関連機関が連携して、「ワンストップ型」の知的財産保護メカニズムの構築を積極的に推進している。これにより、「一窓口受理、合同執行、迅速処理」の体制が整備されている。
紛争解決および関連サービス分野では、浙江省で初となる県級の知的財産権紛争に特化した調停プラットフォームが2015年に設立された。渉外紛争については、外国籍の調停員が対応することで、中国国内の調停機関での解決を図る「以外調外」という新たな業務モデルが導入された。さらに、行政、司法、仲裁、調停を一体化することにより、紛争解決のワンストップ化を実現している。これまでに累計2万件以上の紛争を解決しており、対象金額は25億元を超えている。
専利権侵害の権利行使に関しては、全国的な政策動向として、市場監督管理局が、処理期間の長期化やコスト負担の大きさといった課題に対応するため、専利侵害紛争に対する行政裁決の「簡易案件迅速処理」を推進している。その結果、案件処理期間は平均で約50%短縮されている。また、申立企業のコストも抑えられているという。
また、小商品産業が高度に集積する義烏では、意匠権の年間登録件数が浙江省内でも上位であり、関連紛争も多発している。義烏市は浙江省金華市に属する県級市であり、同地域の知的財産紛争の多くは金華市中級人民法院の管轄下にある。2025年に金華市中級人民法院が受理した意匠権関連案件は1,028件に上り、同市における知的財産権紛争全体の約10%を占めた。さらに、同院が受理した意匠権関連案件1,028件のうち、47%が訴訟目的額10万元未満の比較的小規模な案件だった。これらの案件は、外観の相違を中心に判断され、複雑な技術的審査を要しないという特徴がある。小規模案件の迅速な処理による業務効率化を目的として、最高人民法院の承認を受けて管轄の見直しが行われた(注) 。その結果、義烏市人民法院は、2026年5月1日以降、訴訟目的額10万元未満の意匠権に関する第一審民事案件を受理する管轄権を有している。
国際的な評価と今後の課題
海外からの評価をみると、欧州委員会が2025年に発表した「模倣品・海賊版ウォッチリスト」では、義烏国際商貿城が、模倣品流通への影響が大きい市場として同リストの物理的市場セクションで名前が挙がっている。法執行当局による摘発や民事・刑事上の処分が行われている点について言及された一方、長期的な抑止効果については限定的であるとしており、更なる対策の強化が求められている。
また、義烏市場は、米国通商代表部(USTR)が毎年発表する「悪質市場リスト」にも継続的に掲載されていた。2022年の同リストでは、同市場が模倣品メーカーと大規模流通業者を結びつける主要な取引拠点の一つであり、侵害商品の国際市場への輸出拠点であると指摘された。しかし、2023年版以降のリストでは、掲載対象から除外されるなど、評価の改善も見られる。
義烏市は、世界最大級の小商品市場を背景に、知的財産権侵害が多発してきた。近年、行政・司法・税関が連携した取り締まり・保護体制が構築されてきている。一方で、市場規模の大きさや、小商品市場という特性から、監督・取り締まりの徹底には依然として課題が残る。特に再発防止への取り組みやサプライチェーン全体における監視体制の強化が必要だ。このように、取り組みの進展と課題が併存する中、同市は引き続き侵害多発地域として国内外から注視されている状況だ。今後、同市の取り組みが中国および国際的な取引環境の健全化にどのように寄与していくのか、引き続き注視する必要がある。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所
許 蓓莉(きょ ばいり) - 2021年からジェトロ・上海事務所勤務。





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