ジャパンショップ「ハチハチ」に聞くベトナム小売・EC市場攻略の鍵
2026年3月25日
継続的な経済成長に伴う所得増と1億人を超える人口を背景に、ベトナムは近年、日本企業から生産拠点としてだけでなく消費市場としても注目が集まっている。
2025年の実質GDP成長率(推計値)は前年比8.02%と高成長を遂げ、1人当たりGDPは5,000ドルを超えた。また、小売・サービス売上高も前年比9.2%増となり、堅調な伸びを示している。そうした中、ベトナム商工省傘下の電子商取引・デジタル経済局(iDEA)によると、2025年の電子商取引(EC)市場は前年比25.5%増の310億ドルとなり高成長を遂げている。
一方で、国内の小売・サービス売上高に占めるEC市場の割合は10%にとどまっており、消費者は依然として実店舗で購入する割合が高い。実店舗は重要な販売チャネルとなっている。小売事業者には、この二つのチャネルが併存する市場環境を理解し、それぞれの特性に応じて販売戦略やプロモーション手法を最適化することが求められている。
こうした状況を踏まえ、ホーチミン市内で日本商品専門店「ハチハチ(HachiHachi)」を6店舗展開し、ECでも販売に取り組むベトハチ(VIET HA CHI)社にベトナム市場の現状や効果的なマーケティング手法についてインタビューを実施した。同社はジェトロが実施する、海外の小売・EC事業者と連携した日本製品の調達・販売・プロモーションを推進する取り組み「JAPAN MALL事業」の連携先でもあり、毎年多くの新規の日本商品を調達・販売している。同社のマーケティング部長のレー・ハイン・ウエン氏、商品企画チームリーダーのブイ・タオ・グエン氏に、販売チャネルの現状やプロモーション戦略について話を聞いた(インタビュー実施日:2026年1月21日)。

- 質問:
- ハチハチの成り立ちについて
- 答え:
- 当社は2007年にホーチミン市でハチハチの店舗展開を開始した。当初は2万5,000ドン (約150円、1ドン=約0.006円) 均一で商品を販売する店舗であった。2010年以降はさまざまな価格帯の商品の取り扱いを開始。現在はホーチミン市内で6店舗を展開しており、約100社の日本企業の約4,500SKU(注1)の商品を販売している。
- 質問:
- ハチハチの顧客層は
- 答え:
- 20代から50代までの女性が中心だ。女性顧客は、年齢やステータスに応じ、大きく3つのグループに分類される。第1グループは、年齢が25歳から35歳の 会社員で、独身または結婚直後の人々が多い。主な購入商品は、スキンケア商品やベビー用品などのパーソナルケア商品や家庭用品だ。第2グループは、35歳から55歳のファミリー層で、比較的所得水準が高い層だ。このグループでは、サプリメントや健康食品のほか、家庭用品の購入が多い。第3グループは、18歳から25歳の流行やトレンドに敏感な若者層だ。主な購入商品は、抹茶関連商品やスナック、清涼飲料水などで、近年はこの層による売り上げが拡大している。顧客の所在地域は、オフラインではホーチミン市在住者が中心である一方、オンラインではハノイ市、ダナン市など都市部在住者からの購入もある。
- 質問:
- 仕入れ商品や店舗での売れ筋に変化はあるか
- 答え:
- 創業当初は2万5,000ドン以下の低価格帯の商品を中心だったが、近年は経済成長に伴う所得向上を背景に、洗濯関連製品などの生活必需品・日用品の需要が増加している。 また、近年のベトナムにおける抹茶人気の高まりを受け、特に若い女性を中心に抹茶関連商品が好調だ。各店舗の売れ行きは、同じホーチミン市内でもエリアごとに異なる。市中心部の店舗では高価格帯の商品も売れる一方、中心部から離れたエリアの店舗では、住民の所得水準に応じて低価格帯の商品が好まれる傾向にある。
調達は商品の品質・安全性と、需要と価格競争力とのバランス
- 質問:
- 新商品を調達・販売するときに意識していることはあるか。
- 答え:
- まず商品の選定基準として、原産地などの情報も含め、その品質が確かなものであるかを重視している。近年のベトナムでは、食品やサプリメント、化粧品などで成分偽装が相次いで発覚し、健康被害への不安や安全性に対する関心が高まっている。消費者は偽物の購入を懸念していることから、店舗側も商品選定にあたっては品質確認を優先事項としている。その上で、同様のカテゴリーの商品が、既にベトナム国内で、より安価な価格で流通していないかを確認し、市場の需要と価格競争力を考慮した上で、取り扱い可否を社内で判断する。調達後は、まず店頭で1カ月から2カ月の期間、試験的に販売を実施し、顧客の反応を検証する。売り上げなどの面で結果が良好であれば、製品ごとにマーケティングチームが長期的な販売計画を作成し、販売を拡大していく。店頭でのプロモーションについては、商品が棚の中で埋もれないよう、カウンターの端に置く、専用ポップを作成するなどして、視認性の高い場所に優先的に配置する。その際、商品の使い方や効果などの情報を分かりやすく掲示し、認知度向上を図る。
