流行語から読み解く中国の消費マインドの変容

2026年4月22日

日本の報道では「中国は景気低迷が続いている」との評価が目立つ。実際、マクロ統計を見ても個人消費の伸び率は低下傾向が続いている上、消費マインドを示す指数なども低迷が長引いている。

中国における消費の低迷は、消費者のマインド変化が要因の1つだと指摘されている。かつて成長一辺倒だった中国経済は成長スピードが鈍化し、右肩上がりだった不動産価格や株価も頭打ちの様相を呈している。その結果、かつては当然のように将来を楽観視していた中国の消費者は、先行きの不安感から財布のひもを固くしていると言われる。

消費に影響を及ぼす大衆心理は、その時々の流行語に現れる。中国では、言語学を扱う学術雑誌である『咬文嚼字』編集部が毎年発表する「十大流行語」など、その時代の世相を映し出す流行語が生み出されてきた。

本稿では、中国の消費低迷とその背景にある消費者心理の変化を、流行語から探ってみたい。

消費に関するネガティブな流行語

まず、近年よく目にする、消費に関するネガティブな流行語を紹介する。2018年の「十大新語」の1つに「消費降級(ダウングレード)」という言葉が選ばれた。それまで「消費昇級(アップグレード)」という言葉は一般的に使われていたが、その反対語が生み出されたということになる。例えば、毎日飲むコーヒーをスターバックスの50元(約1,150円、1元=約23円)のものからコンビニエンスストアの15元(約300円)のものに変更する、デパートで買った1,000元(約2万円)の靴の代わりに格安ネットショップで100元(約2,000円)の靴を買うといった消費志向の変容を指す。「消費降級」は、プレミアム価格が設定されているブランド品から安価なノンブランド品へ変更するというスタイルが一般的だ。

コンサルティング会社マッキンゼーの報告によれば、2024年の調査において、家電購入時にブランドによる「プレミアム価格」を許容する中産階級の割合は2021年の68%から19%まで減少した。一方で、61%が最優先項目を「コストパフォーマンス」と回答している。

「消費降級」と類似するものとして、購買時に選ぶ品物を高価な有名ブランド品から、性能は同じでも低価格なノンブランド品へ変更する行為を指す「平替(お手頃価格代替)」という言葉も登場した。また、飲食チェーン店で売られる安価なセットメニューのことを揶揄(やゆ)を込めて呼ぶ「窮鬼套餐(貧乏人セット)」という言葉も流行した。

新たな消費スタイル

消費に関するネガティブな流行語の登場と同時に、消費志向の変化や新たな消費スタイルを表現する流行語も現れた。

2023年頃からインターネット上で、特に若者の新たな消費行動を指す「反向消費」という言葉が流行した。「反向」は文字通り「反対の」という意味であり、要するに「これまでとは異なる消費」という意味だ。各種論考を掲載する人民日報系ウェブサイト「人民論壇網」に掲載された解説文によれば、「反向消費」の特徴は、「消費者がブランド品やぜいたく品を盲目的に追求し、価格を問わず狂ったように実際の必要性を超えたものを選ぶのではなく、コスパ、消費体験、製品やサービスの実用性と耐久性をより重視する」「理性的で環境に優しい消費観を提唱し、共有(シェアリング)と中古品取引を好み、控えめ、簡潔で、環境保護と持続可能な消費方式を追求する」としている。この意味が受け入れられているということは、若者を中心とした中国の消費者自身が、自分たちのこれまでの消費スタイルが「ブランドやぜいたく品を盲目的に追求し、価格を問わず狂ったように実際の必要性を超えたものを選ぶ」ものだったと認識しているということだ。

2023年の十大流行語の第5位に選ばれた「特種兵式旅游(特殊部隊式旅行)」は、「最小限の費用と時間で、最大限に観光地を巡る超弾丸旅行スタイル」で、「週末や夜行移動を駆使した強行軍により、低コストかつ効率的に名所を制覇する“任務”のような旅」を指す。これは「反向消費」の1つのスタイルと言え、コスパを重視した「特種兵式旅游」の様子を自身のSNSで公開する若者が増えた。これまで低価格・高効率という旅行スタイルを「恥ずかしい」と感じていた、メンツ重視の消費マインドに変化が生じている。

コスパと実用性に加えて重視され始めているのが、「他人にどう見られるか」ではなく、「自分自身が満足し幸福感を得られるか」を重視する消費志向の変化だ。「反向消費」と同時期から使われるようになった「悦己型消費(自己満足型消費)」という言葉(2024年3月14日付地域・分析レポート参照)や、2023年十大流行語の第9位に選ばれた「情緒価値」(エモーショナル・バリュー)から転じて、情緒価値を重視する消費スタイルを指す「情緒消費」という言葉も広く使われるようになった。いずれも、消費行動において「外的欲求」より「内的欲求」がより重視されるようになってきていることが垣間見える流行語である。

