広がるFCCの規制範囲(米国)
通信機器からサプライチェーン管理へ
2026年10月21日
米国の通信・デジタル政策は、生成人工知能(AI)の普及やデータセンター投資の急拡大、さらには米中間の技術・安全保障競争の激化により、大きな転換期を迎えている。その中で、影響力を強めている独立規制機関が連邦通信委員会(FCC)だ。FCCは1934年通信法に基づいて設立され、無線通信、携帯電話、ブロードバンド、衛星通信、テレビ・ラジオ放送などを所管する。従来は通信・放送分野における技術的規制機関としての性格が強かったが、近年は活動範囲が大きく広がっている。
通信規制機関から経済安全保障の担い手へ
FCCの政策領域は、従来の通信事業規制や電波行政に加え、ブロードバンド網の整備、サイバーセキュリティ、サプライチェーン管理、迷惑電話対策、中国製通信機器の排除など、安全保障関連の政策課題の比重が高まっている。近年のFCCは、通信分野の規制当局としての役割にとどまらず、デジタルインフラを巡る競争力強化や安全保障上の課題への対応を担う重要な政策主体となっている(注1)。
こうした中、FCCは通信インフラの高度化を米国の競争力強化に向けた重要課題として位置付けている。とりわけ、生成AIの普及に伴い、高速で信頼性の高い通信ネットワークの重要性が高まる中、FCCは通信インフラを米国の技術競争力を支える基盤と捉えている。その一環として、FCCは2026年3月、通信ネットワークの現代化を促進するための規制緩和措置「Network and Services Modernization Order」を採択した(注2)。同措置は、旧来の通信ネットワークから次世代IPベースのインフラへの移行を阻害する規制上の負担やコストを軽減し、通信事業者による設備更新や光ファイバーなどの高速ネットワークへの投資を促進することを目的としている。また、FCCは6月、約4年ぶりとなる大型周波数オークション(AWS-3帯オークション113)を実施し、総落札額は35億ドルを超えた(注3)。入札は6月2日に開始され、17の事業者が参加した。さらに、FCCは2027年に予定するUpper C-Bandオークションの準備を進めており、5G・6G時代に必要な周波数資源の確保を国家戦略として推進している(注4)。FCCはこれらの取り組みを、米国の技術競争力強化と通信インフラ投資の促進につなげる方針だ。
輸入・販売を実質禁止する対象リストの急速な拡大
一方、近年のFCCの政策で企業の関心を集めているのが、経済安全保障分野における役割の拡大だ。特に注目されるのが、国家安全保障上のリスクがあると判断された通信機器・サービスを指定する「Covered List(対象機器・サービスリスト)」を巡る一連の規制強化だ。
Covered Listは当初、ファーウェイ(Huawei)やZTEなど中国系通信機器メーカーの機器やサービスを主な対象として導入された。しかし近年、FCCは特定企業の機器・サービスに加え、ドローンやヒューマノイドロボットなど、製品分野を対象とした規制の導入・拡大を進めている。Covered Listに掲載された機器・サービスは、原則としてFCC認証の新規取得が認められず、米国内での輸入や販売が事実上困難となる。
2025年12月には、外国製ドローン(UAS)およびその重要部品がCovered Listに追加されたほか、海底ケーブルについても外国の敵対勢力の関与を制限する新たな認可制度が導入されるなど、安全保障を重視した規制強化が進んだ。2026年には外国製ルーター、電力インバーター、ヒューマノイドロボットに関する新たな規制措置が打ち出された。また、FCCはCovered List掲載企業が製造した部品を組み込んだ機器の認証禁止や、認証済み機器を含む一部の対象機器に対する輸入・販売規制の強化を決定した。これと並行して、相互承認協定(MRA)を締結していない国・地域の認証機関による無線機器の試験・認証を制限する案も検討している(2026年6月19日付、2026年7月8日付、2026年7月30日付、2026年8月3日付ビジネス短信参照)。こうした動きは、FCCが通信分野の規制当局としての役割を超え、経済安全保障や対中サプライチェーン政策の重要な実施主体となりつつあることを示している(表1)。
| 発表時期 | 主な措置・規制内容 |
|---|---|
| 2021年3月 | Huawei、ZTEなど中国企業5社の通信機器・サービスをCovered Listに掲載 |
| 2022年3月・9月 |
China Mobile、China Telecom、China Unicom、Pacific Networksなど 中国系通信サービス事業者をCovered Listに追加 |
| 2025年8月 | 海底ケーブル規制を強化し、外国敵対国による関与に対する審査・制限を拡充 |
| 2025年12月 | 外国製ドローン(UAS)および重要部品をCovered Listに追加 |
| 2026年3月 | 外国製ルーターを新たな安全保障上の規制対象として指定 |
| 2026年6月 | 相互承認協定(MRA)未締結国・地域の認証機関による機器認証の制限を提案 |
| 2026年7月 | 外国製ヒューマノイドロボットおよび電力インバーターを規制対象に追加 |
| 2026年7月 |
