JS-SEZ始動で変化する投資環境(マレーシア)
ジョホール州への投資拡大

2026年6月10日

世界初の越境経済特区であるジョホール・シンガポール経済特区(JS-SEZ)の開設から1年以上が経過した。JS-SEZでは、マレーシアとシンガポールの両国政府が連携し、高付加価値投資の誘致やヒト・モノの移動円滑化を進めている。投資は活況を呈しており、2025年のジョホール州は投資認可額でマレーシア最大の投資先となった。本稿では、JS-SEZへの投資動向や投資円滑化に向けた取り組みを紹介し、同特区の投資環境を概観する。

シンガポールとの分業目指す

JS-SEZは、マレー半島南部に位置するジョホール州のうち、2006年から開発が進められてきたイスカンダル地域に同州南東部のペンゲランを加えた区域を対象とする経済特区だ。6つの自治体にまたがり、総面積は3,588平方キロメートルに及ぶ。JS-SEZでは、9つのフラッグシップ・エリアを設け、11の経済セクター(製造、物流、食料安全保障、観光、エネルギー、デジタル経済、グリーン経済、金融、ビジネスサービス、教育、医療)への投資誘致を進めている(2025年1月9日付ビジネス短信参照)(図1参照)。

図1:フラッグシップ・エリアと各エリアの重点分野
JS-SEZでは、9つのフラッグシップ・エリアを設け、11の経済セクター、具体的には製造、物流、食料安全保障、観光、エネルギー、デジタル経済、グリーン経済、金融、ビジネスサービス、教育、医療、への投資を誘致する狙いであるを進めている。

出所:マレーシア政府資料、各種報道からジェトロ作成

シンガポールは、アジア有数の金融・物流ハブとして発展し、先端分野の製造や研究開発(R&D)の機能も集積してきた。一方、コスト上昇や土地不足などの課題に直面している。このため、シンガポールに最先端機能を維持しつつ、豊富な土地、コスト面で優位性を持つ隣接のジョホール州へ一部機能を移管するなど、両地域の補完的な分業体制の構築が期待されている。

JS-SEZでは、5年以内に50件、10年で100件の高付加価値プロジェクト誘致と、2万人の熟練雇用創出を目標としている。これにより、地域産業の高度化や所得向上を図るとともに、シンガポールとの往来円滑化による消費市場の拡大も期待される。特に、ジョホール州政府は、州内総生産を2024年の1,580億リンギから2030年に2,600億リンギへと拡大する目標を掲げている。年率で約10%の高い成長目標となるが、JS-SEZを通じた投資誘致やヒト・モノの移動円滑化を成長のドライバーと位置付けている。

ジョホール州の投資認可額は過去最高

JS-SEZの始動以降、投資先としてジョホール州への注目は一段と高まっている。マレーシア投資開発庁(MIDA)によると、2025年のジョホール州の投資認可額は1,100億リンギ(約4兆2,900億円、1リンギ=39円)と過去最高を記録した(図2参照)。マレーシア全体(4,267億リンギ)の25.8%を占め、州別で最大となった。うち、外国投資は605億リンギ、国内投資は495億リンギと、それぞれ前年比2.0倍、2.6倍に増加した。

図2:ジョホール州における投資認可額の推移
外国投資は2021年40億リンギ、2022年588億リンギ、2023年310憶リンギ、2024年297億リンギ、2025年605億リンギ。国内投資は2021年83億リンギ、2022年118億リンギ、2023年121億リンギ、2024年188億リンギ、2025年495億リンギ。

出所:マレーシア投資開発庁(MIDA)

中でも活況なのがデータセンターの投資である。2025年11月時点で51件のデータセンター案件が投資認可を受けており、うち17件が操業中、11件が建設中で、残りの23件は2025年以降に承認された案件とされる(ザ・スター、2025年11月26日)。主な案件として、豪エアトランク(97億リンギ)、米エクイニクス(2億100万ドル)、米スタック・インフラストラクチャー(金額非公開)などが挙げられる。日系では、NTTデータがデータセンターを建設中だ。

製造業では、中国や香港からの新規投資が目立った。例えば、中国の海天塑機(Haitian Plastics Machinery)はコンピューター数値制御工作機械の製造(30億リンギ)、天津利安隆新材料(Rianlong)によるポリマー添加剤の研究開発・製造(8億2,000万リンギ)、香港の金山科技(Gold Peak Technology)によるニッケル電池の研究開発・製造(6億7,000万リンギ)が挙げられる。また、拡張投資では、インドのバイオコンによるインスリン生産設備の増強(11億リンギ)、ドイツのシックAGによるオートメーション市場向け先端センサーの生産拡張(10億リンギ近く)など大型案件が発表された。