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ジェトロとコラボレーションしたプロモーション企画における、店頭プロモーションの様子(ハチハチ提供)
近年ECの売上比率が拡大
- 質問:
- ECの状況は
- 答え:
- 2012年に自社ECサイトの運用を開始した。その後、約10年前からショッピー(Shopee)などのECプラットフォームでの販売を開始し、近年ではティックトック(TikTok)ショップでも販売している。これまでEC売り上げは全体の10%程度であったが、ここ数年で急拡大し、現在は全体の約3割を占めるまで成長した。EC売り上げの内訳は、自社サイト経由が約2割、大手ECプラットフォーム経由が約8割と、大手プラットフォーム経由が大半を占めている。
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自社のECサイト(ハチハチ提供) - 質問:
- 店頭とEC間や、各ECプラットフォーム間で売れ筋に違いはあるか。
- 答え:
- 戦略として、基本的に実店舗で売れている商品をオンラインで販売しているため、実店舗とECの間では売れ筋に大きな違いはない。一方で、ECにおいては、プラットフォームごとに傾向が異なる。ベトナムのECプラットフォームは、ShopeeとTikTokショップが売り上げシェアの大半を占めている。シェア1位のShopeeは幅広い年代のユーザーが利用しており、日用品の売り上げが多い傾向にある。これに対し、2位のTikTokショップは、若年層の利用が中心で、トレンドの変化に応じて売れ筋商品も大きく変動する。昨今は、抹茶やお菓子、飲料がよく売れる。また、ECではKOL(注2)と呼ばれるインフルエンサーが紹介した商品が、短期間で急速に認知度を高め、爆発的に売り上げにつながることがある。最近の例では抹茶商品、人気俳優やキャラクターをパッケージに起用した商品などが挙げられる。
ライブコマース対応に注力
- 質問:
- ECのプロモーションで注力していることはあるか。
- 答え:
- 特にライブコマースへの対応に注力しており、Shopee、TikTok、フェイスブック(Facebook)上でライブ配信を実施している。ライブ配信を継続的に行うことで、ハチハチのブランド認知向上につながるほか、商品説明や案内もしやすい。さらに、配信中に期間限定のセールを実施することで、プッシュ効果の高いマーケティング施策が可能になる。また、ライブ配信を定期的に実施しているストアは、プラットフォーム上で自社ページがユーザーに表示されやすくなるといったメリットもある。社内体制としては、社内に専任ライブ配信の担当者を配置し、彼らが運営管理、台本作成、演出を担当している。ライブ実施後に効果検証を行い、必要に応じて内容の改善を図っている。
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ジェトロとコラボレーションしたプロモーション企画における、ライブコマースの様子(ハチハチ提供)
- 質問:
- EC販売の課題は
- 答え:
- 課題は3つある。1つ目は適切な価格設定だ。EC販売では、各プラットフォームに支払う高額な手数料に加え、梱包(こんぽう)・配送費、返品商品の廃棄コストなど、さまざまな費用が発生するため、実店舗での販売価格よりも高くなってしまう。また、プラットフォーム上で同一商品を扱う他ストアとの最低価格競争に陥りやすい。そのため、各サイト上における販売価格を比較し、価格競争力と利益率のバランスを取りながら、過度な最安値競争を回避する工夫をしている。
- 第二に、在庫管理の難しさだ。トレンド商品については、機会損失を防ぐため十分な在庫を確保する必要がある一方、トレンドが終わると在庫を抱えてしまうリスクもあり、在庫量のコントロールが難しい。
- 最後に顧客ロイヤルティ(注3)構築の難しさがある。各ECプラットフォームでは、顧客は価格を重視して購入する傾向が強く、また販売者が取得できる顧客データは限定的だ。そのため、顧客ロイヤルティの醸成は容易ではない。当社では自社ECサイトの利用拡大に力を入れており、購入後3時間以内に配送するサービスの実施(旧ホーチミン市内が対象)(注4)や送料無料など、ECプラットフォームから自社ECサイトへの顧客誘導を図っている。
- 質問:
- 今後の計画は
- 答え:
- 実店舗での販売については、販売拠点の拡大を通じて顧客との接触機会を広げることを目指す。立地条件が良好な物件があれば、新規店舗の出店や取り扱い商品の拡大も検討していく。また、実店舗だけでなくECを含めたオフライン・オンライン双方における顧客体験(CX)を高め、各販売チャネルを横断した柔軟な購買行動を促進していく。さらに、EC販売については、ホーチミン市で提供している「3時間以内での速達サービス」を積極的に活用し、配送スピードと顧客データの活用を両立させ、さらなる顧客の獲得と長期的な維持を図っていきたい。