Covered List掲載企業製のIC、チップセット、通信モジュールなどを組み込んだ機器の FCC認証を禁止 |
出所:FCC「Covered List
」(2026年10月8日閲覧)を基にジェトロ作成
さらにFCCは2026年7月、追加規則案(Third Further Notice of Proposed Rulemaking: FNPRM)を公表し、8月に官報に掲載した。同案では、Covered List制度および機器認証制度のさらなる強化に向けた幅広い追加措置について意見を募集した。具体的には、Covered Listを「特定企業・事業者ベース」と「製造場所・製品カテゴリー(セクター)ベース」に区分する制度改正、認証申請時におけるハードウエア部品表(HBOM)ならびにソフトウエア部品表(SBOM)の提出義務化、Covered List掲載企業が製造した部品やソフトウエアを組み込んだ機器に対する認証規制の拡大、「外国製(produced in a foreign country)」の定義の明確化などを提案している(表2)。
FCCはこれらの措置を通じて、機器単体ではなくサプライチェーン全体の透明性向上と安全保障上のリスク管理を強化する方針を示している。このうち、「外国製」の定義については、連邦調達規則(FAR)上の「国内最終製品(domestic end product)」の概念を参照し、米国内で製造され、かつ米国産部品のコストが所定の基準(現在65%)を満たす製品に該当しないものを外国製とみなす定義の成文化を提案している。さらに、設計または開発が外国で行われた製品についても外国製に含めることを提案しており、規制対象は製造工程のみならず、研究開発や設計段階にまで広がる可能性がある。
仮にこれらの提案が実現した場合、認証審査の対象は完成品から部品、ソフトウエア、製造工程、開発体制へと拡大し、企業には調達先やサプライチェーンの構成に関する、より詳細な管理・開示が求められる可能性がある。
| 項目 | 提案の概要 | 想定される影響 |
|---|---|---|
| Covered Listの二分化 | Covered Listを、(1)特定企業・事業者ベースと(2)製造場所・製品カテゴリー(セクター)ベースに再編 | 特定企業だけでなく、ドローンやルーターなどの特定分野全体を対象とした規制が拡大 |
| SBOM/HBOM提出義務 | 認証申請時にソフトウエア・ハードウエアの構成情報の提出を要求。部品製造者、生産地、価値割合などの開示も検討 | サプライチェーンの透明性に関する要求の大幅な増加 |
| 製品への組み込み部品やソフトウエアへの規制 | 論理機能を持つ半導体などだけでなく、Covered List掲載企業が製造し製品に組み込まれた部品やソフトウエアに対しても、認証禁止または厳格な審査基準を導入 | 完成品メーカーにも部品・ソフトウエアレベルの精査と管理が求められる |
| 「外国製」の定義明確化 |
FAR上のdomestic end product基準を参考に定義。 米国内で製造され、かつ国内部品比率基準(現在65%)を満たさない製品を外国製と位置付ける案を提示 |
調達先の見直しやサプライチェーン再編に加え、研究開発・設計体制を含む事業運営全体への影響が拡大 |
| 設計・開発要素の追加 | 製造だけでなく設計・開発が外国で行われた製品についても「外国製」とみなす方向で検討 | 開発拠点やR&D体制も安全保障審査の対象に |
| Covered List掲載機器の認証義務強化 | ドローン、ドローン部品、ルーターなど特定分野の機器につき認証義務を拡大 | 従来は対象外だった機器にも認証取得が必要に |
| 認証の有効期限導入 | FCC認証に期限(例:10年)を設ける案を検討 | 長期販売製品について再認証対応が必要に |
出所:FNPRM、FCCファクトシート(2026年7月)、ワイリー(2026年7月)などを基にジェトロ作成
米法律事務所ワイリーは7月末に公表したレポートで、FNPRMを通じた新たな規制導入の提案に関し、Covered List掲載企業が製造した部品を含む機器の認証禁止、SBOMおよびHBOMの提出義務化、FCC認証機器に対する米国内の法的責任主体の指定などが導入されれば、機器認証制度に重要な変更をもたらす可能性があると指摘した。また、FCCが今後も機器認証制度を通じたサプライチェーン対策を強化を進めるとの見方を示した。
また、規制専門調査会社オブシディアン・レギュラトリー・インテリジェンスは8月、今回のFNPRMを「米国の機器認証制度に対するこれまでで最も広範な見直し」と評価した。同社は、HBOM・SBOM提出義務化、Covered Listの二分化、FCC認証機器に対する米国内の法的責任主体の義務付け、認証の有効期間の設定などが検討されており、通信機器メーカーに加え、輸入業者、OEM、認証機関(TCB)、供給者適合宣言(SDoC)利用事業者など、幅広い関係者に影響が及ぶ可能性があると解説した。認証申請時に、部品の製造者、生産地、各生産地に帰属する部品価値の割合などのサプライチェーン情報の提出を求める案は、認証申請やコンプライアンス対応に新たな負担をもたらす可能性があるとの指摘もある。
産業界は規制導入によるコスト負担増を懸念
