欧州の収益化政策と秋田モデルに学ぶ
日本の洋上風力産業(後編)
2026年7月28日
連載の前編「国際連携で進める国内SC構築」では、洋上風力発電の国際動向や日本の導入状況を整理した上で、国内サプライチェーンの構築に向けた海外企業との連携や誘致の動きをまとめた。
後編では、欧州におけるサプライチェーン収益化の取り組みと、国内外企業を引きつけるエコシステム構築の事例を紹介する。具体的には、ジェトロが2026年2月24日に開催した、国内地域の産業エコシステム関係者を対象に「洋上風力発電エコシステム形成の促進とグローバル連携による国内産業の活性化」をテーマとした地域エコシステムセミナーの内容を紹介する。セミナーでは、専門家や自治体、民間企業が登壇し、洋上風力における国内産業基盤のさらなる強化に向け、官民連携の重要性や国内外パートナーとの協働の必要性について議論が行われた。
欧州に見るサプライチェーン収益化の取り組み
セミナーでは、浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)国際連携部長の猪狩元嗣氏が、欧州における洋上風力サプライチェーン形成の最前線について講演した。猪狩氏によれば、洋上風力発電に適した地理的特徴を持つ欧州は、エネルギー安全保障と温室効果ガス削減を目的に、この分野で発展を遂げてきた。
しかし近年は補助金の減少やゼロ入札が相次ぎ、サプライチェーンの収益悪化が目立った。これを受け、EUは2020年、洋上風力サプライチェーン強化に向けた政策を掲げた。洋上風力産業は、タービン製造、基礎、ケーブル、据付船、O&M(運用管理と保守点検)など、広範なサプライチェーンを伴う。同政策では、域内製造能力の維持・拡大や、持続的な雇用創出、研究資金の提供などを通じて、EU全体のサプライチェーンの競争力強化を目指した。こうした取り組みにより、欧州は洋上風力のサプライチェーン全体で収益を確保できる仕組みを整えてきた。
2024年の洋上風力発電による買電総額は130億~210億ユーロ、サプライチェーン全体の年間売上総額は160億ユーロに達している(数字は推計を含む。図参照)。将来的には発電設備の充実により買電総額が増加するため、サプライチェーン全体の売上総額を追い抜く見込みだ。しかし、買電総額が十分に伸びていない段階から、サプライチェーン全体で売り上げを確保できる仕組みを整えてきた点は、欧州がサプライチェーンをいかに重視してきたかを物語っている。
説明する猪狩氏
出所:ジェトロセミナー
事業者が先行投資を安定的に回収できる環境を整える必要があるため、洋上風力の産業収益化は日本にとっても重要だ。本セミナーの参加者からは、風力発電は先行投資が大きく、発電量を左右する風況解析の結果が出る前から、環境アセスメントなどの費用を負担する必要があるという声があった。こうした事業環境を踏まえると、洋上風力を単なるエネルギーインフラとして捉えるのではなく、産業として収益化できる仕組みを構築することが、新規参入の促進につながるだろう。
地域コンソーシアムが海外企業にとっての魅力に
セミナーの後半は、「日本の洋上風力市場に海外企業が参加するには」をテーマに、登壇者によるパネルディスカッションを行った。取り上げたのは、オランダ企業が秋田県の自治体や民間企業と連携した事例だ。オランダのケーブルメーカー、ファイバー・マックス社(Fibre Max)が2025年11月、秋田県、秋田市との三者間で、生産拠点誘致などに関する覚書を締結した。覚書の締結により、同社は日本における浮体式洋上風力の係留ケーブルなどの生産拠点として、秋田県と秋田市を候補地として優先的に協議を行うこととなった。
同社が秋田を選んだ最大の理由は、秋田風力発電コンソーシアム「秋田風作戦
」の存在だ。秋田風作戦は、2012年に設立された産学官金連携による組織で、県の風力発電産業を地元主導で発展させることを目的としている。より魅力的なインセンティブを提示した県外の自治体もあったが、地域の包括的ネットワークである「風作戦」の存在が決め手になったという。この事例は、海外企業による立地選定では、補助金や用地だけではなく、地域企業や自治体、大学などと迅速につながることができるエコシステムそのものが重要な立地競争力となっていることを示している。土地勘や人脈のない海外企業にとって、ワンストップで地元企業の幅広いネットワークにアクセスできることは大きな魅力だったと、同社は高く評価している。
秋田風作戦会長で、風力発電事業を行うウェンティ・ジャパン社長の佐藤裕之氏は、風作戦の魅力は、非常に多種多様な会員で構成されていることだと話す。会員の業種は、土木・建築、電気工事・設備、輸送、金融、保守・メンテナンス、自治体、大学などさまざまで、2026年2月時点で168団体に達する。あえて業種を限定しない「ゆるさ」が、裾野の広い洋上風力産業に必要な幅広い専門性をもたらすという。佐藤氏は「実務レベルでは日本の風力発電における最先端の情報交換が行われていると自負している」と語った。 さらに秋田県では、行政も一丸となって制度面の整備や漁業者との調整などを進めている。県は4つの促進区域と1つの有望区域を有し(2025年10月3日時点)、沿岸には8市町が面している。これらの地域が連携して複数の案件を受け入れるとともに、地元での人材育成も推進し、サプライチェーンの形成を目指している(2025年10月28日付ビジネス短信参照)。秋田県は、他の洋上風力発電に取り組む地域に比べると、大規模港湾や重工業集積を主な強みとしている地域ではないが、地場企業が風力関連分野に積極的に参入し、産業基盤を形成してきた。シンボリックな存在である風作戦のネットワークと行政面での広域的な取り組みが、新たに参入する国内外企業にとって秋田の魅力を高めている。
このほか本セミナーでは、北海道室蘭市、福岡県北九州市、千葉県、秋田市の4自治体から、それぞれの地域での洋上風力産業振興の取り組みが紹介された。参加者からは、自治体が積極的に洋上風力発電事業に関わる重要性を学ぶことができたという声があがった。日本の洋上風力の本格導入に向けては、欧州に比べ、事業環境や投資回収の仕組みなどに依然として差があるとの指摘があった。加えて、地域における人材育成やスキル向上、訓練などソフト面の環境整備そのものを新たなビジネス機会として捉える声もあった。
セミナーを通じて、サプライチェーンが広範にわたり、先行投資が大きい洋上風力産業においては、先行する欧州のように産業全体で収益化を図るための施策が必要との示唆が得られた。また秋田県の事例からは、自治体や民間企業が連携する枠組みが、海外企業を呼び込むアピールポイントにつながることが期待できる。こうした地域主体のネットワーク形成は、「秋田モデル」として他地域にとっても参考となる取り組みといえる。欧州の収益化の取り組みや秋田モデルは、今後の国内における産業発展や投資誘致を促進する上で、カギとなるのではないだろうか。
セミナー登壇者の講演資料や各地域の取り組みは、ジェトロウェブサイトに掲載している。
日本の洋上風力産業
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- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部戦略企画課
齋藤 碧(さいとう あおい) - 2023年、ジェトロ入構。2023年から現職。





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