中国、貿易黒字1兆ドル超えが示すもの
2026年8月17日
中国の2025年の貿易黒字は1兆1,942億ドルと過去最高額を記録した(注1)。2021年の6,366億ドルからわずか4年で87.6%増加した。この数字はしばしば「中国の輸出攻勢」として語られるが、黒字拡大の背景には輸出の増加(13.9%増)だけでなく、輸入の収縮(3.6%減)という要因も同時に寄与した。この間、輸出市場の重心が米国からASEANや中東へ移りつつある。
本稿では、2021年から2025年の5年間の貿易データを基に、中国の貿易構造の変化と日本との関係を概観する。
輸出拡大と輸入代替:黒字構造の解剖
中国の対世界輸出額は2021年の3兆3,160億ドルから2025年の3兆7,765億ドルへと4,605億ドル拡大した(図1参照)。年平均成長率は3.3%と、コロナ禍の特需が剥落した2023年には3兆3,790億ドルまで一時的に後退したものの、中長期的な拡大基調は維持されている。
出所:S&P Global GTA(輸出、輸入額)を基にジェトロ作成
一方の輸入は2兆6,794億ドルから2兆5,823億ドルへと971億ドル縮小した。品目ごとに動向は大きく異なり、自動車・同部品(HSコード87類、52.0%減、449億ドル減)や精密機器(HSコード90類、29.8%減、323億ドル減)など特定のカテゴリーで大幅に減少する一方、鉱物性燃料(HSコード27類、9.2%増、375億ドル増)や機械類(HSコード84類、8.8%増、203億ドル増)は増加した(図2参照)。後者は製造設備などの輸入需要が依然旺盛であることを示しており、輸入全体の縮小を「一律の輸入代替」で説明することはできない(注2)。
結果として、黒字は2022年に8,379億ドルへ急拡大した後も増加を続け、2024年に1兆ドルに迫り、2025年には1兆ドルの大台を超えた。黒字拡大には輸出増と輸入減の両方が寄与しており、価格変動などだけでは説明できない。
出所:S&P Global GTA(輸出、輸入額)を基にジェトロ作成
輸出先の地理的シフト:対米縮小・対ASEAN拡大
黒字拡大の背後にある輸出の内訳を仕向け先別に見ると、際立った地理的シフトが確認できる。
最も変化が大きいのは対米輸出だ。中国の輸出全体に占める対米輸出額のシェアは2021年の17.1%から2025年の11.1%へと6.0ポイント低下した(図3参照)。相互関税賦課を中心とする米中貿易摩擦の影響が一部に表れているとみられる。輸出額も2022年の5,760億ドルをピークに減少し、2025年には4,202億ドルへと27.0%減少した。中国の輸出に占める米国市場の比重は低下している。
その受け皿となっているのがASEANなどだ。ベトナム(シェア1.2ポイント増)・タイ(0.6ポイント増)・マレーシア(0.4ポイント増)など東南アジア諸国向け輸出のシェアは、生産移管と中間財需要の増加を背景に拡大した(注3)。インド(0.7ポイント増)・ロシア(0.7ポイント増)も増加しており、輸出先がグローバルサウス(新興国・途上国)への分散する動きもみられる。これら7カ国(ベトナム・インド・ロシア・タイ・マレーシア・アラブ首長国連邦(UAE)・サウジアラビア)のシェア増加幅の合計は4.7ポイントとなり、対米減少(6.0ポイント減)の約8割に相当する。
UAEへの輸出額は2021年の431億ドルから2025年の729億ドルへと69.1%増加した。サウジアラビアも同期間83.1%増と急拡大しており、中東全体が中国にとって有力な輸出先として台頭している。背景には、サウジアラビアの「ビジョン2030」(注4)やUAEの「2050年ネットゼロ」(注5)を受けたEV・再生可能エネルギー関連設備やインフラ需要の拡大がある。こうした需要と中国の供給能力が合致したことが輸出拡大につながっており、単純な対米輸出減少の「代替市場」とは異なる。
対日輸出シェアは5.0%から4.2%へと縮小した。輸出額も1,646億ドルから1,575億ドルへと微減しており、中国の輸出先としての日本の比重は緩やかに低下している。ただし、この縮小は対米の急落とは異なり、より緩慢な変化だ。
出所:S&P Global GTA(輸出、輸入額)を基にジェトロ作成
対日貿易関係:シェア低下が続く機械類、維持する電機・電子
中国の対日輸入を品目別に見ることで、対日貿易関係をより具体的に把握できる。ここでは主要HS2桁章別に、日本の供給シェアの変化を追う。
| HS | 品目 |
2021年 輸入額 (億ドル) |
2025年 輸入額 (億ドル) |
2021年 シェア |
2025年 シェア |