ここからは、消費マインドの変化の背景にある大衆心理のトレンドについて、主に『咬文嚼字』誌が選ぶ十大流行語から探ってみたい。

競争社会、ストレス

近年、中国では、ストレスを抱える人々が増えていることを反映するような流行語も目立つようになっている。

いまや厳しい競争社会を示す用語として広く使われるようになった「内巻」という言葉は、2020年後半にネット上で使われ始めたものだ。もとは社会学の用語で、文化や文明の発展モデルが一定の水準に達したのち、さらなる高度な水準への転換ができなくなる状況を指す。自転車での通勤中にパソコンを操作したり本を読んだりする様子や、自宅の部屋に難解な書籍が山積みされているといった動画が拡散され、「(働く人々の努力が)限界に達している」との意味で「内巻」が使われ始めた。そこから連想される「過度な競争社会」を「内巻」と呼ぶようになった。「内巻」は2020年の流行語第9位にランクインした。

前年の2019年には「午前9時から午後9時まで週6日間働く」という意味の「996」という言葉が第7位に、「私は(ストレスが多くて)とてもつらい」の「つらい=難」を同発音の「みなみ=南」に置き換えた「我太南了」が第8位にランクインしている。また、2021年に流行した、狂気じみた厳しい教育を子どもに施す親を指す「鶏娃」という流行語(同年第8位)もストレス社会の一端を示すものであろう。

2022年には、あるブログでの「3日間の帰省で精神的な“内耗”が癒やされた」という書き込みから「精神内耗」という言葉が流行し、第9位に選ばれた。「内耗」はもともと機械工学などで、無駄に消費されるエネルギーを指す言葉であり、「精神内耗」は「無益な精神的すり減り」という意味で使われる。

あきらめムード

人びとがより厳しい競争にさらされ、ストレスを感じやすい社会となる中で登場したのが「躺平」という言葉である。「躺平」は「寝そべる」という意味で、2021年4月にある若者がSNSで「私は2年間も働かずに毎日寝そべって過ごしているが、間違っているとは思わない」という投稿をしたところ反響を呼び、主に若者たちの間で「寝そべりは正義か」という議論が起こった。「躺平族(寝そべり族)」は、競争を嫌い「家も車も買わない、恋愛も結婚も子どももいらない、消費は最低レベルでよい」という生活スタイルを指す言葉として広がり、2021年の流行語第9位にランクインした。厳しい競争を勝ち抜かなければ得られない物質的な欲求を諦め、最低限の生活の中から精神的な幸福感を得ようとするこのスタイルは、現代社会への抵抗感を感じる若者に支持された。

日本でも「サラリーマン」という呼称が、疲労感あふれ哀愁漂う職業の象徴として使われることもあったが、2024年にそれに近い感覚で使われ流行語となったのが「班味」という言葉である。「班」は「勤める」、「味」は「雰囲気を醸し出す」という意味であり、日本語で表現すると「サラリーマン臭」といったところだ。「あの人からは“班味”が感じられる」「彼らの会話は“班味”っぽいね」といった具合に使われる。厳しい競争でストレスを感じながら勤めを続けざるを得ない給与所得者である大多数の人々が、諦念と自虐の意味も込めて自身を「班味」と表現する。

癒やしを求める

より多くのストレスを感じるようになった中国の人々は、より多くの癒やしを求めるようになり、その一端も流行語に現れている。2023年の流行語第9位にランクインした前述の「情緒価値」という言葉、および同様の価値観を重視する「情緒消費(エモ消費)」という消費スタイルも、その一環であろう。

2024年には「松弛感(リラックス感)」なる言葉が流行語第8位にランクインした。ある一家が旅行に出かけようとする際にトラブルに見舞われるも、焦らず怒りもせず落ち着いて対処している姿を見たあるネット小説家が、「世の中にはこんなに“松弛感”ある家庭があるんだ」と投稿したところネットで拡散された。以降、心にゆとりのある状態を指す言葉として使われるようになった。

2025年の流行語第8位にランクインしたのは「活人感」という言葉だ。直訳すると「生きた人の感じ」「リアリティ感」となるが、「飾らず自然体である」「完璧でなく欠点もある」というニュアンスで使われる。これまではメンツを重視し、洗練されたきらびやかな世界にいる完璧な自分をアピールしたり、自撮り写真も当然のように加工を施してから公開したりしてきた人々が、ありのままの日常をさらけ出すことにむしろ好感を持つようになった。過剰な競争やストレスに疲弊した人々が、人間味あふれた自然な姿を求める志向が強まってきていることを示す流行語である。

思い返してみれば、10年、20年前の中国の消費者といえば、全く同じものでもあえて高額な方を買ったり、現有のものが十分に使えても新しいモデルが出たら即購入したりと、自身が成功者であり財力があることをアピールすることが中国的消費マインドの主流だった。2024年にヒットした喜劇映画『好運来』では、ごく普通の配達員と警備員が、しばらく帰っていなかった故郷に、高級スーツに身を包み運転手付き高級車に乗り、素敵な配偶者を連れて里帰りするシーンがある。無論、全て借り物である。この“メンツ重視社会”が、かつての中国消費マインドの根底に存在していた。しかし現在では、コスパを重視し自分に癒やしを与えてくれるものを求めるといった志向へと変化しつつある。より厳しい競争にさらされ、より強いストレスを感じ、自分の将来への安心感が薄れつつある中国の消費者にとって仕方のない変化かもしれない。だが見方を変えれば、中国の消費者の消費マインドが、よりグローバルスタンダードに近づいてきたとも言えるかもしれない。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 次長
森永 正裕(もりなが まさひろ)
1998年、アジア経済研究所入所。ジェトロ・上海事務所、JOGMEC・北京事務所長(出向)、研究企画課長、ジェトロ・成都事務所長などを経て現職。