国際連携で進める国内SC構築
日本の洋上風力産業(前編)
2026年5月1日
日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現には、二酸化炭素(CO2)を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大が不可欠だ。政府は2040年度エネルギーミックス
(1.39MB)の電源構成(表1参照)に占める再エネ比率を4~5割とする方針を示し、そのうち風力発電は4~8%程度としている。特に洋上風力発電は、再エネの中でも大規模・大量導入が可能とされ、土地制約が少ない点で注目される。日本は国土が狭く山地が多い一方で、排他的経済水域(EEZ)は世界第6位の広さを有しており、海洋空間の利用はエネルギー自給率向上への貢献のポテンシャルがあり得る。また、洋上は陸上より平均風速が強く風況が安定しているため、設備利用率が高いという利点もある。
本稿では、前後編に分けて日本国内の洋上風力産業におけるサプライチェーン形成に向けた取り組みを概観する。前編では洋上風力発電の国際動向や日本の導入状況を整理した上で、今後拡大が見込まれる浮体式を含めた国内サプライチェーンの構築に向け、海外企業との連携や誘致の動きを追う。
| 項目 | 2023年度(速報値) | 2040年度(見通し) |
|---|---|---|
| 再生可能エネルギー | 22.9% | 4~5割程度 |
| 太陽光 | 9.8% | 23~29%程度 |
| 風力 | 1.1% | 4~8%程度 |
| 水力 | 7.6% | 8~10%程度 |
| 地熱 | 0.3% | 1~2%程度 |
| バイオマス | 4.1% | 5~6%程度 |
| 原子力 | 8.5% | 2割程度 |
| 火力 | 68.6% | 3~4割程度 |
出所:資源エネルギー庁「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」を基にジェトロ作成
タービン大型化と浮体式実用化で世界の導入量が拡大
世界風力会議(GWEC)が2026年4月に公表した「Global Wind Report 2026
(20.8MB)」によると、2025年時点の世界の洋上風力発電の累積導入設備容量は2020年の36.1GW(ギガワット)から92.5GWへと約2.6倍拡大した。地域別では、中国が48.4GW(52.3%)、欧州が38.8GW(41.9%)を占める結果となった(図1参照)。2025年の新規導入量は9.3GWで、前年を16%上回り、過去3番目の規模だった。新規導入市場の中心は中国で、全体の7割を占め8年連続世界1位となり、英国・台湾・ドイツ・フランスを加えた上位5カ国・地域で全体の約99%を占めた (図2参照)。
出所:世界風力会議(GWEC)「Global Wind Report 2026」を基にジェトロ作成
出所:世界風力会議(GWEC)「Global Wind Report 2026」を基にジェトロ作成
欧州では、デンマークやオランダを中心に1990年代から実証と商用化を進め、続いて英国やノルウェーも市場を拡大してきた歴史がある。欧州が洋上風力の先駆者となった背景としては、エネルギー安全保障への対応と温室効果ガス削減を同時に進めてきた歴史に加え、遠浅の海底や年間を通して強い風が吹く地理的条件がある。さらに近年は、巨大な国内市場を持つ中国が急速に導入量を伸ばしている点も特徴だ。
世界的な導入量増加の背景には、タービンの大型化と浮体式洋上風力の実用化がある。洋上風力発電におけるタービンの大型化は、より効率的な発電につながるほか、同一発電容量を確保するために必要な基数が減少することでメンテナンス効率も向上する。さらに、基礎構造物や海底ケーブルの設置量が相対的に縮小し、建設・施工段階での環境負荷を低減する効果も期待できる。大型化に際し陸上風力発電では土地確保や輸送制限が課題となるのに対し、洋上風力は広大な海域を活用し、船舶で巨大タービンを設置できる利点がある。2000年代にはブレードの直径約80メートル、発電容量は2メガワット(MW)級が主流だった風車は、現在では直径約150メートル、発電容量10~15MW級が標準化しつつある。
また、従来主流だった着床式(海底に基礎を設置する方式)に加え、近年は水深の深い海域でも設置可能な浮体式の商用化が進展している(図3参照)。浮体式は日本のように険しい海底地形を持つ国に適しており、実証が進めば将来的に国内への導入ポテンシャルは大きい。
出所:国立研究開発法人産業技術総合研究所「産総研マガジン『洋上風力発電とは?―なぜ今注目されるのか―』」を基にジェトロ作成
日本の再エネ主力電源化を支える洋上風力
日本風力開発協会によると、日本の本格洋上風力発電(陸上からの直接アクセスができず船を要するもの)の累積発電量は、2024年末で約253.4MWに達した。政府は「洋上風力産業ビジョン」にて、2030年までに洋上風力10GW、さらに2040年までに30〜45GWの導入を目標として設定している。第7次エネルギー基本計画
(690KB)でも、洋上風力は国の再生可能エネルギーの主力電源化に向けた「切り札」と位置付けられた。
洋上風力は事業規模が大きく、産業の裾野も広い。風車や基礎構造物などの製造、港湾整備や海洋施工、運転・保守といった幅広い産業が関与するため、多様な分野での雇用創出が期待される。さらに、関連産業への広がりを通じて地域への経済波及効果も見込まれる。「再エネ海域利用法」に基づき経済産業省・国土交通省が定める促進区域・有望区域・準備区域
(545KB)は、全国で38の地域を指定している(2025年10月3日時点)。
国内サプライチェーン構築が課題、カギは国際連携
