米西海岸3社が探るAIの活用
IMTSにみる米製造業の潮流(2)

2026年11月5日

連載(1)では、米国製造技術協会(AMT)が発表した製造技術受注統計において、受注数が回復する中で自動化需要が広がっていることを確認した。また、AMTが2026年9月に開催した世界4大工作機械展示会の1つである「IMTS (International Manufacturing Technology Show) 2026」において、「インダストリアル(産業)人工知能(AI)」(注1)が主要テーマの1つとして取り上げられた動きを紹介した。本稿(2)では、同展示会に出展した米西海岸サンフランシスコ・ベイエリアのAI活用企業3社への取材や講演内容を基に、設計、加工、ロボットによる自動化の各工程で、AIがどの作業を支援し、既存のソフトウエアや設備、製造現場の知識とどのように結び付いているのかをみる。

設計・解析ソフトをAIが操作、コズモン

設計・解析業務へのAI活用を手掛けるサンフランシスコのAIスタートアップ、コズモン(Cosmon)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、AIエージェント(利用者の指示に基づいてソフトを自律的に操作するAI)「アーガス(Argus)」を、IMTS2026で新設された「インダストリアルAIアリーナ」に展示した。同社のショーン・マンザナレス市場開拓・パートナーシップ部門責任者によると、アーガスは複数の設計・解析ソフトウエアと接続し、利用者が文章で指示すると、その内容に沿ってソフトウエアを操作する。現在、設計用のCAD(注2)、解析用のCAE(注3)が、それぞれ約6種類のソフトウエアとの接続に対応しているという。IMTS2026では、シーメンスの解析ソフトウエアを使い、文章による指示に基づいてモデルを操作する様子を実演した。

同社が重視するのは、熟練エンジニアが持つ操作方法や知識を、ほかのエンジニアも利用しやすくすることだ。マンザナレス氏は、経験のある技術者の指示や教え方をAIエージェントに取り込み、専門経験が浅い人が熟練者の知見を利用しやすくすることを目指すと説明した。対象業界として、電子機器、医療、航空宇宙、自動車などを挙げた。

同氏は顧客が期待する効果として、設計者の作業時間の削減、市場投入までの期間短縮、業務の効率化を挙げた。同社は日本を含むアジアで販売パートナーとの連携を進めている。マンザナレス氏は、日本は設計・製造業の集積が大きいことから、事業展開先の1つと位置付けていると述べた。


インダストリアルAIアリーナ内のコズモンの出展ブースの様子(ジェトロ撮影)

メーカーごとの「作り方」をAIが提案、ラムダ・ファンクション

設計データを実際の加工につなげる工程では、サンフランシスコのラムダ・ファンクション(Lambda Function)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが、コンピューター制御の工作機械を使うCNC(注4)加工について、AIで加工の手順や工具の動かし方を作成する技術を紹介した。インダストリアルAIカンファレンスに登壇したタンメイ・アガルワル共同創業者兼最高経営責任者(CEO)は、AIが加工方法を決めるには、部品の形状を認識するだけでは不十分で、それぞれのメーカーが蓄積してきた作り方を学習する必要があると説明した。学習に使う情報として、過去の加工プログラム、使用工具、加工方法、社内の製造ルール、技術者による修正や評価などを挙げた。

AIがこうした情報を基に加工方法や工具経路を提案し、エンジニアが条件を設定したり、提案内容を確認・修正したりする。アガルワル氏は、AIの活用によってエンジニアがより高度な判断に時間を使えるようにする考えを示した。同社が講演で紹介した顧客事例の1つでは、AIが提案した加工方法や工具の動かし方の約85%が採用されたという。別の顧客事例では、部品に含まれる74カ所の加工箇所を分析し、57の加工経路を7.3分で作成したとしている。加工工程へのAI導入では、各社固有の加工条件や現場の判断をどのようにAIに取り込むかが重要になると説明した。


ラムダ・ファンクションのインダストリアルAIカンファレンスでのセッションの様子(ジェトロ撮影)

少量生産も自動化、イントリンシック

米アルファベット傘下のイントリンシック(Intrinsic)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、ロボットによる製造工程の自動化を支援するソフトウエアを紹介した。同社のソフトウエアは、ロボットを使った生産設備を設計し、実際に設備を組み立てる前にコンピューター上で動きを確認した上で、工場への導入につなげるものだ。IMTS2026では、工作機械への部品の投入・取り出しや、製品を測定する機器への部品の搬送への活用を紹介した。