このほか、2025年8月にはシンガポールのトムソン・メディカル・グループが、「ジョホール・ベイ」と名付けた26エーカーにのぼる大型開発計画を発表した。病院、住宅、ホテルなどを整備する計画で、総開発価値は180億リンギ超とされる。

日系企業は製造業を中心に集積

MIDAによると、1980年から2025年にかけて、日本からジョホール州への累積投資額は240億リンギに達し、約10万人の雇用を創出してきた。ジョホール州はスランゴール州、クダ州に次ぐ日本の投資先となっている。主な投資分野は化学・化学製品(73億リンギ)、電気電子(60億リンギ)、石油製品(33億リンギ)だ。ジェトロ調査では、2026年3月時点でジョホール州に158社の日系企業が操業しており、このうち141社が製造業だ。

JS-SEZの大部分を占めるイスカンダル地域への日本からの投資認可状況は、2025年に14件、5億リンギだった(図3参照)。金額は大きくないが、認可件数では直近20年で最大となった。各社の公式発表や報道ベースによれば、データセンターや製造業投資の拡大を見据え、関連機器の製造・販売に向けた動きも一部でみられた。

また、JS-SEZ発表前から同地域では複数の日系投資案件が進行している。例えば、ユーグレナは国営石油ペトロナスおよび伊エネルギー大手Eniの子会社Eniliveとの合弁事業によるバイオ燃料生産を進めている。製造業では、フェローテックによるパワー半導体基板製造、雪印メグミルクとアグロコープによる植物性食品加工用原料の製造、不二製油グループとジョホール・プランテーション・グループによる高付加価値なパーム油製品の製造、朝日印刷による医薬品・医療機器包材製造などが操業に向け進行中だ。

図3:日本からイスカンダル開発地域への投資認可状況(単位:100万リンギ、件)
2006年 9件、2.19億リンギ、2007年 7件、3.35億リンギ、2008年 6件、24.13億リンギ、2009年 4件、0.14億リンギ、2010年 9件、0.33億リンギ、2011年 9件、0.44億リンギ、2012年 9件、4.53億リンギ、2013年 10件、1.99億リンギ、2014年 9件、2.26億リンギ2015年 8件、5.47億リンギ、2016年 12件、1.63億リンギ、2017年 5件、0.20億リンギ、2018年 10件、7.65億リンギ、2019年 8件、0.78億リンギ、2020年 12件、1.51億リンギ、2021年 5件、2.26億リンギ、2022年 6件、48.97億リンギ、2023年 2件、2.48億リンギ、2024年 2件、0.01億リンギ、2025年 14件、5.07億リンギ。

出所:MIDA、イスカンダル地域開発庁(IRDA)のデータを基にジェトロ作成

今後のJS-SEZへの投資誘致に向け、日本の金融機関による参画も進む。三井住友銀行はマレーシア経済省のJS-SEZ戦略共同パートナーに指定されたほか、みずほ銀行がイスカンダル地域開発庁(IRDA)と戦略的提携に向け意向表明書(LOI)を交換するなど、連邦政府や州政府機関との連携が進んでいる。

投資円滑化の取り組み進展、青写真待たれる

JS-SEZでは投資誘致を円滑に進める制度整備も進んでいる。2025年2月には、イスカンダル地域開発庁(IRDA)、インベスト・ジョホール(Invest Johor)、MIDAが主導し、マレーシア投資促進センタージョホール支所(IMFC-J)が開所した。IMFC-Jは、連邦政府と州政府が共同運営し、関係機関と連携しながら、投資認可手続きだけでなく、用地選定、人材確保など、事業開始までに必要な手続きや準備を一括して支援する。

IMFC-Jによると、製造業投資を迅速化するための取り組みとして、JS-SEZではジョホール・スーパーレーン(JSL)が適用される。これにより、特に土地開発に係る複数の手続きを並行して進めることができ、IMFC-Jへの投資計画の説明ブリーフィングから操業までの期間を従来の24カ月から14カ月程度に短縮できるとしている。また、製造業の非センシティブ(non-sensitive)分野では、通常60営業日を要する製造ライセンス(ML)の交付を7営業日以内に短縮する方針も示され、投資認可に係る手続きの迅速化が進められている。