一方、FCCによる相次ぐ規制強化に対しては、国内の産業界から懸念の声も上がっている。通信・テクノロジー企業で構成される業界団体コンピュータ・通信産業協会(CCIA)は2026年9月、FCCへのコメント提出に合わせて発表した声明で、Covered List制度に関する規制案が米国企業に多額のコスト負担を課し、信頼できるグローバル・サプライチェーンを混乱させる可能性があると指摘した(注5)。また、「外国製」であることのみを理由に製品や部品を幅広く規制するのではなく、国家安全保障上の脅威が特定された主体に対象を絞るべきだと主張している。CCIAは、FCCが2026年に実施したCovered List関連措置による企業のコスト負担が今後5年間で約53億ドルに達し、提案中の追加規則案が採用された場合には総額約77億ドルに拡大する可能性があるとの試算を公表した。
一方、米国半導体産業協会(SIA)は同月、FCCに提出した意見書で、国家安全保障上のリスクを特定・軽減するFCCの目的には理解を示しつつも、半導体産業は研究開発、設計、製造、実装が国際的に分業化されたサプライチェーンの上に成り立っていると指摘した。その上で、HBOM・SBOMの提出義務化や部品レベルでの規制強化については、サプライチェーンの実態や企業負担を十分に考慮した制度設計が必要との考えを示した(注6)。
FCCによるCovered Listを通じた輸入販売規制強化の動きが日本企業の在米ビジネスに与える影響について、首都ワシントンの法律事務所の専門家は、「中国を念頭に置いた措置であっても、制度は国籍を問わず適用されるかたちで設計される傾向にある。日本企業も、完成品だけでなく部品やモジュールのレベルまでサプライチェーンを確認する必要があり、対米ビジネスにおけるコンプライアンス負担は今後さらに高まる可能性がある」と解説する。一方、同氏は「制度によっては個別審査や例外措置が設けられており、実際の影響は製品や取引内容によって異なる。日本企業は過度に懸念するのではなく、規制の内容や運用動向を継続的に確認しながら対応を進めることが重要だ」とも指摘する(注7)。
日本企業には、FCCの規制強化の方向性や適用範囲、運用の変化を踏まえ、自社製品やサプライチェーンへの具体的な影響を見極めながら対応を進めることが求められる。
- 注1:
-
FCCは自身の活動領域に関し、通信規制に加え、「ブロードバンドサービス・設備への競争、イノベーション、投資の促進」や「国家経済の支援」「国家の通信インフラの防衛強化」を主要な役割として掲げている(FCCウェブサイト参照)。
- 注2:
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FCC発表「FCC Takes Action to Speed Up Rollout of Modern, High-Speed Networks」(2026年3月27日)。
- 注3:
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FCCニュースリリース「FCC Announces Close of Successful Wireless Auction: Spectrum Demand Is Strong as Proceeds Exceed Expectations」(2026年6月23日)。
- 注4:
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FCC発表「FCC Adopts Plan for C-Band Auction in July 2027」(2026年7月24日)。Upper C-Bandは主に5Gなどの無線通信で使われる3.98~4.2ギガヘルツ(GHz)の周波数帯を指す。
- 注5:
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CCIA、「CCIA Submits FCC Comments on Expanded Supply Chain Risk List」(2026年9月8日)。
- 注6:
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SIA、「Comments of the Semiconductor Industry Association(200KB)」(2026年9月8日)。
- 注7:
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ワシントンDCでる筆者インタビュー(2026年9月)に基づく。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
伊藤 博敏(いとう ひろとし) - 1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジア、調査部国際経済課長などを経て現職。主な著書:『ジェトロ世界貿易投資報告』2021年版~2025年版(編著、ジェトロ)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。





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