変化幅 (ポイント) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 84 | 機械類 | 441 | 351 | 19.1% | 14.0% | △5.1 |
| 85 | 電機・電子 | 535 | 510 | 8.0% | 8.1% | 0.1 |
| 87 | 自動車・部品 | 161 | 96 | 18.6% | 23.1% | 4.5 |
| 90 | 精密機器・光学機器 | 180 | 115 | 16.6% | 15.1% | △1.5 |
| 29 | 有機化学品 | 58 | 45 | 9.6% | 9.1% | △0.5 |
| 28 | 無機化学品 | 14 | 11 | 9.4% | 5.5% | △3.9 |
| 76 | アルミニウム | 14 | 13 | 11.4% | 7.6% | △3.8 |
注:シェアは、中国の各HS章の対世界輸入額に占める日本からの輸入額の割合。
出所:S&P Global GTA(輸出、輸入額)を基にジェトロ作成
最大の変化が生じているのは機械類(HS84類)だ(表参照)。日本のシェアは19.1%から14.0%へと5.1ポイント低下し、輸入額も441億ドルから351億ドルへと20.4%減少している。半導体製造装置などの一部品目では日本への依存が残る一方、汎用(はんよう)工作機械・産業用ロボットなどの分野では、国産化の進展が指摘されている。
これと対照的なのが電機・電子(HS85類)だ。シェアは8.0%から8.1%へと横ばいを維持している。輸入額も535億ドルから510億ドルへと大きな変動はない。中国の電子産業の拡大が続く中でも、日本の素材・部品メーカーは一定の地位を維持していることがうかがえる。
自動車・部品(HS87類)は、市場のEV化進展の影響を受け、輸入総額は161億ドルから96億ドルへと縮小する一方、日本のシェアは18.6%から23.1%へと4.5ポイント上昇した。市場縮小局面においても、完成車分野で存在感を高めている。ただし、EV化がさらに進めば、当該市場そのものの縮小が続く可能性がある点には留意が必要だ。
精密機器・光学機器(HS90類)では、日本のシェアは16.6%から15.1%へと小幅に低下しつつも高水準を維持している。同分野は計測・制御機器、光学機器、医療機器などで構成されており、特に半導体製造向け検査装置や精密光学部品において、引き続き存在感がみられる。
日本企業への示唆
貿易データが示すのは、「対中貿易の一律な不振」でも「輸出機会の消失」でもない。日本企業にとって重要なのは、中国市場全体をひとくくりに捉えるのではなく、品目ごとに異なる競争環境や需要動向を見極めることだ。機械類では国産化圧力が強まる一方、電機・精密機器では需要が維持されるなど、品目によって方向は大きく異なる。
輸出先の地理的シフトという観点では、ASEAN向け中国輸出の拡大が示すように、「中国+1」の生産拠点分散を進める企業にとって、中国からASEAN向けの中間財需要が生じている可能性もある。
2026年に入り、対日輸入額が1~6月で前年同期比28.6%増となっている。メモリIC(半導体)の先行調達と金輸入の増加などが押し上げ要因となっており、両品目で全体の増加額の7割超を占める。ただし、メモリICの前年同月比伸び率は4月をピークに5月、6月と鈍化しており、先行調達による押し上げ効果は既にピークを過ぎつつあるとみられる。こうした足元の増加には一時的な要因も含まれており、中長期的な動向と区別して解釈することが重要だ。
- 注1:
-
中国税関統計ベース。貿易黒字は財貿易ベース。
- 注2:
-
中国では半導体・機械・素材分野などで、産業サプライチェーンの「自主可控(自主的かつ制御可能)」を志向した輸入依存度低減政策が進められているが、その進展度合いや輸入への影響は品目によって異なる。
- 注3:
-
米中貿易摩擦を背景に、中国からASEAN経由で米国へ輸出する、いわゆる迂回輸出が一部で指摘されているが、統計的に明確な把握は難しい。ASEAN向け輸出の増加には、生産移管や域内需要の拡大など複数の要因が含まれる。
- 注4:
-
2026年5月20日付ビジネス短信「国家改革戦略「ビジョン2030」の進捗を公表」を参照。
- 注5:
-
2022年11月11日付地域・分析レポート「脱炭素加速でMENA地域をリード(UAE)」を参照。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・青島事務所長
皆川 幸夫(みながわ ゆきお) - 1992年、ジェトロ入構。ジェトロ・北京事務所、海外開発協会(出向)、海外展開支援部主幹、日本台湾交流協会(出向)などを経て、2024年8月から現職。





閉じる