同社が力を入れる用途の1つが、多くの種類の部品を少量ずつ作る多品種少量生産の自動化だ。生産する部品が変わるたびにロボットの設定やプログラムを変更する必要があるため、少量生産では、自動化の準備にかかる時間や費用が導入効果に見合わない場合がある。イントリンシックは、部品が変わった際のロボットの設定変更を容易にし、こうした少量の仕事にも自動化を広げることを目指している。同社によると、50個程度を生産する仕事でも、夜間に工作機械を稼働させるといった利用が可能になるという。

イントリンシックは、ロボットや工作機械を組み合わせた自動化設備を手掛ける企業とも連携している。製造業向け自動化設備を提供する米トリニティ・オートメーション(Trinity Automation)との協業では、トリニティ側がロボットや周辺設備を組み合わせ、イントリンシックがロボットを制御するソフトウエアを提供している。

オークマと製品化へ、日本企業との協業も

日本との関係では、イントリンシックは工作機械大手オークマとも協業しており、IMTS2026のオークマのブースで、両社が共同開発中のAIロボット自動化設備を展示した。同設備は、工作機械とロボットを組み合わせ、部品の投入・取り出しを自動化する仕組みで、多くの種類の部品を少量ずつ生産する現場でも使いやすくすることを想定している。

オークマ米国法人のサイモン・シュナイダー氏によると、両社はIMTS 2024で接点を持ち、約1年前に共同プロジェクトを開始した。現在は試作設備で検証を進めており、2026年中にオークマの工作機械向け製品として顧客への提供につなげる計画だ。

シュナイダー氏は、イントリンシックとの協業を決めた理由として、ロボット制御ソフトウエアに加え、設備を製作する前にコンピューター上でロボットや機械の動きを確認できる機能を挙げた。また、工作機械は長期間使用されるため、導入後も継続的にソフトウエアの更新や支援を受けられる企業であることも重視したという。


イントリンシックのブース(ジェトロ撮影)

オークマのブースに展示された両社共同開発中のAIロボット自動化設備(ジェトロ撮影)

インダストリアルAIの実装を支える、現場との「接続」

3社がAIを活用する工程はそれぞれ異なる。コズモンは既存の設計・解析ソフトウエアの操作、ラムダ・ファンクションは各メーカーが蓄積してきた加工方法や技術者の判断、イントリンシックは多品種少量生産におけるロボットの設定変更など、従来は人手に依存していた作業の効率化や自動化を目指している。

今回取材した3社に共通するのは、AIによって既存の製造工程を置き換えるのではなく、専門的な知識や経験を要する作業や、頻繁な設定変更が必要な工程へAI活用を広げようとしている点だ。IMTS 2026では、インダストリアルAIが主要テーマの1つとして取り上げられたが、今回の事例は、既存の設備やソフトウエアによる自動化に加え、人手に依存してきた作業にもAIの活用が模索されていることを示している。その実現には、前稿で取り上げた製造データの整備に加え、既存のソフトウエアや設備、製造ノウハウとの連携が重要になる。


注1:
製造業などの産業活動や製造システム、物理インフラにAI技術を適用する考え方。設備やセンサーなどから得られるデータを活用し、生産工程の自動化、予知保全、品質管理などに用いられる。 本文に戻る
注2:
Computer Aided Designの略で、コンピューターを使って部品の設計・作図を行う仕組み。 本文に戻る
注3:
Computer Aided Engineeringの略で、設計データを基に、強度、熱、振動、流体などをシミュレーション・解析し、設計の評価や改善に利用する仕組み。 本文に戻る
注4:
Computer Numerical Controlの略で、あらかじめ作成したプログラムに基づき、コンピューターで工作機械の動きや加工条件を制御して部品を加工する仕組み。 本文に戻る

IMTSにみる米製造業の潮流

シリーズの前の記事も読む

(1) 自動化需要と産業用AIの広がり

執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所
武田 史織(たけだ しおり)
2021年、ジェトロ入構。スタートアップ課(2022~2024年)で日系スタートアップ400社以上の北米進出支援、国内スタートアップ・エコシステムの形成や外国高度人材の活用促進に従事。日本国際博覧会協会への出向を経て、2025年11月から現職。