裾野の広い洋上風力は、一方で投資が大規模かつ総事業期間も長期間にわたることから、サプライチェーンの逼迫やインフレなどの影響を受けやすいという側面も持つ。日本でも2025年8月、三菱商事コンソーシアムが第1ラウンドの3プロジェクト(千葉銚子・秋田能代三種男鹿・秋田由利本荘)からの撤退を発表した(経済産業省資料「洋上風力発電について」参照
(1.6MB))。自然エネルギー財団によれば、コストの高騰は海外でも共通の課題であり、デンマークや英国など欧州の洋上風力先進国においても、撤退やゼロ入札が発生している。新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによる労働力不足や化石燃料の価格高騰が、深刻な影響を及ぼしているとされている。
日本政府はこうした状況を、むしろ技術・サプライチェーン面で海外に追いつく好機と捉え、浮体式に関する産業戦略の強化を進めている。インフレや為替変動への耐性を高めるためにも、国内サプライチェーンの強化やローカル化はコスト・リスク両面への対応として有効だ。産業界においては、2040年までに国内調達比率を60%とする目標が掲げられている。
しかし、国内のサプライチェーン構築に向けては、大型タービン製造設備の不足や洋上施工船の不足、浮体式の量産に必要な大規模ヤードの未整備など、依然として複数の課題が存在する。こうした国内の供給力とのギャップを埋めるためには、すでに確立された技術力や量産能力を持つ外国企業との連携が有効と考えられる。中でも、世界最大級のタービンを製造してきた欧州を中心としたメーカーは、技術力・量産能力の両方で重要とされ、官民双方でグローバル連携が進んでいる。
欧州ではこれまで、大型タービンの量産体制を確立したシーメンスガメサ(スペイン)やべスタス(デンマーク)が、早期から欧州各国に製造拠点を設置し、現地部品メーカーとの共同開発を進めることでサプライチェーンの強化に成功してきた実績がある。
日本政府も、グローバルの主要風車メーカーとの官民連携に前向きだ。2025年6月には、経済産業省がシーメンスガメサとの官民協力枠組みを立ち上げた。2026年3月には、同省とベスタスが日本での発電設備製造拠点設立に関する協力覚書を締結した(経済産業省ニュースリリース参照
)。日本における洋上風力市場の拡大を前提として、同社は2029年度までに国内にナセル(発電機などの主要機器を収める部分)最終組み立て拠点を、2039年度までにナセル完全生産拠点を設立するためのロードマップを策定している。また、日本通運やDENZAIとも国内サプライチェーン強化を目的に協力覚書を締結するなど、日系企業との連携も進めている。
今後、特にEEZの利用促進に向け必要性が高まる浮体式の分野では、早期に国際連携を進めることが重要だ。技術発展・人材育成・投資促進の好循環を生み出す体制整備が求められるだろう。
政府は2040年までに15GW以上の浮体式洋上風力発電の案件を形成する目標を打ち出している。また、再エネ海域利用法の改正法が2025年6月に成立し、EEZ内への洋上風力設備の設置が可能となった。こうした方針のもと、2024年3月に設立された浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)は欧州・米国をはじめとする海外諸機関との連携を重視し、浮体式の「低コスト化」や「量産化技術」の確立に取り組んでいる。
さらに政府の取り組みとして、GXサプライチェーン構築支援事業をはじめ、洋上風力に特化した補助金や基金も整備されてきた(表2参照)。これらは自治体や民間企業、研究機関などに提供されている。 後編では、ジェトロが2026年2月に開催した国内洋上風力産業の活性化に向けたセミナーを取り上げ、サプライチェーン収益化に向けた欧州の取り組みや、海外企業にとって魅力となった地域コンソーシアム事例を紹介する。
| 項目 | 予算額 | 補助対象要件 | 補助率 |
|---|---|---|---|
|
GXサプライチェーン構築支援事業 |
4,212億円 | 浮体式洋上風力発電設備等の生産に係る設備投資を行う事業 |
|
|
グリーンイノベーション基金事業(洋上風力発電の低コスト化プロジェクト) |
2,109億7,000万円(注1) | 浮体・ケーブルなどの要素技術開発や、EEZやアジア大洋州地域展開のための浮体式実証と、大水深における施工等の低コスト化 | 2分の1または3分の2以内+インセンティブ10分の1 |
|
令和7年度「洋上風力案件形成促進事業費補助金」 |
不明 | 洋上風力の案件形成を進める都道府県を対象に、国への情報提供や利害関係者との調整等に係る業務 |
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| 令和7年度「洋上風力発電人材育成事業費補助金」 | 6億5,000万円 | 洋上風力発電に関連する人材育成、洋上風力発電に必要な実験設備、風車設備の保守・訓練施設 | 3分の2以内 |
注1:2028年度までの国庫債務負担含む。ペロブスカイト太陽電池向けの補助金と合わせた総額。
注2:2025年11月時点プロジェクト総額(国庫負担額のみ。インセンティブ分を含む額)。
注3:2025年度の予算総額は不明。
出所:各事業・実施機関ウェブサイトを基にジェトロ作成
- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部戦略企画課
齋藤 碧(さいとう あおい) - 2023年、ジェトロ入構。2023年から現職。





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