JS-SEZへの投資を後押しするための優遇措置については、2024年にフォレストシティ金融特区とペンゲラン統合石油施設(PIPC)向け措置が、2025年にはその他のフラッグシップ・エリア向け措置(表参照)が、それぞれMIDAから発表された。これにより、エリアごとの優遇業種や要件、優遇内容が明らかになった。

表:フラッグシップ・エリア別の優遇措置
エリア 優遇措置の対象分野 優遇内容
A:ジョホール・ウォーターフロント グローバル・サービス・ハブ 法人税の減税(15年間5%)
B:イスカンダル・プテリ グローバル・サービス・ハブ
  • 法人税減税
  • 印紙税の減免
C:タンジュン・ペラパス スマート物流複合施設 投資税額控除
D:パシル・クダン 化学製造 法人税減税または投資税額控除
E:スナイ・スクダイ 航空・宇宙製造、MROサービス
  • 新規進出企業の新規投資への法人税減税
  • 既進出企業の新規投資(他国からの移管)への投資税額控除
F:スデナク 人工知能(AI)、量子コンピューティング、医療機器、医薬品
  • 新規進出企業の新規投資への法人税減税
  • 既進出企業の新規投資(他国からの移管)への投資税額控除
G:デサル 観光
  • 投資税額控除
  • イベント後援への税額控除

出所:MIDA資料を基にジェトロ作成

共通の優遇措置

  • ビルなどの改修費用補助
  • 個人所得税の減税
  • 娯楽税の引き下げ(ジョホール州全体)

出所:MIDA資料を基にジェトロ作成

一方、これらの投資優遇措置は大型投資を主な対象としている。例えば、スマート物流複合施設や製造(AI、量子コンピューティング、医療機器、医薬品、航空宇宙製造・MRO)の分野で税制優遇を受けるには、土地を除いた投資額が5億リンギ(約200億円)以上であることが条件となっている。

マレーシア政府は、JS-SEZの詳細な優遇措置、投資戦略の方向性、開発ロードマップを明確にした青写真を発表する予定だ。当初は2025年内の発表を予定していたが、延期され、現時点では発表時期が未定となっている。追加的な優遇措置の発表も待たれる。

RTS開通、製造業には人材リスク、非製造業には商機期待

ジョホール州の投資環境について、2025年度海外進出日系企業実態調査(調査時期:2025年8月19日~9月17日)では、メリットの上位3つとして、マレーシアの全国平均と同様に「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」「安定した政治・社会情勢」「駐在員の生活環境が優れている」が挙げられた。このほか、4位に「人件費の安さ」と「電力インフラの充実」(44.0%)が入り、いずれも全国平均を上回った。一方、投資環境上のリスクとして、84.0%が「人件費の高騰」を、56.0%が「従業員の離職率の高さ」を挙げ、いずれも全国平均を上回った。

人件費に関しては、現状、ジョホール州の日系企業における製造業・作業員の月額基本給は、シンガポールや日系製造業が集積する他の州と比べてもやや低い水準にある。しかし、高付加価値投資の誘致がジョホール州で加速する中、人材獲得競争の激化によって、コスト優位性が薄れる可能性がある。また、離職率に関しては、現状でもシンガポールへの人材流出がみられるところ、マレーシア南部ジョホール州とシンガポールを結ぶ高速輸送システム(RTS)の開通により、人材流出のさらなる進行を懸念する声も聞かれる。ジョホールバルからシンガポールへは1日約30万人が通勤・通学しているとされ、国境の渋滞・混雑が課題だ。2027年1月にRTSが開通すれば、各方向で1時間当たり最大1万人の輸送が可能になる見込みだ。

製造業では人材獲得の懸念がある一方、高付加価値投資の誘致とRTSの開通により州の所得水準が向上し、シンガポールとの往来が活発化すれば、消費市場の拡大も期待される。このため、非製造業にとっては新たな魅力が高まりも見込まれる。今後は、産業高度化や人材育成に加え、観光資源も含めた地域開発の進展が注目される。


注:
インセンティブの詳細については、JS-SEZは「Johor-Singapore Special Economic Zone (JS-SEZ) Tax Incentive Package外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、フォレストシティ金融特区は「Forest City Special Financial Zone (FCSFZ) Tax Incentive Package外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、ペンゲラン統合石油施設(PIPC)は「PIPC Special Incentive Package外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」をそれぞれ参照のこと。本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課、ジェトロ・ビエンチャン事務所、調査部アジア大洋州課を経て2025年11月から現職。