日本企業には、ベトナム市場開拓のパートナーとしての協力意識を
- 質問:
- 今後ベトナム市場への展開に関心のある日本企業へのメッセージは
- 答え:
- ベトナム市場で商品を展開するにあたっては、いくつかの重要なポイントがある。
- 1つ目は、安全性・品質だ。先に述べたとおり、消費者は安全性に高い関心を持っている。偽造品対策として原産地・成分・安全性などの情報を開示し、商品の信頼性を示すことが重要だ。
- さらに現地の購買力に合った価格設定も必要だ。日本製品は消費者から品質面で高い評価を受けている一方、価格が高いと販売が難しくなる。また、SNSの利用拡大に伴い、トレンドの立ち上がりの頻度やスピード、その売り上げへの影響は年々大きくなっている。サプライヤー企業には、トレンドによる急速な需要増加にも対応できる柔軟な供給体制を整えていただければ、販売側としてはありがたい。
- 最後に、日本企業にはともにベトナム市場を開拓していくパートナーとして、マーケティングへの協力意識を持つことをお願いしたい。商品についての高品質な写真や紹介動画などのマーケティング素材のほか、商品について丁寧に説明・解説する資料があるとよい。日本市場や日本人にとっては当たり前のことでも、現地ではそうでないことが多い。販促資料は顧客だけでなく販売者側の商品理解にも役立ち、現地側で迅速にローカライズと販促活動を進める上で有用だ。またECでの販売は、先に述べたとおり、オフラインでの販売よりも販売やマーケティングでコストがかかるため、オンライン・オフライン双方の販売チャネルでの販促への協力をお願いしたい。
- 注1:
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SKUは、Stock Keeping Unitの略で、受発注や在庫管理を行う際の最小単位。
- 注2:
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Key Opinion Leaderの略。集団の意思決定(流行、買い物、選挙など)に関して、大きな影響を及ぼす人物のこと。
- 注3:
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顧客の商品愛着度・継続購入性向のこと。企業やブランドに対する思い入れや愛着を意味し、ロイヤルティを高めファンを獲得する企業活動をロイヤルティマーケティングという。
- 注4:
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ベトナムは2025年7月の省市再編に伴い、 63省・市を34省・市に再編。ホーチミン市は隣接するビンズオン省、バリア・ブンタウ省と合併した。ここでいうホーチミン市とは合併前のホーチミン市のエリアを指す。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所 事業統括ディレクター
三木 貴博(みき たかひろ) - 2014年、ジェトロ入構。海外見本市課、ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て海外調査部アジア大洋州課にてベトナムをはじめとしたASEANの調査業務に従事。2022年7月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
村瀬 拓哉(むらせ たくや) - 2018年宮崎県庁入庁、2024年よりジェトロに出向。2025年からジェトロ・ホーチミン事務所勤務。デジタルマーケティング分野、製造業分野の支援業務に従事。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
キム・フオン - 2025年から、ジェトロ・ホーチミン事務所勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
ファン・チュック - 2024年から、ジェトロ・ホーチミン事務所勤務。日本とASEANなどの企業によるデジタル技術を活用した連携を推進する「J-Bridge」事業や、日本企業のベトナム展開支援事業を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
チャン・クエン - 2025年から、ジェトロ・ホーチミン事務所勤務。主に食品分野における日本企業のベトナム展開支援事業を担当。






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